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四章〜最悪の世代と最後の世代〜
第62話「太古の王が生存」
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魔力が爆ぜ、突風に打ち上げられた砂塵がパンドラの視界を覆う。
握る細剣からは確かに肉を貫く感触が伝わり、遮られる視界の先にはうっすらと人影が浮かんでいる。
「⋯⋯」
倒した⋯⋯かどうかは別として確実に致命的な一撃を与えた確信があった。しかし、理性に反してパンドラの背中には冷たいものが走っていた。
本能はまだ警鐘を鳴らしているのだ——まだ終わりではない、と。
そして、晴れる視界の先には——、
「新世代の【ダンジョンマスター】と配下の力。最初はガッカリしてたが、どうやらナメてたみてぇだな」
「——っ」
——肉厚で半透明な何かに包まれた侵入者の姿があった。
悪魔のツノと天使の翼、頭部には簡易的な顔が模様のように浮かび上がっている半透明な何か。その肉厚な脂肪のようなモノによってパンドラの細剣は侵入者まで届くことはなかった。
「そんじゃあ、そろそろ終わりとするか——リヴァイ」
どこから現れた?
一体これは何だ?
侵入者の能力か?
様々な疑問が飛び交い驚愕するパンドラを置いてけぼりに、侵入者がその名を呼ぶと——
「——ゴポっ?!」
——視界が水で満たされた。
フロア一体を覆い尽くすほどの水量が突如として現れたのだ。
次々と変化する状況に頭が追いつかず、反射的に反応できた手が口を塞ぎ何とか酸素が吐き出されるのを防いだ。しかし——、
「あんまり抵抗すんなよ」
「ゴボッ!!」
その悪あがきを嘲笑うかのように腹部へと強烈な一撃が叩き込まれた。
せっかく溜め込んでいた酸素は勢いよく吐き出され、水泡となって上へ上へと昇っていってしまう。
(ち、力が⋯⋯入りません⋯⋯)
無酸素状態による脳への強い拘束感と水圧による強烈な圧迫感。
この二つが容赦なくパンドラへと襲いかかる。そして、薄れる意識の中で——
(あれは⋯⋯蛇⋯⋯? あなた⋯⋯さ、ま⋯⋯)
——部屋全体を一周するほどに長く、巨大な影を見た。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
「——っ! 貴方様ッ!」
叫びながら勢いよく起き上がったパンドラ。
肩を上下させ、震える自身の手を覗き込みゆっくりと動かす。そして最初に浮かぶ疑問——
「どうして⋯⋯私は生きているのですか?」
——その答えが分からなかった。
侵入者に完敗し、ダンジョンは水没した。にも関わらず、感じる胸の鼓動と冷たい地面の感触は間違いなく『生』の実感だった。
「——はっ! 貴方様は?! 貴方様ッ!」
押し寄せる疑問と不可解な事実に一瞬奪われた思考だったが、それよりも優先すべき存在を思い出した。
パンドラは首が千切れるのではないかと思うくらいに勢いよく周囲を見渡した。そこには——、
「あー、やぁっと起きたか」
雑に並べられたレイジ達と手頃な岩の上でくつろぐ侵入者の姿があった。
「貴方様! ご無事ですか!」
侵入者に目もくれずパンドラはレイジの元まで駆け寄った。
そして、レイジを優しく抱き上げるとあることに気づいた。
「⋯⋯治療されている?」
レイジの体には傷らしい傷は見つからず、呼吸は安定しておりいつ目を覚ましてもおかしくはなかった。
その横ではミサキやエイナ、『女』も同じように傷は見当たらず、呼吸も安定しているように見えた。
そして、よく見れば自身の体にも傷がキレイさっぱりとなくなっていた。
「ど、どういうことですの⋯⋯?」
「そりゃあ、アタシが治したからだよ」
岩の上から眺めていた侵入者がパンドラを見下ろした。
パンドラはゆっくりとレイジを寝かせると、闇魔法で作り出した細剣を構えた。
「⋯⋯一体、何が目的なのですか?」
「当然の疑問だな。だが、アタシにはテメェ等を殺す気はねぇ」
「⋯⋯」
侵入者に殺す意志があったら既にパンドラ達は死んでいた。
その事実があるだけにパンドラは侵入者の言葉を嘘だと切り捨てることができなかった。
そして、何も言い返せず押し黙るパンドラに侵入者は一つの質問を投げかける。
「テメェは薄々勘づいていんじゃねぇか?」
「⋯⋯何がでしょうか?」
「アタシが何者か、だよ」
「⋯⋯」
侵入者の質問にパンドラはまたしても口を閉ざした。
侵入者が現れた時に見えた次元の裂け目。
勇者以外で考えられる単騎で異常な強さ。
最後にうっすらと見えた人外な生物の影。
それ等が示す答えは——
「——【ダンジョンマスター】⋯⋯ですか」
「その通りだ」
侵入者はパチパチと手を叩きながら獰猛な笑みを浮かべた。
満足そうにする侵入者だが、パンドラにとっては依然として疑問が解消されていない。
「なるほど、その言葉を聞けていくつか合点がいきました。おそらくですが、貴女の目的は⋯⋯共闘、ですか?」
「ほぉ、話が早いじゃねぇか」
「コチラとしても同じ考えをしていたので」
地球に送還された直後、レイジとの話し合いを思い出すパンドラ。
そこで話題に上がったのは【ダンジョンマスター】同士の共闘だった。
全人類を敵に回し、なおかつ【魔王】を討伐する必要があるため横のつながりである【ダンジョンマスター】同士で手を組むのはある種必然的な流れだった。
しかし、問題としてあったのはダンジョンから出ることが難しく、さらにダンジョン内からコンタクトが取れないことだった。
「求めていた相手からの接触です。貴方様も喜んで応えてくれるはずです」
「存外に新世代はバカじゃねぇみたいだな」
「ですが——」
これ以上に進展する話し合いならレイジが起きてからの方がいいと判断したパンドラ。
しかし、レイジが目を覚ます前に絶対に確認しなくてはいけないことがあった。
「貴女が戦いを仕掛けた理由はなんですか?」
レイジの身の安全だった。
「そいつは当然——力が無いヤツには価値はねぇからだよ」
「⋯⋯それを聞けて少しだけ安心しました」
そう言いながらパンドラは細剣を下ろした。
あまりに暴力的な発言だが、魔界という過酷な環境下で生きてきたパンドラとしては懐かしい価値観であった。
むしろ、話し合いで解決できることの方がおかしいと思うほどだったのだ。
そして、侵入者の言い分は裏を返せばレイジには力があり、共闘を組む相手としては不足はないということなのだ。
「それではここから先は私の主を交えて——」
「いや、待ちな」
侵入者はレイジを起こそうとするパンドラの動きを言葉で制した。
「その話をする前にテメェに聞きたいことがある」
「⋯⋯私に、ですか?」
意外な形で呼び止められたことに少し驚くパンドラ。
侵入者を見ると、先の戦いよりも真剣な表情で座っている姿があった。
「ああ、そうだ。テメェ——」
パンドラ以外が眠っている状況下。
誰にも聴かれたくない話をするにはとても都合がいいこの空間。まるで意図的に作られたような静かな場所で——
「——【ダンジョンマスター】の時の記憶は残ってんのか?」
——天地をひっくり返すような爆弾が投げつけられた。
握る細剣からは確かに肉を貫く感触が伝わり、遮られる視界の先にはうっすらと人影が浮かんでいる。
「⋯⋯」
倒した⋯⋯かどうかは別として確実に致命的な一撃を与えた確信があった。しかし、理性に反してパンドラの背中には冷たいものが走っていた。
本能はまだ警鐘を鳴らしているのだ——まだ終わりではない、と。
そして、晴れる視界の先には——、
「新世代の【ダンジョンマスター】と配下の力。最初はガッカリしてたが、どうやらナメてたみてぇだな」
「——っ」
——肉厚で半透明な何かに包まれた侵入者の姿があった。
悪魔のツノと天使の翼、頭部には簡易的な顔が模様のように浮かび上がっている半透明な何か。その肉厚な脂肪のようなモノによってパンドラの細剣は侵入者まで届くことはなかった。
「そんじゃあ、そろそろ終わりとするか——リヴァイ」
どこから現れた?
一体これは何だ?
侵入者の能力か?
様々な疑問が飛び交い驚愕するパンドラを置いてけぼりに、侵入者がその名を呼ぶと——
「——ゴポっ?!」
——視界が水で満たされた。
フロア一体を覆い尽くすほどの水量が突如として現れたのだ。
次々と変化する状況に頭が追いつかず、反射的に反応できた手が口を塞ぎ何とか酸素が吐き出されるのを防いだ。しかし——、
「あんまり抵抗すんなよ」
「ゴボッ!!」
その悪あがきを嘲笑うかのように腹部へと強烈な一撃が叩き込まれた。
せっかく溜め込んでいた酸素は勢いよく吐き出され、水泡となって上へ上へと昇っていってしまう。
(ち、力が⋯⋯入りません⋯⋯)
無酸素状態による脳への強い拘束感と水圧による強烈な圧迫感。
この二つが容赦なくパンドラへと襲いかかる。そして、薄れる意識の中で——
(あれは⋯⋯蛇⋯⋯? あなた⋯⋯さ、ま⋯⋯)
——部屋全体を一周するほどに長く、巨大な影を見た。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
「——っ! 貴方様ッ!」
叫びながら勢いよく起き上がったパンドラ。
肩を上下させ、震える自身の手を覗き込みゆっくりと動かす。そして最初に浮かぶ疑問——
「どうして⋯⋯私は生きているのですか?」
——その答えが分からなかった。
侵入者に完敗し、ダンジョンは水没した。にも関わらず、感じる胸の鼓動と冷たい地面の感触は間違いなく『生』の実感だった。
「——はっ! 貴方様は?! 貴方様ッ!」
押し寄せる疑問と不可解な事実に一瞬奪われた思考だったが、それよりも優先すべき存在を思い出した。
パンドラは首が千切れるのではないかと思うくらいに勢いよく周囲を見渡した。そこには——、
「あー、やぁっと起きたか」
雑に並べられたレイジ達と手頃な岩の上でくつろぐ侵入者の姿があった。
「貴方様! ご無事ですか!」
侵入者に目もくれずパンドラはレイジの元まで駆け寄った。
そして、レイジを優しく抱き上げるとあることに気づいた。
「⋯⋯治療されている?」
レイジの体には傷らしい傷は見つからず、呼吸は安定しておりいつ目を覚ましてもおかしくはなかった。
その横ではミサキやエイナ、『女』も同じように傷は見当たらず、呼吸も安定しているように見えた。
そして、よく見れば自身の体にも傷がキレイさっぱりとなくなっていた。
「ど、どういうことですの⋯⋯?」
「そりゃあ、アタシが治したからだよ」
岩の上から眺めていた侵入者がパンドラを見下ろした。
パンドラはゆっくりとレイジを寝かせると、闇魔法で作り出した細剣を構えた。
「⋯⋯一体、何が目的なのですか?」
「当然の疑問だな。だが、アタシにはテメェ等を殺す気はねぇ」
「⋯⋯」
侵入者に殺す意志があったら既にパンドラ達は死んでいた。
その事実があるだけにパンドラは侵入者の言葉を嘘だと切り捨てることができなかった。
そして、何も言い返せず押し黙るパンドラに侵入者は一つの質問を投げかける。
「テメェは薄々勘づいていんじゃねぇか?」
「⋯⋯何がでしょうか?」
「アタシが何者か、だよ」
「⋯⋯」
侵入者の質問にパンドラはまたしても口を閉ざした。
侵入者が現れた時に見えた次元の裂け目。
勇者以外で考えられる単騎で異常な強さ。
最後にうっすらと見えた人外な生物の影。
それ等が示す答えは——
「——【ダンジョンマスター】⋯⋯ですか」
「その通りだ」
侵入者はパチパチと手を叩きながら獰猛な笑みを浮かべた。
満足そうにする侵入者だが、パンドラにとっては依然として疑問が解消されていない。
「なるほど、その言葉を聞けていくつか合点がいきました。おそらくですが、貴女の目的は⋯⋯共闘、ですか?」
「ほぉ、話が早いじゃねぇか」
「コチラとしても同じ考えをしていたので」
地球に送還された直後、レイジとの話し合いを思い出すパンドラ。
そこで話題に上がったのは【ダンジョンマスター】同士の共闘だった。
全人類を敵に回し、なおかつ【魔王】を討伐する必要があるため横のつながりである【ダンジョンマスター】同士で手を組むのはある種必然的な流れだった。
しかし、問題としてあったのはダンジョンから出ることが難しく、さらにダンジョン内からコンタクトが取れないことだった。
「求めていた相手からの接触です。貴方様も喜んで応えてくれるはずです」
「存外に新世代はバカじゃねぇみたいだな」
「ですが——」
これ以上に進展する話し合いならレイジが起きてからの方がいいと判断したパンドラ。
しかし、レイジが目を覚ます前に絶対に確認しなくてはいけないことがあった。
「貴女が戦いを仕掛けた理由はなんですか?」
レイジの身の安全だった。
「そいつは当然——力が無いヤツには価値はねぇからだよ」
「⋯⋯それを聞けて少しだけ安心しました」
そう言いながらパンドラは細剣を下ろした。
あまりに暴力的な発言だが、魔界という過酷な環境下で生きてきたパンドラとしては懐かしい価値観であった。
むしろ、話し合いで解決できることの方がおかしいと思うほどだったのだ。
そして、侵入者の言い分は裏を返せばレイジには力があり、共闘を組む相手としては不足はないということなのだ。
「それではここから先は私の主を交えて——」
「いや、待ちな」
侵入者はレイジを起こそうとするパンドラの動きを言葉で制した。
「その話をする前にテメェに聞きたいことがある」
「⋯⋯私に、ですか?」
意外な形で呼び止められたことに少し驚くパンドラ。
侵入者を見ると、先の戦いよりも真剣な表情で座っている姿があった。
「ああ、そうだ。テメェ——」
パンドラ以外が眠っている状況下。
誰にも聴かれたくない話をするにはとても都合がいいこの空間。まるで意図的に作られたような静かな場所で——
「——【ダンジョンマスター】の時の記憶は残ってんのか?」
——天地をひっくり返すような爆弾が投げつけられた。
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