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第1部 第3章 優しい人、不思議な気持ち
⑬
まっすぐな問いかけに僕は言葉を返せない。
ただ、無意識のうちにまるで縋るみたいにキリアンの衣服をつかんだ。
「少しでいい、教えてくれ」
乞うような声に、僕の決意がグラグラと揺れる。
「ジェリーの力になりたい」
神さまに宣言するような。
真剣な雰囲気の声に、僕はどうするのが正解なのかわからなくなっていた。
「……あの、ね」
「あぁ」
「あの女の人は、僕の故郷の――その、人なんだ」
故郷は小さな村だった。だから、一人一人の顔も名前も誰もが知っていて。
どれだけ時間が経っても、人というのは子供時代の面影があるものだ。
彼女にもあの頃の面影が確かにあった。
「その、いわゆる幼馴染――みたいな、感じ」
村には小さな子供が少なくて、村の同年代はみんな幼馴染みたいなもので。
そして、家族に疎まれた僕は、同年代の中でも浮いていた。
いつもボロボロの衣服を身に纏って、身だしなみもきちんと出来ていない。
そんな僕を同年代の子供たちは不気味がった。
両親はこの子は言うことを聞かないとか、この衣服ばっかり着るとか。そうやって誤魔化していた。
実際は僕に与えられるものは兄のおさがりばかりだったというのに。
「僕には、兄がいたんだ」
「そうか」
「僕は家族から疎まれていて、兄も例外じゃなかった。いつも僕のことをバカにしてきて……」
思い出すことさえ嫌になる過去のこと。
けど、キリアンには話さなくちゃっていつの間にか思っていた。
「彼女は、僕の兄のことが好きだったんだ。だから、ぼ、くは」
これ以上は言えなかった。過去のことを思い出すと、いつだって苦しい。
師匠と出会うまで、僕はずっとどん底にいた。師匠は僕を日の当たるところに引き上げてくれた恩人でもあるんだ。
「ご、ごめん。僕、今はこれ以上――」
続きはどうにも話せそうにない。
そう言おうとして顔を上げると、キリアンは僕を見つめていた。彼の目の奥にこもった感情は「愛おしい」だろうか。
「無理に話させて、悪かったな」
キリアンが僕の背中を大きな手のひらで撫でる。
「だが、ジェリーのことを知れたことは本当に嬉しい」
「……本当?」
「あぁ。それに俺は、お前が苦しんでいたら苦しみの原因を取り除きたいと思っている」
なにも、そこまでしなくていい。僕はキリアンと友人になることが出来れば、それだけで満足なのに。
「なにか苦しいこと、辛いこと。そんなことがあったら、俺に命じればいい。――排除しろって」
「キリアン、それは、さすがに」
「俺はジェリーが望むのならば、罪を犯すことだってやってやる」
そういうことを僕は望んでいるわけじゃないから……!
慌てふためく僕を見て、キリアンが笑う。もしかして、からかわれたんだろうか?
「とにかく、俺はジェリーの味方でいる。なにがあろうと、どんなことがあろうとも」
「なにが、あっても」
「そうだ。俺はお前に一生を捧げる」
それはそれでなんだかニュアンスが違うような――と思ったけど。
この空気を壊す勇気はなくて、僕は首を縦に振った。
「――キリアンは、どうなの?」
僕もキリアンのことを知りたいと思ってしまう。
僕だけ話すのは不公平だと思ったのもあるけどさ。
「俺か?」
「うん。キリアンはどういう環境で育ったのかな――って」
上目遣いになりつつじっとキリアンを見つめて問いかける。彼は天井を見上げた。
かと思えば、一度だけコホンと咳ばらいをする。
「俺にも幼馴染……が、いたな」
どこか言いにくそうに彼が言う。キリアンの幼馴染?
「どんな人?」
ついつい食いついてしまった。僕の態度を見て、キリアンは表情を歪める。
「どんな人と言われてもな。やたらと偉そうで、傲慢で、高飛車で――」
「う、うん」
「わがままで口うるさくて腹の立つやつだ」
それって全部悪口だよね?
彼の言葉の真意を尋ねそうになったけど、僕は気が付いてしまった。キリアンの目元が優しいことに。
キリアンはキリアンで、幼馴染さんのことを大切に思っているんだってわかった。
「キリアンは、その幼馴染さんのことが大切なんだね」
ただ、無意識のうちにまるで縋るみたいにキリアンの衣服をつかんだ。
「少しでいい、教えてくれ」
乞うような声に、僕の決意がグラグラと揺れる。
「ジェリーの力になりたい」
神さまに宣言するような。
真剣な雰囲気の声に、僕はどうするのが正解なのかわからなくなっていた。
「……あの、ね」
「あぁ」
「あの女の人は、僕の故郷の――その、人なんだ」
故郷は小さな村だった。だから、一人一人の顔も名前も誰もが知っていて。
どれだけ時間が経っても、人というのは子供時代の面影があるものだ。
彼女にもあの頃の面影が確かにあった。
「その、いわゆる幼馴染――みたいな、感じ」
村には小さな子供が少なくて、村の同年代はみんな幼馴染みたいなもので。
そして、家族に疎まれた僕は、同年代の中でも浮いていた。
いつもボロボロの衣服を身に纏って、身だしなみもきちんと出来ていない。
そんな僕を同年代の子供たちは不気味がった。
両親はこの子は言うことを聞かないとか、この衣服ばっかり着るとか。そうやって誤魔化していた。
実際は僕に与えられるものは兄のおさがりばかりだったというのに。
「僕には、兄がいたんだ」
「そうか」
「僕は家族から疎まれていて、兄も例外じゃなかった。いつも僕のことをバカにしてきて……」
思い出すことさえ嫌になる過去のこと。
けど、キリアンには話さなくちゃっていつの間にか思っていた。
「彼女は、僕の兄のことが好きだったんだ。だから、ぼ、くは」
これ以上は言えなかった。過去のことを思い出すと、いつだって苦しい。
師匠と出会うまで、僕はずっとどん底にいた。師匠は僕を日の当たるところに引き上げてくれた恩人でもあるんだ。
「ご、ごめん。僕、今はこれ以上――」
続きはどうにも話せそうにない。
そう言おうとして顔を上げると、キリアンは僕を見つめていた。彼の目の奥にこもった感情は「愛おしい」だろうか。
「無理に話させて、悪かったな」
キリアンが僕の背中を大きな手のひらで撫でる。
「だが、ジェリーのことを知れたことは本当に嬉しい」
「……本当?」
「あぁ。それに俺は、お前が苦しんでいたら苦しみの原因を取り除きたいと思っている」
なにも、そこまでしなくていい。僕はキリアンと友人になることが出来れば、それだけで満足なのに。
「なにか苦しいこと、辛いこと。そんなことがあったら、俺に命じればいい。――排除しろって」
「キリアン、それは、さすがに」
「俺はジェリーが望むのならば、罪を犯すことだってやってやる」
そういうことを僕は望んでいるわけじゃないから……!
慌てふためく僕を見て、キリアンが笑う。もしかして、からかわれたんだろうか?
「とにかく、俺はジェリーの味方でいる。なにがあろうと、どんなことがあろうとも」
「なにが、あっても」
「そうだ。俺はお前に一生を捧げる」
それはそれでなんだかニュアンスが違うような――と思ったけど。
この空気を壊す勇気はなくて、僕は首を縦に振った。
「――キリアンは、どうなの?」
僕もキリアンのことを知りたいと思ってしまう。
僕だけ話すのは不公平だと思ったのもあるけどさ。
「俺か?」
「うん。キリアンはどういう環境で育ったのかな――って」
上目遣いになりつつじっとキリアンを見つめて問いかける。彼は天井を見上げた。
かと思えば、一度だけコホンと咳ばらいをする。
「俺にも幼馴染……が、いたな」
どこか言いにくそうに彼が言う。キリアンの幼馴染?
「どんな人?」
ついつい食いついてしまった。僕の態度を見て、キリアンは表情を歪める。
「どんな人と言われてもな。やたらと偉そうで、傲慢で、高飛車で――」
「う、うん」
「わがままで口うるさくて腹の立つやつだ」
それって全部悪口だよね?
彼の言葉の真意を尋ねそうになったけど、僕は気が付いてしまった。キリアンの目元が優しいことに。
キリアンはキリアンで、幼馴染さんのことを大切に思っているんだってわかった。
「キリアンは、その幼馴染さんのことが大切なんだね」
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