【完結】【R18】囚われの令嬢は秘匿の王弟殿下に愛でられる

すめらぎかなめ

文字の大きさ
33 / 44
第4章

ニール・スレイドとフェリクス・ジェフリー

しおりを挟む
 シャノンとキースが王城へとたどり着く。

 ……しかし、そこは驚くほどにがらんとしていた。兵士一人おらず、まるで抜け殻のようだ。

「なぁ、なんかおかしくないか?」

 キースが怪訝そうな表情でそう言って歩くスピードを緩める。だからこそ、シャノンは周囲を見渡した。

 やはり、兵士一人いない。まるで、全員出払っているかのようだ。

「うん、おかしい。……だって、こんなに手薄なわけがないもの」

 ここは王国軍の拠点だ。ここを落とされてしまえば、王国軍は一気に壊滅する。

 それくらいシャノンにもわかっているし、キースだってわかっているだろう。伊達に二年間戦ってきてはいない。

「……罠、か?」

 キースがその人のよさそうな顔を歪めながら、そう零す。……いや、何となく、違う。シャノンには、それがわかった。

(違う。罠というよりも、これは、まるで――)

 そうだ。これは――。

「……早く、行きましょう」

 そう思うからこそ、シャノンはまた駆けだした。後ろからキースの呼ぶような声が聞こえてくるが、それもお構いなしに走る。

(これは、罠というよりは、終わりなのよ)

 そうだ。これは――終わりが近いということなのだ。

 どうして突然終わりが近づいたのかはわからないが、多分――何かが、あったのだ。

「シャノン!」
「キースは後から来てくれたらいいわ!」

 後から走ってくるキースの方を振り返り、シャノンは王座を目指す。

 きっと、あそこには――。

(ヘクターがいる)

 国王ヘクター。彼がいるはずだ。もしかしたら、もうすでに亡き者になっているかもしれないが。

 心の中でそう思うが、シャノンは王城の中を駆けた。おぼろげな記憶を頼りに走っていると、不意に光が見える。

 ……あそこだ。

(フェリクス殿下――待っていてっ!)

 その一心で、シャノンは王城の王座の間に飛び込んだ。

 そして、見えたのは――鮮やかなまでの緑色の髪の人物。彼が目に憎悪を宿し、ヘクターの首元に剣の切っ先を当てている場面だった。

「……フェリクス殿下っ!」

 咄嗟に、彼の名前を呼んだ。そうすれば、彼――ニールがシャノンの方に視線を向ける。彼の目の色は赤だった。

「……シャノン」

 彼がその唇からシャノンの名前を紡ぐ。それはきっと、彼がフェリクスであるという証拠なのだろう。

「フェリクス殿下、お待ちくださいっ!」

 シャノンが彼らの方に一歩一歩踏み出しつつ、ニールに声をかける。すると、彼は眉をひそめた。

「どうして、ここにいる」

 彼の問いかけももっともだ。もう二度と会わない。そう言われて、解放された。

 ニールがそう思うのも当然でしかない。

「私は、フェリクス殿下を救いに来ました」

 彼の方に一歩足を踏み出して、シャノンがはっきりとそう言う。……その瞬間、ニールの目の奥が揺れた。

「……全部、こうするためだったのですね」

 怯え、身を縮めるヘクターを一瞥し、シャノンはニールの顔を見つめた。

 彼の持つ剣の切っ先は、相変わらずヘクターの首元に当たっている。剣を持つその手は、微かに震えていた。

「何が、言いたい」

 ニールが低い声でそう問いかけてくる。そのため、シャノンはゆるゆると首を横に振った。

「何かが言いたいわけではありません。……貴方さまは、ニール・スレイド様は――」

 ――フェリクス・ジェフリー殿下で、間違いないですよね?

 その目に強い意思を宿し、シャノンがニールにそう確認する。

 だからだろうか、ニールは観念したように両肩をすくめた。

「あぁ、そうだよ。ニール・スレイドっていうのは偽名。俺の本当の名前はフェリクス・ジェフリーだ」

 そう言った彼が、シャノンをしっかりと見つめる。その隙を狙ってかヘクターが逃げ出そうとするが、後から追いついてきたキースによって捕らえられていた。……これで、ニールと。いや、フェリクスとしっかりと向き合える。

「……どうして、気が付いた。俺はお前に、ひどいことたくさんしたけれど?」

 彼の言葉の意味は、純潔を散らしたとか、そういうことなのだろう。

「嫌われて当然のことをたくさんした。王国軍としても、生きてきた。こんな俺、お前は幻滅するだろう?」

 唇の端を上げながら、フェリクスがそう告げてくる。なのに、彼のその声はとても震えていた。まるで、嫌われるのが怖いとでも言いたげだった。

「だからな、俺は全部終わらせることにしたんだ」
「……全部」
「この男――ヘクター・ジェフリーを殺して、俺も死ぬ。それが、俺が出来る唯一の償いだからな」

 ヘクターに視線をちらりと向け、フェリクスがそう言い切る。その言葉には真剣さがこもっていた。

「……いいえ。それ以外にも、貴方さまが出来ることはあります」
「ないんだよ」

 シャノンの言葉を、フェリクスが一蹴した。

 そして、彼は天井を見上げた。ボロボロの天井に向かって、「ふぅ」と息を吐く。

「俺が王国軍としてやってきたことは、最低なことだ。だから、俺は自分で、この手で、革命を終わらせる」
「……フェリクス殿下」
「いずれはこうするつもりだったが、俺は汚れすぎたんだよ」

 苦笑を浮かべながら、フェリクスがシャノンを見つめた。その姿に、シャノンは胸を打たれてしまったような気がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

十歳の花嫁

アキナヌカ
恋愛
アルフは王太子だった、二十五歳の彼は花嫁を探していた。最初は私の姉が花嫁になると思っていたのに、彼が選んだのは十歳の私だった。彼の私に対する執着はおかしかった。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

処理中です...