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想いの幕が上がる(1)
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土曜の夜。ラーメン屋のバイトを終えた坂本蓮真は、制服の上にパーカーを羽織り、スマホを片手に駅前のファミレスに向かっていた。
店のガラス越しに中を覗くと、先に来ていた有安遥登が、穏やかな笑みを浮かべながらメニューを眺めていた。蓮真はホッとしたように口元を緩めて、店内に入る。
「おつかれッス~!待ったッスか?」
「ううん、今来たとこだよ。おつかれさま、バイト大変だった?」
「いやー、今日は味玉めっちゃ出てヤバかったッス。でもこれでやっと飯食える……遥登先輩、奢ってくれるって言いましたよね?」
「言ったね♡」
遥登はくすっと笑って、メニューを差し出した。蓮真はそれを受け取って、心の中で「ありがてえ……」と拝みながらも、外では調子よく、
「じゃあ遠慮なく、ハンバーグとナポリタンのセットに、パフェつけちゃおうかな~♪」
「はいはい、今日はバイト終わり特別コースだもんね」
普段から蓮真は、上級生との距離を詰めるのが上手い。どんな相手でも気さくに話しかけて、可愛がられる要領を心得ている。でも、有安遥登に対しては、少しだけ違った。
この人と初めて話が盛り上がったのは、部活の空き時間に読んでいた共通の漫画の話題だった。感性が近くて、オススメされた漫画は全部面白くて、気づけば貸し借りをするようになって、こんなふうに休日にご飯を食べる仲にまでなっていた。
……それが、うれしかった。
でも――。
(あと、どれくらいこうしていられるんスかね、俺)
そんなことを思いながら、蓮真はナポリタンをすくうフォークを止めず、いつも通りのテンションで笑う。
「先輩、今読んでるって言ってた『青嵐レプリカ』、俺も買いました!7巻のあの展開、マジ泣いたッスよ」
「でしょ~! あそこやばいよね、わかってるなあ蓮真くん♡」
(……その“わかってる”って言葉、もっと深い意味で言ってほしいとか思っちまう俺、マジでやべーな)
心の奥底で、蓮真は自分の気持ちをそっと閉じ込める。
今は“いちばん仲のいい後輩”――その距離が、一番心地よくて、一番切ない。
そして今日も、蓮真は何も言わず、笑っていた。
---
燈ノ杜学園、3年B組。朝の教室には、だんだんと男子校らしい賑やかさが満ちてきていた。
机を囲んでゲーム談義に花を咲かせる者、部活の話で盛り上がる者、誰かのスマホを覗き込みながら笑い合う者たち――そのざわめきの中で、安楽悠嵩は静かに自分の席に座り、今日の授業で使うプリントを無言で整理していた。
そこへ――バタバタと走り込んでくる足音。
「うわ、マジか……やべぇ、悠嵩、助けてくれ!!」
辻井凌央が、自分の鞄を片手に、悠嵩の席にズカズカと歩み寄ってきた。
「何が“やべぇ”なの」
「宿題、まるっとやんの忘れてた……今うつさせてくれたら、授業始まる前には間に合う!」
呆れたように眉を下げながら、悠嵩は手元のノートをちらっと見てから、無言で差し出す。
「ありがてぇ……!さっすが悠嵩、優男っ」
「……次は無理だからね?」
そう言いながら、悠嵩は髪を指先でくるりといじった。
その仕草を、同じグループの友人・新島が横目で見ながら、クスクスと笑う。
「悠嵩ってさ、いつも誰にでも優しいのに、辻井にはちょっと塩対応じゃない?」
「……そ、そんなことないでしょ」
声がほんの少し裏返った。
その横で、凌央はせっせとノートを写している。
小声で「めっちゃ字キレイ……助かる……」と感動していたかと思えば、写し終えた後、カバンの中をごそごそと探り、
「サンキューな、悠嵩。助かった。これ、お礼!」
と、ラムネ味のキャンディをひとつ手渡した。
にかっと笑う凌央。その無防備な笑顔に、悠嵩は思わず視線をそらしながら、その手元の飴を受け取る。
「……だから次はないって言ってるでしょ」
顔はほんのり赤く、また髪をくるりと指先で巻いていた。
(ホントは……ちょっとだけ嬉しいくせに)
そんな悠嵩の様子を、またしても新島がニヤリと見ていた。
店のガラス越しに中を覗くと、先に来ていた有安遥登が、穏やかな笑みを浮かべながらメニューを眺めていた。蓮真はホッとしたように口元を緩めて、店内に入る。
「おつかれッス~!待ったッスか?」
「ううん、今来たとこだよ。おつかれさま、バイト大変だった?」
「いやー、今日は味玉めっちゃ出てヤバかったッス。でもこれでやっと飯食える……遥登先輩、奢ってくれるって言いましたよね?」
「言ったね♡」
遥登はくすっと笑って、メニューを差し出した。蓮真はそれを受け取って、心の中で「ありがてえ……」と拝みながらも、外では調子よく、
「じゃあ遠慮なく、ハンバーグとナポリタンのセットに、パフェつけちゃおうかな~♪」
「はいはい、今日はバイト終わり特別コースだもんね」
普段から蓮真は、上級生との距離を詰めるのが上手い。どんな相手でも気さくに話しかけて、可愛がられる要領を心得ている。でも、有安遥登に対しては、少しだけ違った。
この人と初めて話が盛り上がったのは、部活の空き時間に読んでいた共通の漫画の話題だった。感性が近くて、オススメされた漫画は全部面白くて、気づけば貸し借りをするようになって、こんなふうに休日にご飯を食べる仲にまでなっていた。
……それが、うれしかった。
でも――。
(あと、どれくらいこうしていられるんスかね、俺)
そんなことを思いながら、蓮真はナポリタンをすくうフォークを止めず、いつも通りのテンションで笑う。
「先輩、今読んでるって言ってた『青嵐レプリカ』、俺も買いました!7巻のあの展開、マジ泣いたッスよ」
「でしょ~! あそこやばいよね、わかってるなあ蓮真くん♡」
(……その“わかってる”って言葉、もっと深い意味で言ってほしいとか思っちまう俺、マジでやべーな)
心の奥底で、蓮真は自分の気持ちをそっと閉じ込める。
今は“いちばん仲のいい後輩”――その距離が、一番心地よくて、一番切ない。
そして今日も、蓮真は何も言わず、笑っていた。
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燈ノ杜学園、3年B組。朝の教室には、だんだんと男子校らしい賑やかさが満ちてきていた。
机を囲んでゲーム談義に花を咲かせる者、部活の話で盛り上がる者、誰かのスマホを覗き込みながら笑い合う者たち――そのざわめきの中で、安楽悠嵩は静かに自分の席に座り、今日の授業で使うプリントを無言で整理していた。
そこへ――バタバタと走り込んでくる足音。
「うわ、マジか……やべぇ、悠嵩、助けてくれ!!」
辻井凌央が、自分の鞄を片手に、悠嵩の席にズカズカと歩み寄ってきた。
「何が“やべぇ”なの」
「宿題、まるっとやんの忘れてた……今うつさせてくれたら、授業始まる前には間に合う!」
呆れたように眉を下げながら、悠嵩は手元のノートをちらっと見てから、無言で差し出す。
「ありがてぇ……!さっすが悠嵩、優男っ」
「……次は無理だからね?」
そう言いながら、悠嵩は髪を指先でくるりといじった。
その仕草を、同じグループの友人・新島が横目で見ながら、クスクスと笑う。
「悠嵩ってさ、いつも誰にでも優しいのに、辻井にはちょっと塩対応じゃない?」
「……そ、そんなことないでしょ」
声がほんの少し裏返った。
その横で、凌央はせっせとノートを写している。
小声で「めっちゃ字キレイ……助かる……」と感動していたかと思えば、写し終えた後、カバンの中をごそごそと探り、
「サンキューな、悠嵩。助かった。これ、お礼!」
と、ラムネ味のキャンディをひとつ手渡した。
にかっと笑う凌央。その無防備な笑顔に、悠嵩は思わず視線をそらしながら、その手元の飴を受け取る。
「……だから次はないって言ってるでしょ」
顔はほんのり赤く、また髪をくるりと指先で巻いていた。
(ホントは……ちょっとだけ嬉しいくせに)
そんな悠嵩の様子を、またしても新島がニヤリと見ていた。
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