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第七十話【賞賛】前
しおりを挟む従わせたいDom、従いたいSub。いじめたいDom、いじめられたいSub。束縛したいDom、束縛されたいSub。一見正反対に見える性、二つの性だがそれはうわべだけを見ているからそう見えるだけなのかもしれない。
尽くすということは甘やかすことにつながり、従うということは愛する事にもつながる。相手の束縛は同時に自分の束縛にもつながり、支配は過保護にもつながる。
無論、Domの性質にも色々あり、一概には言えないだろう。しかし、今までみた多くのDomは自分が支配権を持っているようにみせかけて、結局Subに依存していた。
認めてもらえないと辛くなるのはSubだけだと思っていたが、どうやらDomも同じようだ。いや、もしかしたら承認欲求はDomの方がずっと強いのかもしれない。
だから、自分を肯定してくれるSubに依存し、執着し、こだわるのだろう。
DomがSubを守るためにするディフェンスも、今までは他のDomへの怒りだと思っていたが、その裏には不安や焦りも隠されていたのかもしれない。
そう力也は理解するようになっていた。わかりやすい冬真の反応のおかげで、今までは思い当たらなかったその結論にたどり着くことができた。とはいえ、力也の場合は大抵自分で対処できるのでディフェンスで守られるのも、冬真がはじめてだったが。
(そもそも、そこまで執着されてなかったか)
大勢で輪姦されたことがある力也は、見世物にされるのも、それをお仕置きのネタにするためわざと他とやらされた覚えもある。
いま思えば、頑丈で壊れにくいと思って随分、好き勝手やってくれた物だ。今までの話を全て話したら、一体何名のDomが冬真と王華学校の報復を受けるかわからない。
多くのDomたちは力也に感謝して、これからは心を入れ替えるべきだ。
(俺も大概依存してなかったし)
もう過ぎてしまったことなので言い切れる訳ではないが、少なくとも冬真ほどかけがえのない存在だとは思っていなかった気がする。
「そう考えるとやっぱおあいこかな」
「あー!」
パンを咥えながら朝ご飯の支度をしていた力也の後ろで叫び声が上がった。何事かと思い振り返ると、あきらかに寝起きだとわかる姿の冬真がなにやらこちらを指さしていた。
「おはよう」
「俺がやろうと思ってたのに・・・・・・」
ガクッと大げさに床に両手をつく姿に、これが役者のノリかと眺めながら咥えていたパンを食べ終わり、今度はソーセージを咥える。
「なんかエロいことしてるし」
「つまみ食いだし」
なにを想像したかはわかるが、モグモグと容赦なくかみ切っているのに、それでもいいのだろうか。比べものにならないぐらい小さいソーセージを食べながらパンに適当に野菜を挟む。
適当に用意している為、パンに挟みきれなかった分は全て口の中に入っていく。
「ってか今日仕事あんだろ」
「ああ、カラオケのバック映像PVだけど」
「カラオケか、しばらく行ってねぇな」
「俺も行ってねぇな」
高校の時に友人達といった覚えがあるが、その時はSubのアイドルの映像目当てだった。おかげで、カラオケのバック映像と言われ一瞬、なんのことかと考えてしまった。
「力也は歌うまいのか?」
「うーん、どうだろ? よくわからねぇんだよな」
「カラオケでなんか言われなかったか?」
「もっと声出せよって言われた」
普段の声と違い、歌声が小さいと言うことだろうかと考えていた冬真に力也は続けた。
「せっかくだから店中に響き渡るぐらい声出せよって、言われた」
「・・・・・・おい、それ」
「結構ドアの前人行き交うし、広いのはまあいいけど、気になるんだよな」
「お前、普通にカラオケしたことねぇのかよ」
既にカラオケといいながら、まったく違う目的だったことがわかり、苛立ちを抑えながら尋ねれば力也は首を傾げた。
「幼なじみたちと行った覚えがあるけど」
「普通のカラオケだよな?」
「そういう系のダチじゃなかったし」
まさかそんな記憶しかないのかと思っていた冬真は、その返事に胸をなで下ろした。力也がそれほど気にしていなくても、撮影中に複雑な気持ちになりそうだった。
「そんときはどうだったんだよ」
「楽しかったよ。タンバリンも沢山ふったし」
「タンバリン担当かよ」
確かに、力也らしいと言われればそうかもしれないが、今のところ知りたい情報がない。
「冬真はどうだった?」
「Subのアイドルの映像見に行っただけだし」
「冬真もカラオケしてねぇじゃん」
つまりどっちもどっちと言うことだ。二人ともカラオケに対する経験値が圧倒的に足りない、もっともこれはカラオケに限ったことでもないが。
「今度一緒に行くか」
「じゃあ、冬真の映像入ったらな」
「自分の映像バックに歌うとか集中できなさそうなんだけど」
そう言う冬真に力也は笑い返し、完成したサンドイッチを手でつかみ差し出した。
「どんな曲のバックになるか気になるじゃん」
「そりゃな」
差し出されたサンドイッチを力也の手ごとつかみ、そのまま食べながらうなずいた。
「それに、面白そうだし。俺のカラオケの印象塗り替えてくれるんだろ?」
「楽しかった記憶もあるんだろ?」
「あるけど、その時誘ってくれたダチ他のSubとくっついちゃったし」
あっさりと失恋したことを告げられ、冬真は頭を抱えた。楽しかった記憶を聞くつもりなのに、何故毎度そういう落ちになるのだろう。確かに、もしその時のDomとうまくいっていたら自分の物にならなかったかと思うと、よかったと思えるがそうではない。
「わかった。好きにしていいから。お前が見たい物見ていいし、お前が歌えっていうなら喉が潰れても歌うから」
「いや、そんなに歌わなくていいし・・・・・・」
一々大げさな話になっていくなと苦笑を返していると、サンドイッチを食べ終わった冬真に指まで舐められた。
「指舐めなくても、まだあるから」
「指に垂れてたんだって」
「ならもういいだろ!」
本当に垂れていたのかわからないが、指を吸うほどついてはいないだろう。慌てて指を抜くと、残りのサンドイッチを取りに行く。
「こんな可愛いのに」
どこも不満などないほどの、相手なのに、何故それほど不運に恵まれているのか、冬真は不思議で仕方なかった。自分勝手に生きている筈の自分の方が、運に恵まれていると考えれば不公平だと思える。
これがもしよく言う神の采配ならば、神はDomなのだろう。それも、随分悪趣味な性質の。
「ほらこれ、おかわり」
「サンキュー」
今度は皿に乗せて持ってきた力也に笑い返し、皿ごと受け取る。
「力也は今日なにしてるんだ?」
「今日は母さんとこ行こうかな」
怪我の為、休養と言うことになっている力也は、昨日と一昨日は映画やドラマをみて過ごしていた。過保護な周りが無理をするなという所為で動くこともままならないと思いながらも、実はストレッチや筋トレをしていたが、いまのところバレていない。
それでも活発な力也は既に家にいることに飽きていた。
「母さんか、俺も話したいな」
「仕事終わってからこれるなら先生に聞いておくけど」
「ああ、頼む」
今日の仕事はPVだけで、後はレッスンが少しある。力也が施設でのんびりしているなら、間に合う時間だった。
あれから何度か画面越しだが、交流を重ね、最近は反応が返ってくるようになっていた。いまだ話すことができないのか、声は聞いていないが、力也が言うには今までの事が嘘みたいに表情に変化がみられるらしい。
「あ、そうだあの鳥のぬいぐるみ持って行ってもいい?」
「鳥? なんで?」
「冬真の匂いとかグレアとか感じられるのを持ってきて欲しいって言ってたんだよ」
「ああ、なるほど」
とはいえ、あの鳥のぬいぐるみは持ち歩くには少し大きすぎるだろう。確かに長年傍に置いていた物だから、染みついていると思うが、まだ怪我が治っていない力也にあんな大きな物を持ち歩かせたくない。
「服とかじゃダメなのか?」
「うーん、悪くはないけど。グレアあんまり染みついてなさそうなんだよな」
「だよな」
正直、服にもお気に入りはあるし、執着心はあるが、あのぬいぐるみほどではない。
「なんか適当なのにグレア染みこませるか」
「できんのか」
「新鮮なのでいいならな」
「多分いいと思うけど」
冬真ができるというなら青木も知っているだろう、新鮮なグレアではダメだというなら始めから言うだろう。
「了解」
そう答えた冬真は、自分の上着を手に取ると、力也から離れ寝室へ戻った。
「ついでに着替えないと遅くなるよ」
「はーい」
少しして服を着替えた冬真は服を片手に戻ってきた。匂いとグレアがついた上着を力也に渡した。
「これでどうだ?」
受け取った上着からは冬真の濃厚な匂いと、新鮮なグレアがしっかりと染みついていた。
「うん、いいと思う。にしてもよくこんなに染みこむな」
「お前の事考えて全力で染みこませたから」
照れているのか、にらみ返してくる力也に微笑むと軽くキスをした。
「後で行くから、母さんによろしく」
「了解」
ここ数日朝も夜も一緒に居る所為で、すっかり癖になっているのか、互いにマーキングでもするかのようにすり寄り、少しして離れた。
「あんまやり過ぎると施設入れなくなるからな」
「だな」
孝仁にグレアのことで注意されたのを思い出し、二人は苦笑した。
力也は気づいていないが、こうすることで、互いに精神安定剤となると共に、互いにフリーではないと主張することができる。
しかしながら、Domがフリーではないと主張できるほどの、マーキングができるということは同時に限界の一歩手前ということも示していた。
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