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第六十二話【それぞれの日】中
しおりを挟む生まれたときから母というSubを見てきた。母は、ご主人様である力也の父親を崇拝していた。常に尽くし、身を心を捧げていた。ご主人様から与えていただけるものはすべてが喜びで、幸せである。それは快楽や痛みだけにとどまらず、精液までもすべてを喜びととらえていた。
ご主人様の望みならなんでもする。母にとってご主人様に尽くすことこそが生きていく意味だった。
そんな母を見て育った力也もそういうものだと思っていた。しかし、母が見せてきたものは力也には合っていなかったのだろうと今ならわかる。
貢ぎ捧げ、尽くすよりもともに何かをする方がずっと楽しい。自分だけが耐えるのではなく、そばにいてほしいし支えてほしい。
ご主人様である冬真と一緒に歩きたい。それでも、喜んでもらいたいのは変わらないが、母と比べれば気持ちの入り方が違うと言われるだろう。
「へぇ、それで料理を始めたいってなったのか」
「はい、傑さまに喜んでいただきたくて・・・・・・」
力也の説明を聞いた港に聞かれ、結衣は恥ずかしそうに頷いた。定食屋までの道すがら話す四人はおしゃべりに興じていた。
長身の整った体躯の力也と、いかにもヤンキー風のピアスだらけの港、はかなげな美人風の結衣、素朴な顔立ちのミキの四人は道行く人の目を引くがその首にあるCallaをみれば人々は目をそらした。嫉妬深いDomがどこからか見ているかもしれないと考えればあまり凝視したくはないのだろう。
おかげで、四人とも何かと声をかけられそうな見た目をしているのに、声をかけられることなく歩いている。
「で、ミキは店のメニュー増やしたいんだよな?」
「はい、もっとお腹にたまるメニューを増やしたいと前々から思ってたんです」
「あー、お前んとこうまいんだけど、ちょっと物足りねぇんだよな」
主人同士が友人といえ、あまり話したこともない港にそう言われ、一瞬驚くもミキは苦笑を返した。
「今のままでは、ペアじゃないと入りにくいですし。彰はDomはどうでもいいけど、Subにはどんどん来てほしいって言ってて」
「今はコンセプト重視だもんな」
「いやじゃないんだけど恥ずかしいし、いたたまれないんだよな」
力也も港も、主人の要望で特殊なシェアのコンセプトを体験しているだけあり、ため息混じりに頷いた。パートナーがニコニコとうれしそうなのはいいし、口移しが嫌なわけではないが、ただ恥ずかしい。
「コンセプトってなんですか?」
「口移しで食べさせられるんだよ」
「口移し・・・・・・」
想像だけで、顔を赤らめた結衣は乙女のようにうっとりとした表情を浮かべた。
「今度傑さんにおねだりしたら?」
「ご迷惑になりませんか」
「逆に喜ばれるって」
「待ってるから来てください」
力也とミキの言葉に、結衣は安心したような笑みを浮かべ頷いた。恥ずかしいながらも、直接食べさせられることが嬉しいというのがわからないでもない力也とは違い、港は理解できないという表情を浮かべた。
「そんなにやりたいもんか?」
「港は苦手そうだよな」
「だってあれ、口ん中でぐちゃぐちゃにしたやつ食わされるだろ」
顔をしかめた港の言葉に、力也とミキは驚いたような視線を浮かべた。ミキもよくやられるが、咥えてたのを食べさせ合うだけで口の中で、ぐちゃぐちゃにされたのを食べることはない。そもそも咥えて食べさせやすいように形を考えて用意しているはずだ。
二人の視線を受け、自分がされていたことが行きすぎたことだとわかった、港が表情を変える。
「あのやろう! まただましやがった!」
「口をくっつけて食べさせられはしたけど、ぐちゃぐちゃはなかったな」
「港って意外と素直なんだね」
自分に都合のいいように言う相手の性格をわかっていたはずなのに、あっさりと騙されてしまって悔しいやら恥ずかしいやらで、怒り出す港の様子に力也は苦笑した。
ぐちゃぐちゃと聞いても嫌悪感のなさそうな結衣とは違い、想像するとさすがに遠慮したい。
「冬真が注意しろって言ってたわけがわかる気がする」
散々注意されて、絶対信用するなと言い聞かされていたが、未だ危険な目にあっていない所為か心に止めていだたけの力也は納得したように呟いた。
性質を知っているはずの港でこれならば、自分もいいように騙されてしまいそうだ。
「力也さんはいいよな。まともな優しいご主人様で」
「Subを前にしたときのハイテンションはあんまり変わらない気もするけど」
「そこは王華学校出のDomの共通なので」
「ミキも王華学校出なんだよな?」
「はい、中学の頃の家庭教師に進められて」
力也の問いかけに、ミキは苦笑を浮かべた。実のところその家庭教師はDomでダイナミクスを受け入れているという王華学校に勝手にDom上位のイメージを持ち、進めたに過ぎない。それだけではなく自分もいい思いができると思い教師として入ろうとしたが、面接で落とされた挙げ句、要注意人物としてマークされた。
結果Domの力も奪われ、ミキも奪われてしまうという本人にとってだけ最悪の結果を迎えた。
「ふーん、こっち方面に詳しい家庭教師ってのもいるんだな」
事情を知らない港のつぶやきに、ミキは曖昧な笑みで返した。今となれば、当時の家庭教師のことなど嫌悪感しかないが、Subとして目覚めた当時は尊敬していた。
とはいえ、彰と出会い、相手をしてもらううちに現実に気づいたのだが。
「聞いてみたかったんだけど、王華学校のSub科ってどんな感じなんだ?」
話を変えるように力也に聞かれ、ミキは“えーと”と考えた。普通の学校とは違うとわかっていてもどんなと言われるとどこから話していいのかわからなくなる。
「あ、それ俺も気になってた。やっば好待遇だった?」
「好待遇なのは間違いないと思います。制服も支給されたし、学費も少なくてすんだので」
「マジか、俺王華学校行けばよかったのか」
「広報活動するとお小遣いももらえました」
「広報活動?」
「はい、写真とかCDとか出すとDom科の生徒が買ってくれるんです」
それだけではなくDom科の生徒たちの活力にと、歌を歌ったり、昼の放送をしたり、悩み相談用の懺悔室を開いたりもしていた。それらは無料だったが、その延長でCDや写真を作ればちゃんとお金になった。
「あー! それでアイツもやたら写真撮りたがるのか!」
「港も言われるのか?」
「そうそう、なんかミーアキャットと並べて撮りたいとか訳わかんねぇこと言うんだよ」
「俺はハリネズミだった。これも王華学校のノリなのかな?」
「僕もウサギと撮りましたけど、どうなんでしょう?」
そう言われ思い出すが、学校では動物と一緒に撮った覚えはなく、一緒に撮ると言えばSub同士の仲良し写真でそれはかなりの人気だった。ちなみにお座りなどの軽いコマンドポーズ写真も人気で何度か撮った覚えある。
「結衣は?」
「え・・・・・・っと」
三人の会話の聞き手に収まっていた結衣は、いきなり聞かれ、戸惑うように視線をさまよわせた。
「動物。傑さんになにか動物に似てるって言われたりしない?」
「モルモットでしょうか?」
「やっぱ言われるんだ」
「写真は撮られてないですけど・・・・・・」
「それ、タイミングがないだけじゃなくて?」
ペットとして飼っていることがなければ、一緒に撮るならばどこかに出かけなければならない。ミキは動物園に一緒に行ったときに撮ったが、そうでもなければ難しいだろう。
「デートとかしねぇの?」
「お買い物とお食事には連れて行ってもらえるんですけど」
「モルモットって言ったら動物園だよな」
「傑さん行かなそうだな」
似合うか似合わないで言えば、間違いなく似合わない。本人が好きかどうかは別として、行きそうには見えない。仕事関係で行くことはあるかもしれないが、そのほかは思いつかない。
「力也さんは?」
「ふれあいイベントに連れてかれて確か撮ったな」
たまたま行ったデパートで、特別イベントとしてふれあいをしているのを見つけた冬真に頼み込まれて入ったのだが混んでいたので、写真があまり撮れず悔しそうにしていたのを覚えていた。結局冬真はその悔しさをぬいぐるみくじにぶつけ、一番大きな特等を当てたのだが。
「満足してないからそのうちまた連れてかれるかも」
「そっか、まあ俺は関係ないか。ふれあいとか無理だし」
「ミーアキャットもふれあいにいたと思うけど?」
「え?」
「何度か行ったことのあるフクロウカフェにも確かいたよ?」
動物園の檻越しなら撮りたいと言い出さないだろうと思っていた港は、力也とミキの言葉に“マジか”と顔をしかめた。有利のことだ、撮れるのを知れば行きたいと騒ぐだろうし、どんな手を使っても連れてくだろう。
お散歩といいながら、野外露出に連れてかれたり、野外playを強いられたりするのは慣れているが普通のデートみたいなものは、していない所為か逆に拒否したくなる。
内容的に考えれば、ずっとマシな内容のはずが。
「そんときはセーフワード使うか」
「そんなに嫌なの!?」
「動物ぎらいとか?」
「動物は嫌いじゃねぇけど、今更そういうなんか普通のデートみてぇのがやなんだよ」
「あー」
それだけで同じSub同士、普段しているのが相当な濃厚playだとわかり、力也は理解できたとばかりにうめく。
「変態行為ばかりに付き合わされてるからな」
「慣れって怖いな」
「もう諦めてるけどな」
そういえば、他の二人も納得の視線へと変わる。おそらく想像しているよりもずっとすごい内容なのだが、そこまで声に出すことはない。
「それでも料理作ってあげたいって思うってことは、やっぱり港もご主人様大好きなんだね」
「ちげぇよ! そうじゃなくて、アイツ散々好き放題した挙げ句いつもうまいもの食わせてごまかそうとすんだよ、ムカつくんだよ!」
純粋なミキの言葉に、港は途端に怒鳴り返した。
「褒美だかなんだかわかんねぇけど、まるで俺が食いもんに釣られて我慢して付き合ってるみてぇだろ!? だから俺もうまいの作ってアイツの飯にそんな価値ないって思い知らせてやるんだ!」
その宣言に、力也とミキは首をかしげた。それは裏を返せば食事に釣られている訳じゃなく、有利の望みだから応じていると言うことになるのだが、気づいていないのだろうか。
(なるほど、これが真のツンデレ)
これを期待されていたとすれば、自分のとってつけたような演技じゃさぞ物足りなかっただろうと、今更ながら昔の相手たちの落胆がわかった気がした。
だからと言ってちっとも心も傷まないし、気にする気もない。昔の相手の感情など今はどうでもいい。
冬真がやってほしいというならやってもいいけど、とはいえきっとまたうまくできなくて笑われるのだろう。
どんなに隠そうとしても、冬真に対する好意は隠せないのだから。
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