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第5話
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「おはようございます」
「……いつ起きたんだ?なんでそんな身支度が完璧なんだ」
「四時ぐらいに起きて侍女さんに着替えを貰ったので」
「もう少し寝るべきじゃないか?」
「元々眠りが浅い上に昨日は沢山寝たので」
「その年で不摂生は良くないぞ?」
「地下牢で健康的な生活できる人っているんですか?」
「…少なくともナナは地下牢でも楽しそうだっただろう」
「楽しくなかったとはいいませんがストレスは溜まってましたよ?そういうこともありますし、年齢的にはダメかもしれませんが今更ですから。別に睡眠時間が短いくらいどうってことありませんよ」
「そうか…?」
因みに今は午前五時だ。何故こんな会話をしているのかといえば、先程殿下が私を起こさないようにそ~っと起きたのに私の姿が見当たらなくて焦っていらした。だから、声をかけたのだが、何故か私をジト目で見ながら冒頭の質問をしてきた。という感じである。
殿下が伸びをした時、扉をノックする音が聞こえた。そして部屋に入ってきたのはさっき服を渡してくれた初老の侍女さんだった。
「殿下。お着替えをお持ち致しました」
「ありがとう」
「本日の朝食は如何致しますか?」
「いただこう」
「かしこまりました。それでは三十分後、会食堂にいらしてください」
「分かった。下がっていいぞ」
「失礼します」
なんだかこういうやり取りも久しぶりに見た。そういえば私はどうすればいいんだ?ちゃっかり会食堂について行って、私の分はありませんとか嫌だなぁ。
「心配せずともナナの分もある」
「顔に出てましたか…?」
「まぁな。普段無表情なだけあって動揺するとわかりやすい」
無表情な訳では無いんだけど…四六時中何かしらの顔を貼り付けるのはめんどくさいのでぼーっとしてるだけなんだよね…。そんなことを思っていると殿下がおもむろに脱ぎだした。
「着替えるなら言ってください」
「別にナナの年齢なら大丈夫だろう?そういうこと言うならせめて頬を赤らめるなりなんなりしたらどうだ?」
「殿下の裸見たって何も思いませんけど。立場上は殿下だって婚約者とかいるんでしょう?」
「いるにはいるが…ナナを外に出して逃げられても困るんだよなぁ」
「逃げませんよ。道だって知りませんし。婚約者殿とか王宮の方とかに文句言われるのは嫌ですよ」
「それはそんなに問題ない。ナナが私と同じ部屋にいるのを知っているのは侍女長と王族だけだからな」
「その王族の方に何か言われるんじゃないでしょうね?」
「問題ない。私の婚約者も子供に嫉妬するような人では無い」
「それならいいです」
「あ、そういえば。ナナは前世と今の年齢を足すと幾つになるんだ?」
「三十歳ですね」
「精神年齢的には問題あったな…」
「前世のことはあんまり言わないでくださいね」
「一応国家機密だ。安心していい」
「国家機密なんですか?」
「ああ。クラリス皇后が加護持ちというのも国家機密なんだ」
「なんでですか?」
「加護持ちは他国に狙われかねないからな」
「なるほど…そういう事でしたか」
そのあとは殿下が洗面台で髪を整え始めた。殿下は手を加えずとも綺麗なのにな…とは思ったが、整えたら整えたでかっこいいから何も言わない。目の保養は大切だ。
「ナナの髪は突然切られていたことが多かったが、どうやって切っていたのだ?」
「突然でもないと思いますけどねぇ…【風刃】で散髪してたんですよ」
「魔法でやってたのか。器用だなぁ……短髪にしているのには理由があるのか?」
「髪が長いとめんどくさいじゃないですか」
「あー…令嬢で短髪は見たことがなかったが。そういうことは思ってるんだな」
「そりゃあ思いますよ。着飾って見てくれる相手がいるならいいんですけどね」
「ならばこれからは伸ばすのか?」
「いや、短髪のままにしようと思ってます」
「何故だ?」
「見せる相手もいませんし、何より楽ですから」
「伸ばせばいいだろうに。その髪は綺麗だ」
「社交辞令はいいですよ」
「素直にそう思ったんだがなぁ…その髪型じゃあ男と間違われるぞ」
「構いませんよ。どっちでも」
「話し方といい…令嬢らしくした方がいいぞ?」
「令嬢らしくしようとすれば出来ますけどめんどくさいです」
「……めんどくさいか?普通」
「普通にめんどくさいです」
「はぁ…顔は可愛いのに…損してるぞ?」
「殿下は幼女趣味なんですか?」
「そんなわけあるか」
「じゃあ女たらしですね」
「なんでそうなる」
「誰にでもこういう口説き方してるんじゃないんですか?普通は女性に綺麗だとか簡単に言いませんよ」
「社交界ではよくある事だ。基本的に私以外もそうだぞ」
「麗人と普通の人を同じにしないでください。殿下は顔面売ったら凄まじい値段になりそうなのに…」
「なぜ顔を売らなきゃならないのだ」
「稼げそうだと思ったので…?」
「疑問形にするな」
私は特に面白いわけではなかったがなんとなく楽しくて笑ってしまった。こういう会話を人とするのは久しぶりで懐かしいと思ってしまった。すると殿下が目を見開いて凝視してくる。なんでこの人たまに私を凝視するんだ?やっぱり幼女趣味か。
「ナナは笑っていた方がいいと思うぞ」
「なんでですか…?」
「笑顔の破壊力はなかなかだったぞ」
「目が腐りました?」
「いや新鮮だ」
「その返しは初めて聞きました」
「?」
「殿下って不思議ですねぇ」
「ナナにそれを言われると思わなかったぞ?」
「私は人間そのものが不思議だと思ってるので」
「変人だな」
「変人でいたいんです」
「そうか。頑張れ」
「はい。頑張ることでもない気がしますが」
「お、そろそろ行くぞ」
話し込んでるうちに三十分経ったらしい。私は殿下について行く。ここで初めて気づいた。殿下が外に出た瞬間人懐っこそうな笑顔を貼り付けていることに。愛想笑いとかそういうレベルじゃなく自然とそうしているからゾッとしてしまう。朝だから人もいないのに…恐いわァ。
「ここが会食堂だ」
「でかいですね」
「そうか?あぁ、話し方には気をつけろよ?」
「かしこまりました」
「では行こう」
そうして無駄にでかい扉を開けて、殿下より数歩下がって進み、王家勢揃いの机の前で頭を伏せる。
「面をあげよ。ナナリーは王太子と地位が変わらぬ。伏せる必要は無い。…皆に挨拶をしてくれ」
「はい。神官のトリシア・ラ・ナナリーと申します。以後お見知りおきを」
そう言いながら服をつまみ礼をする。殿下が座るように目配せしてくれたので座った。改めて見ると、こんな所に居ていいのかと思う。奥には陛下と皇后様。そこからは殿下を筆頭とした王太子が三人だ。やはりというかみんな美形である。
「では、いただこう」
陛下が仰った後食事を始めた。そこで皇后様が私をにこやかに見つめてくる。
「ナナリーさんは好き嫌いがないのねぇ」
「はい」
「その歳で偉いわ!ウィルは昔から好き嫌いが多くて大変だったのよ」
「母上…昔のことは良いでしょう」
なんというか朗らかな方だ。そして殿下の名前も初めて知ったけど、殿下が顔を引き攣らせていて面白い。
「ナナリーさん、私のことは『シャロン』と呼んでちょうだい」
「では、シャロン様。私のことも『ナナ』と呼んでくださいませ」
「ええ。よろしくね、ナナ」
「こちらこそよろしくお願い致します」
「え~?こいつが魔法使い?弱そーじゃん」
せっかくいいスタートが切れたと思ったのに水を刺したのは目の前に座っている十四歳位の不機嫌そうな殿下だ。まぁ確かに信じられないよねぇ。でもイラッとする発言だね。
「ノア、失礼なことを言うんじゃない」
「ゼノ兄様まで…!こんなガキが魔獣に勝てるわけないだろ!?ぼくの方が強いに決まってる!」
「ノアが行っても死ぬだけだ」
「うるさい!」
まぁ、やんちゃな年頃というか…思春期だもんね。ノア殿下は私の隣に座るゼノ殿下に叱られている。ウィル殿下は微笑みを崩さぬまま黙々と食べ進めているし、シャロン様と陛下は呆れている。朝から騒がしい時間を過ごしてそのまま朝食は終わった。終始ノア殿下は涙目で私を睨んでいたが。十四歳とかって一応もうちょっと自重したり出来るはずなんだけどな…。
ウィル殿下と共に部屋に戻ると、ウィル殿下は真顔に戻ってため息をついた。
「すまんな。騒がしくて」
「いえ。ノア殿下はお幾つなんですか?」
「ノアは十三。ゼノは十五で、私は十七だ」
「十三ですか…大変ですね」
「チヤホヤされてるから甘ったれに育ったんだ…」
「でも魔獣がなんとかって言ってましたよね?」
「ああ、唯一ノアが出来るのは剣術でな。できると言っても最弱と言っていいが…今まで騎士が討伐してたのを年下のナナがやることになったと聞いた途端に張り合いだしたんだ」
つまりおぼっちゃまなわけだ。見た目もいいっちゃいいからな。まぁ、あれだ。めんどくせぇ。
「私にどうして欲しいんでしょうか…?」
「ノアのことは気にしなくていい。言わせておけばそのうち…………」
「そこで黙らないでください」
「コホン。まぁ、気にしなくていいってことだ」
「無理やり感半端ないですね」
「…すまない」
「別にいいですよ。ところで殿下、王宮外に出たいです」
「はっ?」
「いや、別に逃げる気はありませんが。魔法の訓練をさせてください」
「何故だ?」
「腕が鈍るので。いざと言う時に手元が狂えば困ります」
「むぅ…ならば、騎士達の訓練場を一角貸そう。逃げたら…地下牢から一生出れないと思え」
「はい。あぁ、空中を飛んでも気にしないでくださいね」
「…飛べるのか」
「飛べますね。今更やっぱナシとかやめてくださいね」
「はぁ…いいだろう。侍女長に案内させよう」
「ありがとうございます!そういえば加護のことってバレちゃダメなんじゃ…?」
「箝口令が言い渡されているから、見たとしても見なかったことになる。逆らう者がいれば命はない」
「……便利ですね」
「それだけ王家の者の発言というものには力があるから、気をつけなければならない。一言間違えば人を殺せてしまう」
「つまりそれは私の言葉も同じ…ってことですね?」
「そうだ」
殿下の表情は真剣そのもの。王の気迫とも言える。私もその言葉を胸に刻み、殿下に跪いた。
「発言には気をつけ、責任をもって行動します」
「……くれぐれも、注意してくれ」
「はっ」
それを聞いた殿下はほっとしたように息を吐いた。
「クラリス皇后の日記は夜に読ませてやる。今からとりあえず侍女長に訓練場に案内させるよう伝えてくるからここで待て」
「はい」
殿下が侍女長の所へ行ったあと、数分のうちに侍女長さんは現れて案内してくれた。そして団長さんらしき方に侍女長が事情を伝えてくれた。
「君が噂の神官か…?訓練の邪魔にならなければどこでも使うといい」
話し終わった黒髪の若くてかっこいい団長さんは、小さく微笑みながら快諾してくれた。
「……いつ起きたんだ?なんでそんな身支度が完璧なんだ」
「四時ぐらいに起きて侍女さんに着替えを貰ったので」
「もう少し寝るべきじゃないか?」
「元々眠りが浅い上に昨日は沢山寝たので」
「その年で不摂生は良くないぞ?」
「地下牢で健康的な生活できる人っているんですか?」
「…少なくともナナは地下牢でも楽しそうだっただろう」
「楽しくなかったとはいいませんがストレスは溜まってましたよ?そういうこともありますし、年齢的にはダメかもしれませんが今更ですから。別に睡眠時間が短いくらいどうってことありませんよ」
「そうか…?」
因みに今は午前五時だ。何故こんな会話をしているのかといえば、先程殿下が私を起こさないようにそ~っと起きたのに私の姿が見当たらなくて焦っていらした。だから、声をかけたのだが、何故か私をジト目で見ながら冒頭の質問をしてきた。という感じである。
殿下が伸びをした時、扉をノックする音が聞こえた。そして部屋に入ってきたのはさっき服を渡してくれた初老の侍女さんだった。
「殿下。お着替えをお持ち致しました」
「ありがとう」
「本日の朝食は如何致しますか?」
「いただこう」
「かしこまりました。それでは三十分後、会食堂にいらしてください」
「分かった。下がっていいぞ」
「失礼します」
なんだかこういうやり取りも久しぶりに見た。そういえば私はどうすればいいんだ?ちゃっかり会食堂について行って、私の分はありませんとか嫌だなぁ。
「心配せずともナナの分もある」
「顔に出てましたか…?」
「まぁな。普段無表情なだけあって動揺するとわかりやすい」
無表情な訳では無いんだけど…四六時中何かしらの顔を貼り付けるのはめんどくさいのでぼーっとしてるだけなんだよね…。そんなことを思っていると殿下がおもむろに脱ぎだした。
「着替えるなら言ってください」
「別にナナの年齢なら大丈夫だろう?そういうこと言うならせめて頬を赤らめるなりなんなりしたらどうだ?」
「殿下の裸見たって何も思いませんけど。立場上は殿下だって婚約者とかいるんでしょう?」
「いるにはいるが…ナナを外に出して逃げられても困るんだよなぁ」
「逃げませんよ。道だって知りませんし。婚約者殿とか王宮の方とかに文句言われるのは嫌ですよ」
「それはそんなに問題ない。ナナが私と同じ部屋にいるのを知っているのは侍女長と王族だけだからな」
「その王族の方に何か言われるんじゃないでしょうね?」
「問題ない。私の婚約者も子供に嫉妬するような人では無い」
「それならいいです」
「あ、そういえば。ナナは前世と今の年齢を足すと幾つになるんだ?」
「三十歳ですね」
「精神年齢的には問題あったな…」
「前世のことはあんまり言わないでくださいね」
「一応国家機密だ。安心していい」
「国家機密なんですか?」
「ああ。クラリス皇后が加護持ちというのも国家機密なんだ」
「なんでですか?」
「加護持ちは他国に狙われかねないからな」
「なるほど…そういう事でしたか」
そのあとは殿下が洗面台で髪を整え始めた。殿下は手を加えずとも綺麗なのにな…とは思ったが、整えたら整えたでかっこいいから何も言わない。目の保養は大切だ。
「ナナの髪は突然切られていたことが多かったが、どうやって切っていたのだ?」
「突然でもないと思いますけどねぇ…【風刃】で散髪してたんですよ」
「魔法でやってたのか。器用だなぁ……短髪にしているのには理由があるのか?」
「髪が長いとめんどくさいじゃないですか」
「あー…令嬢で短髪は見たことがなかったが。そういうことは思ってるんだな」
「そりゃあ思いますよ。着飾って見てくれる相手がいるならいいんですけどね」
「ならばこれからは伸ばすのか?」
「いや、短髪のままにしようと思ってます」
「何故だ?」
「見せる相手もいませんし、何より楽ですから」
「伸ばせばいいだろうに。その髪は綺麗だ」
「社交辞令はいいですよ」
「素直にそう思ったんだがなぁ…その髪型じゃあ男と間違われるぞ」
「構いませんよ。どっちでも」
「話し方といい…令嬢らしくした方がいいぞ?」
「令嬢らしくしようとすれば出来ますけどめんどくさいです」
「……めんどくさいか?普通」
「普通にめんどくさいです」
「はぁ…顔は可愛いのに…損してるぞ?」
「殿下は幼女趣味なんですか?」
「そんなわけあるか」
「じゃあ女たらしですね」
「なんでそうなる」
「誰にでもこういう口説き方してるんじゃないんですか?普通は女性に綺麗だとか簡単に言いませんよ」
「社交界ではよくある事だ。基本的に私以外もそうだぞ」
「麗人と普通の人を同じにしないでください。殿下は顔面売ったら凄まじい値段になりそうなのに…」
「なぜ顔を売らなきゃならないのだ」
「稼げそうだと思ったので…?」
「疑問形にするな」
私は特に面白いわけではなかったがなんとなく楽しくて笑ってしまった。こういう会話を人とするのは久しぶりで懐かしいと思ってしまった。すると殿下が目を見開いて凝視してくる。なんでこの人たまに私を凝視するんだ?やっぱり幼女趣味か。
「ナナは笑っていた方がいいと思うぞ」
「なんでですか…?」
「笑顔の破壊力はなかなかだったぞ」
「目が腐りました?」
「いや新鮮だ」
「その返しは初めて聞きました」
「?」
「殿下って不思議ですねぇ」
「ナナにそれを言われると思わなかったぞ?」
「私は人間そのものが不思議だと思ってるので」
「変人だな」
「変人でいたいんです」
「そうか。頑張れ」
「はい。頑張ることでもない気がしますが」
「お、そろそろ行くぞ」
話し込んでるうちに三十分経ったらしい。私は殿下について行く。ここで初めて気づいた。殿下が外に出た瞬間人懐っこそうな笑顔を貼り付けていることに。愛想笑いとかそういうレベルじゃなく自然とそうしているからゾッとしてしまう。朝だから人もいないのに…恐いわァ。
「ここが会食堂だ」
「でかいですね」
「そうか?あぁ、話し方には気をつけろよ?」
「かしこまりました」
「では行こう」
そうして無駄にでかい扉を開けて、殿下より数歩下がって進み、王家勢揃いの机の前で頭を伏せる。
「面をあげよ。ナナリーは王太子と地位が変わらぬ。伏せる必要は無い。…皆に挨拶をしてくれ」
「はい。神官のトリシア・ラ・ナナリーと申します。以後お見知りおきを」
そう言いながら服をつまみ礼をする。殿下が座るように目配せしてくれたので座った。改めて見ると、こんな所に居ていいのかと思う。奥には陛下と皇后様。そこからは殿下を筆頭とした王太子が三人だ。やはりというかみんな美形である。
「では、いただこう」
陛下が仰った後食事を始めた。そこで皇后様が私をにこやかに見つめてくる。
「ナナリーさんは好き嫌いがないのねぇ」
「はい」
「その歳で偉いわ!ウィルは昔から好き嫌いが多くて大変だったのよ」
「母上…昔のことは良いでしょう」
なんというか朗らかな方だ。そして殿下の名前も初めて知ったけど、殿下が顔を引き攣らせていて面白い。
「ナナリーさん、私のことは『シャロン』と呼んでちょうだい」
「では、シャロン様。私のことも『ナナ』と呼んでくださいませ」
「ええ。よろしくね、ナナ」
「こちらこそよろしくお願い致します」
「え~?こいつが魔法使い?弱そーじゃん」
せっかくいいスタートが切れたと思ったのに水を刺したのは目の前に座っている十四歳位の不機嫌そうな殿下だ。まぁ確かに信じられないよねぇ。でもイラッとする発言だね。
「ノア、失礼なことを言うんじゃない」
「ゼノ兄様まで…!こんなガキが魔獣に勝てるわけないだろ!?ぼくの方が強いに決まってる!」
「ノアが行っても死ぬだけだ」
「うるさい!」
まぁ、やんちゃな年頃というか…思春期だもんね。ノア殿下は私の隣に座るゼノ殿下に叱られている。ウィル殿下は微笑みを崩さぬまま黙々と食べ進めているし、シャロン様と陛下は呆れている。朝から騒がしい時間を過ごしてそのまま朝食は終わった。終始ノア殿下は涙目で私を睨んでいたが。十四歳とかって一応もうちょっと自重したり出来るはずなんだけどな…。
ウィル殿下と共に部屋に戻ると、ウィル殿下は真顔に戻ってため息をついた。
「すまんな。騒がしくて」
「いえ。ノア殿下はお幾つなんですか?」
「ノアは十三。ゼノは十五で、私は十七だ」
「十三ですか…大変ですね」
「チヤホヤされてるから甘ったれに育ったんだ…」
「でも魔獣がなんとかって言ってましたよね?」
「ああ、唯一ノアが出来るのは剣術でな。できると言っても最弱と言っていいが…今まで騎士が討伐してたのを年下のナナがやることになったと聞いた途端に張り合いだしたんだ」
つまりおぼっちゃまなわけだ。見た目もいいっちゃいいからな。まぁ、あれだ。めんどくせぇ。
「私にどうして欲しいんでしょうか…?」
「ノアのことは気にしなくていい。言わせておけばそのうち…………」
「そこで黙らないでください」
「コホン。まぁ、気にしなくていいってことだ」
「無理やり感半端ないですね」
「…すまない」
「別にいいですよ。ところで殿下、王宮外に出たいです」
「はっ?」
「いや、別に逃げる気はありませんが。魔法の訓練をさせてください」
「何故だ?」
「腕が鈍るので。いざと言う時に手元が狂えば困ります」
「むぅ…ならば、騎士達の訓練場を一角貸そう。逃げたら…地下牢から一生出れないと思え」
「はい。あぁ、空中を飛んでも気にしないでくださいね」
「…飛べるのか」
「飛べますね。今更やっぱナシとかやめてくださいね」
「はぁ…いいだろう。侍女長に案内させよう」
「ありがとうございます!そういえば加護のことってバレちゃダメなんじゃ…?」
「箝口令が言い渡されているから、見たとしても見なかったことになる。逆らう者がいれば命はない」
「……便利ですね」
「それだけ王家の者の発言というものには力があるから、気をつけなければならない。一言間違えば人を殺せてしまう」
「つまりそれは私の言葉も同じ…ってことですね?」
「そうだ」
殿下の表情は真剣そのもの。王の気迫とも言える。私もその言葉を胸に刻み、殿下に跪いた。
「発言には気をつけ、責任をもって行動します」
「……くれぐれも、注意してくれ」
「はっ」
それを聞いた殿下はほっとしたように息を吐いた。
「クラリス皇后の日記は夜に読ませてやる。今からとりあえず侍女長に訓練場に案内させるよう伝えてくるからここで待て」
「はい」
殿下が侍女長の所へ行ったあと、数分のうちに侍女長さんは現れて案内してくれた。そして団長さんらしき方に侍女長が事情を伝えてくれた。
「君が噂の神官か…?訓練の邪魔にならなければどこでも使うといい」
話し終わった黒髪の若くてかっこいい団長さんは、小さく微笑みながら快諾してくれた。
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