黒薔薇の刻印 ~死ぬほど愛される、重すぎる愛の逆ハーレム~【ダークファンタジー】

ALMA

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第3部:紺闇の魔王の檻

第27話:愛の湯浴みと氷の墓

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 翌朝、目を覚ますや否や、私はサイラスによって強引に抱き上げられ、城の奥深くにある湯殿へと連れ込まれていた。

 そこは、城の中とは思えないほど野趣あふれる、巨大な岩造りの温泉だった。
 ごつごつとした自然石をそのまま活かした壁面と、足裏に心地よい熱を伝える切り石の床。天井は高く、湯気で白く霞んでいる。

 その中央には、二十人は一度に入れそうなほど巨大な湯船が、並々と湯を湛えていた。
 地下深く、大地の底から湧き出ている天然の温泉なのだろう。ほのかに硫黄の香りと、湿った岩の匂いが入り混じる。
 湯面からはもうもうと白い湯気が立ち上り、壁に嵌め込まれた魔石ランプの暖かな光を拡散させて、夢の中のように幻想的な空間を作り出していた。
 熱く、湿った、皇帝のためだけの贅沢な癒やしの空間だった。

「陛下、自分で歩けますわ……」
「断る。昨夜は私のために無理をさせた。……今は指一本動かさなくていい。全て私がやってやる」

 サイラスは上機嫌だった。
 昨晩、私の体温と魔力を吸い尽くして眠ったおかげか、その肌はつやめき、左目の氷のような青い瞳もどこか熱っぽく潤んで、獲物を狙う獣の色をしている。

 彼は躊躇ちゅうちょなく服を脱ぎ捨てるが、右目の魔眼は眼帯で塞がれたままだ。そして、ねっとりした視線を絡めながら、私のドレスをゆっくりと剥ぎ取った。まるで焦らすように。

「まずは、その美しい体を清めてやらねばな」

 サイラスは私のたわわな胸を凝視しながら、息が荒くなる。
 私を洗い場にある寝椅子カウチに座らせると、彼はたっぷりと泡立てたスポンジを手に取った。
 温かい泡が、私の首筋から鎖骨、そして胸元へと滑る。
 だが突然、スポンジを放り捨て、直接手で私の体を洗い始めた。

「駄目だ、我慢できない――」

 泡のぬめりを利用して、わざとゆっくりと、肌に吸い付くように撫で回してくる。

「あ……っ!」
「どうした? まだ胸を洗っているだけだぞ」

 彼はニヤリと笑うと、泡にまみれた指で、敏感になっている胸の尖りをコリコリと摘み上げた。
 さらに掌で包み込み、むにゅりと形を変えるほど揉みしだきながら、円を描くように洗う。

「んっ、ぁ……! そんな、洗い方……っ」
「汚れているからな。昨夜、私が吸い付いた跡がまだ残っている」

 執拗に胸を責められた後、彼の手は下へと滑り落ちる。
 くびれをなぞり、おへそを指先でくすぐり、そして――。

「……ここもだ。なんだ、もう濡れているではないか」

 彼は私の膝を割り、泡だらけの指を秘所へ侵入させた。

「ひぁっ!? やっ、ぁ……! ん、んんっ!」

 彼の冷たい指が、私の内部をあられもなく掻き回す。
 洗われているというより、指で犯されている。

「くくっ、いい吸い付きだ。……洗っているだけで、こんなにみだらな声を出して」
「ダメ……また、汚れちゃう――」
「そうしたら、また洗ってやる」

 全身をくまなく彼の手で開発され、私はお湯に浸かる前から、すっかりのぼせたようになってしまった。
 私の喘ぎ声が浴室に響き、サイラスはさらに興奮する。

「へ、陛下。寒いから、湯船に入りましょう」
 私が逃げ場を探して提案する。

「そうだな。よいしょっ」
「――!?」
 抱き抱えられ、彼の顔が私の胸に密着する。

「あ……っ」
「お前は本当に敏感だな。もっと声を出せ」
「あ……んっ……ダメっ……やッ!」

「お前は不思議だな……いくら吸い取っても魔力が尽きない」

 ようやく広い湯船へと足を踏み入れる。
 温かいお湯が、強張った体を解きほぐしてくれる……はずだった。

「……ふぅ」
 私が安堵の息を吐いた瞬間、抱えるサイラスの「硬くて冷たい熱」が、お尻に押し当てられる。
「……っ!?」

「駄目だ。……洗っている最中から、我慢の限界だった」

 サイラスの低い声が震えている。
 彼は私の腰を掴むと、自分の方へと引き寄せた。

「お前が悪いんだぞ、ロゼノア。泡にまみれて、そんなにいやらしく濡れた目で私を見るから……ッ」
「あっ、待っ……!」
「待たない。お前の体はもう、こんなに準備万端じゃないか」

 水中。お湯の抵抗と、浮力が混ざり合い、陸上とは違う濃密な感覚が襲う。

「あぁ……ッ!!」

 入ってきた。
 サイラスの冷たくて硬いくさびが、熱いお湯の中で私の最奥を押し広げていく。
 浮力のせいか、いつもより深く、重く入ってくる気がする。

「はぁ……ッ! 最高だ。お湯の熱さと、お前の体の熱さが……私を溶かしていくようだ」

 サイラスが私のうなじに噛み付きながら、腰を動かし始めた。
 バシャ、バシャ……という水音。

「あ、っ! いや……っ!」
「嫌なのか? やめて欲しいのか?」
 後ろから両手で胸を鷲掴みにされる。
「はあ、はあ……お前は最高だ……」

「そうだ、その顔だ。……このまま溺れるまで愛してやる」

 激しく波打つ湯面。
 逃げ場のない湯船の中で、私は魔王の激しい求愛を受け止め、絶頂へと追いやられた。


 *

 甘美で激しい情事を終え、私はサイラスから「黒曜石の指輪」を与えられた。

「これを着けていれば、城内のどこへ行こうと構わない。私の加護がお前を守る」

 サイラスは満足げに私の髪に口づけ、名残惜しそうに政務へと向かった。
 私は一人、火照った体で回廊に残される。
 指にはめられた黒い指輪を見つめ、私は小さく息を吐いた。

(……なんて激しい「朝風呂」だったのかしら)

 まだ足に力が入らない。
 けれど、そのおかげで体には彼の莫大な魔力が充填されている。
 私は気を取り直し、城の探索へと向かった。
 だが、その行く手を遮るように、冷ややかな声が響いた。

「……随分とご満悦ね、聖女様」

 皇后ノーチェ。
 彼女の翡翠の目は嫉妬と憎悪で血走り、歪んだ笑みを浮かべていた。

「お前のような『魔力タンク』の女は、どうせすぐに捨てられるのよ! 換えはいくらでもいるの」

「……ふっ。わざわざそんな事を言いに来たの? 随分とお暇なのですね」

 ノーチェは、わなわなと小刻みに震える手を握り締め、冷静を装うように言った。

「あなたに、とても良い場所を教えてあげようと思って。帝国の歴史が眠る『氷の書庫』よ」

 明らかな罠。彼女が示した「北の塔」からは、微かだが「死の匂い」が漂っていた。けれど、左腕の黒薔薇の刻印が僅かに疼いている。
 私はあえてその誘いに乗ることにした。

「ええ、ぜひ、案内してくださいませ」

 連れて来られたのは、人気のない塔の最下層。
 重い鉄扉が開かれると、中から猛烈な冷気が吹き出してくる。

「さあ、どうぞ」

 私が足を踏み入れた瞬間、ガチャンと背後で鉄扉が閉ざされ、外から鍵をかける音が響く。

「ごきげんよう。そこは罪人を凍死させる処刑部屋よ。中からは開けられないわ……そのまま美しい氷像におなりなさい!」
 ノーチェの高笑いが遠ざかっていく。

「はあ。全く、子供みたいな、嫌がらせね」
 だが、ふと扉を見ると何かの跡。黒ずんでいる。
「これは……血だわ」

 無数の手の跡。扉を開けようと必死でもがいた者たちの痕跡だった。

「あの女……サイラスのめかけをこうやって処分してきたのね」

 完全な密室。氷点下の牢獄。
 普通なら、数分で血液まで凍りつき、死に至るだろう。

「ふぅ。……少し肌寒いわね」

 私は自分の体を抱いた。
 けれど、不思議なことに、震えは来なかった。
 むしろ、この刺すような冷気が、肌に馴染むような感覚さえある。

「どうして……?」

 私は下腹部に手を当てた。
 そこは、先ほどの入浴でサイラスから愛を注ぎ込まれた場所――。

「ああ……そうか」

 私は自嘲気味に笑った。
 今の私の体は、サイラスの氷の魔力で内側から満たされている。
 彼の「所有物」としてマーキングされ、中身を塗り替えられたおかげで、私の体はこの極寒の環境を「敵」ではなく「同質の場所」として認識しているのだ。

「皮肉なものね。……皇帝のエゴと欲が、結果として私を守る防寒具になっているなんて」

 その事実に、背筋がゾクゾクするような背徳感を覚えながら、私は部屋の奥へと進んだ。
 壁の一角から、冷気とは違う、よどんだ空気が流れてきている。

「あら? ここ、何かあるわね」

 幻影魔法で隠された壁に、サイラスからもらった黒曜石の指輪をはめた手をかざすと、ふっと暗く細い通路が浮かび上がった。
 その長い氷の廊下の先には、地下へと続く入り口があった。私はその螺旋階段を下っていった。

 そこには、息を呑むような光景が広がっていた。

「これは……!」

 広大な地下空間。
 どこまでも続く青白い氷の壁の中に、無数の遺体が整然と埋め込まれている。
 古の鎧を纏った兵士、高貴なローブの魔導師、全て遺体だった。

 ここは「氷の地下墓地氷結カタコンベ」。
 永久凍土に閉ざされたこの国では、死者を土に還さず、氷漬けにして保存する風習があるのだ。
 彼らは死んでいる。だが、腐敗することなく、生前の姿のまま美しく保存されている。

「……壮観ね。これら全てが、歴代の英雄たちというわけ?」

 私は一つの氷柱に近づき、中に眠る屈強な騎士の顔を指先でなぞった。
 保存状態は完璧。肉体はきれいに手入れされ、ただ魂だけが抜けた状態。
 つまり――私の「黒薔薇の刻印」にとって、これ以上ない極上の「器」だ。

「ふ……ふふっ」

 笑いが込み上げてきた。
 ノーチェは私を殺すためにここへ誘導したつもりでしょうけれど、私にとっては最強の武器庫へ案内してくれたも同然だわ。

 私は左腕を捲り上げ、黒い刻印を露わにした。
 赤闇色の魔力が、私の掌から溢れ出し、氷柱へと伝わっていく。

「今はまだ、眠っていなさい」

 私が氷に触れると、黒い薔薇の紋様が蜘蛛の巣のように広がり、眠る兵士たちの胸元へと染み込んでいった。
 『死者への種付け』は完了だ。

 今はまだ動かない。けれど、私が「起きろ」と命じた瞬間、彼らは私の忠実な下僕として覚醒する。

(アルカディアス……あの人のことだから、狂ったように軍を進めてくるでしょうね)

 私は冷めた瞳で、遠い祖国の王を思い浮かべた。
 彼が私を愛しているのは知っている。異常なほどに。私が帝国に奪われたとあらば、彼はなりふり構わず攻め込んでくるだろう。

 だからこそ、この軍団が必要なのだ。
 帝国と王国がぶつかり合った時、この不死の兵を使って戦局を操るのだ。

(……でも、ユリウス)

 ふと、胸の奥が鋭く痛んだ。
 脳裏に浮かぶのは、あの黒髪の騎士の姿。
 
 あの日、ノクスフェル兵たちの剣に貫かれ、鮮血を吐いて倒れた彼。
 串刺しにされた光景が、今も悪夢のように焼き付いている。

(生きているの……? お願い、無事でいて……)

 彼が私を愛していなくてもいい。私の想いが届かなくてもいい。ただ、生きていてほしい。

「……感傷に浸っている場合じゃないわね」

 私は首を振り、弱気な思考を振り払った。
 今はただ、生き残るための準備をするだけ。

 魔王サイラスの寵愛を受け入れ、狂王アルカディアスの到着を待ち、そしてこの最強のジョーカー、死者の軍団を懐に隠し持つ。

「さあ、準備は整いつつあるわ」

 私は踵を返し、来た道を戻った。
 螺旋階段を登りきり、幻影の壁を抜けて、再びあの処刑部屋――「氷の書庫」へと戻ってくる。

 ガチャン、ガチャン。
 試しに扉のノブを回してみたが、びくともしない。
 ノーチェが言っていた通り、物理的な鍵だけでなく、高位の氷結魔法で封印されているようだ。

「……ふん。皇后陛下も詰めが甘いこと」

 私は左手の薬指を掲げた。
 そこにはまっているのは、サイラスから贈られた黒曜石の指輪。
 『城内のどこへ行こうと構わない』――彼はそう言った。
 つまりこの指輪には、この城の主である皇帝サイラスの、絶対的な権限マスターキーが宿っているはず。

「開けなさい」

 私が扉に掌を当て、魔力を流すと、指輪がボゥッと妖しい青光りを放った。

 ビキキキキッ……パリーンッ!

 甲高い音が響き、扉を覆っていた氷の結界が、ガラスのように砕け散った。
 重厚な鉄扉が、ひとりでにギィィ……と音を立てて開いていく。

「やはりね。皇帝の権威の前では、皇后の嫌がらせなど児戯じぎに等しいわ」

 私は悠々と外へと足を踏み出した。
 見張りはいなかった。

「氷魔力のない女など数分で死ぬ」とたかくくり、死体回収の時まで放置するつもりだったのだろう。

「ふふ……残念だったわね、ノーチェ」

 凍りついた扉を背に、私は何食わぬ顔で、自分の与えられた部屋へと歩き出す。

 次にノーチェと顔を合わせた時、彼女がどんな顔をするか……今から楽しみでならない。
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