『神託』なんて、お呼びじゃない!

温風

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【本編終了後】太陽だけが知っている *

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 ゼノンの琥珀色の虹彩は、母のお気に入りだった。
 幼い頃は日課のように「あなたの瞳は太陽の光を閉じ込めたみたいね」と賞賛したものだ。構いたがりな母は毎年新たなハンカチーフを誂えると、子供たちそれぞれのイニシャルを必ず手縫いして贈ってくれる。ゼノンの母はそういう人なのだ。
 かけがえのない番を得た息子を祝福しようと、彼女がお気に入りの内装職人を送り込んできたのが事の発端だった。

「どういうつもりだよ? こんな大掛かりな工事、いらないだろ」
「断っても押し付けてくるのが母親という生き物なんだ」
「それにしたって……大げさすぎる」

 パヴェルは気乗りしない顔をこちらに向けた。

 朝の静寂を破り、生真面目そうな職人たちが玄関前までえっさほいさと資材を運び込んでいる。
 王都の街角に建つ煉瓦造りの家は、ゼノンが自分で購入した物件だ。小さいながらも落ち着いた家にパヴェルと住みはじめ、ふた月ほど経つ。しかし母から言わせると、庭も建物も荒涼としていてうら淋しく見えるらしい。せめて内装は新婚の若者二人に相応しく華やかに、といって肝入りの職人をよこしたのだった。

 職人たちの話では、壁紙の交換と寝室の改装を仰せつかっているという。家のそばを通りかかる人たちは、建て替えでもするのかと興味深げな眼差しを投げかけていた。

「腕のいい職人たちだ。我々が帰る頃には終わっている」

 宥める口調でゼノンが言うと、パヴェルはむっと眉根を寄せた。白く美しい額に悩ましげな皺が刻まれる。

「俺、今以上に豪勢にされたら落ち着けないんだけど」
「……正直、どうなるかは私にも保証できない。母の趣味は、その、独特だから」

 言葉を濁したゼノンを、突き刺すような眼差しでパヴェルが見つめている。わざとらしい咳払いを挟んで、ゼノンは話題を変えた。

「ところで具合はどうだ? 今朝から復帰して大丈夫そうか?」
「平気。何もおかしなところはないよ」
「そうか。……よかった」

 思わず安堵の息を漏らした。
 パヴェルの発情は不定期で不安定だ。番になってからも、短時間の発情がいきなり始まることがたびたびあった。たいていの場合、一日以内で収まるが、不安定な発情のおかげでなし崩し的に同じ寝室で眠るようになった。
 暗い夜、パヴェルを腕に抱いて眠るのが、ゼノンはたまらなく好きだ。
 仕事を終えて帰ると、寝台の上で目を潤ませながら巣作りをしているパヴェルを見つけた時は、愛おしさで狂いそうになった。
 番は人生の喜びだ。番のことを思うだけで頑張れる。ゼノンは今、幸せに満たされていた。





 宰相府勤めではなくなったが、今も宰相ランドール卿の元へ馳せ参じることは多い。ゼノンが訪れると、アリスとセシルもちょこちょこと覗きに来る。二人はゼノンの番となったパヴェルに大層懐いていて、遊びに来てくれないかと日々待ち侘びているのだ。

「アリス様。申し訳ないのですが、しばらくパヴェルと会わせるわけにはまいりません」
「いつまで待てばいいのよ! ゼノンってば、あたしの邪魔ばっかりしてない?」
「おや、お気づきでしたか。それは私がパヴェルを独り占めしたいからです」
「な、なんですって……?」

 アリスは愕然としたように唇を震わせた。
 だが、この措置はアリスを守るためでもある。
 番を得たオメガのフェロモンは、番以外のアルファには作用しないとされているが、第二性の働きにはいまだ謎が多い。少しでもアリスが影響を受けて、ふたたびあわや発情、本能むき出し、という事態になれば、ゼノンは自分を律する自信がなかった。下手をすればアリスを傷つける可能性だってある。
 第二性が目覚めかけているアリスからは、パヴェルを引き離しておきたいのだ。
 お二人に我慢を強いるのは臣下として心苦しいが、番を守るためには必要な危機回避措置だった。

 そんな苦労があるとも知らず、アリスは自身のフェロモンでちくちくとゼノンを威嚇している。無意識に攻撃してしまうのだろう。いや、意識的にか。
 ランドール卿が申し訳なさげな顔で、『君の番、アリスちゃんの理想の王子様みたいなんだよね。なんかごめんね?』と告げてくるほどだ。あからさまにゼノンを嫌っている。
 パヴェルのどこが王子だ。各国の王子に失礼だろう。そうは思ったが、小さなセシルはともかく、アリスはやたらとパヴェルにくっ付きたがる。
 あいつ、なぜこうも女児に執心されているんだ? 見ていて不安になる絵面じゃないか。
 余計な心配事が増えてしまい、ゼノンは気が休まらなかった。

「あれ? ゼノンからパヴェルの匂いがするよ?」

 セシルがこてんと首を傾けた。ゼノンの心臓がどきりと跳ねた。

「ゼノンとパヴェル、あそんできたの? きょう? きのう?」

 セシルがゼノンの腕を引き、じいっと真剣な眼差しで見上げてきた。
 優れた嗅覚。身近なベータにも鼻の鋭い男がいるが、セシルはまだ第二性が未分化だ。この方もアルファかもしれないと思うと、背中がひやりとする。

「……昨夜、少しだけ遊びました」

 ぎこちない笑顔で告げると、セシルは嬉しそうな顔になり、「いいなあ」と微笑んだ。

「ぼくね、パヴェルのとなりにいると、やさしい気持ちになれるんだ。それにね、ぐっすりおひるねできるんだよ」
「ええ……わかります」
「ゼノンもいっしょにおひるねしてるの?」
「いえ……私は、昼寝はしませんが……」

 夜の営みについてなど話せるはずもなく、ゼノンは歯切れの悪い返事をした。
 そのやりとりを聞いていたアリスは、ぶるぶると震えながら「はあああ? ゆるさない、ゆるさないわゼノン!」と悔しげにクッションを振り回す。その斬撃を適当にいなし、「パヴェルからお手紙を出させますね」と約束して、その場を辞した。

 アリスとセシルに対して、ゼノンは激しい嫉妬を覚えたことがある。パヴェルと出会ってすぐの頃、『花嫁ごっこ』をしていたパヴェルを見て、ひどく心をかき乱されたのだ。
 あの花嫁姿はまさしく不意打ちだった。
 神託によって突きつけられた運命の相手。はじめは粗暴で、ろくな取り柄もなさそうに見えた。どうでもよかったはずなのに、ヴェールごしに垣間見えた清楚な美しさに、すべてを持っていかれた。
 あの時、思わずパヴェルに苛立ちをぶつけたのは、紛れもなく、アリスとセシルへの嫉妬だった。





 日が暮れ、茜色に染まった空が群青に沈む。
 勤務を終えて自宅に帰ると──大きく変貌を遂げた寝室に、ゼノンもパヴェルも絶句した。
 今朝まで二人が使っていた寝室。そこはすでに異界となっていた。

 壁紙はいちめんの花柄。ぼうっと見つめているだけでも目が疲れそうだ。そして寝台の真上には飾り金具が取り付けられ、白く薄い紗幕が寝台を包み隠すように垂れ下がっていた。

「うわっ……え、これ、天蓋ってやつ? いらねーだろ! 野郎二人が寝る部屋だぞ!?」
「すまない、パヴェル……天蓋は母の希望らしい」
「おまえのかーちゃんすげーな!?」
「私では……止められなかった」

 夢見がちな少女がそのまま大きくなったゼノンの母の趣味が、いかんなく発揮されていた。
 念のため付け加えておくと、ゼノンだけでなく姉も兄も、兄弟全員が平等に母の餌食になっている。しかも老齢の父は母に甘い。むしろ歳を重ねても少女の心を失わない母のことを楽しく眺めているふしさえある。
 母は純粋な善意で動いているため、誰の手にも負えない。
 よく見れば寝具の上には色とりどりの花びらまで散らされていた。あえかに香る花の匂い。まるで今さっき結婚式でも挙げてきたばかりのカップルが初夜に臨むかのような雰囲気だ。
 ……ここまでやるか。
 ゼノンは寝室の光景にいたたまれなくなり、両手で顔を覆った。

「改装っていうからどんなかと思ってたけど、寝台のサイズは変わってないんだな。……じゃあ俺、あっちの部屋で寝るわ」

 パヴェルの声で現実に引き戻された。すたすた出てゆこうとする腕を慌てて掴んで引き留める。

「なに……? 待て、どういうことだ」
「前から思ってたんだよ。大の男二人が同じ寝台で寝るのって、窮屈じゃないか? あんたが天蓋付きを使えばいいじゃん」
「それは困る! だ、だいたい、おまえが発情した時はどうするんだ!?」
「発情した時は例外だよ。でもさ、寝室ってのは安らぎの空間だろ? 一人の時間も持てるようにしといたほうが、精神的に安定すると思うんだよね」

 パヴェルが理路整然とした声で言った。二人で肌を求め合っていた時の甘さが、微塵も感じられない。
 まさか……マザコンだと思われて嫌われた?
 ゼノンは焦り、うろたえた。

「待ってくれ、これは……何だ、どういう話なんだ?」

 別れ話だなんて言わないでくれという願いを込めて、パヴェルの肩を掴んだ。パヴェルはきょとんと瞬きをすると、静かにゼノンを見つめ返した。

「俺たちの寝室、分けてみないかって提案してるんだけど」

 ゼノンは一瞬、何を言われたのか理解できなかった。何度かパヴェルの言葉を反芻して、ようやく頭が追いついた。
 寝室を分ける? そんなの納得できるはずがない。

「なっ……莫迦を言え、寝室を分ける意味がわからない!」
「えーと、ちょっと落ち着いてゼノンさん? とりあえず……夕食、食べながら話そうよ」

 パヴェルは一瞬気圧されたようにぽかんとして、困ったように微笑んだ。


 パヴェルと共に食事の支度をし、ダイニングに皿を並べた。使用人は置かないことにしているので、家事は二人で分担している。今夜のメニューはざく切り野菜のスープとチーズ、ベーカリーで買ってきた黒パンだ。
 だが、パヴェルは籠に入れっぱなしにしていた固いパンを取って食べはじめた。彼はこうした、シンプルでモソモソした食べ物を好む傾向がある。ものを食べている時のパヴェルはリスのようで、どこか可憐だ。

「それはどこの店のパンだ? パサパサしてるじゃないか。私がもっと良いパンを買ってきたのに」
「一方的に高いもん押し付けられても困るんだよ。俺の舌は庶民派なの。固いパンじゃないと食べた気がしないの」
「舌って、おまえな……」

 パンくずが無駄にぽろぽろと落ちて、ちっとも美味しそうには見えないのだが。ため息混じりに目を細めれば、パヴェルがにんまりと艶やかな笑みを浮かべた。

「あっ、もしかして今、えっちなこと考えた?」
「考えてない!」
「なあんだ、お堅いなあ」

 パヴェルは肩をすくめた。
 ゼノンは「寝室を別々にするなど、私は絶対認めないぞ!」と粘ったが、「お試し期間って思えばいいだろ? タダだし、みみっちいこと言うなって」と可愛い顔でお願いされてしまい、納得できないまま頷いてしまった。完全に丸め込まれたといっていい。
 なんだかパヴェルにいいように転がされている気がする。この日は転がされるまま、別々の寝室で眠ることになった。





 命じられるまま、敵を屠る。彼らは本当に敵なのか。疑問を挟む猶予のない命のやりとりが続く。何が正しいのかわからないまま、剣を振るい、弓を引いた。
 いつのまにかゼノンの周りは血の海ができていた。足をすくわれ、すっ転ぶ。真っ赤な海の中から無数の手が伸びて、ゼノンを引き摺り込もうとしている。息ができない。

 暗闇の中でもがくうちに、はっと目が覚めた。
 冷たい汗が脇を濡らしている。ここしばらく戦の夢は見なかったのに、一人で眠るようになった途端、これだ。情けないと思った。戦の悪夢はゼノンから消えることはないのだろう。

 部屋の前で人の気配がした。控えめなノックの音がする。パヴェルが燭台を片手に、ゼノンの寝室の扉を開けた。

「大丈夫か?」
「ああ……すまん。大声で叫んだ記憶はあるんだが」

 目覚める時、あっと叫んだのは体が覚えている。その声が部屋の外まで聞こえていたのだろう。パヴェルが顔色を窺うように寝台のそばに寄ってきた。妙な心配をかけてしまった。
 苦笑混じりに「迷惑をかけたな」と眉を下げる。
 パヴェルは「こっちは全然平気だけど」といって、ゆるゆると首を横に振った。めずらしく神妙な顔をしていた。

「あんた、いつも夜深くに飛び起きてるよな」

 悪夢に魘されているのだと気づいていたらしい。肝の小さな男だと思われたかもしれない。
 言葉の接ぎ穂を見つけられずにいると、パヴェルは「良いもの作ってやるよ」といって部屋を出ていった。どたどたと騒がしい足音を立てているのはわざとだろうか。

 誘われるように、ガウンを着てパヴェルのあとを追いかけた。
 厨房で火を起こすと、小さな鍋にワインとハーブをひと枝、さらに蜂蜜を投入し、とろ火で少しずつ温めていく。ささやかだがスパイスの香りもした。ワインが沸騰する手前で小鍋を火から下げ、中身を陶の杯に注いだ。

「こういう夜には、これが打ってつけだ。人間、不安な時は、体を温めれば何とかなるもんだ」

 パヴェルは時折、意外な優しさを見せる。杯を受け取ると、じんわりと手にぬくもりが伝わってきた。冷たく暗い夜の海から助け出されたような気がして、体がぽかぽかしてくる。
 恐怖と不安の渦は次第に凪いでいった。
 飲み干して礼を言い、寝室に引き返した。パヴェルがゼノンのあとを付いてくる。やがてゼノンを追いこすと、天蓋の紗幕を開けて、ゼノンの毛布にくるまった。

「……いいのか? 私の寝台は少女趣味全開の天蓋付きだぞ?」
「体が冷えた。ひとりじゃ寒い」
「……素直に言えばいいだろう。私が恋しくなったと」
「ほっとけっつーの」

 パヴェルは憮然とした表情で、べっと舌を出した。

 毛布にくるまるパヴェルの体を引き寄せて、匂いを吸い込んだ。野に咲く花のような、ささやかで静謐な香り。ゼノンにだけ許された特上の香りだ。

「なあ。髪はまだ染め続けるのか?」

 ゼノンの長い髪をもてあそびながら、パヴェルがぽつりと尋ねた。ゼノンは髪を漆黒に染めている。

「白だと目立つからな。黒い方が落ち着く」
「ふーん。まあ、髪染めるのって気分転換にもなるよな。色街の姐さんたちも染め合いっこして遊んでたよ」
「それは……」
「あっ、浮気じゃないぞ! 子供の頃に住んでたのが色街だったから」
「おまえが浮気するなんて思ってないさ。私はパヴェルを信じてるからな」
「すっげえ圧力感じるんだけど……」

 怯えたように肩を引いたので、追いかける代わりにフェロモンを出した。パヴェルが身を固くする。

「実はな……少しずつだが、元の髪の色が戻ってきたんだ」

 一度は色を失い、真っ白になった髪。番を得たおかげだろうか。少しずつ、以前の黒々とした色が返ってきたのだ。アルファとはつくづく単純な生き物なのだなと身をもって実感した。

「下の色も変わった」

 耳元に息をかけるように声を低め、囁いた。

「パヴェル、今夜は?」

 耳元で囁くと頬が赤く染まって、胸に拳が飛んできた。猫の手のような軽い拳だ。パヴェルは寝台でくるりと丸くなって「ああ~」となにやら悶えているが、これが彼の承諾の印だった。

「……顔は見るなよ」
「初回はそうしよう」
「初回って……あんたなぁ!」

 潤んだ瞳でキッと睨まれる。
 ゼノンは聖人でも人格者でもない。一度で終われるはずがないのだ。長い間お預けをくらった大型の犬が甘えるように、パヴェルを押し倒す。やわらかな唇をぺろりと舐めれば、愛しい男は耳まで真っ赤になった。



 背中から抱きしめ、ゆっくりと腰を動かす。

「あっ……んんっ、あっ、あ……」

 パヴェルの背中が刺激に波打った。
 本当は顔を見ながら抱きたいのだが、パヴェルは恥ずかしがって、なかなか許してくれない。後ろから突いてと言うばかりだ。
 軽く動くだけでパヴェルが果ててしまうので、愛でる時間を引き延ばす工夫が必要だった。パヴェルがひときわ快い声で鳴いたところで、ゼノンは腰の動きを止めた。

「あっ……? なんでっ……?」

 涙目になって後ろを振り向き、早く突いてくれとねだる。その姿を、ゼノンは目を細めて堪能した。のらりくらりしている割に滅多に甘えてくれない彼が、閨ではぐずぐずになって甘えてくるのが嬉しいのだ。
 パヴェルは精一杯腰を高く上げて、ゼノンの昂ぶりを受け止めようとしている。白い尻がふるふると震えた。
 見た目よりも華奢な腰と尻の丸みが欲を煽る。パヴェルの引き締まった肢体の線はなめらかで、しなやかな筋肉がついている。やりすぎないようにしたいが、なまめかしく揺らす腰を両手で支えて視線を落とした。
 パヴェルの背骨の付け根には、横並びの三つのほくろがある。冬の夜空に輝く三つ星のように。

「ゼノン、ん……っ、動けよぉ!」

 せがまれて、ずぶりと深く腰を沈めた。パヴェルと体を重ね、ひとつになる。
 やわらかな形の中に自分の雄が呑まれていく景色がたまらない。大きく欲望がかき立てられて、パヴェルを激しく抱いた。最中の時だけはためらうことなく名前を呼んでくれるのが、いやらしくて愛らしい。
 みぞおちから手を下へ滑らせ、薄い草むらをかき分ける。パヴェルの中心が健気に主張し、吹き出す泉のように濡れていた。

「……顔、見るな」
「いいじゃないか、見せてくれ」

 肩ごしに囁く。ゼノンの息がかかるだけで、パヴェルの体は官能を感じるらしい。

「だ、だって、あっ……、ゼノンの目……ぎらぎらしてるっ……」
「嫌いか?」
「ううんっ……興奮、するっ……あぁんっ!」

 興奮すると言われたおかげで心身共にみなぎった。張りつめた中心がさらに硬くなり、パヴェルと一体になろうとして貪欲に脈動を繰り返す。

「なんでっ……おっきくするんだよっ……!」

 持続力はアルファのプライドだ。けれどプライド以上に、この胎を満たしたいという貪婪さが湧いて出る。大きく震えたパヴェルが掠れた声をあげて達し、寝台にくたりと身を投げ出した。


「……やりすぎ」

 ゼノンの欲をたっぷり注がれ、少々拗ねているようだが、気だるげな様子はどこか満足そうでもあった。肘枕をしてパヴェルのとなりに横たわり、たおやかな腰のラインを眺める。

「なあ、パヴェル。私はおまえがいないと眠れないらしい。寝室は分けないでくれ」
「……考えとく」

 一筋縄ではいかない愛しい番。

(おまえの腰の三つ星を知るのは、生涯、私だけだ)

 まだ離すつもりはないという意思表示に、ゼノンはパヴェルの腰を強く抱いた。





このあと夜明けまで盛り上がった。(※二人とも顔に出るタイプ)


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