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三章〜神龍伝説爆誕!〜
52話「神龍、同胞に喜をあげる!」
しおりを挟む切られ立ち上がれなくなった竜兵は【ダンジョン】と言う絶対的な捕食者の餌食となり、膝を着き戦う意欲を失った者もまた【ダンジョン】によってその姿を消した。
「クソッ⋯⋯やはり無限に湧き出てくるのかッ!?」
数十までは数えていたが百を超えた先からは数えるのもバカらしくなってきた鬼龍は悪態を吐いた。
切っても斬っても底を見せない竜兵。体力の限界はまだ来ないにしてもいつか終わりが訪れるのは明白だった。
「これでは⋯⋯ッ!?」
そして、終わらない悪夢を冷ますかのように鬼龍の視界がウァラクと流が対峙している光景を捉えた。
「な、何故に奴が神龍の元へ!? あれでは神龍は回復どころではなくなる——ッ!」
急ぎ流とウァラクの間に入ろうと進路を変えようとするが夥しい数の竜兵がそれを許さなかった。
「「「「グオオォッ!」」」」
「下郎供がッ! 余の邪魔をするなあああぁぁッ!」
叫び渡る咆哮。
己に限界を超えるために、己の欲望を叶えるために鬼龍はその姿を変え始めた。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
「ふははははははっ!」
「あははははははっ!」
鬼龍と竜兵達の戦いを他所にこちらでも高らかな声が上がっていた。
「貴様もこんな所で遊んでいていいのか? 大事な貴様の子供達が無差別に虐殺され、あまつさえこの地に飲み込まれているぞ?」
「問題無いよ。僕は遊びにきたんだよ? なら最初から最後まで楽しみたいじゃないか。それに、僕が生み出す子達は無限だ。僕の魔力が尽きるまではね」
「その魔力⋯⋯いつかは底を見せるぞ? そうなってからでは⋯⋯ククク、貴様が地に落ちる姿が無様に想像できるわ」
「妄想が楽しくできているようで何よりだよ。遠吠えだと思って聞いていてくれて構わないが、今まで倒した竜兵の分は小指の先程度の消費でしか無いよ?」
「全くだ。戯言のような遠吠えは我を倒してから吐くがいい⋯⋯いや、鬼龍を倒せないようでは我の元に来ることもできないだろうがな!」
お互いの貶し合いや皮肉の言い合い。精神的面を追い込みどうにかして戦いを始めさせようとするウァラクと、どうにかしてウァラクと鬼龍をぶつけたい流。
(だが、奴の言っていることが正しければあの竜兵はそれこそ無限に湧き出るだろう⋯⋯それだけの魔力が奴にはある。クソッ、鬼龍が『降龍術』さえ使えればこんな面倒な——!?)
流は内心で打開策と妥協案を考え始めようとするが幸か不幸か鬼龍と竜兵の戦いに変化が起きた。
「——!? 何? 急に空気が重く⋯⋯それに、少しだが⋯⋯暗くなった?」
晴天の下⋯⋯と言うほどでは無いが視界が確保された空間に陰鬱な陰が指した。
それでも、視覚に影響はないが空気が、圧力が、感覚が——重くなる。
(あ、あの形態変化は⋯⋯まさか!)
この不可思議な変化に疑問を唱えるウァラクを他所に流は「早すぎる」と驚愕しながらも「間に合った」と安堵するのだった。
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「「「「「⋯⋯」」」」」
竜兵と鬼龍の戦いはしばしば静寂が支配していた。
鬼龍から溢れる圧力に竜兵達は微動だにすることができず、ただ次の変化を見守るしかなかったのだ。
「神龍⋯⋯待っていろ⋯⋯」
まるで怨念のように鬼龍の口から言葉が漏れた。そして、それをキッカケにするかのように——
「「「「「ーーッ!?」」」」」
——鬼龍の体から“何か”が溢れ始めた。
膨大で濃密な魔力の集合体である“何か”は鬼龍の全てを飲み込むと球体となって膨張を始めた。
最初は人一人を包む程度の大きさしかなかった球体も異常な早さで体積を広げ周囲を囲っていた竜兵達のすぐ足元まで手を伸ばした。
「⋯⋯グ、グルルルッ!」
存在そのものから発せられる恐怖か、それとも個体に捧げられた使命故か一体の竜兵が迫り来る球体に蛮刀を向けた。しかし、
「グルアァ!?」
振り下ろした蛮刀は球体を切るどころか球体に触れた刀身が綺麗に消えていた。そして——
「が、ガアアアアアッッ!?」
——膨張した球体がその竜兵を捉えてしまった。
刻一刻と体を消失させられていく竜兵はその喉から戦士としては醜くも生命としては悲痛な叫びを上げる。
「ガ、ガガガ⋯⋯ルゥ⋯⋯」
まるで「助けてくれ」と言わんばかりに目を見開き、近くにいる同胞へ手を伸ばすが⋯⋯⋯⋯届くこともなく球体が全てを飲み込んだ。
そしてそれが始まりとなった。
「「「「「ガアアァッ!」」」」」
同胞を殺された恨み、目の前で手を伸ばされたのに助けることのできなかった後悔、それらを感じさせるように竜兵達が特攻を仕掛けたのだ。しかし、
「ガアアァッ!」
「グルアアアァっ!」
「ギャッ!」
一体、また一体と叫びを上げ、死に、そして貪食される。
そこにあるのはただ無情に、非情に、痕跡すらも残さない程に飲み込む“何か”だ。
そして、“何か”のタチが悪いのは徐々にその大きさを肥大化させていることだった。
それは、安寧と平穏を貪る愚かな只人が至福の限りを尽くし⋯⋯傲慢な貴族になるかのようだ。
そして、その大きさがある程度——ウァラクの乗る竜とほぼ同等の大きさになったころに肥大化は収まった。
「⋯⋯神龍、今行くぞッ!」
“何か”から低く、重い声が発せられた瞬間——天に一体の龍が昇った。
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「何が起きている⋯⋯?」
突如出現した謎の黒い球体。それは瞬く間に体積を広げ竜兵達を喰い散らかした。
ウァラクとしてもその中心に鬼龍が居たことは視認していたため犯人の特定は容易だった。しかし、
(コイツ、ああなる事を読んでいた?)
戦いのきっかけを幾ら吹っかけても乗ってこない流を見ていればその考えに至るのは仕方ないだろう。だからこそ分からないこともあった。
(じゃあどうして態々口先だけの戦いに投じた? ああなる事が分かっていたなら実際に戦っても結果は同じだったはず⋯⋯なぜ?)
そう、それは時間の稼ぎ方だった。結果としては同じであっても結びつける過程が気に入らなかったのだ。
そして、次の瞬間には黒い球体から天に昇るように一本の直線が引かれた。
(アレは⋯⋯⋯⋯龍ッ!?)
それがなんであるかを察するには十分すぎる衝撃だった。まさかまさか、人間が龍に化けるとは思いもしなかったからだ。
(竜や龍が人間に化けるならいざ知れず、人間が龍に化けるとは⋯⋯面白い!)
心中で歓喜に震えながらも一体の黒龍が織り成す所業を目に焼き付けた。
まずはじめに起きたのは全ての竜兵が潰れることだった。
そして次に起きたのは竜兵が二度と顔を出す事がなくなったことだった。
(アレは重力魔法? だが何かおかしい⋯⋯重力魔法なら周囲へ見てわかる変化が起きるはずだ)
ウァラクが思っているのはクレーターのことである。重力魔法を使えば当然のように力の痕跡が残る。
しかし、今回は竜兵達が自ら潰れたようにも見えるほどに何も起きていない。そして、新たな竜兵も出ることを嫌がっているかのように現れない。
(この陰鬱な空気もそうだ⋯⋯なんだこの気味の悪さは⋯⋯)
黒い球体が現れてから感じるようになった澱んだ世界。
そんな場所の急に放り投げられたウァラクは不穏で不快な感情を感じざるを得なかった。
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「何が起きている⋯⋯?」
ウァラクの驚きを隣で聞いていた流は疑問と歓喜を半々に感じていた。
流の中で第一段階は限界まで疲弊すること。これは無限に湧き出る竜兵との戦闘で得られるものだった。
そして、第二段階に絶対的な強者と戦い自己を確立させることにあった。そこである程度の助言はするものの考えられる未来では大部分がそこで完成する。だが⋯⋯、
(あの程度で全ての段階を超えたのか?)
現実は小説よりも奇なり。そう感じざるを得ない流であった。
(これではまるで最初から使えた⋯⋯いやいや、奴のステータスには『降龍術』は無かった。かと言って、あの雑兵が奴にとって強者となりうるかというとそんなはずはないと思うんだが⋯⋯)
結果もそうだが過程も大事にしている流からしてみればどうしても辿り着いてしまう場所であった。ある程度拳や剣を交えただけに特にだ。
(まあ、今はそれは必要ないか。今回は結果として鬼龍は『降龍術』を手に入れた。これで反撃と出るか!)
竜兵を片ずけ一直線に流の元に駆けつける黒龍を見て流の口角は上がっていた。
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