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12話
しおりを挟むようやく祈りの間での1日を終える。
…とはいっても集中していて時間はあまり感じなかったが、だからこそ疲労はピークに達していた。
2日後は更に辛いものになるだろうとぼんやりと思う。
やっとの思いで自室に着くとベッドに倒れ込む。
「チヨ様、何かお持ちしましょうか」
エマが控えめに聞いてくれる。
空腹はとうに過ぎ去り、疲れ過ぎて食欲も湧かない。
しかし何かは入れておいた方がいいだろう。
うどんやお粥が恋しい。
「…何か…軽いものが欲しいわ。食欲もあまり無くて…」
「かしこまりました。すぐにお持ち致します」
「湯浴みの準備をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「ありがとう、モニカ。お願いします…」
本当はすぐに眠りたいくらいだけど、汚れは落としたい…そう思いながらもチヨの瞼はゆっくりと落ちてしまった。
———————
ここはどこだろう?
誰かが泣いている。
「ああ!憎い!!みな死ねば良いのだ!死ね死ね死ね…死んでしまええええ」
酷く嫌な言葉だ。俯いていて表情は分からないが、どうやら本人は泣いているらしい。
服装を見るに王のようだが、どうも違う。
「滅べ!!!滅べ!!」
バッと顔を上げたその顔は知らない顔だった。
チヨは駆け寄ってみた。
「大丈夫ですか?あの…」
絶対に大丈夫ではないのだが、他にかける言葉が無い。
「あは…ははははは!!!!恨んでやる!全ての者を恨むぞおおお…」
その異常さに戦慄する。
目の焦点も合っていないし、口の端から涎が垂れている。
チヨが絶句していると後ろから声が聞こえた。
「王よ…」
悲しさが滲んだ、とても辛そうな声だった。
振り返ると40代半ば頃の男性が王と呼んだ人を見つめていた。
どうやらチヨは2人に見えていないらしい。
「…なんだ、用か?このような王に?死ねばいいんだろ?なぁ!死ねばいいんだろ!?いや、お前が死ね!」
チヨが言われているわけでは無いのに心が苦しい。
もう聞きたくないと耳を塞ごうとしたとき、小さな声が届いた。
「…たすけれくれ…もう嫌なんだ、俺は王だ、みんなの幸せをねがっているんだ…それなのに……こんな…いやだ、みんないきてほしい……」
「王」は絞り出した微笑みを男性へ向ける。
それを見た男性は顔をくしゃくしゃにさせて、それでも顔を背けたりはせずに泣き出した。
「なぁ…おねがいだ…おれをころしてくれないか……もうだめだ…たのむ…」
「いや、です…っあなたを殺すことなど出来ません!!!」
「……じゃあ……命令だ。こんなめいれい…さいごだから、おれをたすけれくれるか…」
「っ…そんな…なんでこんな……もう道はないんですかっ…」
「ない…な、もう時間、がない。俺がおれでいる間に……たのむ……」
男性は目をギュッと瞑り、ゆっくりと開けた。
「ルゥナ帝国の…最初の王。偉大なる王。私は…あなたに…仕えることが出来て幸せでした…っ来世では今度こそ守り抜きます…そのときはまた側にいることを、お許し下さい…」
その言葉を聞き満足気に「王」は微笑んだ。
表情を見届けた男性は剣を振りかぶった——
「だめっ」
しかし、言葉は届くことなく視界が暗転した。
————————
「チヨさま?大丈夫ですか?」
エマとモニカの2人が心配そうに覗き込んでいた。
汗と涙を拭われる。
「かなりうなされておいででしたが…」
「…初代の王様の…夢を見たの」
2人がハッと息を呑む。
「それは…」
「ルーカスさんに聞いていたけど、それよりもずっと苦しそうで葛藤があって…今代の王様も…今ああやって苦しんでるのかな?って考えてしまって…」
沈痛な面持ちでエマが言う。
「…チヨ様には辛い思いばかりで申し訳ありません…」
「それは…もういいの。なんならこんなおばあちゃんでもまだ役に立てるんだって今は思ってる!…だからね、頑張って早く王様助けてあげたいなぁって」
チヨのその言葉にエマとモニカは微笑んだ。
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