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第2章
ショッピング 3
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その後、亜玲はきれいにラッピングされた包みが入った紙袋を、俺に持たせる。別にいいって、言ったのに。
「なぁ、亜玲……」
「あ、突き返すのはナシね。あと、お金払うとかいうのも、ナシ」
亜玲が笑って、俺の言葉を先に封じてくる。……なにも言えなかった。
長年の付き合いだからわかる。亜玲はこうなったら自分を曲げない。相手が折れるまで、自分を突き通す。頑固というべきなのか、意地っ張りというべきなのか……。
「……わかったよ」
もう、諦めるしかなかった。それに、今日が終われば俺は亜玲と関わるつもりはない。最初で最後のプレゼント。昨日のお詫び。そう思えば、受け取れるような気もした。
「ったく、亜玲はなにも変わってない……」
ぽつりとそう呟けば、亜玲が俺に視線を向ける。その目の奥に宿ったのは、なんともいえない感情だった。
「祈には、そう見えるの?」
きょとんとした亜玲が、そう問いかけてきた。俺は、言葉の意味が分からないでいた。
「俺は、変わったよ。……昔の俺じゃない」
何処か寂しそうに、亜玲がそう呟く。……確かに、昔の亜玲じゃないことは理解している。
あの天使のような亜玲は面影さえない。悪魔のような男に成長したと思う。……いや、思っていた。
「違うよ。……今日分かった。亜玲は、なにも変わっていない」
表面上は、面影なんて消え失せているように見える。けれど、亜玲の内面はそのままなのだ。なにも、変わっていない。変わったように見えたのは、俺の所為なんだ。
「なぁ、亜玲」
「……うん」
「お前、幸せになれるよ」
端的にそう告げて、俺は歩き出す。……亜玲が、慌てて俺の手首を掴んだのがわかった。驚いて、亜玲を見つめる。
「なんで、他人事なの」
亜玲が小さな声で尋ねてきた。なんで他人事って……。
「だって、他人事だからだよ。俺は、亜玲と他人……っていうか、ただの昔馴染みだ」
だから、もう関わることなんてない。道を交えることはない。それに、もう亜玲を恨むのもやめた。なんていうか、毒気を抜かれたというか……。
「俺、もう亜玲のこと恨まないし憎まない。……だから、もう俺に関わらないでくれ」
それが、唯一の条件だ。これ以上亜玲のことを嫌いになりたくないんだ。
「あとさ、亜玲にもきっといい人が現れるよ。……だから、もう俺ら、互いを忘れよう」
昨日のことは一夜の過ち。寝取ったとか、寝取られたとか。そういうことも全部水に流す。
それが、多分俺が唯一亜玲にできることなんだ。
(こいつは、怖いんだ。臆病なままだったんだ)
怖がりで、臆病で。そんな亜玲のままだった。それに気が付かないまま、俺はただひたすら亜玲を恨んだ。
……確かに、亜玲のやっていたことは最低野郎のすることだ。けれど、もうしないような気がした。
「な、昨日のことも忘れて、俺らは――」
「――忘れるわけない」
俺の言葉を遮って、亜玲がそう言う。まっすぐに俺を見つめた亜玲の目が、恐ろしいほどに昏い色を宿していた。
「祈は俺のだ。俺のなんだっ……!」
亜玲が手に力を込める。俺の手首に痛みが走る。さらには、周囲の視線が痛い。痴話喧嘩をしていると思われている……の、かも。
「俺に関わるなっていうんだったら、祈りのこと閉じ込める。……俺以外、見えないようにする」
……こいつは、なにを言っているんだろうか。犯罪の予告をしているのか。
「いっそ、殺してもいい。二人で心中するのも、ありだよ」
「……なに、言って」
「もしもそれが嫌なんだったら、俺は祈の前で死ぬ。むごい方法で、死ぬ。祈の頭の中に焼き付けるような景色を、見せる」
亜玲の様子がおかしいことに、気が付いた。俺は、亜玲の手を振り払おうとする。……力が強すぎて、振り払えない。
喉が鳴る。……どこかで、亜玲の地雷を踏んだ。今更、それに気が付いた。
「なぁ、亜玲……」
「あ、突き返すのはナシね。あと、お金払うとかいうのも、ナシ」
亜玲が笑って、俺の言葉を先に封じてくる。……なにも言えなかった。
長年の付き合いだからわかる。亜玲はこうなったら自分を曲げない。相手が折れるまで、自分を突き通す。頑固というべきなのか、意地っ張りというべきなのか……。
「……わかったよ」
もう、諦めるしかなかった。それに、今日が終われば俺は亜玲と関わるつもりはない。最初で最後のプレゼント。昨日のお詫び。そう思えば、受け取れるような気もした。
「ったく、亜玲はなにも変わってない……」
ぽつりとそう呟けば、亜玲が俺に視線を向ける。その目の奥に宿ったのは、なんともいえない感情だった。
「祈には、そう見えるの?」
きょとんとした亜玲が、そう問いかけてきた。俺は、言葉の意味が分からないでいた。
「俺は、変わったよ。……昔の俺じゃない」
何処か寂しそうに、亜玲がそう呟く。……確かに、昔の亜玲じゃないことは理解している。
あの天使のような亜玲は面影さえない。悪魔のような男に成長したと思う。……いや、思っていた。
「違うよ。……今日分かった。亜玲は、なにも変わっていない」
表面上は、面影なんて消え失せているように見える。けれど、亜玲の内面はそのままなのだ。なにも、変わっていない。変わったように見えたのは、俺の所為なんだ。
「なぁ、亜玲」
「……うん」
「お前、幸せになれるよ」
端的にそう告げて、俺は歩き出す。……亜玲が、慌てて俺の手首を掴んだのがわかった。驚いて、亜玲を見つめる。
「なんで、他人事なの」
亜玲が小さな声で尋ねてきた。なんで他人事って……。
「だって、他人事だからだよ。俺は、亜玲と他人……っていうか、ただの昔馴染みだ」
だから、もう関わることなんてない。道を交えることはない。それに、もう亜玲を恨むのもやめた。なんていうか、毒気を抜かれたというか……。
「俺、もう亜玲のこと恨まないし憎まない。……だから、もう俺に関わらないでくれ」
それが、唯一の条件だ。これ以上亜玲のことを嫌いになりたくないんだ。
「あとさ、亜玲にもきっといい人が現れるよ。……だから、もう俺ら、互いを忘れよう」
昨日のことは一夜の過ち。寝取ったとか、寝取られたとか。そういうことも全部水に流す。
それが、多分俺が唯一亜玲にできることなんだ。
(こいつは、怖いんだ。臆病なままだったんだ)
怖がりで、臆病で。そんな亜玲のままだった。それに気が付かないまま、俺はただひたすら亜玲を恨んだ。
……確かに、亜玲のやっていたことは最低野郎のすることだ。けれど、もうしないような気がした。
「な、昨日のことも忘れて、俺らは――」
「――忘れるわけない」
俺の言葉を遮って、亜玲がそう言う。まっすぐに俺を見つめた亜玲の目が、恐ろしいほどに昏い色を宿していた。
「祈は俺のだ。俺のなんだっ……!」
亜玲が手に力を込める。俺の手首に痛みが走る。さらには、周囲の視線が痛い。痴話喧嘩をしていると思われている……の、かも。
「俺に関わるなっていうんだったら、祈りのこと閉じ込める。……俺以外、見えないようにする」
……こいつは、なにを言っているんだろうか。犯罪の予告をしているのか。
「いっそ、殺してもいい。二人で心中するのも、ありだよ」
「……なに、言って」
「もしもそれが嫌なんだったら、俺は祈の前で死ぬ。むごい方法で、死ぬ。祈の頭の中に焼き付けるような景色を、見せる」
亜玲の様子がおかしいことに、気が付いた。俺は、亜玲の手を振り払おうとする。……力が強すぎて、振り払えない。
喉が鳴る。……どこかで、亜玲の地雷を踏んだ。今更、それに気が付いた。
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