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しおりを挟む何枚も微妙に角度を変えながら、時々朱雨にも指示を出す。
どんな仕上がりになるんだ、これ。
気になって、カメラとリンクしてるらしいPCの画面を見に行く。
「やべぇな、これ」
思わず声が漏れる。アップで撮られたその写真は、朱雨の最高にカッコいい角度と表情だ。
俺の声を聞いて、宵闇が振り返る。にやっとしてやると、微かに頷いて朱雨に視線を戻す。
宵闇のこういうセンスが、ベルノワールの「ダークで美麗でカッコいい」ってイメージを構築してるってわけだ。人間をプロデュースしてファンを惹き付ける能力は飛び抜けてやがる。個人の魅力を見付け出して引き出す、それは宵闇が決してネガティブじゃなくて、ポジティブな目で相手を見てるからこそ出来ることだ。腹の底から冷酷な人間には絶対に出来ない。
ほんと、そういうとこが最高だわ、お前は。
綺悧は目を細めて、唇を指でなぞりながらこの光景を見ている。ここで自分はどう写ろうか、を考えてるんだろう。その真剣な目はプロフェッショナルだ。
撮影はまだ続行されている。基本的には、朱雨本人の動きに任せてる。それに応じて宵闇が少し指示を出すと、一瞬で朱雨らしい、朱雨にしか出せない空気感が出る。
これが、表舞台に立つアーティストの重要な仕事の一つなんだろう。
俺はプロになってから、ドラマーとして音だけで勝負してきたから、見た目を演出することは考えたことがなかった。
でも、確かにファンとしての自分はこういうアーティスト写真を見て来たんだよな。やっぱ写真見てカッコいいって思うこともあったし、スマホの壁紙にしたりとか、そんなこともしてた。そんなに重視してないと思ってたけど、やっぱり何だかんだとカッコいい写真は印象に残ってるし、間違いなくそのアーティストのイメージを作ってる。
例えば、アルバムが発売される前に広告なんかで公開される新しいアーティスト写真。それ一つで「どんなアルバムなんだろう」「こういう音なのかな」なんて興味と想像が膨らんだりする。知らないバンドを雑誌で見ると、「これはカッコいいバンドなんじゃないか」なんて期待したりする。
俺は音で判断する、って思い込んでた自分ですらそれだ。宵闇がやってるヴィジュアルのプロデュースのウェイトは確実にでかい。
凄いヤツだな、宵闇は。
素直に尊敬する。俺がわかってなかった部分を、こいつはコントロールしてるんだ。音楽そのものに対する知識はまだまだかもしれない。そこは絶対に俺の方が上だけど、俺が持ってない能力を持ってる。
ヴィジュアル面とイメージ戦略は宵闇が、音楽的な部分は俺が、それぞれ力を発揮したら、俺たちは無敵じゃねぇか。思い上がりじゃなく。
「よし、朱雨、終了だ」
宵闇の声がかかり、スタジオの空気が緩む。
「おつかれ。朱雨は休憩して来い」
宵闇は朱雨の肩を叩き、PCを覗きに来る。撮れ高の確認か。
「おう、夕! ばっちりだな。メタTはどうした?」
いつもの気楽な野郎に戻った朱雨は、笑いながら俺に声をかけて来た。
「きっちり着替えたわ。METALLICAのTシャツで出て来たら、宵闇にぶん殴られるだろうよ」
「間違いない」
殴るのは俺の方だけどな。
朱雨はスタジオの隅に用意してあったペットボトルのお茶を飲みながら、椅子に座る。こいつの靴、ピンヒールだ。めちゃめちゃ高い。カメラテストで俺が履いてたピンヒールよりもっと高い。こんなに足長かったっけって思ったけどこれか。
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