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第1章

抗議 5【※】

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「や、めろ……」

 その欲求をねじ伏せて、必死に拒絶の声を上げる。が、その声には覇気がない。勢いもなくて、弱々しいものだった。

「そっか。……だけど、本当は気持ちいいんでしょ?」

 亜玲がそう言って、乳首を捏ねるように弄ってくる。……そうだ。気持ちいい。気持ちよくて、たまらないんだ。

 でも、それを口にするのは負けた気がして。必死に首を横に振る。気持ちよくない。気持ちよくなんて――ない。自分自身にそう言い聞かせていれば、亜玲が笑ったのがわかった。

「嘘つき」

 俺の耳元で、亜玲がそう囁く。瞬間、ぞくっとしたなにかが身体中を駆け巡る。背中がのけ反って、声だけで反応してしまう。

「祈、感じてるんだよね。……ほら、ここなんて」

 亜玲の手が、俺の身体を伝って、下肢に伸びた。……そこは少し膨らんでおり、俺が感じていたのが亜玲にバレてしまう。

 ……いたたまれなくて、目をぎゅっと瞑る。

「気持ちいいんだね。……ところで、どう?」
「……な、にが」
「大嫌いな男に、こんな風に感じさせられちゃう気持ちだよ」

 そんなもの、最低に決まっている。そう言いたかったのに、亜玲が俺の唇を口づけでふさぐから。なにも言えなかった。

 角度を変えて、何度も何度も口づけられる。まるで、愛おしいものにするような口づけだった。その所為で、俺の頭が混乱する。

(亜玲は、俺のことが嫌いなんだろ……?)

 じゃあ、どうしてこんな優しい口づけをしてくるのか。意味がわからなくて、俺は目をぱちぱちと瞬かせていた。

 けれど、そう思う俺を他所に、亜玲が俺の首につけられたチョーカーに触れた。そのままツーッと指でなぞって、嬉しそうな笑みを浮かべる。

「どうせだし、俺の番にしてあげよっか」

 一瞬、告げられた言葉の意味がわからなかった。……番? 俺が、亜玲の?

「……冗談、きつい」

 強く睨みつけて、俺は亜玲のことを拒絶する。先ほどまでのは、まだよかった。

 身体をつなげたところで、一回きりで済むだろうから。しかし、番はよくない。

「お前の番なんて、死んでもごめんだよ……」

 視線を逸らして、強がってそう言うことしか出来なかった。俺はオメガだ。だから、アルファの亜玲は俺を番にすることが出来る。……でも、それで苦しむのは俺だけなんだ。

 アルファの亜玲は、いつだって俺のことを捨てられる。

「そっか。……残念」

 亜玲が笑って、チョーカーから手を離す。それに、ほっと胸をなでおろす。

「……お前、本当に最低だな」

 ぽつりと、そんな言葉が口から零れた。遊びで俺を抱こうとするばかりか、番にするなんて冗談まで言って。

(亜玲は最低だ。俺の恋人を寝取って、いつもいつも俺を見下して……)

 ぎゅっと唇を結ぶ。なのに、憎しみを抱けないのは……間違いなく、昔の亜玲が頭の中に残っているから。

 もしかしたら、あの天使のような亜玲に、戻ってくれるのかもなんて淡い期待。それを、捨てきれない。

「……祈のほうが、ずっと最低だ」

 ぽつりと、そんな言葉が降ってきた。驚いて俺がそちらに視線を向ければ、亜玲はただぼんやりとした表情を浮かべていた。

「大体、俺をこんな最低野郎にしたのは祈だ」
「……は?」

 こいつは一体、なにを言っているんだ。

「俺がこんな風になったのも、全部祈の所為なんだ。……だから、責任取ってもらわなくちゃならないんだ」

 熱に浮かされたかのように、ぼうっとしながら亜玲がそう呟く。……意味が、わからない。どうして、俺が――。

 そう思っていれば、亜玲が俺の上から退く。その後、軽々と俺のことを横抱きにした。

 亜玲の足が向かう先は、室内。……そのまま近くの扉を開けて、器用に電気をつける。

 室内には、シンプルなベッドがあった。……ここは、寝室だ。それを、悟る。
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