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番外編1.親に驚く
しおりを挟む日を改めて休日。健吾はクッキーの詰め合わせを手土産に晴采の自宅へ向かっていた。デートのついでに晴采の両親に紹介されることになったのだ。今までタイミングが合わず、実は顔を合わせるのは今日が初めてとなる。普段あまり物事に動じない健吾もさすがに緊張している。
あらかじめ晴采から写真を見せてもらっている。普通にいい人そうだったし、晴采も優しい両親だと言っていた。あの兄弟の親だけあって同性愛への偏見はないらしい。しかし健吾自体が気に入られない可能性がある。向こうは自分の写真を見てどう思っただろうか。
家の前まで来たら、晴采が窓ガラス越しに手を振っているのが見えて少し安心した。玄関を指差されてポーチに立つと、出迎えにきた晴采がすぐに中からドアを開けてくれた。照れくささと緊張感で、お互い「おう」と短い挨拶のような言葉しか出てこない。
「息子はやらんぞ!」
上がり框の上で仁王立ちをしたその人物は、ぎょっとして言葉を失くす健吾と晴采を見て楽しそうに笑い声をあげた。
「あははっ、嘘ウソ、冗談」
「やめてよパパ……」
晴采にパパと呼ばれたのは晴采と逸瑠の母親だ。普段は普通のお母さんだが、今日のような男の気分の日はマニッシュな装いと振る舞いをしてパパと呼ばせている。健吾が事前に聞いていた情報を頭の中で整理していたら、奥からもう一人大人が出てきた。
「健吾くん? いらっしゃい。今日は来てくれてありがとう」
「はい、あの、はい……」
「あれ、もしかしてパパに変な冗談言われた? ごめんねぇ。もう優ちゃん、悪ふざけはやめなさいって言ったでしょう」
パパを優ちゃんと呼ぶこの人物は、彼女の夫で晴采たちの父親の勝己。子供からはお父さんと呼ばれている。フェミニンで柔和な雰囲気だが中身は普通の男性だそうだ。
「だってこんなチャンス滅多にないじゃないか。健吾くん、脅かしてすまなかったね。玄関で立ち話もなんだから、さ、どうぞ上がって上がって」
居間に通された健吾はケーキと紅茶でもてなされた。どうやら歓迎しているのは嘘ではないらしい。健吾の隣に晴采、ローテーブルの向こうに夫婦が座った。逸瑠は遊びに行っていて留守だ。
「こんな格好いい子を連れて来るなんて、晴采も隅に置けないな」
「晴采を選ぶなんて、君も見る目があるじゃないの」
「俺の方こそ晴采くんに選んでもらって光栄です」
晴采はずっと照れ照れもじもじしっぱなしで俯いている。父親が健吾に質問した。
「健吾くんは晴采の他に恋人はいないの?」
「はい? そんなのいませんよ……」
「そう。僕が若い頃は最低でも三人はおさえてたけど、ずいぶん大人しいんだねぇ」
「健吾くんが普通なんだよ勝己。おかしなことを吹き込むな」
今度は優パパが勝己お父さんを窘める。不躾な質問に気を悪くしていた健吾は常識の違う会話に毒気を抜かれた。晴采がくれた事前情報は過小表現だったらしい。健吾の性別を気にする素振りが全くないどころか、普通の子扱いされてしまった。お父さんは普通だと聞いていたが、かつて築いたハーレム自慢をしてくる彼のどこを指して普通と評したのだろうか。どうして晴采のような人間が出来上がったのか少し解った気がした。
ぽけっと夫婦の会話を聞いていたら、横に座っていた晴采にちょいちょいと服を引っ張られた。手を口に添えて、なにやら内緒話をしたい様子。健吾が体を傾けると耳元で囁かれた。
「俺も健吾だけだよ」
はにかむ恋人がかわいい。微笑ましく見守られながら、晴采と健吾は「大好き」の視線を送りあったのだった。
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