【R18】悪魔な幼馴染から逃げ切る方法。

第２章

最悪だ！ １

　目を開ける。視界に一番に入ったのは、見知らぬ天井。ハッとして身体を起こす。……腰に鈍い痛みが走った。

　その痛みに顔をしかめれば、俺の隣に誰かがいることに気が付く。その人物は、目をこすりながらのそのそと起き上がる。

　寝起きでも、恐ろしいほどに顔の整った男だと思った。

「あ、祈、おはよう」

　その男――亜玲がにっこりと笑ってそう言ってくる。……おはようじゃない！

「亜玲！」

　亜玲の顔を見て、一気に意識が覚醒する。だから、俺は叫ぶ。亜玲は、きょとんとしていた。

「どうしたの、祈？」

　なにもわからないとばかりの表情で、亜玲は俺の腰に腕を回す。いつの間にかたくましくなった腕に意識を集中させると、顔に熱が溜まった。……俺は、昨日、この男と……。

（って、なに考えているんだ……。俺は、ここに抗議しに来たはずなのに……！）

　だけど、気が付いたら亜玲に抱かれていた。不本意すぎることに身体の奥に精を注がれた。

　自身の身体を見下ろす。情事の痕だとすぐにばれてしまうような赤い痕が、俺の身体中に散っている。

　俺が眠る前は、ここまでじゃなかったはずなのに。

「……亜玲」

　じっと亜玲の顔を見て、名前を呼ぶ。亜玲は大きく伸びをしつつ、ベッドから降りる。そのまま床に散らばった衣服を回収したかと思うと、こちらを振り返る。

「朝から大声は出さないほうがいいよ。近所迷惑だし」

　なにも、言えなかった。いくら防音が優れているとはいえ、全く聞こえないということはないだろう。

（ということは、もしかしたら昨夜の俺の声も……）

　隣室に聞こえていたのかも……と思って、さらに顔に熱が溜まる。聞かれていたと思うと、恥ずかしくてたまらない。穴があったら入ってしまいたい。

　そう思って毛布に顔をうずめれば、亜玲が俺の肩をたたいた。

「とりあえず、シャワーでも浴びてきたら？　身体すっきりさせたいかと思うんだけれど」

　ちらりと亜玲に視線を向ければ、こいつは憎たらしいほどに笑っていた。

　だから、俺は乱暴に毛布を放り投げて、立ち上がる。床に散らばった衣服をかき集めて、寝室を出ていく。

「玄関から数えて二つ目の扉ね」
「……あぁ」

　亜玲の言葉に端的に返事をして、教えられた通りの扉を開ける。脱衣所には、当然だが洗面台が置いてあった。

（……なんていうか）

　洗面台の鏡に映った俺自身を見つめて、絶句する。首筋以外に、これでもかというほどに赤い痕が散っている。

　首筋には頑丈なチョーカーを着けているので、幸いにもここにはつけられていないようだ。

（っていうか、そもそもアルファの前で首筋を無防備にすることなんて、出来ないよな……）

　情事の際に首を噛まれたら、『番』の契約を結んでしまうことになる。『番』がいたほうが、いろいろと面倒がないのは理解している。だけど、それは一種の諸刃の剣なのだ。

　オメガにとって、『番』契約とはそれほどまでに重要なこと。

（死んでも亜玲と番なんて、ごめんだ）

　昨夜、亜玲は俺を番にしてあげようかみたいなことを、言っていた。所詮は悪ふざけだと思うけれど、本気だったとしても亜玲の番だけは絶対にごめんだ。あんな悪魔みたいな男の番なんて……。

（とにかく、シャワーを浴びて着替えたらもう出ていこう。……こんなところに、長居するつもりはない）

　とりあえず、自分の伝えたいことはしっかりと伝えた……と思うし。なし崩しで情事に及んでしまったけれど、もうこれっきりだ。

（ハジメテは好きな奴とって、決めてたのにな……）

　イマドキその考えは古いのかもしれない。けれど、ずっと夢見てきたんだ。……俺は、好きな奴と身体をつなげるんだって。

「なのに、どうなんだろうな。……この世で一番嫌いな奴と、身体をつなげるなんてな」

　俺の口から漏れた言葉は、これでもかというほどに嘲笑を含んでいた。