キスと乳首

恩陀ドラック

文字の大きさ
8 / 12

8.恋人ができる

しおりを挟む
 


 健吾のことを忘れていたわけじゃない。目の前に悲しむ弟がいたからそちらを優先した。兄として、悲しみを与えた張本人として当然のことだ。あの状況で他のことを考えられる余裕などあるはずがない。だいたい謝罪をするとき他に気を取られるなんて誠意に欠ける。だからいっとき頭から抜け落ちても仕方ないことだと思う。


「そういうの忘れたって言うんだよ。それを正直に喋っちゃうところが晴采だなあ」

「喋らせた……だろっ……」


 昼休みの踊り場。昨夜のことを訊かれた晴采は、逸瑠が帰宅してから健吾についてまったく考えていなかったことに気付いて目を泳がせた。それを訝しんだ健吾に羽交い締めにされ、乳首責めで洗い浚い吐かされたのだった。


「うまいこと丸め込まれちゃって。このブラコンめ」

「で、でも昨日は優しかったし……やっ、待っ……健吾っ。全部話したんだからもうやめろよ!」


 これ以上されるとパンツが汚れてしまいそうだ。まだ午後の授業もあるのだからそれは絶対に阻止したい。必死さが通じたのか、健吾は背中から離れて自由にしてくれた。


「まだ俺への返事を聞いてない。好きなら何で迷ってるんだ?」


 健吾が好きなことは伝えた。友達としてはずっと好きだったし、キスするようになってからも大好きだ。陰口を言わないところとか部活の後輩から慕われてるところとか、人間として尊敬できる。男らしい見た目も憧れる。ただそれが恋だと確信できなくて迷っている。


「だってわからないんだよ。恋ってなに?」

「乙女か。そいつのことが好きで、こういうことされて嬉しかったら恋なんじゃね?」


 さっき散々いじられてまだ落ち着かない乳首を、親指の腹ですりっと撫でられた。思わず出そうになった喘ぎ声を噛み殺して快感に耐える。


「少なくとも俺はそうだ。好きだよ晴采。俺も晴采の特別になりたい」


 両手で頭を引き寄せられて唇が触れ合った。昨日よりキスが甘い。いつもの強引さに甘さまで足されると晴采にはとても太刀打ちできない。


「ふ、はぁ……今日の健吾いつもと違う……」

「弟くんに負けてらんないからな。これでも必死」

「弟はそういうんじゃないってば。ん、んむ……」

「お願い晴采。大切にするから。なんでもしてあげるから」

「ほんと……?」

「ほんとだよ。なにしてほしい?」

「毎日ちゅーしたい」

「は――……」


 健吾が目をぎらつかせた。返事代わりに押し当てられた唇を、晴采は与えられるだけ貪る。柔らかくて温かくて気持ち良い。にゅるにゅるしていやらしい。舌を入れられると色んなところがきゅんきゅんしちゃう。キスしてる間、頭とか背中とか撫で撫でしてくれるのも好き。これから毎日こんな事してくれるんだ。幸せ。健吾のこと、もっと好きになっちゃいそう。


「もうだめだよ晴采。もう時間。ちゃんとして」

「むー……」


 健吾に肩を押されて離された。まだ満足していない晴采は仕方なしに前を向いて膝を抱える。しばらくして今度は頭を抱えた。

 認めたくないけど自分ちょろい。こんなに簡単に流されると自分の気持ちが本当なのか疑問になってくる。健吾へのドキドキは恋ではなくて、えっちな事で興奮しているだけということはないだろうか。自分は、気持ちが良ければあとは何でもいい節操なしなんじゃないだろうか。


「健吾は俺のどこがいいの?」

「一緒にいて楽しいし、見た目も好みだし、あとエロいとこも好き」


 駄目だと思っていたエロさも長所にされている。健吾は流されやすさまでは褒めていないのだが、晴采は全肯定された気になって舞い上がった。


「えへへ、恋人ができちゃった」


 笑いかけたら健吾もちょっと顔を赤くして照れくさそうにした。珍しい。でもすぐ真面目な顔になった。


「晴采、これから弟と一緒に寝るのはいいけど、あんまりくっついたり触らせたりするな。舐めさせるのもダメ。やったら浮気。わかった?」

「わかった。あ、逸瑠に説明、なんて言おう……」


 健吾の意見には全面的に同意するが、昨夜今まで通りの仲良しでいると言ったばかりなのに、今日になったらやっぱりダメなんて気が咎める。昨日恋人になれないと言ったときの逸瑠の顔を思い出して憂鬱になった。


「晴采が言いづらいなら俺から話すよ」

「うーん、でもその場合健吾を家に連れて帰ってさ、紹介するんだよな、恋人だよって」

「嫌なのか?」

「家でそういう話したことないから恥ずかしい!  うちの親は聞きたがるけど家族とそういう話しすんの苦手だし話せることもなかったし。絶対からかわれる~」

「今日は弟にしか会うつもりなかったけど、親にも紹介する感じ?」

「あっ、や、いつか?  いつかね!  今日は弟だけにして!」

「俺は晴采のそういうとこが一番好きだよ」

「え、どういうとこ?」

「秘密。晴采はわからなくていい」


 健吾は首を傾げる晴采に目を細めるばかりで、いくら訊いても教えてくれなかった。


「てゆうか今日来るつもり?  部活は?」

「こっちのが大事な用だから休む。都合悪いならしょうがないけど知らせるなら早い方がいいだろ。黙ってたらまた部屋に乗り込まれるぞ」

「こ、心の準備が……」


 帰るまでに済ませておくよう言われた。午後の授業はまた上の空だった。





 いよいよ放課後。帰路三十分はあっという間に過ぎ去って、晴采は自宅を見上げて深呼吸をした。健吾が家に来るのは初めてじゃない。部屋に上げたこともある。でもいつも他にも誰か友達がいたし、今日は友達じゃなくて恋人だ。玄関に入ると靴が出ていて、奥からは話し声が聞こえる。どうやら逸瑠が友達を連れてきているらしい。そんな必要はないのにこそこそと忍び込むように居間に入った。


「た、ただいまぁ~……」

「お兄ちゃん、おかえり!」


 晴采を見つけた逸瑠が駆け寄って抱き付いてきた。


「ねえ聞いてお兄ちゃん!  俺恋人ができた!」

「は、え゙っ!!??」


 逸瑠は唖然とする晴采から離れ、立ち上がってこちらを向いている人物の隣に行って腕を組んだ。


彩希さきちゃんだよ!」

「はじめまして、お邪魔してます」


 逸瑠と同じ身長ですらっとした、既に美人の片鱗を見せているきれいな女の子。二人は顔を見合わせて仲良さそうに笑った。挨拶を返さなきゃと思っているのに言葉が出てこない。処理が追い付かなくてふらつき始めた晴采の肩を健吾が支える。


「弟くん、ちょっと。晴采が体調悪くて、部屋で寝かせたいから手伝って」


 心配した逸瑠は恋人に断りを入れてから二人と一緒に二階へ上がった。晴采はベッドに座らされた。


「お兄ちゃん大丈夫?  薬飲む?」

「心配かけてごめんね逸瑠。少し横になれば大丈夫だから……」

「ほんとに?  えっと……」


 逸瑠に見上げられた健吾が自己紹介をした。


「健吾。晴采の恋人。俺たちも今日から付き合い始めたんだ」

「そうなの!?  すごい、お兄ちゃんとお揃いだ!」

「ね、ねえ逸瑠、あの子とはどういう……」

「同じクラスの子。今日告白されてOKしたんだ。かわいいでしょー」


 彩希の方がずっと逸瑠に片思いしていた。逸瑠も彩希を気に入っていたが、彼女への感情は友情以上恋愛未満といったところ。それが告白されて恋の方に傾いて、それじゃあよろしくお願いしますとなったのだった。真っ先に晴采に紹介したくて今日家に連れてきた。なんだか事の成り行きまで兄弟でよく似ていた。


「だからね、お兄ちゃん」


 もうお兄ちゃんとやらしー事はできないの、ごめんね。逸瑠は晴采をハグしてそう耳打ちした。


「でも俺とお兄ちゃんはずっと仲良しだからね!  健吾、お兄ちゃんをよろしく」

「おう」


 逸瑠が拳を突き出し、健吾も応じる。こつんと一回突き合わせて、逸瑠は部屋を出った。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...