精霊との契約条件がおかしい

千歳

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第3話

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いつもの様に朝起きると服と朝ごはんが置いてあった。それに着替えてレンにあっためて貰ったごはんを食べて髪を結う。

そして今日は勉強はせずに荷物をまとめる。掃除はしてあるし、必要最低限のものしかないうえに、掃除用具や風呂用品、調理器具などはレンによる手入れが行き届いている。

そのため私が持っていくのは腕輪と櫛、そして髪をまとめる紐だけだった。そしてすることがなかったので精霊達と王宮でどんな扱いになるのかとかを話していた。

すると、衛兵がおりてきて鍵を開けてくれた。そしてついてこいというように歩き出したのでついていく。地上が近づくにつれ明るくなってきて目がチカチカする。そして外に出ると全てが眩しすぎて、目を瞑ってしまった。だんだん目が慣れてきてぎゅっと瞑っていた目を開けるとそこには、派手な馬車が止まっていた。そして両親と双子、使用人が最敬礼の意を表す土下座の格好でひれ伏している。私が目を開けたのを確認した衛兵は、再び歩き出して馬車に乗る。衛兵って馬車に乗っていいものなのか?と思いつつ衛兵に差し出された手に捕まり馬車に乗る。
馬車は扉が閉まると、ガラガラと音をたてて出発した。精霊達は馬車の外で浮きながらついてきている。

正直拘束とかされるんだと思っていたので拍子抜けした。衛兵が何やら私の手を見ていた。首を傾げると、

「腕輪は?」
「つけた方がいいですか?」
「あれは……王宮に入る許可証のようなものです」

そうなの?なんか間があったけど。それなら仕方が無いのでつけてみるとなんか腕輪が変化した。外せないのだ。腕の上で移動はさせられるのに、取れない。しかも黒く色が変化している。嫌な予感がして外を見ると、精霊がいなかった。腕輪のせいとは思いたくない。もしかしたら王宮に先に行って行ったのかもしれない。無断で行くことなどまずないと思うが。

そして、王宮に着いた。どれ位かは分からないがかなり馬車に乗っていた。私が焦っていたのもあり、本来の長さより長かっただろう。先に衛兵が降りて、手を差し出してくれた。エスコートってやつかな?お嬢様扱いなど久しぶりすぎて懐かしかった。辺りを見回しても、精霊はいない。試しにバレないように魔法を使ったら、問題なかったので、イタズラか?とも思い始めた。衛兵が城内に入っていったので私もついて行った。王宮と言うよりは、ディ〇ニーの城のような外見だった。中は広く仰々しい。凄いなぁ、と感心しているうちに衛兵がでっかい扉の前で止まり、扉の前の衛兵と会話をしていた。特に気にせずぼーっとしていると話し終わった扉の前の衛兵がでかい声で叫び出した。

「陛下!只今トリシア令嬢が参られました!」
「通せ」

そうして扉が開いた。いや、ストップ!陛下?国王でしょ?なんで前触れなくそんな人と会うわけ?怖いんだけど!そんなことはどうでもいいと言うように扉は開かれた。

部屋には、一段高いところで高価そうな椅子に座るイケメンと、傍らに立つイケメンがいた。多分、陛下と宰相だろう。その下には、普通の政治家っぽい顔のおじさん達が陛下にひれ伏している。私もその人たちに習い、ひれ伏した。

「皆、表をあげよ」

陛下がそう言うと静かに優雅な所為で、皆立ち上がる。私も、アオイからこういう場でのたち振る舞いは教えて貰っていたのでそれなりにできていると思う。やはり改めて見ても、陛下は白銀の髪を短く切っている美丈夫だった。貫禄のある厳しい表情をしている。

「そなたがトリシア令嬢か?」
「はい。トリシア・ラ・ナナリーと申します」
「そうか。皆、もう良かろう。席を外せ」
 
おじさん達は「御意」というと部屋を出ていった。正直何がどうなっているのか不思議に思っていると陛下が苦笑して答えをくれた。

「あやつらはどうも、そなたが魔法を使い私を弑するのではないかと不安で仕方がなかったらしい。おおかたはただの怖いもの見たさだろうが」
「そうでしたか…あの、なぜ魔法のことを…?」
「そなたが昨日トリシア侯爵の首を切ったのだろう?それが噂になっていてな」
「知っておられましたか…」
「まぁな。今そなたは魔法が使えんしな」
「え?」

陛下は椅子から立ち上がり伸びをしながらこっちに近づいてくる。

「お前もその覆面をいい加減とったらどうだ?我が息子よ」
「いやぁ、取るタイミングがつかめなかったもので」

そう言って覆面を取ると現れたのは、陛下と似た高校生あたりの青年だった。銀髪は伸ばして後ろでまとめている。というかこの人殿下だったのか…。なんで衛兵の格好を?それより無茶苦茶かっこいい。

「そなた…ナナリーと呼んでも良いか?」
「あ、はい」

いきなり陛下が私にそう言ってきた。すると殿下もこっちを向いて

「じゃあ、私はナナと愛称で呼んでも?」
「…はい」

なんだか人懐っこい印象だ。

「すまないな。息子が迷惑をかけていないか?」
「いえ、そんなことは全く」
「父上その言葉は酷くないですか?」
「黙ってなさい」
「えぇ~」

なんというか緩い会話だ。私が呆然としていると、殿下が心配そうに覗き込む。

「どうした?」
「あの…もしかしてこれまでずっとご飯とか運んでくれた衛兵さんって殿下でしたか?」
「あ~、バレた?でもたまにだよ」
「すみません!私のような下賎の者にそのような」
「いいっていいって!俺が好きでやっていたことだから」
「そうだぞ、ナナリー。こいつはトリシア侯爵から噂を聞いたら勝手に抜け出してそなたに会いに行ったのだ」
「父様が…どんな噂だったんですか?」
「あぁ、気にしないで」

殿下の表情は笑っているのに、声にドスが効いていた。

「全く…………とりあえずナナリー。そなたはこのまま神殿に行ってもらう」
「神殿ですか?」
「ああ。ナナリーには精霊の加護があるのだろう?」
「何故それを…」
「昔、精霊の加護を受けた方がいてな。私達の祖先がその方だ」
「…この腕輪はなんですか?」
「精霊を見えなくする…と言うよりこちらの世界に干渉できないものにする」
「外してください」
「魔法は王宮外ならば使えるだろう。だから、安心しろ」
「精霊がいないと困ります…!」
「それは出来ない…今はな」

は?何それ。意味がわからない。陛下はそのまま殿下に私を連れていけと命令した。私は殿下にそのまま手を引かれ、謁見の間を出てどこかに連れていかれた。

「離してください!」

殿下は笑顔のまま何も言わない。ここは何かがおかしいと思った。魔法を使おうとしても使えないし、私が引きずられていても、貴族や使用人達は何も無いかのように素通りするのだ。私は四年前の今日を思い出す。あの時は精霊が助けてくれた。でも今は?誰もいない。不安に刈られ、誰にも助けてもらえないという思いが蘇る。そして外に出る手前で、殿下は私を振り返った。殿下の顔に張り付いているのは乾いた笑顔だった。私はそれを見た瞬間に、鋭い衝撃を首に受け、意識を手放した。



目が覚めると、普通の部屋にいた。起き上がってみると、私は白と緑のベッドに寝ていた。オシャレな西洋の家の中のようだった。そこでふと足に違和感を感じた。見てみると、左足に鎖が嵌められている。壁から出ている鎖に繋がれていた。これではまともに動けないではないかとも思ったが、かなり鎖は長かった。

とりあえず出られないか確認しようと思って部屋を散策した。
まず、私がいる部屋には、勉強机とベッドがあり、三坪程の大きさだ。ドアが右と左にふたつあったので、まず右の扉を開けようとしたのだが開かなかった。左の扉を開けるとトイレとお風呂があった。窓はないから地下なのかなとも思った。それにしても、今が何時ぐらいなのかがわからない。出れるところもなく、音も外からは何も聞こえないので、勉強机に何かないかなと思って引き出しとかをあさるが何も無かった。もうひとつ思ったんだがこの部屋もやはり 前に誰かが使っていたのではないかと思う。ほとんどものは取りかえたのか新品だし、壁紙も貼り替えてあるが、鎖だけがさびて年季が入っていた。年季が入っていても壊せそうにないが。もちろんここでも魔法は使えなかったのでなす術無しだ。
暇が辛いのでアオイに習った歴史をひたすら呟き始めた。なかなかどうしてこれは始めてしまうと楽しく、今までもずっと勉強漬けだったおかげでかなりの時間を潰せた。建国千二百年の歴史で、千年頃までの歴史を言い終わった頃、唐突にガチャっとドアが開いた。足音も何も聞こえなかったのですごい勢いで驚いてしまった。入ってきたのは殿下だ。陛下と会った時の緩さと笑顔はどこにもなく、冷たい顔だった。

「遅くなってすまなかったな」
「……ここは、どこですか」
「神殿だ」

神殿?私の知ってる神殿はなんかこう…真っ白で太い柱のいっぱいあるアレだったんだけど。ここは小さい家ではないか。キッチンと窓はないが。

「正確には神官部屋だ」
「神官部屋…?」
「ナナには神官という立場が与えられたからな」
「…意味が、分かりません」
「そうか。まぁ理解しなくても良い」
「私はこれからどうなるんですか?」
「魔獣の討伐と研究資料提出をしてもらう」
「魔獣討伐…私がですか」
「実の父親を震え上がらせる実力はあるだろう?」

意地の悪い笑みを殿下は私に向ける。

「……精霊と会えるまでは引き受けません」
「却下だ。無理にでも行ってもらう」
「それでは無抵抗で殺されてきましょうか?」
「ナナは殺させない。死ぬのはナナを護衛する騎士達だ」
「っ…!尚更行きたくありません」
「ナナが行かないのならば騎士達や民が魔獣に食われるのを大人しく見ていることだな」
「……研究資料提出とは何ですか?」
「ああ、加護を受ける条件や体質などに関係があるのかを調べる為に、血液や体温、髪の提出だな」
「加護の条件はそれらは関係しませんよ」
「知っているのか?」
「ええ」
「教えてくれ」
「教える代わりに、貴方の祖先について教えてください」
「…いいだろう」

殿下は少しの間考えたが了承してくれた。

「だが、先にナナの情報が先だ。内容によって決める」
「…良いでしょう。まず、普通の人間は精霊の加護が受けられません」
「なに?」
「体質などまず関係ありません」
「ならば精霊達にはどんな対価を?」
「対価…は、無いと思います」
「では、何故精霊の加護がある?それに『普通の人間は』とはどういう意味だ?」
「んーと……精霊はまず、人に興味がありません」
「は…?」
「面倒くさがりなんだそうです。加護を与えたらリスクを背負う必要も出てきますしね」
「どんなリスクだ?」
「精霊の加護を受けたものは……二十歳までに人を愛し愛されないと、精霊は世界を滅ぼさないといけないのです」
「……やはりな」
「やはり?もしかして、殿下の祖先もそうだったんですか?」
「それは、全て話終わったあとだ。他には?」
「他には……精霊の加護を受ける者には、多分記憶が関わっているんだと思います」
「記憶…?」
「はい」
「何歳までに何かをした記憶を思い出せば精霊の加護を受けられるのか?」
「違います。私が言う記憶というのは、前世の記憶です」
「前世…!?」
「多分、前世で起きた事件と精霊の正体が関係しているんです」
「多分?」
「…私には肝心な精霊の正体についての記憶がありません」
「なぜだ!」
「精霊が記憶を管理しているからです」
「は?」
「分からないことはわかりません。精霊に聞ける状況でもありませんし」
「ちっ!つまり、前世の記憶がなければ精霊の加護はないのだな?」
「恐らく」

殿下はそう言われると苛立たしそうにして黙った。いや、黙られると困るんですよね。

「殿下、祖先の方と言うのは?」
「ああ、そうだったな。その祖先というのは七十五代目の皇帝の后だ」
「皇帝の!?」
「そうだ。名をクラリスといった」
「クラリスさん…」
「クラリス皇后には、雷の精霊が加護を与えたらしい」
「クラリスさんの属性は何だったんですか?」
「それは分からない。文献が残っていなくてな。ナナの属性はなんなんだ?」
「風です」
「風…?パッとしないな」
「そんなことはありませんよ」
「怒るな。話を戻すぞ」
「はい」

それからの話はこうだった。
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