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6、甘い、甘いチーズケーキ

レアチーズケーキ

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「あら、なあにこの長い髪⁉」

 すみれさんがチーズケーキの中から糸状のものをつまみ上げて叫んだ。

 レアチーズケーキ。少しでも利益率の高いもので客単価を上げようと、オーブンの要らないレシピで最近始めてみたメニューなのだが。

 すみれさんがつまんでいるのは、黒くて15センチくらいの細い糸。貴広は素早く客席へ向かった。つるりとした光沢から絹糸か人毛。確かに人毛っぽい。

「どういうこと、マスター。信じられないわ。売りものにこんなものが入っているなんて。どういう衛生管理をしているの」

「はあ、すみませんが、すみれさん、どのヘンからどのように出てきましたでしょうか?」

「何よ、言い訳しようって言うの? 見損なったわマスター。そんなひとだと思わなかった」

 ヒステリックなすみれさんのわめき声に、店内がざわめき始める。珍しく満席に近い繁盛っぷりだった。この店や貴広のことをよく知らない、新規客も数組入っている。

(さて、どう収めたものか)

 貴広は思案した。

 貴広の後ろからごいんきょがやってきて、すみれさんの手許をのぞき込んだ。

「はてさて、確かにこれは髪の毛のようでございますねえ。この長さで真っ直ぐですと、犬猫の毛ではない。毛だとしますれば間違いなく人間の髪でございましょうなあ」

 感情的なクレームにはすぐに結論を出さず、まずのらりくらりと時間を稼ぐ。そのうち客の激情が落ち着いてくるのを待って、それから本題に戻る。クレーム処理の鉄則だ。

(さすがごいんきょ)

「こんなものが食べものの中に入っているなんて、キモチ悪い! マスター、これ、このお店で自作してるって言ってましたよね」

「……はあ。昨日の夜に作ったものです」

 これは本当だ。材料を混ぜて型に流し、ひと晩冷蔵庫で冷やし固めるレシピなのだ。

「髪の長いひとが作ってるんですね? マスターは確かにモテるんでしょうけど、この店の上でどんな生活してるんです? 不潔ですよ」

 ん?

 何か、風向きが、変わってきてないか?
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