黒薔薇の刻印 ~死ぬほど愛される、重すぎる愛の逆ハーレム~【ダークファンタジー】

ALMA

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第1部:鮮血の王冠

第6話:王太子の歪んだ執着

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 俺は、自室の革張りの椅子に深く沈み込んでいた。
 ギリッ、と奥歯を噛み締める音が、静まり返った部屋に響く。

「クソッ……!」

 ドンッ!
 拳でマホガニーのテーブルを叩きつける。
 衝撃でグラスが倒れ、高価な赤ワインが書類の上にどす黒く広がった。
 ふと、部屋の窓ガラスに映る自分の顔が目に入った。
 太陽の輝きを独り占めにしたような、眩いブロンド。サファイヤよりも深く、叡智を湛えた碧眼。
 
 ……ああ、美しい。
 鏡の中の自分と目が合うだけで、恍惚としてしまう。
 世界はこの顔立ち、この血統にひざまずくためにあるのだ。
 俺は、王太子エルネスト・ディ・ローゼンハイム。神に祝福され、全ての女に愛される男。
 この俺が、なぜこんな不愉快な思いをしなければならない?

 数週間前までは、全てが順調だった。
 父である国王は病床にあり、自分が王位を継ぐのは既定路線だった。
 弟のアルカディアスなど、陰気で華のない能無しの王子。俺の引き立て役にもならないゴミ屑だったはずだ。

 ――あの日、リリアーナが失態を犯すまでは。
 あの聖女気取りの女を庇護していたせいで、俺の評価まで地に落ちた。
 まあいい、あんな尻の軽い女はもう飽きた。捨ててしまえばいい。
 問題は、ロゼノアだ。
 聖女の力が目覚めたあの女が、あろうことか弟の側についている。ふん、当てつけか。

 ククッ、と喉の奥で笑いが漏れた。
 いじらしいじゃないか、ロゼノア。
 俺に冷遇されたのが寂しくて、わざわざ弟を利用して俺の独占欲を煽ろうとするとは。
 そんなに俺に「しつけ」られたいのか?
 
 可愛い奴め。そんなに俺が恋しいか。
 俺になびかない女など、この世にいない。ましてや婚約者なのだ。
 少し冷たくしすぎたか。そろそろ飴を与えて、たっぷりと愛してやろう。

 俺はロゼノアを自室に呼び出した。
 名目は『貧民街視察に関する緊急報告』。
 夜の呼び出し。これだけで、彼女も「期待」して来るはずだ。

 控えめなノックの音。
「入れ」
 重厚な扉が開き、ロゼノアが入ってくる。

 レディッシュゴールドの髪、アメジストの瞳。
 以前の堅苦しい「公爵令嬢」の殻が破れ、内側からむせ返るような色気が漂っている。
 その後ろには、侍女のマリエも控えていた。
 切り揃えられた黒髪のボブに、起伏の乏しい細身の体躯。そして、精巧な蝋人形のように感情の読めない顔。
 華やかなロゼノアとは対照的な、地味で陰気な女だ。

「エルネスト殿下。失礼いたします。『貧民街の件』でお話があるとか」
 声は、氷のように冷たく冷静だ。

(この女……以前とは違う)

 生意気な。だが、その冷たい目で見下ろされると、背筋がゾクリとする。
 かつてのすましただけのつまらない女が、今はこんなにも「雄」を刺激する目をするとは。

 部屋の隅には、俺の世話係である侍従が控えていた。
 だが、俺は侍従と、あの陰気な侍女に視線を向け、冷たく言い放った。

「下がれ。人払いだ」
「……殿下? しかし、私の役目が……」

 侍従が困惑して口を挟む。融通の利かない奴だ。
 ロゼノアの眉がピクリと動く。

「聞こえなかったのか? これは王家の不祥事にも関わる機密事項だ。お前などに聞かせるわけにはいかない」
「は、はい……失礼いたしました」

 俺のもっともらしい嘘に、侍従は慌てて一礼して下がった。
 ロゼノアの侍女も、主人の顔色をうかがっている。ロゼノアが小さく頷くと、不承不承といった様子で部屋を出て行った。

 バタン。

 扉が閉まり、完全に二人きりになる。
 鍵などかけていないが、王太子の命令だ。誰も入ってこない絶対の密室。
 俺は余裕たっぷりの笑みを浮かべ、手招きした。

「立ち話もなんだ。座ってくれ」
 ロゼノアは、一瞬ためらった後、ソファに浅く腰を下ろした。

 その表情は硬い。
 ふふ、緊張しているのか。俺の色香に当てられて、どうしていいかわからないらしい。

「貧民街へ行ったそうだな。危険な真似を」
「はい。聖女として、民を救うのは義務ですので」
「強がるな。本当は、俺に褒めてほしかったのだろう?」

 俺は彼女の隣に座り、その肩を抱いた。
 甘い、極上の香水の匂い。いや、これは彼女自身の体臭か。脳髄が痺れるようないい匂いだ。

「……リリアーナなどでは役不足だ。お前こそが、この国の王妃にふさわしい」
「……恐れ入ります」
「遠慮するな。お前だって、本当は俺の腕の中に戻りたくて、うずうずしていたはずだ」

 俺は彼女の太ももに手を置いた。
 ドレスの上からでもわかる、柔らかな弾力。
 ロゼノアがビクリと身を震わせ、俺の手を払いのけようとする。
 
「エルネスト殿下! ……離してください。公務のお話ではないのですか」
 強い口調。拒絶の眼差し。

 だが、俺にはわかっていた。これは「焦らし」だ。
 貞淑な公爵令嬢としてのポーズ。本当は嬉しくてたまらないくせに、簡単に体を許しては軽い女だと思われると恐れているのだ。いじらしい奴だ。

 俺は余裕の笑みを深めた。
 嫌よ嫌よも好きのうち。俺ほどの男に迫られて、本気で拒む女がいるわけがない。

「公務だよ。次期国王の世継ぎを作るのは、立派な公務だ」
「殿下……!」
「そんなに怖い顔をするな。……こんなに熱くなっているじゃないか」

 俺の指先が、ドレスの滑らかな生地越しに、太ももの柔らかな肉に食い込む。
 そこから腰、背中へと、形を確かめるようにねっとりと這い上がる。
 ロゼノアは抵抗するが、その力は弱々しい。これは、快楽に抗えない震えだ。

「ロゼノア。素直になれ。お前は、俺のものだ」
「ぁっ……!」

 俺は彼女の手首を軽くひねり、ソファへ押し倒した。
 覆いかぶさると、豊満な胸が目の前にある。
 興奮に上下する二つの果実。

「殿下、やめて――!」
「『やめて』じゃないだろう? 『もっと』だろう?」
 俺は彼女の胸の谷間に、顔をうずめた。
 
「いやっ、離して……ッ!」
 柔らかい肉の感触。むせ返るような甘い香り。
 俺は鼻を押し付け、深く、長く息を吸い込んだ。
 最高だ。この反応、この震え。俺に支配される喜びに打ち震えている。

「はぁ……たまらないな。アルカディアスのようなガキでは、お前のこの欲求不満な体は満たせまい」
「殿下! お願い……!」
「いい声だ。もっと俺の名を呼んで啼け」

 焦らす必要もない。彼女も限界のはずだ。
 もがく彼女の抵抗など、快楽のスパイスにしかならない。

「……この間の続きだ。お前も待っていたんだろう……」
「は……ぁっ……」
 俺の湿った舌が、ドレス越しにその胸の突起を執拗に責めると、彼女の背中がビクンと跳ねた。次はくちびるでその先端を挟む。
「や……んッ……」
 これほど敏感に反応するとは、やはり体は正直だ。

「どれ……聖女の『中身』は、どうなっているのかな」
 俺の手がドレスの裾を強引に掴み、無遠慮に捲り上げていく。
 露わになる足首、白磁のようなふくらはぎ。
 視線だけでそこを犯すようにねめ回しながら、俺は喉を鳴らした。

「やめ……見ないで……!」
「恥ずかしがることはない。俺は全てを受け入れてやる」
 ロゼノアが必死に足を閉じようとするが、俺は笑いながらその膝を割った。
 抵抗すればするほど、征服する快感が増す。
 そして――露わになったのは。

「……ほう」
 暗がりの中でなお眩い、内側から光るような真珠色の肢体。触れれば指が沈み込むような、とろりとしたミルクのような白さだ。
「なんて……」
 俺の喉がゴクリと鳴る。
 美しい。そして、背徳的だ。
 この美貌も、この聖女の力も、この極上の体も。すべては俺のためにあつらえられたものだ。

「素晴らしい景色だ、ロゼノア。顔は聖女だが、身体はこんなにも淫らじゃないか。俺に見られるのを待っていたんだろう?」
 俺はその白い太ももを、大きな手でゆっくりと撫でまわした。吸い付くようなしっとりとした肌が、俺の手のひらに馴染む。

「くっ……」
「ここに俺のすべてを刻み込んでやる。泣いて喜べ――」
 俺がさらなる暴挙に出ようとした、その時――。

 バアアァァン!!
 扉が、蝶番が外れんばかりの勢いで壁に叩きつけられた。

「――ッ!?」

 不躾な殺気。
 入り口に立っているのは、黒髪の騎士。

「――殿下、そのけがらわしい手を離してください!」

 ユリウス・ノヴァ。弟の騎士団長。
 普段の冷静さは消え失せ、氷のように冷たい瞳の奥で、激情の青い炎が燃え盛っている。

(この男……!)

「下がれ、下郎! 王太子の部屋に無断で入るとは、不敬罪だぞ」
「ロゼノア様の身に危険が迫っていると判断しました。不敬を承知で、介入いたします」
 ユリウスが一歩踏み出す。
 俺はチッ、と舌打ちをして、ロゼノアの太ももから手を離した。
 気圧されたわけではない。決して。

「ユリウス!」
 ロゼノアが転がるようにソファから離れ、捲り上げられたドレスを直しながら、ユリウスの背後に駆け寄る。
 乱れた髪、紅潮した頬。息が上がっている。

「大丈夫ですか、ロゼノア様」
「ええ……ありがとう……」
 ユリウスがロゼノアを背に庇う。

「エルネスト殿下。……私はこの命に変えてもロゼノア様をお守りいたします。たとえ相手が、どなたであろうとも」

 ユリウスが静かに言い放つ。
 その必死な形相。滑稽だ。
 王太子の俺に勝てるわけがないのに、必死に噛み付こうとする負け犬の目だ。

「……フン。野暮な男だ。お前、ロゼノアに惚れているのか――?」

 俺の言葉に、ユリウスが僅かに動揺したようだ。
 お前など目じゃないが、邪魔なやつだ。そのうち弟と共に始末してやる。

「まあいい、興が削がれた。出て行け」

 二人が出ていった後、俺は椅子に座り直し、ニヤリと笑った。思い返すだけで、下腹部が痛いほど張り詰める。
 聖女なんて、笑わせる。
 俺に抱かれたくない女などいない。
 今日は邪魔が入ったが、次は逃がさない。
 泣き叫びながら、俺の名前を呼び、許しを乞うまで徹底的に愛してやる。
 ロゼノア。お前は俺のものだ。俺以外の男になど、満足させられるはずがないのだから。

 どんな手を使っても――必ず、堕としてやる。
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