文字の大きさ
大
中
小
20 / 25
第二章 南部港湾利権編
第六話 海上追撃
夜の海を、軍船が裂いて進む。
波飛沫。
砲灯。
響く号令。
ベイルーン港全体が緊張に包まれていた。
「逃走船、南東へ転進!」
「速度上げています!」
南部艦隊兵が叫ぶ。
対して逃走船は、灯火もつけず闇へ滑り込むように進んでいた。
「慣れていますね」
港高台から海を見ながら、カレンが静かに言う。
「ええ」
レオニードも目を細めた。
「単なる商船ではありません」
進路選択が巧妙だ。
浅瀬。
潮流。
夜霧。
全部理解している。
「密輸常習船でしょう」
その時。
隣に立つアシュレイ提督が小さく笑った。
「ですが」
その声は静かだった。
「海軍相手に逃げ切れると思われるのは、少々心外ですね」
次の瞬間。
旗艦から信号灯が走る。
それに合わせ、追撃艦二隻が左右へ展開した。
「包囲…?」
カレンが目を細める。
「潮流を切っています」
レオニードが理解した。
「逃走進路を潰す気だ」
「正解です」
アシュレイが淡々と答える。
「この海域は潮の癖が強い」
「知らぬ船は必ず減速する」
その通りだった。
逃走船が急に速度を落とす。
進路修正。
その瞬間。
「今です」
提督の声と同時。
追撃艦が一気に距離を詰めた。
「停船しろ!」
「王国海軍である!」
怒号が海へ響く。
だが逃走船は止まらない。
むしろ。
「あれは…」
カレンの目が細くなる。
「武装しています」
逃走船甲板。
人影。
そして。
金属反射。
「弩兵!」
海軍側が叫ぶ。
直後。
矢が飛んだ。
ガン!
軍船外板へ突き刺さる。
「完全に武装密輸船ですね」
レオニードの声が低くなる。
「外交問題確定です」
外国船による武装抵抗。
もはや言い逃れ不能。
「提督」
「分かっています」
アシュレイの目が冷えた。
「警告終了」
静かな声。
だが、周囲海兵の空気が変わる。
「制圧します」
その瞬間。
軍船側から鉤縄が飛んだ。
逃走船へ食い込む。
「接舷!」
「制圧班前へ!」
一気に戦場になる。
鋼音。
怒号。
海風。
夜の海で、両船がぶつかる。
「本当に慣れていますね」
カレンが小さく呟く。
「アシュレイ提督ですから」
レオニードが苦笑した。
「南部海賊掃討で有名な人です」
「なるほど」
だから若くして提督。
実力で上がったタイプ。
数十分後。
「制圧完了!」
歓声が港へ届く。
「逃走船確保!」
「積荷確認中!」
周囲がざわつく。
だが。
その直後。
制圧船側の空気が変わった。
「何だ?」
「おい、これは」
レオニードの表情が険しくなる。
「殿下」
アシュレイが静かに言った。
「少々面倒です」
「何がありました」
提督は少しだけ沈黙し。
そして。
「積荷の一部に、王国軍制式武器がありました」
空気が凍る。
「は?」
騎士が絶句する。
つまり、外国武器だけではない。
「王国軍装備が国外へ流れている」
カレンが静かに整理した。
「はい」
アシュレイの目が冷える。
「軍内部協力者がいますね」
沈黙。
そして、全員が理解した。
これは単なる港湾利権を巡る腐敗では終わらない。
軍そのものに、汚染が広がっている。
波飛沫。
砲灯。
響く号令。
ベイルーン港全体が緊張に包まれていた。
「逃走船、南東へ転進!」
「速度上げています!」
南部艦隊兵が叫ぶ。
対して逃走船は、灯火もつけず闇へ滑り込むように進んでいた。
「慣れていますね」
港高台から海を見ながら、カレンが静かに言う。
「ええ」
レオニードも目を細めた。
「単なる商船ではありません」
進路選択が巧妙だ。
浅瀬。
潮流。
夜霧。
全部理解している。
「密輸常習船でしょう」
その時。
隣に立つアシュレイ提督が小さく笑った。
「ですが」
その声は静かだった。
「海軍相手に逃げ切れると思われるのは、少々心外ですね」
次の瞬間。
旗艦から信号灯が走る。
それに合わせ、追撃艦二隻が左右へ展開した。
「包囲…?」
カレンが目を細める。
「潮流を切っています」
レオニードが理解した。
「逃走進路を潰す気だ」
「正解です」
アシュレイが淡々と答える。
「この海域は潮の癖が強い」
「知らぬ船は必ず減速する」
その通りだった。
逃走船が急に速度を落とす。
進路修正。
その瞬間。
「今です」
提督の声と同時。
追撃艦が一気に距離を詰めた。
「停船しろ!」
「王国海軍である!」
怒号が海へ響く。
だが逃走船は止まらない。
むしろ。
「あれは…」
カレンの目が細くなる。
「武装しています」
逃走船甲板。
人影。
そして。
金属反射。
「弩兵!」
海軍側が叫ぶ。
直後。
矢が飛んだ。
ガン!
軍船外板へ突き刺さる。
「完全に武装密輸船ですね」
レオニードの声が低くなる。
「外交問題確定です」
外国船による武装抵抗。
もはや言い逃れ不能。
「提督」
「分かっています」
アシュレイの目が冷えた。
「警告終了」
静かな声。
だが、周囲海兵の空気が変わる。
「制圧します」
その瞬間。
軍船側から鉤縄が飛んだ。
逃走船へ食い込む。
「接舷!」
「制圧班前へ!」
一気に戦場になる。
鋼音。
怒号。
海風。
夜の海で、両船がぶつかる。
「本当に慣れていますね」
カレンが小さく呟く。
「アシュレイ提督ですから」
レオニードが苦笑した。
「南部海賊掃討で有名な人です」
「なるほど」
だから若くして提督。
実力で上がったタイプ。
数十分後。
「制圧完了!」
歓声が港へ届く。
「逃走船確保!」
「積荷確認中!」
周囲がざわつく。
だが。
その直後。
制圧船側の空気が変わった。
「何だ?」
「おい、これは」
レオニードの表情が険しくなる。
「殿下」
アシュレイが静かに言った。
「少々面倒です」
「何がありました」
提督は少しだけ沈黙し。
そして。
「積荷の一部に、王国軍制式武器がありました」
空気が凍る。
「は?」
騎士が絶句する。
つまり、外国武器だけではない。
「王国軍装備が国外へ流れている」
カレンが静かに整理した。
「はい」
アシュレイの目が冷える。
「軍内部協力者がいますね」
沈黙。
そして、全員が理解した。
これは単なる港湾利権を巡る腐敗では終わらない。
軍そのものに、汚染が広がっている。
感想
あなたにおすすめの小説
側室を迎えられるなら、わたくしは王妃の座をお返しいたします
柴田はつみ結婚六年、子のない王妃エリシアに側室の噂が迫る。王クラウスは「気にするな」と守ってくれたはずだった。
だがある日、彼は平民娘リリアを何も告げず王宮に住まわせる。周囲は寵姫だと騒ぎ、リリアも妃気取りになっていく。
エリシアは愛する夫のため王妃の座を返す決意をするが、クラウスには隠された理由があった
『君の薬はもう要らない』と言って妻を遠ざけた夫は、彼女が千八百回の朝、自分を生かしていたことを知らなかった
歩人伯爵家に嫁いで五年。セレーネは、心の臓を病む夫オーウェンのために、毎朝まだ暗いうちに起きて薬を煎じ続けた。匙の角度、湯の温度、煎じる拍数——夫の発作を遠ざけたのは、誰にも気づかれない、その地味な手仕事だった。けれど回復した夫は、若く快活な従妹に心を寄せ、「君の薬はもう要らない」と言って妻を遠ざける。セレーネは言い返さず、ただ静かに離縁を受け入れて去った。残された薬棚の引き出しには、千八百回ぶんの調薬記録が、几帳面な筆跡で綴られていた。彼女が消えた朝、屋敷の誰もその薬を煎じられないことに、オーウェンはようやく気づく。失われた手の重さに輪郭が見えるのは、いつも後になってから。
地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました
ほーみ 王都の社交界で、ひとつの事件が起こった。
貴族令嬢たちが集う華やかな夜会の最中、私――セシリア・エヴァンストンは、婚約者であるエドワード・グラハム侯爵に、皆の前で婚約破棄を告げられたのだ。
「セシリア、お前との婚約は破棄する。お前のような地味でつまらない女と結婚するのはごめんだ」
会場がざわめく。貴族たちは興味深そうにこちらを見ていた。私が普段から控えめな性格だったせいか、同情する者は少ない。むしろ、面白がっている者ばかりだった。
優秀な兄の死により王太子となった第二王子は初恋の公爵令嬢と戦火を覆す
しばゎんゎん第二王子ルークは、かつて兄に並ぶかもしれないと期待された王子だった。
誰よりも優秀な兄アレクシス。
そして、姉のように自分を導いてくれた公爵家次女エリシア。
彼女に認められたくて、褒められたくて、ルークは必死に努力していた。
だが、エリシアが隣国へ留学した日から、彼の時間は止まってしまう。
優秀だが、情熱はない。
失敗はしないが、それ以上を望まない。
兄ほどではない。
だが、十分優秀。
周囲からそう評価される無難な第二王子として生きることを、ルーク自身も受け入れていた。
兄が、辺境で急死するまでは…。
突然王太子となったルーク。
混乱する王国。
そして、戦線布告と共に帰還したエリシア。
やがて明らかになる、兄の死の真相。
これは、兄の影を背負った第二王子が初恋の人と共に戦火の中で止まっていた時間を取り戻す物語。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)侯爵令嬢のメイヴィス・ラングラーは、“無能”と蔑まれながら生きてきた。家族で唯一味方であった姉マリアは、王太子サイラスの婚約者として将来を約束されていたが、突然この世を去る。
その死をきっかけに、メイヴィスは実父に命じられて王太子妃候補として城へ上がることになる。望んだわけではない。歓迎もされない。ただ命じられるままに、居場所のないままそこにいるだけだった。
王太子の命により、息をひそめるように過ごすメイヴィス。しかし彼女の意思とは裏腹に、周囲では次々とトラブルが起こる。
そのすべては、亡き姉の死と無関係ではなかった。
これは、ひとりぼっちの少女が、自分の居場所と“幸せ”を見つけていく物語。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
2026.05.24 改稿しました。
【完結】名もなき筆は、やがて名を持つ
しばゎんゎん「君との婚約を解消したい」
そう言って彼女を切り捨てた男は、知らなかった。
自分の評価が、すべて彼女の力によるものだったことを。
婚約破棄後、彼を待っていたのは評価の崩壊、信頼の喪失、そして転落。
一方で、影として生きてきた少女は、ついに自分の名で筆を取る。
これは、才能を見抜けなかった男の末路と、静かに実力を証明する地味で目立たないある令嬢の物語。
予約投稿済なので完結保証です。
【完】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした
迦陵 れん「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」
結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。
彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。
見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。
けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。
筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。
人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。
彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。
たとえ彼に好かれなくてもいい。
私は彼が好きだから!
大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。
ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。
と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)