【完結】【R18】モブに転生した俺は、推しのトラウマにはなりません!

すめらぎかなめ

文字の大きさ
5 / 16
本編

しおりを挟む
「――は?」

 自分でも驚くほどに間抜けな声だった。

 でも、当然だろう。いきなり『本当に親友だと思っているの?』なんて問いかけられたら。

「ノアムの本当の気持ちを聞かせて。俺のこと、親友だって思ってる?」

 ルドヴィックの双眸が俺を射抜く。

 鼓動がどんどん駆け足になる。嫌な汗が背中を伝った。

「……そりゃあ、もちろん」

 声は震えていなかっただろうか。

 不安を抱きつつうつむいて答えると、ルドヴィックは「ふぅん」と声を上げる。

 面白くなさそうな声に、胸がぎゅうっと苦しくなる。

「そっか。変なこと聞いてごめん」

 ルドヴィックが俺の肩に額を押し付ける。ぐりぐりこすりつけるように動かして、俺を上目遣いで見つめた。

「俺とノアムはずっと一緒だよね。これまでも、これからも」
「うん」

 うなずくと、ルドヴィックが目を伏せた。

 ルドヴィックは美しい。日の光を浴びて輝く金髪も、青の双眸も。

 職人の手によってこの世に作り出された芸術品だと聞いても、信じてしまうだろう。

「だったらいいんだ。ノアムが俺の側にいてくれるなら、いいんだ」
「……なんだよ」
「いや、さみしいなって思っただけ」

 俺に身を寄せて、ルドヴィックが甘えたような声を出す。

「大人になったら友情が壊れることもあるからさ。俺、怖くって」
「……そっか。けど、俺はルドヴィックの側にいるよ」

 もちろん、『親友』として。

「いつかはお互い結婚して家庭を持つだろうけど、そうなっても仲良くしような」

 ……と、そういえば。

(俺も結婚する必要があるんだっけ。弟がいるとはいえ、長子としての責任はあるし)

 俺には十二歳下の弟がいる。かなり年が離れているためか、割と可愛い。

「ノアムって結婚する予定あるの?」
「いや、今のところないよ。それに、俺みたいなのもらってくれるやついるかどうか」

 この世界では同性婚が主流だ。ゆえに、俺もどこかの貴族の令息を妻にもらうか、逆に俺がどこかに嫁ぐか……。

「ルドヴィックだったら、すぐに妻をもらえそうだよな」

 けど、俺は知っている。

 ルドヴィックの元にはリュリュっていうすごくかわいい妻が来るんだっていうことを!

(この調子だと、リュリュはルドヴィックルートに入ってるだろうし)

 出逢いを済ませ、ルドヴィックに『運命』とまで言わせているのだ。これはもうハッピーエンド確定だ。気が早い自覚はあります。

「そっか。じゃあ、たとえ話。俺の妻にノアムがなるっていうのはどう?」
「……俺がルドヴィックと結婚するってこと?」

 ないないありえない。

「お前が冗談言えるなんてな」
「冗談じゃないけど」
「たとえ話か」

 確かに前提があったなぁ。

「うーん、ルドヴィックのことは嫌いじゃないし、むしろ好き」
「じゃあ、あり?」
「けど、今までずっと親友と見てたわけだしな……。いきなりそんな想像できないって」

 笑って返すと、ルドヴィックはすねたように顔をそむけた。

「いきなりじゃなかったらいいってこと?」
「時間くれたら、まじめに考えるよ」
「じゃあ、これ課題ね」
「妄想は得意だから、上等だ!」

 俺の数少ない特技に妄想がある。役に立ったことはほぼないけど、今は役に立ちそうだ。

「いつか俺と挙式に出てね」
「……うん、出るよ。友人代表スピーチは任せてくれ!」

 挙式は無理でも、披露宴ならスピーチの機会も回ってくるかもしれない。

 リュリュにルドヴィックの良さが伝わるように、これでもかというほどアピールする予定だ。

「――可愛い声でしてね」
「……意味わかんないんだけど」

 可愛い声? スピーチが?

「今は気にしなくていいから。ノアム大好きだよ」

 俺の腕に抱き着いて、ルドヴィックが笑う。

 ゲームでは見たことのない表情に、俺の胸が高鳴る。

(前世の記憶が戻って九年か)

 最近、俺はおかしい。ルドヴィックに胸きゅんしている。

 この世界がゲームの世界だと思えなくなっている。ルドヴィックは推しのはず。

 でも――なんだろう、この胸の高鳴りは。これだとまるで、推しではなくて――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

処理中です...