魔物使いの仲間と歩む異世界生活

シュミ

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「―――お待たせしました。では行きましょうか」

 セナさんは腰に剣を携えて、受付から出てきた。

「すみません。お手数をお掛けして」

「いえいえ、ギルドは受けよった依頼を消化するのが仕事ですから、その証明のために現地に向かう事は珍しくありません。⋯⋯⋯まあ、たまに別の目的で連れ出そうとしてくる冒険者の方はいない事もないですけど⋯⋯⋯」

 なるほど剣は護身用というわけか。

 俺たちは共に冒険者ギルドを出て、森へと向かい歩く。

「あの、別の目的で連れ出して来る冒険者がいるって言ってましたけど、その場合はどうするんですか?」

 連れ出す目的とか知れてるけど。
 受付嬢、可愛い人多いし。
 でも屈強な男に襲われたら一溜りも無いはずだ。

「この剣でアソコぶった切ります」

 笑顔のままそう言うセナさん。
 俺はその言葉が冗談だとは思えず、彼女の顔に浮かぶ笑みには狂気すら感じた。

「おお⋯⋯⋯容赦ない⋯⋯⋯」

 思わずヒュっとなった。
 どことは言わないが。

「まっ、冗談ですけどね。でも受付嬢を襲うのはおすすめしませんよ。想定済みですから、軽くいなされて終わるでしょう。こう見えて護身術は得意なんです!」

 興味本位で聞いただけなのだが、釘を刺されてしまった。

「ナルミ様はそういう事をする人には見えないので大丈夫だとは思いますが」

「しませんよ。俺は一時の欲で人を襲うほどお盛んじゃありませんから」

「それなら安心ですね」

 セナさんは意外にも話しやすい人だった。
 そういう性格でないと受付嬢なんてこなせないのかもしれないが。

 そうして歩く事数分、俺たちは山に来ていた。
 住処に向かうとゴルドとコメ丸の姿が見えた。

 俺は手を振り二人に合図を出す。

 こちらに気づいたコメ丸が俺の方に近づいてくる。

『誰だ、その女』

「ギルドの人を連れてきた。ゴブリンたちを集めておいてくれ」

『おう。分かったぜ』

 そう言ってコメ丸は一足先に住処に戻り、ゴルドに何かを話す。
 するとゴルドはこちらを見た後、群れに指示を出した。

 俺たちが住処に着いた頃にはゴブリン達は住処の中央で整列していた。
 ハナも住処からこちらに顔を出している。

「何だか凄い出迎えですね⋯⋯⋯⋯」

「彼らなりに住処を守ろうとした結果です」

「なるほど⋯⋯⋯⋯⋯」

 するとゴルドが俺たち、というかセナさんの方に近づいてきた。

 そうして彼女を凝視する。

「あ、あのナルミ様⋯⋯⋯⋯すごく睨まれてるのですが、これは大丈夫何でしょうか⋯⋯⋯⋯?」

 セナさんは少し顔を青くしてそう言う。

 俺はゴルドの顔を覗き込む。
 ゴルドは眉間に皺を寄せ、傍から見たら威嚇そのものだ。
 それにこの顔だしな。普通に怖いよな。

 するとゴルドは大きく息を吸い、口を開いた。

『は、初めまして!  お、俺はこの群れのボスをさせていただいているゴルドと言います!  もう人間に危害を加えないとお約束しますので、ど、どうか俺たちをお見逃し下さい!』

 そう言って深く頭を下げるゴルド。

 セナさんには雄叫びにでも聞こえたのだろうか。顔を真っ青にして、ものすごく震えている。

「ひっ!?  ⋯⋯⋯⋯ナ、ナルミ様⋯⋯⋯これは一体⋯⋯⋯⋯」

 不安そうな表情を浮かべて俺を見るセナさん。

「プッ⋯⋯⋯アハハハハ。ゴルド、緊張し過ぎだって」

「えっ⋯⋯⋯⋯今の緊張だったの⋯⋯⋯⋯?」

 理解が追いつかず困惑の表情を浮かべてそう言うセナさん。

『わ、悪いなユウ。俺、こういうの苦手なのかもしれん⋯⋯⋯⋯⋯。緊張して噛んでしまった⋯⋯⋯⋯』

 そう言って肩を落とし、ため息をつくゴルド。

「そう落ち込むな。緊張するのは分かるし、よく頑張ってたよ。でもセナさんにはお前の言葉は通じないから、俺に任せてくれ」

 俺はそう言ってセナさんの方を見る。

「とりあえず、敵意がないことは分かって貰えましたか?」

「⋯⋯⋯⋯そ、そうですかね?  まあ通常のゴブリンなら、他者が住処に入って来た瞬間襲いかかってくるので、私が入ってきても攻撃してこなかった時点で証明には十分かと思います。それに妊娠しているホブゴブリンもちゃんといるみたいですし」

「信じて下さりありがとうございます。これでゴブリンの討伐クエストはなくなりますか?」

 セナさんは少し間を開けて言った。

「そうですね。魔物使いにテイムされた魔物は討伐対象から外れますので問題ありません」

 彼女は笑顔を浮かべてそう言った。
 その言葉を聞いて俺は安堵の息を吐く。

「報酬をお渡ししますので、お手数をお掛けしますがもう一度ギルドの方まで来ていただけますか?」

「はい。分かりました」


 ※


 セナさんと共にギルドに戻り、クエストの報酬を受け取る。

「―――ゴブリンが五体とホブゴブリンが三体。合わせて報酬は5000ルーシェとなります」

「ありがとうございます」

 報酬を俺に渡した後、セナさんは何か気になっているような顔をした。

「あの⋯⋯⋯ナルミ様はテイムした魔物たちの言葉が分かったりするんですか?」

「えっ?」

 バレた?  バレたのか!?

 確かに隠す気もなくゴルドたちと会話してたから、当然といえば当然だけど。
 でもコメ丸が言ってたよな。人間に対して女神クレナのことを話すのは控えた方がいいって。
 ここは適当にはぐらかしておくか。

「いえ、実際に聞こえている訳じゃありませんよ。何となくそんな気がするだけです」

「やはりそういうものなのですか⋯⋯⋯⋯。魔物使いの方たちはまるで魔物と通じ合っているようで、すごく羨ましなと⋯⋯⋯⋯あっ、すみません!  つい本音が」

 そう言って慌てるセナさん。
 もしかするとセナさんは魔物が好きなのかもしれない。

「あのナルミ様、もし分かれば良いのですが、ゴブリン達がわざわざ人里の近くに住み始めた理由とか知っていますか?」

 やはりセナさんも少し疑問に思っていたみたいだ。

 詳しい話はゴルドから聞いている。
 だがその全てを教えるのはさすがに怪しまれる。まあ双角狼ラグールが原因という事さえ教えておけば問題はないだろう。

「おそらく双角狼ラグールから逃げてきたんだと思います。ゴルドの顔に爪で引っかかれたような傷がついていましたよね?」

 セナさんは思い出したかのように顔をハッとさせた。

「確かにそうでしたね。⋯⋯⋯⋯なるほど双角狼ラグールがゴブリンたちを⋯⋯⋯⋯。あれ?  でもそんな話聞いたことがありませんね。だとすると何か要因が⋯⋯⋯⋯⋯」

 とセナさんは独り言のようにそう言って悩ましい顔をした。
 そして何かに気が付いたのか彼女は表情を変える。その表情はどこか焦ったようで、とても良い知らせが来るとは思えなかった。
 そしてその予想は的中する。

「これは少しまずいかもしれません⋯⋯⋯⋯」

「まずい、ですか⋯⋯⋯⋯?」

「ええ、双角狼ラグールがゴブリンを襲うなんて話は聞いた事がありません。もしかすると密猟者が関係しているのかも⋯⋯⋯⋯」

 セナさんの言っている事は俺にはあまり理解できなかった。密猟者とゴブリンに共通点があるとは思えないからだ。

「どうしてゴブリンと密猟者が関係しているんですか?  接点なんてないように思えるんですが」

「それはですね。双角狼ラグールの見え方に関係しているんです。彼らの視界を得る方法は独特でして、角の性質を利用して視界を作り出しているんですよ」

「作り出してる?」

 俺がそんな疑問を投げ掛けるとセナさんは双角狼ラグールの角の性質から順に話を進める。

双角狼ラグールの角には空気中の魔力を吸い取る性質と、それを発散する性質があるんです。双角狼ラグールは生きる上で魔力を必要とする魔物なので、角で魔力を吸い、それを身体中にめぐらせる事で血の巡りを助けたり、筋力を増長させて爆発的な身体能力を得たりするんです。その代わり魔力がなくなるとほとんど動けなくなりますし、血の巡りも悪くなるので最悪死んでしまいます」

 角を折られると最悪死ぬってのはこれが原因か。

「それで視界を得る方法なのですが、角で吸収した魔力を発散し、物にぶつかって返ってきた魔力を基に視界を作り出すといった感じです。なので昼夜問わず見え方は同じなんです」

 コウモリの超音波みたいなものか。
 コメ丸から聞いたが、彼らは巣を持たず常に移動しているという。
 なら、昼夜問わず見え方が同じというのは結構理にかなっているのだろう。

「なので双角狼ラグールの視界はだけが何となく分かる程度だと言われています」

「それって、まさか!」

 色も分からず、物のシルエットだけしか見えないというのなら、あるぞゴブリンと密猟者の共通点が。

「はい。彼らの視界ではんです」

 確かに俺がゴブリンを初めて見た時、体の作りが人間にすごく似ていると思った。
 シルエットだけしか見えていないのなら人と変わりはないだろう。
 それにゴルドが言っていた『双角狼やつらの目的は俺たちを食うのではなく殺したがっているようだった』と。
 そして双角狼ラグールは仲間思いな性格だと聞く。
 となれば彼らがゴブリンを襲った理由は一つしかない。

 ―――密猟者への報復だ。

 だが視覚で判別出来ない彼らに本当の密猟者だけを狙う事は難しい。
 だからにした。そして不運にもその特徴に当てはまっていたゴブリンたちが狙われたという訳だ。

 それに普段はしないという群れを襲う行為をした、という事はそれだけ見境が無くなっている証拠だ。
 これは思った以上に危険かもな。
 双角狼ラグールはあの森の最上位捕食者。
 温厚だったから良かったものの、今は獰猛な獣だ。特に人型生物に対して。

 だが一つ疑問が残る。
 双角狼ラグールの視界はかなり独特で、言ってしまえば視覚の能力は他の魔物よりも劣っている。通常目が悪い生物は他の感覚が優れている事が多い。双角狼ラグールは狼のような見た目をしているらしい。となると嗅覚が優れているのではないかと思ってしまう。

双角狼ラグールは視覚以外で匂いとかでも判断は出来ないんですか?」

「ええ、それは私も思ったのですが、人間の扱う職業の中には匂いを消すスキルを持つものもいます。それに【調薬師】といった職業であれば、そういった効果のあるものをポーションにして売り出すことも出来ますから。密猟者ともなれば魔物に気づかれるのを防ぐために何かしら使っていると思います」

 確かにそれなら密猟者を判別するのは相当難しいかもな。

 となると今の双角狼ラグールは復讐のために人影を見れば、間違い襲い掛かる。
 そうなれば怪我どころでは済まないだろう。最悪死ぬ可能性だってある。

「そうなるとあの森は相当危険ですね」

「はい。今すぐ注意喚起をした方が良さそうです。ナルミ様、貴重な情報を頂きありがとうございます」

「いえ、助けになれたのなら良かったです」

 あの森にはまだ問題が残っている。
 ゴブリン達が安全になった、とは言い切れないな⋯⋯⋯⋯⋯。
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