【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ

文字の大きさ
29 / 72
第1部 第3章 優しい人、不思議な気持ち

しおりを挟む
 まっすぐな問いかけに僕は言葉を返せない。

 ただ、無意識のうちにまるで縋るみたいにキリアンの衣服をつかんだ。

「少しでいい、教えてくれ」

 乞うような声に、僕の決意がグラグラと揺れる。

「ジェリーの力になりたい」

 神さまに宣言するような。

 真剣な雰囲気の声に、僕はどうするのが正解なのかわからなくなっていた。

「……あの、ね」
「あぁ」
「あの女の人は、僕の故郷の――その、人なんだ」

 故郷は小さな村だった。だから、一人一人の顔も名前も誰もが知っていて。

 どれだけ時間が経っても、人というのは子供時代の面影があるものだ。

 彼女にもあの頃の面影が確かにあった。

「その、いわゆる幼馴染――みたいな、感じ」

 村には小さな子供が少なくて、村の同年代はみんな幼馴染みたいなもので。

 そして、家族に疎まれた僕は、同年代の中でも浮いていた。

 いつもボロボロの衣服を身に纏って、身だしなみもきちんと出来ていない。

 そんな僕を同年代の子供たちは不気味がった。

 両親はこの子は言うことを聞かないとか、この衣服ばっかり着るとか。そうやって誤魔化していた。

 実際は僕に与えられるものは兄のおさがりばかりだったというのに。

「僕には、兄がいたんだ」
「そうか」
「僕は家族から疎まれていて、兄も例外じゃなかった。いつも僕のことをバカにしてきて……」

 思い出すことさえ嫌になる過去のこと。

 けど、キリアンには話さなくちゃっていつの間にか思っていた。

「彼女は、僕の兄のことが好きだったんだ。だから、ぼ、くは」

 これ以上は言えなかった。過去のことを思い出すと、いつだって苦しい。

 師匠と出会うまで、僕はずっとどん底にいた。師匠は僕を日の当たるところに引き上げてくれた恩人でもあるんだ。

「ご、ごめん。僕、今はこれ以上――」

 続きはどうにも話せそうにない。

 そう言おうとして顔を上げると、キリアンは僕を見つめていた。彼の目の奥にこもった感情は「愛おしい」だろうか。

「無理に話させて、悪かったな」

 キリアンが僕の背中を大きな手のひらで撫でる。

「だが、ジェリーのことを知れたことは本当に嬉しい」
「……本当?」
「あぁ。それに俺は、お前が苦しんでいたら苦しみの原因を取り除きたいと思っている」

 なにも、そこまでしなくていい。僕はキリアンと友人になることが出来れば、それだけで満足なのに。

「なにか苦しいこと、辛いこと。そんなことがあったら、俺に命じればいい。――排除しろって」
「キリアン、それは、さすがに」
「俺はジェリーが望むのならば、罪を犯すことだってやってやる」

 そういうことを僕は望んでいるわけじゃないから……!

 慌てふためく僕を見て、キリアンが笑う。もしかして、からかわれたんだろうか?

「とにかく、俺はジェリーの味方でいる。なにがあろうと、どんなことがあろうとも」
「なにが、あっても」
「そうだ。俺はお前に一生を捧げる」

 それはそれでなんだかニュアンスが違うような――と思ったけど。

 この空気を壊す勇気はなくて、僕は首を縦に振った。

「――キリアンは、どうなの?」

 僕もキリアンのことを知りたいと思ってしまう。

 僕だけ話すのは不公平だと思ったのもあるけどさ。

「俺か?」
「うん。キリアンはどういう環境で育ったのかな――って」

 上目遣いになりつつじっとキリアンを見つめて問いかける。彼は天井を見上げた。

 かと思えば、一度だけコホンと咳ばらいをする。

「俺にも幼馴染……が、いたな」

 どこか言いにくそうに彼が言う。キリアンの幼馴染?

「どんな人?」

 ついつい食いついてしまった。僕の態度を見て、キリアンは表情を歪める。

「どんな人と言われてもな。やたらと偉そうで、傲慢で、高飛車で――」
「う、うん」
「わがままで口うるさくて腹の立つやつだ」

 それって全部悪口だよね?

 彼の言葉の真意を尋ねそうになったけど、僕は気が付いてしまった。キリアンの目元が優しいことに。

 キリアンはキリアンで、幼馴染さんのことを大切に思っているんだってわかった。

「キリアンは、その幼馴染さんのことが大切なんだね」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

【大至急】誰でもいいので、魔王からの求婚を穏便に断る方法を教えてください。

志子
BL
魔王(美形でめっちゃピュア)×聖職者(平凡)のお話。 聖女の力を持っている元孤児ロニーは教会で雑用をこなす日々。そんなロニーの元に一匹の黒猫が姿を現し、いつしかロニーの小さな友人となった。 注意)性的な言葉と表現があります。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...