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フラワーレターは誰に届く?(1)
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「……じゃ、再生するよ?」
「うん。楽しみだなぁ、“デッド・ブーケ”の新曲」
斎の小さなアパートの一室。
カーテン越しの街灯が部屋の片隅をぼんやり照らす中、ふたりはちゃぶ台の前で並んで座っていた。
ノートパソコンの画面には、《New!》『デッド・ブーケ - "フラワーレター" Official MV』の文字。
ワンクリックで始まる映像。
画面の中には、ギターを抱えて歌う蓮華と、キーボードの前で静かに微笑む月詩の姿があった。
♪
“この手紙が 君の胸で
花束のように 香りますように
「好き」という言葉だけじゃ
届かないくらいの 想いを今”
やさしくて、でもどこか切ないメロディ。
蓮華の書いたラブソングは、まっすぐで、不器用で、けれどとてもあたたかかった。
斎は、隣でじっと画面を見つめる碧生の横顔をそっと盗み見る。
そこには、明らかに“心を射抜かれた”ような表情があった。
(……この曲、絶対、碧生のことじゃん……)
斎は自然と、月詩の笑顔と、歌う声を思い出していた。
どこかいつも余裕があって、でも、時折ほんの一瞬だけ覗く本音みたいな熱。
(……俺も、あんな風に……)
MVが終わると、ふたりはしばらく無言のまま。
静かに流れるエンドロールの音だけが部屋に残った。
「……あのさ」
碧生が、小さく、でもはっきりと口を開いた。
「今度さ、蓮華さんを……あ、れんれんを……デートに誘ってみたいなって、思ってて」
「マジで!?」
「しっ、声でかい……!」
斎が驚いて振り返ると、碧生は真っ赤な顔で、ペットボトルのラベルを指でいじっていた。
「でも、ふたりきりだと……多分、緊張して固まっちゃいそうでさ……」
「……うん」
「それで、斎が一緒に来てくれたら心強いなって。もちろん、月詩さんも呼んで、4人で遊びに行くって形で……ダメ、かな?」
斎は一瞬ぽかんとしてから――
自分の胸の中にも、ちょっとだけあたたかいものが芽生えているのを感じた。
(……月詩と、また会える)
「いいよ。行こっか、それ」
「ほんと!?」
「……大事な友達の頼みだし。しかも、お前、わりとガチだろ」
「うん、たぶん……かなり、ガチだと思う」
ふたりは顔を見合わせて、小さく笑った。
MVの再生が終わっても、ふたりの中ではまだ“音楽”が鳴っていた。
それはきっと、まだ始まったばかりの、新しい恋の前奏――。
---
「じゃあ、出発しまーす」
碧生が運転席からそう告げると、助手席の斎が「うん、よろしくー」と軽く返した。
後部座席では、蓮華が窓の外を眺めていて、隣に座る月詩は暇そうにドリンクのストローをいじっている。
「斎くんやろ? はじめまして。YouTubeで怪談、ちらっと見たことあるで」
「えっ、マジですか? それ、ちょっと照れるわ……」
「俺、“フロアライトの女”めっちゃ好きやねん。演出とかも凝ってて」
「え、知ってくれてるんすか!? うわ、どうしよ……ありがたすぎる……」
斎がちょっと照れながら帽子のつばをいじる。
「“デッド・ブーケ”の蓮華さんが俺の怪談見てるとか普通に震えるんだけど」と小声でつぶやいた。
「高校からの友達なんです、碧生とは」と斎が後部座席のふたりに紹介する。
「おお、なるほどなー。……にしては、めっちゃ大人っぽいな、碧生くん」
「えっ、そうですか? あ、ありがとうございます……!」
月詩の素のテンションと軽い笑みに、碧生は少し気圧されつつも嬉しそうにハンドルを握る。
蓮華はちらりと斜め前――運転中の碧生を横目で見つつ、助手席の斎と話す月詩に少しムッとする。
(せっかく誘ってくれたのに……なんで月詩まで来てんねん……)
そんな彼の視線にすぐ気づいた月詩が、ニヤッと笑う。
「なに? 嫉妬しとるん、れんれん?」
「してへんわ!!」
「ふふ……してるやろ~? わかりやすっ」
「うっさいな!!」
助手席の斎が振り向いて、「何その会話!? 急に関西弁で漫才始めんのやめて!」とツッコミを入れ、車内が和やかな笑いに包まれる。
---
数時間後、4人は浜辺に到着した。
潮風が心地よく吹き抜ける、初夏の静かな海辺。
海水浴にはまだ早い季節のため、人影はまばら。
靴を脱いで、波打ち際まで駆け出す斎と月詩。
蓮華と碧生はその後ろを、やや控えめに歩く。
「うわ~、冷てぇ!」
「きもちええやろ? おい斎、あっちまで走ろや!」
「え、走んの!? ちょ、待って!」
月詩が軽やかに走り出すと、斎も追うように笑いながら駆け出した。
ふたりのやりとりを見ながら、蓮華は(……なんや、あのアハハウフフの世界観)と遠い目になる。
(ええなぁ、俺も碧生くんと……追いかけっことか……やりたい……っ)
ぼんやり想像して頬が赤くなる蓮華の横顔を、碧生が不意に覗き込んだ。
「蓮華さん? どうしたんですか?」
「うわっ! 近っ!!」
突然の至近距離に、蓮華は本気でびっくりして一歩後退する。
その拍子に、波が足元までかかって、裾が少し濡れた。
「す、すみません……そんなに驚かせたつもりじゃ……!」
「あ、いや……びっくりしただけやから、大丈夫」
(……心臓は、ぜんぜん大丈夫ちゃうけどな)
そう心の中でつぶやいて、そっと碧生を盗み見る。
彼は変わらず、優しい笑みを浮かべていた。
そのころ、斎の顔に容赦なく海水をかけた月詩が――
「ははは! ええ顔してんなぁ、斎!」
「こら月詩!! 殺す気か!!」
顔面を水で濡らされた斎が全速力で追いかけていく。
波打ち際ではしゃぐふたりと、静かに距離を縮めていくもうひと組。
波の音と笑い声が、誰にも邪魔されない砂浜に広がっていた。
「うん。楽しみだなぁ、“デッド・ブーケ”の新曲」
斎の小さなアパートの一室。
カーテン越しの街灯が部屋の片隅をぼんやり照らす中、ふたりはちゃぶ台の前で並んで座っていた。
ノートパソコンの画面には、《New!》『デッド・ブーケ - "フラワーレター" Official MV』の文字。
ワンクリックで始まる映像。
画面の中には、ギターを抱えて歌う蓮華と、キーボードの前で静かに微笑む月詩の姿があった。
♪
“この手紙が 君の胸で
花束のように 香りますように
「好き」という言葉だけじゃ
届かないくらいの 想いを今”
やさしくて、でもどこか切ないメロディ。
蓮華の書いたラブソングは、まっすぐで、不器用で、けれどとてもあたたかかった。
斎は、隣でじっと画面を見つめる碧生の横顔をそっと盗み見る。
そこには、明らかに“心を射抜かれた”ような表情があった。
(……この曲、絶対、碧生のことじゃん……)
斎は自然と、月詩の笑顔と、歌う声を思い出していた。
どこかいつも余裕があって、でも、時折ほんの一瞬だけ覗く本音みたいな熱。
(……俺も、あんな風に……)
MVが終わると、ふたりはしばらく無言のまま。
静かに流れるエンドロールの音だけが部屋に残った。
「……あのさ」
碧生が、小さく、でもはっきりと口を開いた。
「今度さ、蓮華さんを……あ、れんれんを……デートに誘ってみたいなって、思ってて」
「マジで!?」
「しっ、声でかい……!」
斎が驚いて振り返ると、碧生は真っ赤な顔で、ペットボトルのラベルを指でいじっていた。
「でも、ふたりきりだと……多分、緊張して固まっちゃいそうでさ……」
「……うん」
「それで、斎が一緒に来てくれたら心強いなって。もちろん、月詩さんも呼んで、4人で遊びに行くって形で……ダメ、かな?」
斎は一瞬ぽかんとしてから――
自分の胸の中にも、ちょっとだけあたたかいものが芽生えているのを感じた。
(……月詩と、また会える)
「いいよ。行こっか、それ」
「ほんと!?」
「……大事な友達の頼みだし。しかも、お前、わりとガチだろ」
「うん、たぶん……かなり、ガチだと思う」
ふたりは顔を見合わせて、小さく笑った。
MVの再生が終わっても、ふたりの中ではまだ“音楽”が鳴っていた。
それはきっと、まだ始まったばかりの、新しい恋の前奏――。
---
「じゃあ、出発しまーす」
碧生が運転席からそう告げると、助手席の斎が「うん、よろしくー」と軽く返した。
後部座席では、蓮華が窓の外を眺めていて、隣に座る月詩は暇そうにドリンクのストローをいじっている。
「斎くんやろ? はじめまして。YouTubeで怪談、ちらっと見たことあるで」
「えっ、マジですか? それ、ちょっと照れるわ……」
「俺、“フロアライトの女”めっちゃ好きやねん。演出とかも凝ってて」
「え、知ってくれてるんすか!? うわ、どうしよ……ありがたすぎる……」
斎がちょっと照れながら帽子のつばをいじる。
「“デッド・ブーケ”の蓮華さんが俺の怪談見てるとか普通に震えるんだけど」と小声でつぶやいた。
「高校からの友達なんです、碧生とは」と斎が後部座席のふたりに紹介する。
「おお、なるほどなー。……にしては、めっちゃ大人っぽいな、碧生くん」
「えっ、そうですか? あ、ありがとうございます……!」
月詩の素のテンションと軽い笑みに、碧生は少し気圧されつつも嬉しそうにハンドルを握る。
蓮華はちらりと斜め前――運転中の碧生を横目で見つつ、助手席の斎と話す月詩に少しムッとする。
(せっかく誘ってくれたのに……なんで月詩まで来てんねん……)
そんな彼の視線にすぐ気づいた月詩が、ニヤッと笑う。
「なに? 嫉妬しとるん、れんれん?」
「してへんわ!!」
「ふふ……してるやろ~? わかりやすっ」
「うっさいな!!」
助手席の斎が振り向いて、「何その会話!? 急に関西弁で漫才始めんのやめて!」とツッコミを入れ、車内が和やかな笑いに包まれる。
---
数時間後、4人は浜辺に到着した。
潮風が心地よく吹き抜ける、初夏の静かな海辺。
海水浴にはまだ早い季節のため、人影はまばら。
靴を脱いで、波打ち際まで駆け出す斎と月詩。
蓮華と碧生はその後ろを、やや控えめに歩く。
「うわ~、冷てぇ!」
「きもちええやろ? おい斎、あっちまで走ろや!」
「え、走んの!? ちょ、待って!」
月詩が軽やかに走り出すと、斎も追うように笑いながら駆け出した。
ふたりのやりとりを見ながら、蓮華は(……なんや、あのアハハウフフの世界観)と遠い目になる。
(ええなぁ、俺も碧生くんと……追いかけっことか……やりたい……っ)
ぼんやり想像して頬が赤くなる蓮華の横顔を、碧生が不意に覗き込んだ。
「蓮華さん? どうしたんですか?」
「うわっ! 近っ!!」
突然の至近距離に、蓮華は本気でびっくりして一歩後退する。
その拍子に、波が足元までかかって、裾が少し濡れた。
「す、すみません……そんなに驚かせたつもりじゃ……!」
「あ、いや……びっくりしただけやから、大丈夫」
(……心臓は、ぜんぜん大丈夫ちゃうけどな)
そう心の中でつぶやいて、そっと碧生を盗み見る。
彼は変わらず、優しい笑みを浮かべていた。
そのころ、斎の顔に容赦なく海水をかけた月詩が――
「ははは! ええ顔してんなぁ、斎!」
「こら月詩!! 殺す気か!!」
顔面を水で濡らされた斎が全速力で追いかけていく。
波打ち際ではしゃぐふたりと、静かに距離を縮めていくもうひと組。
波の音と笑い声が、誰にも邪魔されない砂浜に広がっていた。
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