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第三十八話【目を反らしたいもの】中
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今日予定していた用事が終わり、冬真はスマホを開いた。力也からの連絡はなく、がっかりしながらそれでもL●NEを開いた。あの誕生日の日から二人は会っていない。
撮影も重なることがなく、先日はせっかく冬真が誘った夕食も調子が悪いということで流れてしまった。本当は様子を見に行きたかったのだが、いってもおそらく何もできないし、かえって邪魔になってしまうだろうと行くのをやめた。
次の日の連絡ではもう体調はよくなったと言っていたが、その日も大事をとってお詫びと言っていた力也の誘いを断った。
ここしばらく力也の仕事が増えてきて、逆に冬真は落ち着いてきている。元々、それが本来の立場の差ではあった為不平も不満もないがただ寂しい。
(会いたい……)
こんなことならもう少し社長にやる気を見せればよかったのだろうが、目の前にいるのに視線を合わそうとしない相手に媚びることができるほど、器用ではない。
演技しろというならばできるが、相手もこの業界のプロだ。あっという間に見破られるだろう。ならしないほうがマシだった。
おかげで扱いにくいという実にDomらしい評価をもらってしまった。
冬真もそれでいいと思っていたが、こんなに力也が忙しくなるならもっと仕事が入っていればよかったと思う。そうすれば、少しでも演技のことを考えていられたのに。
【今日はどんな感じ?】
【今日は夜までみっちり入ってる。あがりもわかんない。】
【すごいな、頑張れ】
メッセージのやり取りはこれで終わっているから返事がなくてもおかしくはないが、なんでもいいから連絡を期待してしまう。
いまは何をしているか聞こうとして、メッセージを打ち込んだが送る前に仕事だと言っていたのだから、わかりきっていることだと思いやめる。
ため息をつき、バイクの鍵を取り出そうとした時、力也から貰った鍵が手に触れた。それをなんとなく取り出し眺めた時に思った。
(そうだ。勝手に行って待ってればいい)
くれたのだから勝手に入って勝手に待っていても問題ないはずだ。疲れて帰ってきた力也を驚かせて、甘やかす、別に他になんにもできなくても構わない。
そうと決まれば必要なのは帰ってきたときに食べられるなにか胃に優しい物だ。本人は自覚していないらしいが、甘党ぎみな力也の為にちょっとしたものを買い、冬真はマンションに向かった。
マンションにつき、鍵を開け中に入ると案の定力也はまだ帰っていないらしく、部屋の中は真っ暗だった。
「ただいま」
自分の部屋でもないのに、そう言い中に入ると部屋は相変わらず片付いていた。冬真が忙しかったときは部屋がぐちゃぐちゃになっていたのに比べ、力也の部屋は変わりがなく。
ただ部屋の中に服が干されているだけだった。
「服たたんでおくか」
いつかやってくれたように、服をたたみどこに置いていいかもわからずソファーの上に積んでおく。そうしていればスマホが震えた。
【まだ仕事?】
先ほど送ったメッセージに返事が届いたようだ。
【まだまだかかる】
それだけが書かれていた。どうやら随分長丁場のようだと苦笑し、部屋にいることは触れず“そうか、お疲れ様”とスタンプをつけて返す。
「夕飯食べるか」
すぐ帰ってくるなら待っていてもよかったが、これはあきらめたほうがよさそうだと、仕方なく買ってきた弁当を広げた。
主がいない部屋で勝手に主のように弁当を食べ、くつろぐ。相変わらず力也は帰ってこない。
「力也、シャワー借りるな。どうぞ~」
一人など慣れているのに、物足りなくてそんなことを言いながらシャワーを浴び、ソファーに寝転がる。
「全然帰ってこないな。そうだ、こういう時は恒例のあれやるか」
ニヤッと笑みを浮かべると、冬真は部屋の中を見回し目的の物を探す。とはいえ、すでに場所はわかっているのだからこれはただの戯れだった。
「やっばあそこだよな」
寝室に行きベッドのマットレスをどかし、中を覗き込む。下には前に出した玩具の入った箱と奥にもう一つ箱があった。
「やっぱあったか。電子派でも少しはあるんだよな」
二つとも箱をだし、とりあえず前にも開けたことのある玩具が入った箱を開ける。
「増えてたりしねぇかな」
なにか増えていれば使ってほしいと思ってのことだろう。是非期待に応えなければと、ワクワクしながら開けて中を見た。
ほとんどが見覚えのある物ばかりだったが、中に緊縛用の麻縄と拘束具が増えていた。
拘束具は首輪から延びるリードで背中に腕を固定するタイプの物で、麻縄はよく見るタイプだった。
「縛られるの気に入ったのか?」
わかりやすいと思いながら、拘束具を一通り見ると、今度は麻縄を見た。この前なかったから買ったのだろう、袋に入ったままだった。
「あー、これそのまま使えないんだけど知らないか」
袋からだして触るが、明らかに硬くざらざらしている。これならこの前の登山用のロープのほうがマシだった。それでなくとも、冬真の家にはそれように改造した麻縄がある。
買ったばかりのこれを使うのはむしろ気が向かない。
それでも力也が使ってほしくて買ったのだからと、考え自分のカバンにしまった。
「持って帰ってどうにかしよう」
今度する時までになんとかしておこうと、決めて今度はもう一つの箱を開けた。
そこには案の定、いくつかのDVDと本が入っていた。
撮影も重なることがなく、先日はせっかく冬真が誘った夕食も調子が悪いということで流れてしまった。本当は様子を見に行きたかったのだが、いってもおそらく何もできないし、かえって邪魔になってしまうだろうと行くのをやめた。
次の日の連絡ではもう体調はよくなったと言っていたが、その日も大事をとってお詫びと言っていた力也の誘いを断った。
ここしばらく力也の仕事が増えてきて、逆に冬真は落ち着いてきている。元々、それが本来の立場の差ではあった為不平も不満もないがただ寂しい。
(会いたい……)
こんなことならもう少し社長にやる気を見せればよかったのだろうが、目の前にいるのに視線を合わそうとしない相手に媚びることができるほど、器用ではない。
演技しろというならばできるが、相手もこの業界のプロだ。あっという間に見破られるだろう。ならしないほうがマシだった。
おかげで扱いにくいという実にDomらしい評価をもらってしまった。
冬真もそれでいいと思っていたが、こんなに力也が忙しくなるならもっと仕事が入っていればよかったと思う。そうすれば、少しでも演技のことを考えていられたのに。
【今日はどんな感じ?】
【今日は夜までみっちり入ってる。あがりもわかんない。】
【すごいな、頑張れ】
メッセージのやり取りはこれで終わっているから返事がなくてもおかしくはないが、なんでもいいから連絡を期待してしまう。
いまは何をしているか聞こうとして、メッセージを打ち込んだが送る前に仕事だと言っていたのだから、わかりきっていることだと思いやめる。
ため息をつき、バイクの鍵を取り出そうとした時、力也から貰った鍵が手に触れた。それをなんとなく取り出し眺めた時に思った。
(そうだ。勝手に行って待ってればいい)
くれたのだから勝手に入って勝手に待っていても問題ないはずだ。疲れて帰ってきた力也を驚かせて、甘やかす、別に他になんにもできなくても構わない。
そうと決まれば必要なのは帰ってきたときに食べられるなにか胃に優しい物だ。本人は自覚していないらしいが、甘党ぎみな力也の為にちょっとしたものを買い、冬真はマンションに向かった。
マンションにつき、鍵を開け中に入ると案の定力也はまだ帰っていないらしく、部屋の中は真っ暗だった。
「ただいま」
自分の部屋でもないのに、そう言い中に入ると部屋は相変わらず片付いていた。冬真が忙しかったときは部屋がぐちゃぐちゃになっていたのに比べ、力也の部屋は変わりがなく。
ただ部屋の中に服が干されているだけだった。
「服たたんでおくか」
いつかやってくれたように、服をたたみどこに置いていいかもわからずソファーの上に積んでおく。そうしていればスマホが震えた。
【まだ仕事?】
先ほど送ったメッセージに返事が届いたようだ。
【まだまだかかる】
それだけが書かれていた。どうやら随分長丁場のようだと苦笑し、部屋にいることは触れず“そうか、お疲れ様”とスタンプをつけて返す。
「夕飯食べるか」
すぐ帰ってくるなら待っていてもよかったが、これはあきらめたほうがよさそうだと、仕方なく買ってきた弁当を広げた。
主がいない部屋で勝手に主のように弁当を食べ、くつろぐ。相変わらず力也は帰ってこない。
「力也、シャワー借りるな。どうぞ~」
一人など慣れているのに、物足りなくてそんなことを言いながらシャワーを浴び、ソファーに寝転がる。
「全然帰ってこないな。そうだ、こういう時は恒例のあれやるか」
ニヤッと笑みを浮かべると、冬真は部屋の中を見回し目的の物を探す。とはいえ、すでに場所はわかっているのだからこれはただの戯れだった。
「やっばあそこだよな」
寝室に行きベッドのマットレスをどかし、中を覗き込む。下には前に出した玩具の入った箱と奥にもう一つ箱があった。
「やっぱあったか。電子派でも少しはあるんだよな」
二つとも箱をだし、とりあえず前にも開けたことのある玩具が入った箱を開ける。
「増えてたりしねぇかな」
なにか増えていれば使ってほしいと思ってのことだろう。是非期待に応えなければと、ワクワクしながら開けて中を見た。
ほとんどが見覚えのある物ばかりだったが、中に緊縛用の麻縄と拘束具が増えていた。
拘束具は首輪から延びるリードで背中に腕を固定するタイプの物で、麻縄はよく見るタイプだった。
「縛られるの気に入ったのか?」
わかりやすいと思いながら、拘束具を一通り見ると、今度は麻縄を見た。この前なかったから買ったのだろう、袋に入ったままだった。
「あー、これそのまま使えないんだけど知らないか」
袋からだして触るが、明らかに硬くざらざらしている。これならこの前の登山用のロープのほうがマシだった。それでなくとも、冬真の家にはそれように改造した麻縄がある。
買ったばかりのこれを使うのはむしろ気が向かない。
それでも力也が使ってほしくて買ったのだからと、考え自分のカバンにしまった。
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今度する時までになんとかしておこうと、決めて今度はもう一つの箱を開けた。
そこには案の定、いくつかのDVDと本が入っていた。
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