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第七十話【賞賛】中
しおりを挟む怪我をしてから冬真のお世話が止まらない。そもそも一人でも十分動けるから泊まり込む必要もないのだが、ずっと泊まり込んでいる。
心配だからと言われてしまえば、勝手に怪我をしてしまった手前、逆らえず受け入れるしかなかった。
最初はそれでも、世話を言い訳に、どうせまた変な事をしまくるつもりなんだと、思っていたが意外とそれほどではなかった。
確かに、時々ちょっかいを出され、体を洗うとか、服の着替えを手伝うとかはあるが、たえきれないほどの干渉ではない。
Domが居座るようになると、朝から晩まで24時間休みなく弄ばれると聞くこともあるが冬真はそうではない。確かに、性格上そんなことはしないだろうとわかっていたが、AVではそういう演出もあったためもしかしたらと思っていた。
とはいえ、冬真一人では基礎体力のある力也を一日中弄ぶのは道具を使わないと不可能だった。なにより、仕事を調整している訳でもないため、一日中張り付いていることもできない。
常に状況を知る事ができなければ、放置Playはしないと決めている冬真では無理だろう。
「ああ見えて、頑なだよな」
力也ならば、例え状況がわからなくても、しっかりと言い渡しておけば大事に至ることはないと知っている筈なのに頑として受け入れようとしない。
ハーレムも嫌、見世物も嫌、複数Playも拒否、放置Playにもこだわりがあるとなると案外されている側の力也よりも冬真の方がNGが多いのではないかと思えてしまう。
こうなると、意外と冬真はSubを不安にさせてしまうこともあるのかもしれない、
「束縛されて乱暴にされてた方が落ち着くってのもいるからな」
むろんできないことはないだろうが、精神的に力尽きそうだ。力也が苦痛を喜ぶタイプではなくてよかったと言っていたこともあったし、AVも疲れたと言っていた。
下手をするとやられている側よりもやっている側の方が精神的に苦痛を感じる事になってしまう。
「そうなると父さん・・・・・・違った。くそ親父だ。くそ親父とは真逆の性質になると思うだけど、大丈夫なのかな」
主に、放置Playや露出、苦痛など強制的な支配を好んだ母の前のご主人様であり、力也の父親でもある男とは方向性が反対だ。
すっかり受け入れる気でいる冬真もカウンセラーの青木もそれはいいと思っているのだろうか。
「まぁ、母さんはご主人様至上主義だし、なんとかなるか」
そう考えながら、力也は施設までの道のりを寄り道しながら歩く。こうして一人でいると、ここ数日動いていない所為で走りたくなってくる。
(ちょっとぐらいならいいよな)
ひねったと思った足も大分楽になったしと思い、体勢を整え走り出そうとする。
「悪い子発見」
聞き覚えのある声に振り向けばそこにはなぜか桐生がいた。
「桐生さん」
「よう、力也、ドジって怪我したんだって?」
「どっから聞きつけたんですか」
「内緒」
冬真が話すとは思えないし、他の関係者は桐生のことを知りもしないはずだ。本気で情報の出所がわからない。
「足ひねってんだろ? 走るなって言われてんじゃないのか?」
「少しだけなら大丈夫っすよ」
「こっぴどく怒られたんじゃなかったのか?」
「ほんと、どっから聞いてるんですか」
悪い笑みを浮かべるだけで桐生はそれを流した。とはいえ、金を貸している側からすればそのぐらいの情報はつかんでいる物なのかもしれない。
「アイツに言いつけてやろうか?」
「わかりました。走らなきゃいいんでしょ」
「いいこだ」
Domらしい満足そうな笑みを見せる桐生を軽く睨み、力也は桐生に向き直った。
「で、今日はなんのご用なんですか?」
「用はねぇよ、ちょうど見つけたから声をかけただけだ」
「そうなんすね。じゃあ」
「ああ、ところでいまからどこ行くんだ?」
歩き出そうとした力也を逃がすまいと言うように、並んで歩き出した桐生にため息をつく。
「母さんとこっすよ」
「ああ、具合はどうなんだ?」
「冬真と会うようになってから回復してきましたよ」
適当に流そうかと思うが、桐生が母に興味を持っているのはわかっていたので、仕方なく事実を返した。
「そうか、よかったな」
桐生はその返事に一瞬驚くも、見たこともないほどの柔らかい表情を浮かべた。
「あー、残念だ。元気になったらもらいに行こうかと思ってたのに」
「桐生さん他にもSubいるじゃないっすか」
「バーカ、Subは何人居てもいいんだよ。お前らもその方が楽だろ」
「まあ、それは確かに」
DomとSubで体力に差があるならば、一人よりも複数の方がいい、うまくすれば休憩時間がとれる。
「なんだかんだ、うちは大所帯だからな。一人で残し説くより、複数で組ませといたほうが安心できるし」
「桐生さんとこ、他にもDomいるんすか?」
「いるぜ。雑魚ばっかだけどな」
仮にも名の通っているところの組員なら、それなりに腕のたつ、荒々しいタイプのDomが多いだろうに、桐生はそれをうまく操っているらしい。
(ランクの関係じゃないんだろうな)
桐生は実のところ、AとBの間というぐらいのランクで純粋なランクで言えば、冬真の方が上だ。しかし、持ち前の迫力でそれをカバーしてので、マウンティングをするならば冬真が負ける可能性がある。
反対に、SubでもAランクで抵抗力のある力也には効かない。もし、武力に物を言わせようとしてもおそらく力也とでは意味がないだろう。
(実力知らないけど)
「で、桐生さんは一体いつまでついてくるんすか?」
会った場所から大分移動したのに、まだついてくる桐生に不思議に思い尋ねる。
「言っときますけど、施設には案内できませんからね?」
「心配しなくても、王華学校が目光らせてる施設に手出しなんかしねぇよ」
「もしかして桐生さんも王華学校ですか?」
「違ぇよ。噂で散々聞いてるだけだよ」
「噂?」
「やっかいだから手を出すなって」
ヤクザにまで厄介と言われる王華学校に疑問が沸くが、聞き返さない方がいい気がして力也はそのまま口をつぐんだ。
「わかってるならここで・・・・・・」
「まぁ待てよ。せっかくだからなんかおごってやるよ。どうせ手土産とか買うんだろ?」
「買いますけど・・・・・・」
「お前の母さん何が好きだ? 施設のSubって何人居る?」
どこか楽しそうな桐生に流されるまま、結局施設のSubたちの分のお土産を買って貰うことができた。
「という訳なんですよ」
施設につき、手土産を青木に渡した力也は道中にあったことを説明した。
普段力也が買ってくる物よりも値段のかかる物を贈られ、不思議に思った青木もその説明に納得した。
「なるほどね。通りで値段が張りそうなものばかりだと思ったよ」
「すみません。おいしそうだったから断れなくて」
「構わないよ。みんな喜ぶと思うし」
いくら設備が行き届いているとは言え、ここにいるSubたちは多くが自由に外を歩くのもままならない状態だ。
むろん、施設も王華学校の手を借り、色々な娯楽を考えてはいるが、場所が秘匿とされているため制限が多いのが現状だ。
「これはできたばかりのお店だよね。並ばなかった?」
「丁度すいてたんで。それでも選んでる時間はなかったんで、セットですけど」
「うん、十分だよ」
「あと、さすがに青木先生達の分は買ってくれなくて・・・・・・」
宣言通り桐生は、Subの分しか買わなかった。セットの為、Subの数よりは多く用意されているが、それは全てSubの子供達の分だ。
「でも、力也君が選んでくれたんでしょ? それならなんだって私たちは構わないよ」
「それ適当に取ったんです」
必要な分を纏めて買い、もういいだろうとさっさと出ようとした桐生を引き留め、力也が買ったのはクッキーが沢山入ったギフトだった。
こんな時、冬真ならきっとちゃんと考えてくれるのに、急かされたため碌に選ぶこともできなかった。
「大丈夫、ちゃんと数も足りてるし、おいしそうだよ。後でありがたくいただくよ」
申し訳なさそうな力也へ青木は優しく微笑んだ。
「それで、体は大丈夫なのかな?」
「はい、もう全然大丈夫なのに冬真が許してくれなくて」
「それは仕方ないね。冬真君は心配症だからね」
「青木先生もそう思うんですか?」
母のことや力也の事で何度か会っているのは知っていたが、なにかそう思われる事をしたのだろうか?
「実はね、小百合さんを引き取る話しが出たときに、王華学校に探りを入れたんだよ。君の話だけじゃなく、学校からの評価も聞きたくて」
いくら息子が心を許していて、言動にも問題がなかったとしても傷つき心を閉ざしたSub相手だ。同じ学校をでているとしてもそれだけで信用はできなかった。
「それで学校はなんて?」
「問題ないだろうと言ってくれたよ。ダイコンの授業も熱心に受けていたし、Subについては慎重で過保護な性質だから、弱ったSubを前に強引に事を進めることもないだろうってね。だから話を進めることにしたんだ」
「そうだったんですね。それで母さんの様子ってどうなんですか?」
「それは直接見て貰った方がいいかな」
そう聞けば、青木は立ち上がった。他のスタッフにお土産の残りを任せると、力也を伴い母の病室へ向かう。
「しー、だよ」
そう言って気づかれないようにそっとドアを開けると、力也だけを中に通した。
「小百合」
そこにはスピーカーから流れてくる冬真の声を何度も、ただ一心に聞き続けている母の姿があった。
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