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勇者に選ばれた恋人が、王女様と婚姻するらしいので、
待つ恋人アデルミラの話(1)
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その日、このカリン王国を駆け巡った大きなニュースは二つ。
一つ、この王国をはじめとした世界を脅威にさらしてきた魔王が倒されたという嬉しいニュース。そして……勇者ロレンシオと、王国の第四王女兼聖女であるビアンカ王女が婚姻するというこれまた嬉しいニュース。
そのニュースを王国の民たちは祝った。……たった一人を、除いて。
☆★☆
「最低っ!」
その日、新聞を片手に平凡な街娘であるアデルミラ・カルヴァートはお酒を煽った。アデルミラは今年十八歳を迎えたばかりの若い娘だ。この王国では十八歳から飲酒なども認められている。だから、アデルミラがお酒を煽ることは何の問題もない。まぁ、彼女はお酒があまり好きではないのだが。しかし、今日は別だ。そう思いながら、アデルミラは濃い紫色の髪をかき上げる。
「なにが王女殿下と婚姻よ……! 私、三年間も待っていたのに……!」
溢れてくる涙は、なかなか止まってくれない。普通ならば魔王が倒されたことを喜ぶべきで、王女と勇者が婚姻することを祝うべきなのだ。それでも、アデルミラにはそれが出来ない深い訳があった。
それは――このアデルミラが、勇者が故郷に残してきた恋人だからだ。
「ぐすつ、お兄ちゃん、私のことを捨てたぁ……!」
アデルミラと勇者ロレンシオは、世にいう「幼馴染」という関係だった。
幼少期から五つ年上のロレンシオにくっつき、懐き、「将来はお兄ちゃんと結婚する!」なんて無邪気に話していたアデルミラ。あの日までは、その夢が間違いなく叶うと思っていた。
あの日、三年前のあの日。……ロレンシオとアデルミラの道は、別れた。
ロレンシオは神託を受け、魔王を倒すべく勇者として旅に出たのだ。故郷にアデルミラを残して。その際に、ロレンシオは「絶対に迎えに行くから待っていろ」と力強く言ってくれた。別れ際に初めて口づけもしてくれた。だから、アデルミラはこの三年間ずっとずーっと待ち続けた。
きっと、ロレンシオならば帰ってきたらプロポーズしてくれるだろう。自分ももう、十八歳だ。婚姻が可能な年齢を迎えている。そんなことを思いながら、恋人の帰りを今か今かと待っていた。なのに……訪れたのは、手酷い裏切り。
「やっぱり、王女殿下の方がいいのよね……。ビアンカ王女殿下って、この王国でもかなりの美女だって有名だもの……」
アデルミラも、そこそこ美人だとは自負している。それでも、華やかな王女と比べてしまえば天と地ほどの差がある。どう足掻いても、敵わないだろう。それは容易に想像がついたので、アデルミラはロレンシオの元に突撃することはなかった。ただ、一人でお酒を飲みながら泣いていたのだ。
「……お兄ちゃん、私のことなんてきっと忘れちゃうわよね……」
自分はこの三年間、彼のことを忘れたことは一度もなかったのに。なのに、ロレンシオは王女や仲間たちに囲まれて、幸せに過ごしていたのだろう。そう思うと、やるせない。余計に惨めになる。そんなことを考え、アデルミラは豪快にグラスを傾ける。……もう、思考回路はまともに働いていなかった。
「も~、だったら、私はお兄ちゃんよりも有能で素敵な男を、捕まえてやるんだからぁ~!」
せっかく王都に引っ越してきたのだ。ならば、この王都の結婚相談所に登録してやろうじゃないか。今まではロレンシオのことしか考えなかった。彼にしか、想いを寄せられなかった。でも、今は違う。今ならばきっと――ほかの素敵な男性に、目を向けることが出来るだろう。
「どの結婚相談所が良いかなぁ?」
このカリン王国は恋愛至上主義の国だ。そのため、どの街にも出会いの場である結婚相談所がある。ならば、自分もそこに登録して新しい恋を見つけようではないか。アデルミラは、そう考えていた。
「……この王都で一番大きな相談所って……やっぱり、『リナリア』よねぇ」
この王都で最も繁盛している結婚相談所『リナリア』。そこならばきっと、登録している人も多いし、自分が理想とする男性にも出逢えるはずだ。思い立ったが吉日。善は急げ。そんなことを考え、アデルミラは明日結婚相談所に登録しに行くことを決めた。
「……お兄ちゃんなんかよりも、ずっと素敵な男性を捕まえてやるんだからぁ!」
この選択が、諸々間違ったことだとアデルミラが気が付くのは――まだまだ、先の話。
一つ、この王国をはじめとした世界を脅威にさらしてきた魔王が倒されたという嬉しいニュース。そして……勇者ロレンシオと、王国の第四王女兼聖女であるビアンカ王女が婚姻するというこれまた嬉しいニュース。
そのニュースを王国の民たちは祝った。……たった一人を、除いて。
☆★☆
「最低っ!」
その日、新聞を片手に平凡な街娘であるアデルミラ・カルヴァートはお酒を煽った。アデルミラは今年十八歳を迎えたばかりの若い娘だ。この王国では十八歳から飲酒なども認められている。だから、アデルミラがお酒を煽ることは何の問題もない。まぁ、彼女はお酒があまり好きではないのだが。しかし、今日は別だ。そう思いながら、アデルミラは濃い紫色の髪をかき上げる。
「なにが王女殿下と婚姻よ……! 私、三年間も待っていたのに……!」
溢れてくる涙は、なかなか止まってくれない。普通ならば魔王が倒されたことを喜ぶべきで、王女と勇者が婚姻することを祝うべきなのだ。それでも、アデルミラにはそれが出来ない深い訳があった。
それは――このアデルミラが、勇者が故郷に残してきた恋人だからだ。
「ぐすつ、お兄ちゃん、私のことを捨てたぁ……!」
アデルミラと勇者ロレンシオは、世にいう「幼馴染」という関係だった。
幼少期から五つ年上のロレンシオにくっつき、懐き、「将来はお兄ちゃんと結婚する!」なんて無邪気に話していたアデルミラ。あの日までは、その夢が間違いなく叶うと思っていた。
あの日、三年前のあの日。……ロレンシオとアデルミラの道は、別れた。
ロレンシオは神託を受け、魔王を倒すべく勇者として旅に出たのだ。故郷にアデルミラを残して。その際に、ロレンシオは「絶対に迎えに行くから待っていろ」と力強く言ってくれた。別れ際に初めて口づけもしてくれた。だから、アデルミラはこの三年間ずっとずーっと待ち続けた。
きっと、ロレンシオならば帰ってきたらプロポーズしてくれるだろう。自分ももう、十八歳だ。婚姻が可能な年齢を迎えている。そんなことを思いながら、恋人の帰りを今か今かと待っていた。なのに……訪れたのは、手酷い裏切り。
「やっぱり、王女殿下の方がいいのよね……。ビアンカ王女殿下って、この王国でもかなりの美女だって有名だもの……」
アデルミラも、そこそこ美人だとは自負している。それでも、華やかな王女と比べてしまえば天と地ほどの差がある。どう足掻いても、敵わないだろう。それは容易に想像がついたので、アデルミラはロレンシオの元に突撃することはなかった。ただ、一人でお酒を飲みながら泣いていたのだ。
「……お兄ちゃん、私のことなんてきっと忘れちゃうわよね……」
自分はこの三年間、彼のことを忘れたことは一度もなかったのに。なのに、ロレンシオは王女や仲間たちに囲まれて、幸せに過ごしていたのだろう。そう思うと、やるせない。余計に惨めになる。そんなことを考え、アデルミラは豪快にグラスを傾ける。……もう、思考回路はまともに働いていなかった。
「も~、だったら、私はお兄ちゃんよりも有能で素敵な男を、捕まえてやるんだからぁ~!」
せっかく王都に引っ越してきたのだ。ならば、この王都の結婚相談所に登録してやろうじゃないか。今まではロレンシオのことしか考えなかった。彼にしか、想いを寄せられなかった。でも、今は違う。今ならばきっと――ほかの素敵な男性に、目を向けることが出来るだろう。
「どの結婚相談所が良いかなぁ?」
このカリン王国は恋愛至上主義の国だ。そのため、どの街にも出会いの場である結婚相談所がある。ならば、自分もそこに登録して新しい恋を見つけようではないか。アデルミラは、そう考えていた。
「……この王都で一番大きな相談所って……やっぱり、『リナリア』よねぇ」
この王都で最も繁盛している結婚相談所『リナリア』。そこならばきっと、登録している人も多いし、自分が理想とする男性にも出逢えるはずだ。思い立ったが吉日。善は急げ。そんなことを考え、アデルミラは明日結婚相談所に登録しに行くことを決めた。
「……お兄ちゃんなんかよりも、ずっと素敵な男性を捕まえてやるんだからぁ!」
この選択が、諸々間違ったことだとアデルミラが気が付くのは――まだまだ、先の話。
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