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第六十二話【それぞれの日】後
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こうして友人五人で集まっていると学生時代を思い出す。王華学校は東に一校、西に一校、更に系列の中学と高校が合わせて三校の全国的には有名ではない学校だ。
生徒たちの監督と保護のためにDom科Sub科ともに全寮制で、それぞれ別の寮が用意されていた。
いわゆる問題を起こした少年少女の更生の為の学校と同じく、生徒たちが社会適用できるように育て上げることを目的としている。
Dom科の生徒には厳しく、Sub科の生徒には優しく、この世界でマイノリティではない生徒たちの為に生まれてきたことを恥じることのないよう、生まれてきてよかったと思えるように世の中の理を教える。
我が強いDomたちにとっては、自由が少なく何事においても縛られることの多い、学校生活だったが、有意義な学校生活だったといえる。
多くのことを学べ、今その知識も経験も確実に役に立っている。
「冬真、この辺のは捨てていいんだよな?」
「ぶっ壊して」
「せっかくとっといたのにいいのか?」
「とっといたんじゃなくて、とっとくざるを得なかっただけだからいい」
捨てるに捨てられずに、段ボールに詰め込んでいたのは服だけではなく、昔出演したAVもある。服とは違い、こちらは本気で扱いに困っていた。自分だけが映っているなら普通に捨てられるのだが相手をしたSubのことを考えると捨てられなくなる。
けして浮気などではないが、今頃どうしているのだろうか、幸せに暮らしているだろうかと考えれば考えるほど捨てられなくなる。
捨てるという行為に後ろめたさを感じてしまっていた。それでもこれを期に片付けようと思った。
力也は別に捨てなくてもいいと言うだろうが、自分自身が嫌だと感じていた。力也が持っているのはいいが、自分が持っているのは、せっかく力也を得て共に生きていくと誓ったのに、不義理に感じてしまう。
もしかすると力也がほしがるかもしれないが、それも嫌だ。play中は出さないようにしていたが、憂鬱さは半端なかったし、せっかくのplayなのに全然楽しくなかった。
自分のペースで進められないことがあんなにもストレスになるなんて思っていなかったし、時に相手のSubが痛々しくて見ていられなかった。
AVには無理矢理系と自ら喜んでの二通りがあったが、圧倒的に多いのは無理矢理が多かった。
始める前は、漠然とフリーのお金に困っているSubが出ているのかなと思っていただけに、現実との差がひどかった。
パートナーのDomの命令で出されていると聞いた時は、怒りがわいた。パートナーが見ている目の前でとかならば、まだ受け入れられたかもしれないが、自分の目の届かないところで他のDomに任せて金を得るという思考が受け入れられなかった。
それでもそれを受け入れているSubにモヤモヤした物を抱えながらやっていた。
「ってかむしろよく持ったよね」
「あの頃、play足りてるはずなのに冬真やばそうだったもんな」
「合わないplay続けてるとああなるんだって思ったよな」
「ストレスばっかたまるのに、薬も飲めないし、なにやってんだって思ってた」
その頃のことを思い出し、ため息交じりに呟く冬真に、三人の同情した目線が向けられた。しかし、その瞬間だった。不意に聞き覚えのある台詞とおびえを含んだ声が聞こえた。
「つけんな!」
「せっかくだからいいじゃん」
「ほんと、有利って空気読まないよね」
勝手に再生していた有利からテレビのリモコンを取り上げ、すぐさま消した。いつの間につけたのか、拘束playが始まる瞬間だった。
「俺が見たくないって言ってんのになんでつけんだよ」
「俺が見たかったから」
何が悪いのかもわからない、という表情を浮かべる有利の視線は消されたというのにリモコンに向いていた。
「ほんと、港よくこれの相手してるよな」
「港に感謝しろよな。有利」
「もちろんだよ。港がいてくれるから俺は許されてるんだって」
人によっては誠実さまで感じてしまうだろう、よい人そうな笑みを浮かべる有利に、正体を知っている四人はため息をついた。
冬真とは別の意味で女性にもてそうな、爽やかでそれでいて温和そうな見た目をしていながらお留守番と銘打ってバイブを入れたまま放置するし、嬉々としてピアスも開けるのが有利だ。嬌声よりも悲鳴と罵倒を好む変人だ。
「にしてもマジ意外だったよね。俺の次は冬真だと思ってたのに、最後まで残るなんて」
「AV業界選んだからじゃねぇの? そうじゃなきゃ、フリーのままなんてなかったろ?」
「ダイコン、トップだからな」
「ねぇ、まさか俺より遅い何て思わないよね」
在学中にもうパートナーとして決まった彰の言葉に三人は頷いた。実際、必須科目のダイナミクスコミュニケーションで成績優秀だった冬真が、いつまでもあぶれているのは先生たちからも不思議がられていた。
好みのタイプがいなかったと言えばそれまでだが、それにしても探し出そうとするのが遅かった。
力也に出会うためにフリーでいたと思えば、聞こえはいいが力也は何度もD/S合コンに出かけていたのだからもっと早く行動に移していればもっと早く会えたかもしれない。
「うっるさい」
「こう見えて慎重派なんだよな」
「ってか臆病?」
「諦めは悪い癖にね」
友人たちからの遠慮も容赦もない言葉に、顔をしかめにらみ返す。どんなに不機嫌を見せようとも、友人たちは態度も考えも改めることはない。
王華学校出身のDomにとって気持ちを推し量り、常に気遣わなくてはいけない相手はかわいいSubたちのみだ。
「そんなんで力也さんにちゃんとついてける?」
「どういう意味だよ」
「どういう意味ってわかってるでしょ? 力也さんギリギリだって」
「まだだ」
「もう兆候はあるんでしょ?」
「黙れ」
「その時が来たらどうするのか考えてる? このままじゃ、限界くるよ」
「有利に言われなくともわかってる!」
言われなくともとっくにわかっていた。元々持っていた素質が表に出つつあること、それが表に出てしまえば今のままの冬真では、力也について行くのは不可能になる。
どんなに大切に思っていようとも、それだけではだめだと。
「そんときのことぐらい考えてる」
「冬真・・・・・・」
苦しそうな表情に彰が呼びかければ、冬真は揺るぎない瞳を浮かべ心配ないと笑った。
「そのときになれば、覚悟を決める。手を借りる覚悟もある」
「なら俺が立候補する!」
「有利お前だけは断る。ってか、そういう覚悟じゃねぇよ」
「じゃあどういう・・・・・・」
彰の問いかけに答えようとしたその時だった。不意にピンポーンと、部屋のチャイムが鳴り響いた。
「あれ? なんか来た?」
「冬真、食べ物とってくれたりした?」
「そんなわけないだろ。通販かな」
立ち上がった冬真は、その辺にあったペンを片手に玄関に向かった。
「わかったエログッズだろ!」
「力也さんに使う気だ。何頼んだんだよ!」
「どうせやべぇやつだろ」
「うるせぇ、俺のかってだろ!」
やいのやいのと茶化す友人たちの声を聞きながら、今日届きそうな荷物はなんだろうと考えながら、冬真は部屋のドアを開けた。
「はーい」
「・・・・・・冬真」
そこにいたのは、さっきまで散々話題になっていた力也だった。力也は少し困ったような笑みを浮かべ、視線をそらした。
「え・・・・・・力也?」
「あ、料理教室で肉じゃが作ったから持ってきたんだけど・・・・・・」
明らかに様子がおかしい力也に、先ほどまでの会話が頭に浮かぶ。茶化していた友人たちも自分も音量を考えていなかった。これは完全に聞こえていたんだろう。
問題はどこから聞いていたかだが、力也の表情を見ればなんとなく予想はつく。
「え・・・・・・っと力也・・・・・・」
「力也さん!?」
あけすけな会話のネタにされていた誤解を解こうとした冬真の声は、走ってきた有利の声にかき消された。
(やばい!)
「力也! 出ろ」
「力也さん! 久しぶり元気でした?」
気づくのが一歩遅れ、慌てて力也に近づかないように冬真は手で押しとどめるようにガードした。仮にも友人相手にディフェンスをすることはないが、力也にこの危険人物を近づけたくない。
「力也、肉じゃがその辺に置いていっていいから」
「ははっ、やっぱこうなるよな」
二人の様子に、苦笑を浮かべた力也は帰るかと思えばそっと更に部屋の中へト入ってきた。何故はいってくるのかと焦る冬真に強気な笑みを返し、後ろを振り返る。
「だから、ちゃんと対策は連れてきた」
「有利・・・・・・」
呆れきった低い声に、冬真に邪魔をされながらも力也の方へ行こうと騒いでいた有利が止まる。力也に続いて顔を見せたのは、怒りと呆れを含む不機嫌な顔をした港だった。
「港!?」
「何恥ずかしいことやってんだよ」
「え? なんで? まさかお迎えに来てくれたの!?」
完全に関心が港に向かった有利の様子に、冬真は防いでいた手を下ろし、代わりに力也のそばに寄った。そんなことを気にせず、先ほどまで力也に興味を持っていた有利は港に近寄ると本質を知らない者が見ればうっとりするほどのとろけるような笑みを浮かべた。
「お前が力也さんに迷惑かけそうだから、回収しに来たんだよ! ほら帰るぞ!」
「またそんな照れちゃって」
「照れてねぇ!」
怒っているというのに、まったく気にしていない有利の様子に、港はその腕をつかんだ。無理矢理連れ出そう引っ張るが、そうしていても有利はニコニコと上機嫌な笑みを浮かべる。
「ほら出ろって!」
「わかった、わかった。一緒に帰りたいからってそんなに焦らないで」
「そんなこと言ってないだろ!」
ガシガシと外へ追い出すようにしながら、港は力也の方へ目を向けた。その瞳は、有利に向けていた物とは違い、申し訳なさと親しみを含んでいた。
「力也さん、騒がして悪い。今日は楽しかった・・・・・・こいつのことは俺がなんとかするから・・・・・・また誘ってくれよ」
「ああ、またな。港」
そういえば少年のような嬉しそうな笑みへと変わった港の様子に、冬真だけでなく有利までもが驚きの表情へと変わる。
「力也さん! ちょっ、なにやったんすか!?」
「うるさい、行くぞ」
「港まって! 俺そんなお前の顔見たことない! 力也さん! 何やったのか少しだけでいいから、教えて!」
「うっせーよ。さっさと帰れ」
港に押し出されようとしていながらも、どんなテクニックを使ったのかとしつこく尋ねようとする有利を他の友人たちも近づいてきて押し出した。
「ほら、有利もう諦めろって」
「せっかく港が迎えに来てくれたんだから帰れよ」
「冬真、またな」
「ああ、またな」
ガシガシと四人がかりで外へと出され、玄関のドアを閉められてしまえば諦めたのだろう。次第に声が遠のき、聞こえなくなった。
なんだかんだ言っていても、有利の中でも最優先は自分のパートナーである港だ。離れてしまえば、すぐに港に切り替えるだろう。
「力也、ナイス」
「だろ」
親指を立てグッとすれば、同じように返された。慌てた自分よりもしっかりと対策を練っていた頼りがいのある様子に苦笑を浮かべる。
「で、肉じゃがだっけ?」
「ああ、これ」
パックにはできたてらしい、おいしそうな肉じゃががたくさん詰められていた。
「うまそう、食べさせて」
そう言って口を開ければ、力也は少し躊躇するもジャガイモを指でつまみ口へと入れた。しっかりと味がしみこんだジャガイモが口の中でほぐれる。
「うまい。力也、今日は泊まってく?」
「いや、帰るよ。明日早いし」
「そっか、ありがとうな」
「ああ、じゃあまたな」
帰ろうとするその体をぎゅっと抱きしめ、軽く首筋へキスをする。照れたような笑い声が耳をくすぐり、愛しさだけがどんどん増していく。
離したくない、離さない、絶対に、どんなことをしても・・・・・・。
生徒たちの監督と保護のためにDom科Sub科ともに全寮制で、それぞれ別の寮が用意されていた。
いわゆる問題を起こした少年少女の更生の為の学校と同じく、生徒たちが社会適用できるように育て上げることを目的としている。
Dom科の生徒には厳しく、Sub科の生徒には優しく、この世界でマイノリティではない生徒たちの為に生まれてきたことを恥じることのないよう、生まれてきてよかったと思えるように世の中の理を教える。
我が強いDomたちにとっては、自由が少なく何事においても縛られることの多い、学校生活だったが、有意義な学校生活だったといえる。
多くのことを学べ、今その知識も経験も確実に役に立っている。
「冬真、この辺のは捨てていいんだよな?」
「ぶっ壊して」
「せっかくとっといたのにいいのか?」
「とっといたんじゃなくて、とっとくざるを得なかっただけだからいい」
捨てるに捨てられずに、段ボールに詰め込んでいたのは服だけではなく、昔出演したAVもある。服とは違い、こちらは本気で扱いに困っていた。自分だけが映っているなら普通に捨てられるのだが相手をしたSubのことを考えると捨てられなくなる。
けして浮気などではないが、今頃どうしているのだろうか、幸せに暮らしているだろうかと考えれば考えるほど捨てられなくなる。
捨てるという行為に後ろめたさを感じてしまっていた。それでもこれを期に片付けようと思った。
力也は別に捨てなくてもいいと言うだろうが、自分自身が嫌だと感じていた。力也が持っているのはいいが、自分が持っているのは、せっかく力也を得て共に生きていくと誓ったのに、不義理に感じてしまう。
もしかすると力也がほしがるかもしれないが、それも嫌だ。play中は出さないようにしていたが、憂鬱さは半端なかったし、せっかくのplayなのに全然楽しくなかった。
自分のペースで進められないことがあんなにもストレスになるなんて思っていなかったし、時に相手のSubが痛々しくて見ていられなかった。
AVには無理矢理系と自ら喜んでの二通りがあったが、圧倒的に多いのは無理矢理が多かった。
始める前は、漠然とフリーのお金に困っているSubが出ているのかなと思っていただけに、現実との差がひどかった。
パートナーのDomの命令で出されていると聞いた時は、怒りがわいた。パートナーが見ている目の前でとかならば、まだ受け入れられたかもしれないが、自分の目の届かないところで他のDomに任せて金を得るという思考が受け入れられなかった。
それでもそれを受け入れているSubにモヤモヤした物を抱えながらやっていた。
「ってかむしろよく持ったよね」
「あの頃、play足りてるはずなのに冬真やばそうだったもんな」
「合わないplay続けてるとああなるんだって思ったよな」
「ストレスばっかたまるのに、薬も飲めないし、なにやってんだって思ってた」
その頃のことを思い出し、ため息交じりに呟く冬真に、三人の同情した目線が向けられた。しかし、その瞬間だった。不意に聞き覚えのある台詞とおびえを含んだ声が聞こえた。
「つけんな!」
「せっかくだからいいじゃん」
「ほんと、有利って空気読まないよね」
勝手に再生していた有利からテレビのリモコンを取り上げ、すぐさま消した。いつの間につけたのか、拘束playが始まる瞬間だった。
「俺が見たくないって言ってんのになんでつけんだよ」
「俺が見たかったから」
何が悪いのかもわからない、という表情を浮かべる有利の視線は消されたというのにリモコンに向いていた。
「ほんと、港よくこれの相手してるよな」
「港に感謝しろよな。有利」
「もちろんだよ。港がいてくれるから俺は許されてるんだって」
人によっては誠実さまで感じてしまうだろう、よい人そうな笑みを浮かべる有利に、正体を知っている四人はため息をついた。
冬真とは別の意味で女性にもてそうな、爽やかでそれでいて温和そうな見た目をしていながらお留守番と銘打ってバイブを入れたまま放置するし、嬉々としてピアスも開けるのが有利だ。嬌声よりも悲鳴と罵倒を好む変人だ。
「にしてもマジ意外だったよね。俺の次は冬真だと思ってたのに、最後まで残るなんて」
「AV業界選んだからじゃねぇの? そうじゃなきゃ、フリーのままなんてなかったろ?」
「ダイコン、トップだからな」
「ねぇ、まさか俺より遅い何て思わないよね」
在学中にもうパートナーとして決まった彰の言葉に三人は頷いた。実際、必須科目のダイナミクスコミュニケーションで成績優秀だった冬真が、いつまでもあぶれているのは先生たちからも不思議がられていた。
好みのタイプがいなかったと言えばそれまでだが、それにしても探し出そうとするのが遅かった。
力也に出会うためにフリーでいたと思えば、聞こえはいいが力也は何度もD/S合コンに出かけていたのだからもっと早く行動に移していればもっと早く会えたかもしれない。
「うっるさい」
「こう見えて慎重派なんだよな」
「ってか臆病?」
「諦めは悪い癖にね」
友人たちからの遠慮も容赦もない言葉に、顔をしかめにらみ返す。どんなに不機嫌を見せようとも、友人たちは態度も考えも改めることはない。
王華学校出身のDomにとって気持ちを推し量り、常に気遣わなくてはいけない相手はかわいいSubたちのみだ。
「そんなんで力也さんにちゃんとついてける?」
「どういう意味だよ」
「どういう意味ってわかってるでしょ? 力也さんギリギリだって」
「まだだ」
「もう兆候はあるんでしょ?」
「黙れ」
「その時が来たらどうするのか考えてる? このままじゃ、限界くるよ」
「有利に言われなくともわかってる!」
言われなくともとっくにわかっていた。元々持っていた素質が表に出つつあること、それが表に出てしまえば今のままの冬真では、力也について行くのは不可能になる。
どんなに大切に思っていようとも、それだけではだめだと。
「そんときのことぐらい考えてる」
「冬真・・・・・・」
苦しそうな表情に彰が呼びかければ、冬真は揺るぎない瞳を浮かべ心配ないと笑った。
「そのときになれば、覚悟を決める。手を借りる覚悟もある」
「なら俺が立候補する!」
「有利お前だけは断る。ってか、そういう覚悟じゃねぇよ」
「じゃあどういう・・・・・・」
彰の問いかけに答えようとしたその時だった。不意にピンポーンと、部屋のチャイムが鳴り響いた。
「あれ? なんか来た?」
「冬真、食べ物とってくれたりした?」
「そんなわけないだろ。通販かな」
立ち上がった冬真は、その辺にあったペンを片手に玄関に向かった。
「わかったエログッズだろ!」
「力也さんに使う気だ。何頼んだんだよ!」
「どうせやべぇやつだろ」
「うるせぇ、俺のかってだろ!」
やいのやいのと茶化す友人たちの声を聞きながら、今日届きそうな荷物はなんだろうと考えながら、冬真は部屋のドアを開けた。
「はーい」
「・・・・・・冬真」
そこにいたのは、さっきまで散々話題になっていた力也だった。力也は少し困ったような笑みを浮かべ、視線をそらした。
「え・・・・・・力也?」
「あ、料理教室で肉じゃが作ったから持ってきたんだけど・・・・・・」
明らかに様子がおかしい力也に、先ほどまでの会話が頭に浮かぶ。茶化していた友人たちも自分も音量を考えていなかった。これは完全に聞こえていたんだろう。
問題はどこから聞いていたかだが、力也の表情を見ればなんとなく予想はつく。
「え・・・・・・っと力也・・・・・・」
「力也さん!?」
あけすけな会話のネタにされていた誤解を解こうとした冬真の声は、走ってきた有利の声にかき消された。
(やばい!)
「力也! 出ろ」
「力也さん! 久しぶり元気でした?」
気づくのが一歩遅れ、慌てて力也に近づかないように冬真は手で押しとどめるようにガードした。仮にも友人相手にディフェンスをすることはないが、力也にこの危険人物を近づけたくない。
「力也、肉じゃがその辺に置いていっていいから」
「ははっ、やっぱこうなるよな」
二人の様子に、苦笑を浮かべた力也は帰るかと思えばそっと更に部屋の中へト入ってきた。何故はいってくるのかと焦る冬真に強気な笑みを返し、後ろを振り返る。
「だから、ちゃんと対策は連れてきた」
「有利・・・・・・」
呆れきった低い声に、冬真に邪魔をされながらも力也の方へ行こうと騒いでいた有利が止まる。力也に続いて顔を見せたのは、怒りと呆れを含む不機嫌な顔をした港だった。
「港!?」
「何恥ずかしいことやってんだよ」
「え? なんで? まさかお迎えに来てくれたの!?」
完全に関心が港に向かった有利の様子に、冬真は防いでいた手を下ろし、代わりに力也のそばに寄った。そんなことを気にせず、先ほどまで力也に興味を持っていた有利は港に近寄ると本質を知らない者が見ればうっとりするほどのとろけるような笑みを浮かべた。
「お前が力也さんに迷惑かけそうだから、回収しに来たんだよ! ほら帰るぞ!」
「またそんな照れちゃって」
「照れてねぇ!」
怒っているというのに、まったく気にしていない有利の様子に、港はその腕をつかんだ。無理矢理連れ出そう引っ張るが、そうしていても有利はニコニコと上機嫌な笑みを浮かべる。
「ほら出ろって!」
「わかった、わかった。一緒に帰りたいからってそんなに焦らないで」
「そんなこと言ってないだろ!」
ガシガシと外へ追い出すようにしながら、港は力也の方へ目を向けた。その瞳は、有利に向けていた物とは違い、申し訳なさと親しみを含んでいた。
「力也さん、騒がして悪い。今日は楽しかった・・・・・・こいつのことは俺がなんとかするから・・・・・・また誘ってくれよ」
「ああ、またな。港」
そういえば少年のような嬉しそうな笑みへと変わった港の様子に、冬真だけでなく有利までもが驚きの表情へと変わる。
「力也さん! ちょっ、なにやったんすか!?」
「うるさい、行くぞ」
「港まって! 俺そんなお前の顔見たことない! 力也さん! 何やったのか少しだけでいいから、教えて!」
「うっせーよ。さっさと帰れ」
港に押し出されようとしていながらも、どんなテクニックを使ったのかとしつこく尋ねようとする有利を他の友人たちも近づいてきて押し出した。
「ほら、有利もう諦めろって」
「せっかく港が迎えに来てくれたんだから帰れよ」
「冬真、またな」
「ああ、またな」
ガシガシと四人がかりで外へと出され、玄関のドアを閉められてしまえば諦めたのだろう。次第に声が遠のき、聞こえなくなった。
なんだかんだ言っていても、有利の中でも最優先は自分のパートナーである港だ。離れてしまえば、すぐに港に切り替えるだろう。
「力也、ナイス」
「だろ」
親指を立てグッとすれば、同じように返された。慌てた自分よりもしっかりと対策を練っていた頼りがいのある様子に苦笑を浮かべる。
「で、肉じゃがだっけ?」
「ああ、これ」
パックにはできたてらしい、おいしそうな肉じゃががたくさん詰められていた。
「うまそう、食べさせて」
そう言って口を開ければ、力也は少し躊躇するもジャガイモを指でつまみ口へと入れた。しっかりと味がしみこんだジャガイモが口の中でほぐれる。
「うまい。力也、今日は泊まってく?」
「いや、帰るよ。明日早いし」
「そっか、ありがとうな」
「ああ、じゃあまたな」
帰ろうとするその体をぎゅっと抱きしめ、軽く首筋へキスをする。照れたような笑い声が耳をくすぐり、愛しさだけがどんどん増していく。
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