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第1章 守護龍の謎

第35話 暴走状態も治せます──そう、【解呪】ならね

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「……」

 フリーダは無言でソフィアを見つめている。その表情は微笑をたたえていつもと変わらないように見えるが、額には汗が流れており苦悶の色が浮かんでいた。

「フリーダ、大丈夫なのか……?」

 俺は心配になって声をかけた。フリーダは小さくうなずく。

「ええ、問題ないわ。けれど、少し魔法を使いすぎた。このままでは厳しいわね。でもそれは向こうも同じはず。──やれる?」
「わかった!」

 俺はソフィアに向かって駆け出した。

『はぁ?』

 ソフィアは俺を見て嘲笑を浮かべる。

『バカじゃないの? わざわざ死にに来るなんて。でも、あんたが死んでくれるのは都合がいいわ!』

 ソフィアは叫ぶと、俺に向かって手をかざす。

『さっさと死んじゃいなさい! 破滅の炎球プロミネンスボール!!』

 ソフィアの手から巨大な火の玉が発射された。俺は右手を突き出して魔法を発動させる。

「喰らえ! ──龍槍ドラゴンランス!」

 俺の手に握られた灼熱の槍が、凄まじいスピードで飛んでいく。そして、それは一直線にソフィアに向かった。

『ふん、こんなの簡単に避けられ……なにぃ!?』

 ソフィアは驚きの声を上げる。槍が炎に包まれたかと思うと、そのまま巨大化しソフィアを飲み込んだのだ。

『ぎゃああああっ!!』

 ソフィアの悲鳴が響き渡る。俺はさらに追撃をかけるべく、左手にも魔法を発動させた。

「まだまだ行くぜ! ──龍爪剣ドラゴンソード!!」

 俺の両手に灼熱の刃が出現し、それを振り下ろす。すると、炎の斬撃が飛び出してソフィアに直撃した。

『ぐあああああっ!!』

 ソフィアの絶叫がこだまする。そして、彼女の全身から煙が立ち上っていた。

「やったのか……?」

 俺は不安になりながらつぶやく。すると、フリーダが叫んだ。

「まだよ! 油断しないで!」
「お、おう……」

 俺は返事をして身構えた。だが、その時、煙の中から何かが飛び出す。現れたソフィアは不敵に笑った。

『あなたたち、人間にしてはやるようだけれど、その程度じゃあたしは倒せないわ。……少し本気で遊んであげようかしら?』

 そう言うとソフィア巨大な漆黒の魔法陣を展開する。

「……あれは!?」
『ふふふっ、さあお楽しみはこれからよ? まずはドラゴンライダーのロイ、あんたの大切なものを奪う。……そして伝説は繰り返すのよ!』

 魔法陣から溢れ出した闇がフラウを襲った。

「きゃああ!!」

 フラウが叫び声を上げて苦しむ。

「おい、何やってんだよ! やめろ!」

 俺は叫んでソフィアに詰め寄ろうとした。しかし、次の瞬間、ソフィアの姿が消えてしまう。

「消えた……?」
「違う、転移したのよ」
『それもちょっと違うわ。あたしは女神、そもそも実体なんてない概念のようなもの。今まではあんたたちの次元に合わせて戦ってあげてただけ。つまり、元々あんたたちの攻撃は当たらないし効かないの』

 フリーダが示した先でソフィアは空中に浮かび上がり、俺たちを見下ろしていた。その顔には余裕が感じられる。

『さあて、大切なドラゴンが壊れていくところを、地べたに這いずって眺めていなさい』
「やめて……やめて、嫌、いやぁぁぁぁぁっ!!」

 ソフィアが手を掲げると、闇に囚われたフラウが苦しげにのたうち回りながらその身体を変化させていく。どうやらドラゴンに変身しようとしているらしいが、様子がおかしかった。純白だったその体は漆黒に染まり、瞳も真っ赤に染まっていた。フラウは見るもおぞましい邪龍の姿に変わっていたのだ。

「グオオオォッ!!!」

 フラウは雄たけびを上げ、口から真っ赤な炎を吐き出す。その威力は凄まじく、地面をえぐり取り周囲の建物を燃やし尽くしてしまった。
 王都は瞬く間に大混乱に陥り、鐘が激しく鳴らされている。

「フラウ……」

 俺は変わり果ててしまった相棒を呆然と見つめる。フリーダが険しい表情で言った。

「これはまずいわね……。あの力、おそらく私たちの想像を超えるほどの魔力が注ぎ込まれている。このままでは暴走してこの世界ごと破壊してしまうかもしれないわ。……昔のようにね」
「そんな……なんとかならないのか?」

 俺が尋ねると、彼女はニコッと笑う。

「もちろん、ここまで私の計画通りなわけだけど」
「なんだって!?」

 俺は驚いてフリーダの顔を見た。

「どういうことだよ? お前は俺とフラウを助けに来たんじゃなかったのか?」
「ええもちろん。でも、ソフィアを倒すには彼女が悪事を働いていることを民衆に知らしめる必要がある」
「けど、また前みたいに記憶を消されて都合のいいように歴史が書き換えられるだけだろ!」

 俺がフリーダに詰め寄ると、彼女は落ち着き払った様子で首を振った。

「いいえ、昔と今とでは決定的に違うことがあるわ。──それは、フラウの契約相手がマリオンではなくロイ、あなたであること」
「何が言いたい?」
「──あるでしょう? あなた特有のスキルが」
「……解呪ディスペルか」

 俺はフリーダに言われるまですっかり自分の固有のスキルを忘れていた。頭の中がフラウから授かったドラゴンの力のことでいっぱいになっていたからかもしれない。
 でもこれなら……解呪ならやれる! 暴走したフラウを元に戻すことができるかもしれない!

「分かったぜ、フリーダ! 俺に任せてくれ!」

 俺が叫ぶと、フリーダは微笑んだ。

「任せたわよ、ロイ。……私はあなたの勝利を信じてる」
「おう、見てろよ」

 俺は街を破壊し続けるフラウの方へ歩いていった。フラウは我を忘れているようで、目に入るものを手当り次第破壊しているように見える。

「おい、フラウ! 正気に戻るんだ!」

 俺が呼びかけると、フラウはこちらを見る。しかしその瞳は血走り、明らかに正気を失っているようだった。

「グルルルル……」

 フラウは喉の奥から低いうなり声を上げる。俺は拳を握って叫んだ。

「フラウ!! しっかりしろ!!」

 すると、一瞬フラウの動きが止まる。そして次の瞬間、再び炎を吹き出した。
 クソッ、これじゃあ近寄ることもできない。解呪はある程度近くに寄らないと発動できないというのに。

「仕方ない、こうなったら一か八かだ!」

 俺は覚悟を決めてフラウに向かって駆け出す。そして、その勢いのまま思い切りジャンプした。

「どりゃああぁっ!!」

 俺は叫び声を上げて、フラウの背中に飛び乗った。そのまま首筋にしがみつくようにして体を固定する。そして、フラウに解呪をかけた。

「──解呪ディスペルっ!」
「ぐおおぉ……」

 フラウは暴れたが、俺は必死にしがみついて離さなかった。やがて動きが鈍くなり、フラウの体は徐々に元の姿に戻っていく。
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