この恋は、曰く付き

あしゅ太郎

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ととのう距離、さぐる心(2)

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夜の静けさに包まれた自室。
スピーカーから流れるピアノのコード進行が、優しく空気を撫でている。

ペンをくるくると回しながら、蓮華は机にうつ伏せた。
とっくに締め切りを過ぎたはずの歌詞。
なのに、どうにも“これじゃない”感が拭えなくて、数日ももがいていた。

だけど――今日、ふとしたきっかけで、指先が止まらなくなった。

それは、湯上がりのベンチで見た、碧生の笑顔を思い出した瞬間だった。

(……まじで、なんでこんなん書いてんねん、俺)

目の前にあるノート。
そこに綴られていたのは、今までの“デッド・ブーケ”の曲にはない、
やわらかくて、どこか胸の奥をくすぐるような“ラブソング”だった。


“ふわり揺れる 風にのせて
届いてほしい 遅れた想い
言葉よりも 深く咲いた
フラワーレター 君へ”

――どストレート。自分で読んでて赤面する。

(……あかん、めっちゃ、碧生の顔出てくる)

ペンを止めて、額に手を当てる。

「……自覚、してもうたな……」

想いは、いつの間にか形になって、歌になって、自分の前に突きつけられていた。


---

数日後、レコーディング前のリハスタジオ。

「……ん~、めっちゃ“好き”やんこれ」

月詩が、歌詞カードを読みながらあからさまにニヤついている。

「……何がやねん」

「何がやねんて、これ“誰か”に惚れてるやろ。“そばにいたいと思った”て、それ、隠す気ゼロやん。俺が歌ってええんか、これ?」

「お前しかおらんからしゃーないやろ」

蓮華がちょっと不機嫌そうにギターの弦を調整していると、月詩はニコニコしながら肘でつついてきた。

「なあなあ、どうせ“湯屋の番台くん”とかちゃうん?」

ビクッ、と蓮華の手が止まった。

「……なんで知ってんねん」

「いやいや、そんなん、ライブん時から気づいとったわ。
お前、めっちゃ視線送っとったし。……ほんま分かりやすいなぁ」

月詩は肩をすくめて笑うと、軽く鼻を鳴らす。

「でもお前さ、奥手すぎんねん。
もっとこう、がーっといったら? 恋愛もロックに!」

「うるさいな……」

それでも、月詩の無神経だけどまっすぐな言葉に、蓮華は肩をすくめて、苦笑した。

「……正論やけどな。ほんま黙っとけ、月詩」

「素直~!」

そんな月詩のからかい声を聞き流しながら、蓮華はそっとギターを抱え直す。

自分が書いた“碧生への気持ち”を、これから月詩が、ファンの前で歌ってくれる――

それはちょっと照れくさくて、でも誇らしくもあった。

(……次は、ちゃんと“本人”に届くようなもん、作ってもええんかもしれん)

静かに、音の向こうで何かが動き出す気がしていた。

---

午後のカフェ。窓際の席に、斎と碧生が向かい合って座っていた。
ふたりともカップに口をつけながら、スマホをいじったり、ぽつぽつと会話を交わしていた。

「……でさ、やっぱりれんれん、うちの常連客だったんだよ」

「……え? マジで?」

斎が思わずストローをくわえたまま声を上げた。

「帽子にサングラスで完全防備だったし、全然気づかなかったけど……
この前、湯上がり処でまじまじと顔見て確信した。ってか、本人が言ってくれた」

「マジかよ……!」

斎も目を見開いて驚いた。

「……すげえな。あのれんれんが、日常的に温泉でリラックスしてたとか、想像できん」

「でしょ? しかもさ……まじかで見ると、ほんっとかっこよかったんだよなぁ……」

そう言いながら、碧生はコーヒーのカップを両手で包み込むように持った。

「背高いし、髪もさらってしてて、声も落ち着いてて……なんかもう、“芸能人”って感じだった」

「うんうん、分かる。あの人、画面越しでもオーラあるしな」

「それがさ……最近、ちょくちょく差し入れくれるようになったんだよ。
昨日も、またお菓子もらって」

「おお~、それ、完全に気に入られてるやつじゃん」

「……だよね? やっぱ、仲良くなりたいなって思ってて」

碧生は少し頬を赤らめながら、斎の方をちらりと見た。

「なぁ斎。どうしたら、もっと距離縮められると思う?」

「え、俺に聞く?」

斎は若干パニックになりながら、眉を下げた。

「いや……俺、そういうの経験値ゼロに近いし……」

「でも、俺よりは知ってそうだと思って……」

「ないない、ないって。……けどまあ、うーん」

斎はストローをくるくる回しながら、しばらく考えて――ぽつりと言った。

「とりあえず、どっかに誘ってみるとか? デートってほどじゃなくてもさ、
一緒にどっか行くってだけで、変わると思うし」

「……なるほど」

碧生は、真剣な顔でこくんと頷いた。

「ありがとう斎。ちょっと勇気出してみるよ。
温泉以外の場所で、れんれんと会えるように……頑張ってみる」

「お、おう……健闘を祈る」

斎は、うっすら苦笑いを浮かべながらも、親友の背中を見守っていた。
“人を好きになる”って、こんなに素直に話せるんだなって、どこか微笑ましかった。
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