黒薔薇の刻印 ~死ぬほど愛される、重すぎる愛の逆ハーレム~【ダークファンタジー】

ALMA

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第2部:黒薔薇の刻印

第18話:路地裏の情事

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 今日は気晴らしを兼ねて、ユリウスを連れ、お忍びで外出した。
 アルカディアスが遠征で城を空けている隙を見計らってのことだ。

(たまには息抜きをしないとね)

 街で評判の菓子店に寄り、侍女マリエへの土産を買う。
 ユリウスと二人で外出など、こんな機会はもう二度とないかもしれない。
 一歩下がって歩くユリウスは、「忠実な騎士」の殻に閉じこもっている。せっかく二人きりだというのに、護衛に徹して私と目を合わせようともしない。

(もう……根負けしそうだわ)

 気ままに歩いていると、いつの間にか街外れに出た。この先は貧民街と呼ばれた地域。

(そういえば、ザックはどうしているかしら?)

 舗装が進み、清潔になった貧民街の奥へ進む。
 辿り着いたのはザックの家。
 扉を叩くと、すぐに中からドタドタと荒々しい足音が近づいてきた。

「誰だ! 何の用だ――!」

 扉が勢いよく開かれ、貧民街の顔役、ザックが現れた。
 ボサボサの黒茶色の髪、頬に刻まれた深い古傷。不機嫌そうに眉を寄せた顔。
 だが、彼は私を見た瞬間、その表情を一変させた。

「……ッ、ロゼノア様!?」
 驚きと歓喜、そして畏怖が入り混じった顔で、彼は慌ててその場に片膝をついた。

「よ、よくぞお越しくださいました! あ、足元が汚くて……! どうぞ、中へ!」
「ふふ、顔を上げて、ザック」

 私が微笑むと、ザックは顔を真っ赤にしてうつむいた。
 その反応は、とても分かりやすい。彼は私を崇拝し、同時に一人の「女」として意識している。
 ……ユリウスにはない、素直な熱情。
 その時、私の胸に黒い感情が芽生えた。

「ユリウス――」
 私は、背後に控える騎士を振り返った。

「外で待っていて」

「……ロゼノア様?」
「少し、ザックと二人で話があるの。外で警護をお願いするわ」

 ユリウスの眉が、ピクリと動いた。
 こんなあばら家に、王妃を一人で、しかも男と二人きりにするのか。護衛としてあり得ない命令だ。
 だが、彼は反論しなかった。

「……承知しました」
 感情を殺した声。深く一礼し、扉の横で彫像のように直立する。「行かないで」とも、「俺がいます」とも言わない。ただ命令に従うだけの人形。

(……そう。あなたはあくまで、騎士として振る舞うのね)

 私は諦めにも似たため息を噛み殺し、ザックの家へと足を踏み入れた。
 家の中は質素だが、清潔に整えられている。
 ザックはおろおろとしながら椅子を勧めてくるが、私は部屋の隅、窓ぎわにある粗末な寝台に腰をかけた。
 ギシッと軋む音が響く。
 
「ロゼノア様……あの、俺なんかに何かご用命でしょうか? 誰か消してほしい奴でもいれば、すぐに……」
「ううん、違うの」
「じゃあ、情報ですか? 実は最近、妙な動きをする奴らを見つけて――」

 役に立とうと必死な彼を遮るように、私は立ち上がって、人差し指を彼の唇に当てた。
「仕事の話はあと。……ザック、こっちへ来て」

 私が手招きすると、巨漢の男が吸い寄せられるように近づいてきた。
 私の前で膝をつき、見上げるダークブラウンの瞳。そこには隠しきれない情熱と、崇拝の炎が宿っている。

「俺は……俺は……」
「わかっているわ」

 私はそっと彼の手を取った。
 日に焼けて浅黒く、無数の傷と硬い豆がある無骨な手。
 泥にまみれ、生きるために必死に戦ってきた男の手。
 私は、その手を自分の頬に寄せた。

(……なんて温かいの)

 ユリウスはいつも涼しい顔で、義務のように私に手を差し伸べる。
 けれど、目の前の男は違う。全身全霊で私を求め、触れられる喜びに打ち震えている。計算も駆け引きもない、真っ直ぐな熱。
 私はザックの耳元に、内緒話のように囁いた。

「いつも私のために働いてくれる、可愛いあなたに……ご褒美よ」
「え……?」
「この時間は、あなたのものよ」

 私は寝台に身を横たえた。
 レディッシュゴールドの髪が広がる。
 ザックは息を呑み、そしてすがるように私に覆いかぶさった。

「ロゼノア様……い、い、いけません……俺なんかが……」

 そう言いながら、ザックは私から離れることができない。
 本能が、理性を凌駕りょうがしている。

「ザック。……私を愛して」
 彼を抱き寄せ、命令するように囁いた。
 私の心をむしばむ孤独と寒さを、この男の無骨な優しさが溶かしてくれる気がした。

「あぁ……ロゼノア様、女神様……!」
 ザックの太い腕が私をきつく抱きしめる。彼の唇が、私の唇に触れ、首筋から胸元へと、祈りを捧げるように、けれど飢えた獣のように這いまわった。

「ん……くすぐったいわ」

 私は思わず甘い声を漏らした。
 ザックは、まるで神聖なものに触れるかのように、震える指で私の胸のボタンを外し、ドレスを大きくはだけさせた。
 露わになった乳房に、彼は熱っぽいため息を吐く。

「綺麗だ……なんて白い肌なんだ……」
「ふふ、そんなに見ないで」
「無理です。……眩し過ぎて、目が潰れそうだ。いや、潰れてもいい――ずっと、こうしたかった……」

 彼は私の胸に顔を埋め、赤ん坊のようにむさぼった。
 私の胸の突起を、愛おしそうに舌で転がし、しゃぶりつくす。
 その必死さが、アルカディアスの傲慢な愛撫とは違う「熱」となって、私の冷えた体をうずかせる。

「はぁ……っ、ザック……」
「ああ……きれいだ……ロゼノア様!」

 彼の唇が、名残惜しそうに胸から離れ、腹部へと滑り落ちていく。
 熱い吐息が、へその周りをくすぐる。
 太い指が、ドレスの裾から太腿を這い上がってきた。そのざらついた感触が、私をぞくりと感じさせた。

「んっ……ぁ」
「……こんな、繊細なレース……俺の指じゃ破いちまいそうだ」

 彼は私の秘所を覆う薄い絹の下着に触れ、震えていた。
 王宮御用達の最高級品。彼にとっては、触れることすら罪深い代物だろう。

「構わないわ。……邪魔でしょう?」
 私が許可を出しても、彼はすぐには脱がそうとしなかった。
 代わりに、その布地に顔を埋め、鼻をひくつかせた。
「……なんて甘い匂いだ……」
 彼は、私の秘所から立ち上る雌の香りを、肺いっぱいに吸い込んだ。

(か、嗅いでるの!?……恥ずかしい……)

「ザック……?」
「頭がどうにかなりそうだ……」
 彼は陶酔したように呟くと、湿った布地の上から、自身の唇をじわりと押し当てた。

「ひゃうっ……!」
 私は思わず、情けない声を上げた。
 薄い絹一枚を隔てて、彼の熱い唇の形と、荒い鼻息がダイレクトに伝わってくる。
 愛撫よりも生々しいその感触に、私の秘部がキュンと収縮し、蜜を溢れさせた。

「あっ、や……んっ、そこ……!」

 敏感な場所に熱を吹きかけられ、私はビクリと腰を跳ねさせた。
 その反応を見たザックの目が、ギラリと光る。

「……そんな声を聞かせないでください。もう、我慢がきかない」

 ブチッ、と布が悲鳴を上げる音がした。
 彼はもう丁寧さをかなぐり捨て、強引に下着を引き下ろした。
 露わになった秘所に、ギラついた視線が突き刺さる。

「きれいだ……濡れて、光ってる……」
 彼は私の秘部を見つめ、喉を鳴らした。

(ダメよ、そんなに見ないで……)

「……たまらねえ。あんたの全部、俺の舌で溶かしてやる」
 彼は私の股間に顔を埋め、ただひたすらに吸い付き、舐め上げてくる。

「あっ……んぅ……!」
(うぅ……なによ、これ……すごい)

 ただの情事のつもりだった。彼に夢を見せてあげるだけの、退屈しのぎのはずだった。
 けれど、私の意思とは無関係に体が疼き、彼の頭を押さえつけてしまう。

「ザック、はぁ、もう……お願い。……きて」
「ッ! い、いいんですか……俺の、こんな汚いのが……」

 私は、ザックの張り詰めた股間を指で撫で上げ、彼のズボンを下ろした。

 大きい。
 予想していたよりも遥かに、彼のそれは凶悪なサイズだった。しかもたけり狂っている。
 私がその強大なくさびの先端ににチュッと口づけすると、彼はビクンとなり、私をまた押し倒す。

「か、がまんできねえ――!!」
 私の両膝を大きく開くと、彼は唾を飲み込み、自身の猛り狂った欲望を押し当ててきた。
 先端が入り口を割り、自身の場所を主張する。

 私が「支配者」として振る舞えたのは、ここまでだった。

「――っ!?」

 ズプ、と音がして、熱いくいが私の中に侵入してくる。

「あ……っ、んぅ……! あっ、つ……!」
「くぅ……ッ、ロゼノア様……熱い、きつい……!」

 彼のものは無骨で、容赦がない。
 それが私の奥へとえぐるように突き進み、最も敏感なスポットをグイグイ刺激する。
 身体が裂けそうなほどの充満感。

 ギシッ、ギシッ。
 彼が腰を振り始めると、私は声を抑えられなくなった。

「あぁっ、すごい……ザック、あぁんっ……っ!」
「ロゼノア様、ロゼノア様ッ……!」

 彼は私の名前をうわ言のように呼びながら、獣のように突き上げてくる。
 テクニックなどというものではない。ただ本能のままに、奥へ、奥へと種を植え付けようとする雄の動き。
 その圧倒的な質量と熱量に、頭が真っ白になる。

「はあぁんッ――! ああッ!」
(だめ、おかしくなる……! こんなの、初めて……!)

 泥臭い汗の匂い。男の体臭が私の鼻腔を満たし、脳を麻痺させる。
 私はいつの間にか、自分から彼の背中に爪を立て、脚を絡めていた。
 王妃としてのプライドも、聖女としての理性も、この寝台の軋み音と獣の息遣いの中に溶けていく。

「ああぁ――ッ! やんッ……はぁ、だめぇ……ッ!」

 私が髪を振り乱してあえぐと、ザックはさらに興奮し、腰の動きを速めた。
 もう、彼をコントロールすることなどできなかった。


 *

 一方、扉の外。
 ユリウスは、壁に背を預けて目を閉じていた。
 だが、聴覚を閉ざすことはできない。
 薄い壁一枚隔てた向こうから、地獄のような音が響いてくる。
 リズミカルな軋み。
 肌と肌が激しくぶつかり合う、湿った音。
 そして。

『あぁんっ、いい……! そこ、ああぁ……っ!』
『ロゼノア様、ああっ、中が……すごい……ッ!』
『もっと……ザック、あなたの熱いの、ちょうだい……ッ!』

「――っ!」

 ユリウスの手が、剣の柄を握りしめる。無意識に歯を食いしばっていた。あの男を殺してやりたい――。

(なぜだ……)

 王ならばまだ、諦めもつく。
 だが、相手は泥水をすすって生きてきたような、貧民街の男だ。
 そんな男に、あの高貴なロゼノア様が、あんなみだらな声でねだっている。

(許せない……)

 腹の底から、どす黒い感情が湧き上がる。
 それは嫉妬を超えた、強烈な「憎悪」と、何よりも深い「敗北感」だった。
 あの男は今、ロゼノア様と一つになっている。
 自分は騎士団長だが、ここではただの「番犬」だ。
 その距離が、今は永遠のように遠く感じられた。

『あぁぁーーッ!!』
 甲高い絶頂の悲鳴と共に、ザックの低い唸り声が重なる。
 やがて静寂が訪れた。

 ユリウスは唇を噛み切り、口の中に広がる血の味を感じながら、虚空を睨みつけることしかできなかった。


 *

 数刻後。
 私は乱れたドレスを直し、寝台に座るザックに向き合った。
 彼は名残惜しそうに、けれど満足げに私を見つめている。

「……夢のようでした。一生の思い出にします」
「ふふ、大袈裟ね」
「いいえ。……そうだ、ロゼノア様。これを」
 ザックは枕元から、大切に保管していた一枚の羊皮紙を取り出した。

「さっき言いかけた、妙な動きをする奴らの隠れ家です。……どうやら、背後に『赤い髪の男』がいるという噂です」
「……赤い髪……!」

 私は羊皮紙を受け取り、内容を確認して口元を緩めた。
 街の中の裏切り者のリスト。これはザックでなければ入手できない。アルカディアスが喉から手が出るほど欲しがっている代物しろものだ。

「ありがとう、ザック。お手柄よ」

(ザックのお嫁さんになる人は幸せね……きっと。たくさん愛されて、大切にされて……)

 自分には、それは決して訪れないこと。だが、彼には幸せになって欲しい――心からそう思った。

(ふふ、そうなったら、ちょっと焼けるわね――)

 ふと、私は自分の左手首に巻いていたブレスレットに触れた。
 上質な黒革に、繊細な薔薇の紋様が型押しされ、留め具は純銀シルバーで作られている。
 元々は男性用の品だが、その無骨なデザインが気に入って私が身につけていたものだ。私の細い手首には大きすぎて、いつも二重に巻き付けていたけれど。

「……ザック、腕を出して」
「へ? こ、こうですか?」

 彼が太く、傷だらけの腕を差し出す。
 私は手首からブレスレットを解くと、それをザックの腕に回した。
 二重ではなく、一重で。
 カチリ、と留め具が鳴る。

「あ……」

 あつらえたように、彼の太い手首にぴったりと収まった。
 私の華奢きゃしゃな腕では遊んでいた黒革が、彼のたくましい筋肉にしっくりと馴染んでいる。

「ロゼノア様、これは……」
「私の、お気に入りよ。……あなたにあげるわ」

 ザックが息を呑む。
 彼にとって、王妃の身につけていた装飾品など、家一軒より価値があるだろう。

「い、いただけません! こんな高価なもの……それに、ロゼノア様が大事にされていたものでしょう!?」
「いいのよ。……やっぱり、それはあなたのものだったのね」

 私は黒革のブレスレットを指でなぞり、妖艶に微笑んだ。

「私の腕には少し大きすぎたわ。でも、あなたのその逞しい腕にはぴったりだもの」

 私は彼の熱い手首を両手で包み込み、真っ直ぐに彼を見つめた。

「それは、私だと思って身につけていて。……あなたは私のものだという『あかし』よ」
「――ッ!!」

 ザックの顔がカッと赤くなり、次いで感極まったように目が潤む。
 「私のもの」。その独占的な響きが、彼の男としての自尊心と愛情をこれ以上なく満たしたのだ。
 彼はブレスレットを着けた腕を胸に押し当て、深く頭を垂れた。

「……光栄です。一生、外しません。この腕が腐り落ちるまで、俺は貴女様をお守りします」
「ふふ、頼りにしているわ」

(まだ、今は、私のもの――)

 あえて外のユリウスに聞こえるように、私は扉のすぐ手前で振り返り、ザックを抱きしめた。

「ザック……素敵だったわ……。とても、温かかった」
「ロゼノア様……ああ、離したくない」

 最後に熱い抱擁と、口づけを交わす。私は、顔を離そうとしたザックの首に手を回し、唇を押し当て無理やり舌を挿入した。
「うぐ……んっ……」
 戸惑うザックに構わず、彼の舌に絡みつき、吸い取った。わざと音を響かせて。

 私が家から出てきた時、ユリウスは扉の前でいつもの冷静な表情を変えず立っていた。
 私は乱れた髪を手で整え、首筋についた赤いあと――ザックが夢中で吸い付いた鬱血痕キスマークを、わざと見せるように髪を払った。

「お待たせ、ユリウス」
「……いえ」

 彼の声は低く、感情が削げ落ちていた。
 だが、その漆黒の瞳は、私の首筋の痕を凝視していた。殺気にも似た、鋭い視線。
 ――さあ、怒りなさい。嫉妬しなさい。
「俺がいるのに、なぜあんな男と」と、私を責めなさい。

 けれど。

「……行きましょうか」

 ユリウスは短く告げ、私をエスコートするために手を差し出しただけだった。
 その指先は、微かに震えている。
 でも、彼はその感情を決して言葉にはしない。
 
(……ああ、やっぱりあなたは「騎士」なのね)

 私を抱きすくめて連れ去ることも、怒りをぶつけることもしない。
 その完璧な忠誠心が、今はただ憎らしく、そして悲しかった。
 私は小さくため息をつくと、首筋の痕にそっと指を這わせた。
 
(――治癒ヒール

 指先から淡く温かな光が溢れ出す。聖女の治癒の光。
 聖なる力が、今は不貞の痕跡を消し去るためだけに使われる。
 
 ――この世界の『攻略対象』ではない者は、どう足掻いても落とせないというの? これほど心を砕いても、永遠に……。

 不条理なゲームのシナリオを呪いながら、私は差し出された手を取り、馬車に乗る。

(ここまでしても、あなたの氷は溶けないのね……)

 私は心の奥で自嘲した。
 ザックの温かさに触れたことで、より一層、ユリウスとの心の距離を痛感してしまった。

「戻りましょう。……もうすぐ陛下がお戻りよ」

 私は冷たく告げた。
 ユリウスの黒い瞳の中には、私の立ち入る隙などないのだ。
 私の首には、満たされない渇きという名の鎖が食い込んでいた。

 私は心の中で、乾いた笑いを漏らした。
 男たちをもてあそんでいるつもりだった。
 けれど、本当に滑稽なのは誰か。
 
 聖女の仮面を被りながら、愛に飢えてあがいている――この私自身なのかもしれない。
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