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しおりを挟む宵闇もすっかりそこんとこ忘れてたな。残念なことに、サインは自然発生しねぇ。
「一応、本名のはあるけど…ダメだよな?」
2回くらいドラムフリークに取材してもらった時に書いたサインが、あるにはある。ごくごく稀にサインを頼まれることもないこともない。でもそれ「優哉」だからな。
「ダメだな…明日までに考えといてくれ」
「えーっ、今からかよー! 早く言えよ!」
「ごめんって。後から変えてもいいから、とりあえず、頼むよ」
「しゃーねぇなぁ…」
取材も企画も、決まってるもんは決まってるんだもんな。ごねてもしょうがねぇ。
「んで? 発売日いつ」
「来月号だから、11月20日」
「シングルの発売日より後かぁ」
「ほんとは今月号に載りたかったんだけど、お前の加入が締切ギリギリ過ぎて。速報だけはチラッと載せてもらったんだけど」
「そっか。まあ、予約のお客さんがひと段落した後に、これでブーストかかるといいよな」
「ああ、それを期待してる」
記事を読んで、興味を持ってすぐにCDなり配信なりが手に入る状態ってのも、それはそれで有効だ。発売日の売上には影響しないから、ランキングなんかにはほぼ反映されないだろうけど、総売上を考えると、絶対にあった方がいい。
「俺、喋っちゃいけないこととかあるか?」
「ない。お前の良識の範囲内で。気にしないで喋ってくれ」
そんなことを話しながら宵闇を送り届けて別れ、それからのついさっき。宵闇は約束の時間に俺の部屋に来た。
手にはどっかの洋服屋のショップバッグ。
あがりこんでくると、早速その中からテロテロした質感のシャツと、モノトーンの豹柄のシャツと、やたら襟ぐりが広いTシャツを出してきてベッドの上に広げる。
「この辺りなら夕に似合うと思うんだけど」
「んー? 俺は何でもいいぞ?」
「そうだな…どれも似合うな」
俺の胸元にかわるがわるそいつらを当てて、にこにこしてる。すげぇ楽しそうだな、こいつ。そんなら、今度から服はこいつに見立ててもらおう。
「Tシャツがいいかな…」
顎に手を当てて、ぶつぶつ言ってる。面白ぇヤツだなぁ。
「好きにしてくれ」
「こっちのボルドーも捨て難い…」
テロテロの紫のシャツをもう一回俺に当てる。ほんと紫好きだなこいつ。
「夕、ライダースは?」
「ああ、ちょっと待て」
クロゼットを開けて、今年はまだ着てないライダースジャケットを取り出す。これは、何年も着てるお気に入りだ。
「これ」
宵闇に見せると、宵闇はぽかんと口を開けた。
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