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しおりを挟むつうか、俺があんだけダメージ食らってたピンヒールで、あんな綺麗にぴたっとポーズキメてたのか。それだけでもすげぇ。
「おはようございまーす…」
このフェードアウトしそうな挨拶は礼華だな。振り向くと、華麗なフリルの衣装に身を包んだ礼華が、背中を丸めてスタジオに入って来た。これで全員勢揃いだ。
こうやって仕上がった状態を見ると、ほんと王子様だな、礼華は。背景に花が舞い散ってそうだよ。ハーフっぽい顔とちょっと憂いがかった表情が、最早少女マンガだ。
憂いがかってんのは、主に人見知りと小心者のせいだと思うけど。
そんでもこれはこれで、また好きな人が絶対いるよな。これで、ファンサービスが優しいとか、夢みたいな話だろ。夢を売る仕事とはよく言ったもんだ。礼華の為の言葉だな。
礼華は朱雨と何か話して笑ってる。意外に撮影現場は和やかだ。この方がいい表情も撮りやすいんだろう。これも多分、宵闇の計算に入ってる。
その宵闇は、真剣な表情でカメラマンと話をしながら、PCの画面を操作している。良かったのか悪かったのかは伺いしれない。こいつ、また一日中休みなしだ。プロデュースって仕事は楽じゃないよな。
「夕さん、どう?」
綺悧がにっこり笑って俺に問いかける。お前の笑顔は癒しだな。
「ガチの現場はすげぇな。俺、初めてだからあがるわ」
「すぐ慣れるよ。宵闇さんの指示はわかりやすいから」
それは、カメラテストの時もそうだった。俺は一つもポーズなんか思いつかなくて、あいつの言うままに動いてたけど、迷うところが全くなかった。出来上がった写真は、モデルとしてど素人の俺がなかなかのもんに仕上がってたし。
「とにかく今日は宵闇にお任せだな。あいつの言うこと聞いてりゃ間違いないだろ」
「うん。絶対に綺麗に撮ってくれるよ。俺でもカッコよく写るからね」
こうやって、撮られてる本人にも、最高の状態を撮ってもらえる、って思わせるのも大事だな。何をするにしても、本人が自信を持てば、最高のパフォーマンスが発揮される。
「俺がどんなふうに写るか楽しみだな」
「カメラテストの写真も良かったよね、夕さん。今日はもっといいと思う」
「そりゃ期待出来るな」
こういうのは俺向きじゃないじゃないのかって思ってたけど、段々楽しみになって来た。宵闇なら、俺が知らない俺を演出してくれるはずだ。それは見てみたい。
「5分後に全員ショットに行く。準備しておけ」
宵闇の声がスタジオに響く。全員ショットが先なら、何となく緊張しないで済みそうな気がする。
メイクさんが朱雨のメイクを直しに来る。
礼華は立ち上がって伸びをした。実際の身長、こんなにあるのか。だいぶ高いな。腕も長い。
綺悧は大きく深呼吸をする。
「さーて、頑張りますか!」
そう言って、俺にウィンクを飛ばす。俺は親指を立てて返す。
宵闇は、カメラマンと話しながらPCを前へ移動させて、画面をセット側に向ける。
ああ、そうか、なるほど。今度は宵闇が撮られるわけだから、撮られながらチェックしてくわけだ。セルフプロデュースもするんだよなぁ、当たり前だけど。ベースのディレクションなら俺が出来るけど、写真の方は何もしてやれねぇ。
PCの移動が済むと、宵闇は真ん中辺りに立ってみて、何度も画面の角度を調整する。暫くそれを繰り返して、納得した時点で手を叩く。
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