黒薔薇の刻印 ~死ぬほど愛される、重すぎる愛の逆ハーレム~【ダークファンタジー】

ALMA

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第1部:鮮血の王冠

第10話:黒き薔薇の刻印

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 国王夫妻の毒殺。しかも王太子エルネストが犯人だという噂が王都を駆け巡り、国中が混乱に陥った。
 恐怖、怒り、そして嘆きが渦巻く。

 だが――
(全て、予定通り)

 アルカディアスは、次期国王として、私の指示の下、粛々と王宮内の整理を進めている。反対派の貴族は口を閉ざし、王宮は静まり返っていた。

「ロゼノア」
 執務室で、窓の外を見ていた私の背後から、アルカディアスの声がした。

「――っ!?」
 振り返ろうとした瞬間、強い力で、背後から抱きすくめられた。
 逃げる隙などない。彼の太い腕が私の腰に回り、決して拒絶を許さない強さで、身体を密着させる。

「……やっと捕まえた」
 耳元で、甘く濡れた声が響く。
 同時に、さらりと一筋、彼の長い銀髪が私の首筋に零れ落ちた。
 ひやりとした髪の感触が、熱い吐息と共に肌をくすぐる。

「陛下……?」
「ああ、いい匂いだ……。君からは、甘くていやらしい匂いがする」

 彼は私のうなじに顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
 スーッ、ハァ……。
 執拗で陶酔した吐息が、首筋を撫でる。
 そして、ぐい、と腰を引き寄せられた。

 ――ドクリ。
 背後から、私の体に沿うように、熱く硬いものが押し当てられる。

「……っ! 陛下、こんな状況で……」
 私が息を呑むと、彼は嬉しそうに喉を鳴らした。
 そして、腰に回されていた手が、蛇のように音もなく這い上がり――私の胸を、ドレスの上からふわりと包み込んだ。

「んっ……!?」
「ロゼノア。……感じているのかい?」
 大きな掌が、たわわな膨らみの重みを確かめるようにゆっくりと揉みしだく。
 そして、布越しに、尖り始めた先端を指先でクリクリと執拗に弄った。
「ぁ……っ、ダメ、です……っ!」
 甘い痺れが走り、思わず声が漏れる。
 背中には硬い熱、胸には這い回る指。前後から責められ、私は彼の腕の中で溶かされていくようだ。

 重臣会議の直前だというのに。
 彼の内側では、私への独占欲が抑えきれないたかぶりとなって渦巻いている。

「ねえ、ロゼノア。会議なんて中止にしないか?」
 彼が私の肩に顎を乗せ、横から覗き込んでくる。
 美しく流れる銀髪の隙間から、爛々らんらんと輝く金色の瞳が、至近距離で私を射抜いた。

「この扉に鍵をかけて、誰にも邪魔されず……君を愛したい……」
 胸を弄る指が、さらに強く食い込む。
 かつての従順な子犬ではない。背後にいるのは、美しく成長した、飢えた捕食者だ。

「……いけません、陛下。皆様がお待ちです」
 私は努めて冷静な声を出して、彼の腕を解こうとした。
 その時だ。

 コンコン、コンコン。
 無機質なノックの音が、部屋の空気を裂いた。
「陛下。まもなく会議のお時間ですので――」

 扉の外から侍従の声がかかる。
 背後の熱は限界まで膨れ上がっているというのに。

「……チッ。邪魔が入ったな」
 彼は私の耳元で、露骨に舌打ちをした。
 だが、最後にもう一度、私のうなじに噛みつくような強い口づけを落とすと、ようやく拘束を緩めた。

「……仕方ない。我慢する。君のためなら」
 彼は歪んだ笑みを浮かべ、乱れた私の髪を指で梳いた。


 王宮内で、緊急の御前会議が開かれた。
 重臣たちが、深刻な顔で口々に意見を述べる。

「エルネスト殿下は、王位剥奪の上、処刑が通例です」
「リリアーナは、不敬罪と公的な活動の怠慢、そしてエルネスト殿下との不適切な関係の容疑で、重い処罰が妥当でしょう」

 そして、ある大臣が声を荒らげた。
「それから、あの場にいた毒味役です! 猛毒を見逃すなど万死に値する! 即刻、極刑に処すべきかと!」

 その場の空気が張り詰めた。
 だが、玉座のアルカディアスは、頬杖をついたまま退屈そうに口を開いた。

「毒味役か。……いや、処刑はしなくていい」
「は? しかし陛下、彼の失態で先王陛下が……」
「彼は『ワインに毒が入っていないこと』を正しく証明した。無実の罪で殺すのは寝覚めが悪い」
 アルカディアスは、薄く笑った。

「追放処分でよい。王都から追い出せ。……二度と私の視界に入らないようにな」
「は、はい……! なんと慈悲深いご判断……!」
 大臣たちは恐縮して頭を下げた。
 私は背筋が寒くなるのを感じた。

 慈悲ではない。彼にとって毒味役など、生かそうが殺そうがどうでもいい「路傍ろぼうの石」に過ぎない。ここで王の寛大さを見せつけておこうというのだろう。その計算高さが、逆に恐ろしい。

「エルネストは処刑する。……慈悲は無用だ」
 アルカディアスの声が、氷のように冷徹に響く。

「ただし、聖なる儀式の前に穢れた血を見るのは縁起が悪い。……婚礼の儀がすべて終わり次第、執行せよ」

「リリアーナの処遇はロゼノアに一任する。……以上だ」
 アルカディアスが立ち上がり、会議は終わった。
 私はその背中を見つめたまま動けなかった。

(アルカディアスは変わった……王に即位してから)

 私の知る、あの従順で優しいだけの青年はもういない。
 王という立場が彼を変えたのか、それとも――元々、彼の中に眠っていた「狂気」が目覚めただけなのか。
 今の彼には、誰にも踏み込めない冷たい威圧感があった。


 会議の後、私はリリアーナが軟禁されている「北の塔」へと向かった。
 暗く、ジメジメした石造りの廊下。かつて彼女がいた煌びやかな世界とは真逆の場所だ。
 重厚な鉄の扉には、小さな監視用の格子窓がついている。私はそこから、中を覗き込んだ。

 粗末なベッドに、薄汚れた姿のリリアーナが腰掛けている。
 私の気配に気づくなり、彼女は檻の中の猿のように格子窓に飛びついてきた。

 ガンッ!
 鉄格子を掴む指が白く変色するほど、力強く。
 
「ロゼノア! 全てあんたの仕組んだ罠なのね! 国王陛下と王妃を殺したのも、あんたでしょう!」

 プラチナピンクの髪は乱れ、水色の瞳は憎悪に濁っている。もう、儚げな美少女の面影は微塵もない。

「あら、随分と元気そうですね、リリアーナ。ここは居心地が良すぎるのかしら」
 私は、冷ややかな視線を投げかけた。
「毒殺なんて、わたくしがするわけないでしょう……証拠はあるの?」
「黙りなさい! あんたなんて、偽物の聖女よ!」

「偽物?」
 私は、くすりと笑った。
「あなたは階段から、わたくしを突き落とし殺そうとした。……でも恨んでないわ」
 私は、リリアーナの顔を慈悲深く見つめた。
「逆に感謝しているのよ。あなたのおかげで私は王妃になれる。だから、あなたを処刑しない」

「な、なによ……どうするつもり……?」
 私の余裕に、リリアーナの声が震え始める。
「あなたには、特別な奉仕活動をさせてあげる。国のために体を張って働くのよ」
「ど、どういうこと……!」
「そうね……」
 格子越しに、怯えるリリアーナの顔を覗き込む。

「兵士たちの慰安のために、最前線の娼館にでも行ってもらおうかしら。あなたのその可愛らしい体なら、きっと大人気になれるわ」
「ひっ――!」
 リリアーナの顔が、土気色になる。
 ガタガタと震えだし、その場にへたり込んだ。

「ふふ、なんて顔するの。冗談よ」
 私は、くるりと背を向け歩き出す。
「あはは……」
 勝者の笑みを残し、私は階段を下りていった。

「ロゼノォアァァ――ッ!! 悪魔! この悪魔ぁぁっ!!」
 背後からリリアーナの絶叫が響いたが、私は振り返らなかった。

 死ぬよりも辛い屈辱と恐怖の中で、精々怯えて暮らせばいい。


 *

(そろそろ時間だわ)

 これから、聖女として王国の守護と安寧を祈る儀式が行われる。
 これにより、私は王国の最高権威である「聖女の玉座」を確固たるものにする。名実ともに、この国の支配者となるのだ。
 私は、王宮の最深部に位置する「八芒星はちぼうせいの間」へと向かった。
 そこは、代々聖女しか入室を許されない神聖な場所。
 
 重い扉を開けると、空気が濃密な魔力に満ちていた。
 私は、「王国の涙」の冠を戴き、魔法陣の中央に跪いた。
 そして、祈りを捧げ始める。

 その瞬間。
 私の体内の聖女の力が、八芒星の間に満ちる古代の魔力と共鳴し始めた。
 温かい光が、私の全身を包む。

(全てが、私の手の内にある)

 王国の支配は、完了した。
 邪魔者は消えた。王は私の傀儡。騎士団も裏社会も手に入れた。
 全て、私の思い通り。

(これで、完璧だわ――)

 私の傲慢で支配的な黒い感情が、最高潮に達した、その時だった。

 ドクンッ――!!
 心臓が早鐘を打った。
 聖女の癒やしの光が、一瞬にして変貌する。
 黄金の光が濁り、黒薔薇のような赤黒い光が放出される。

「―― あっ、あぁっ!?」
 私の左腕に、焼けるような激痛が走った。
 まるで、熱した鉄を押し付けられたような、あるいは肉を抉られるような痛み。
「な、なに……!?」
 私は急いで袖をまくり、腕を確認する。
 そこには――
 漆黒の、禍々しい一輪の薔薇の紋様が、肉に絡みつく茨のように、白い皮膚の上に鮮やかに浮かび上がっていた。
 ズキズキと熱を持って脈打っている。

(これは……!?)

 脳裏に、あの「黒薔薇の書」の言葉が蘇る。

『黒薔薇の刻印――真の支配者たるものに現れる』
『失われし命を繋ぎ止める、禁断の術……』

(あの本の……刻印!?)

 私は、紋様を見つめ、戦慄した。
 こんなもの、原作ゲームのシナリオにはない。聖女の力が暴走する? 呪いの刻印?
 そんなイベント、どこにもなかったはずだ。

(何が起きているの……?)

 背筋に冷たいものが走る。
 私は、急いで袖を下ろした。誰にも、見られるわけにはいかない。
 深呼吸をし、乱れた心を無理やり落ち着かせる。

(大丈夫。……私はロゼノアよ。何が起きても、対処してみせる)

 私は、八芒星の間を後にした。
 通路を歩きながら、左腕を強く押さえる。痛みは引かない。
 だが、その痛みと同時に、体の奥底から得体の知れない力が湧き上がってくるのを感じた。

 この先の世界は、私の知らない世界?
 ゲームの知識はもう通用しない?
 ならば、この黒薔薇が意味するものは――破滅か、それとも新たな力か。

 私は、窓の外を見た。
 月が厚い雲に隠れ、世界が闇に沈んでいく。
 不吉で、それでいて、ひどく甘美な夜だった。
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