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第二章:牡丹は可憐に咲き乱れる
十八
しおりを挟む初めて書斎に足を踏み入れた。
大きな書架のたくさんの本と重厚感のある書斎机、その他の調度品も落ち着いた雰囲気で揃えられ調和している。中央に置かれたビリヤード台の緑色の天板が和泉の目を引いた。
「もうよそ見はさせてあげません」
顎を掬われた和泉は激しく唇を貪られ、ビリヤード台にぶつかった。
英嗣の手がワンピースの背中のパールボタンを器用に開けていく。肩口にできたゆとりから入ってくる初冬の空気が冷たくて、和泉はふるりと震えた。
震えた原因は寒さからだけではない。十日ほど抱かれていないせいもあり、英嗣を求める気持ちが昂っている。
そして、罪を意識しまた重ねる背徳さに震えているのだ。
「……あっ」
英嗣の手が、絹のシュミーズごと乳房の丸みを掬い揉みしだく。そうしながらくちづけは続けられた和泉は、ビリヤード台に完全に倒された。
「家の中でも洋装は無防備でいけませんね」
「ん……ぅ」
首筋に胸元にくちづけられ、じわじわ熱が全身に広がった。それが身体に溜まっていくのが心地よくて、和泉の目蓋は自然に降りた。
シュミーズの紐もブラジャーもずらされると、あられもない姿になっているのが容易に想像ができて、余計に興奮してしまう。
熱を植え付けるくちづけに翻弄されている身体に、英嗣の手が這い始めた。腹を撫で、腰のまるみも太腿の柔らかさも撫で回した彼の手は、和泉の全身を炙る。あっという間にしどけない姿は、ガーターベルトとストッキングだけになってしまった。
胸を執拗に嬲られ蕩け始めた和泉の思考は、英嗣とひとつになって共に高まりたいという欲求しかない。それだけに、英嗣の指が恥丘を滑っただけで、腰を浮かせてささやかな快感を悦んだ。
「ビリヤード台を濡らすほど興奮して、入るなと言われた書斎が気に入ったのですか?」
尻の方まで濡れているのは和泉も気づいていたが、台のフェルトまで汚しているとは思わなかった。
秘所の花びらを英嗣の指が焦らすようにほぐす。くちゅくちゅ粘着質な淫水を鳴らし触られるたび、和泉は身を捩らせた。
「意地悪を言わないでください」
「事実を申しているだけです。ここをいやらしく濡らし、ふっくらさせているのはあなただ」
「それは……――ぁあっ」
寂しがっていた陰核を英嗣の指が弄ぶ。直接的な刺激で絶頂に昇ろうとした時、英嗣が囁く。
「咎があるのは業突張りの僕です」
和泉は愉悦で声を上げながら、背を大きく仰け反らせた。突き出した胸の乳房に英嗣が食らいつき、舐めて食み、歯を立てる。
英嗣の長い指が濡れた襞を掻き分けて、和泉が堪らなくなるようにねっとりと掻き回す。
「いつもより、ぎゅうぎゅうに締め付けていますよ。書斎がお気に召しましたか?」
和泉は違うと首を振って否定する。どこで抱かれても英嗣に溺れてしまうのは変わりない。違うとは言いきれないのは、立ち入り禁止の書斎だと意識しているのに、果てなく気持ちがいいからだ。
「え、いじさん」
肩で息をしながら英嗣に言う。指では足りない。もっと英嗣がほしい。満たされた分だけ英嗣を満足させてあげたい。
羞恥よりも、欲が勝る。
英嗣がほしいと泣きながら言いかけた時、書斎扉がノックされた。
『ごめんくださいまし、英嗣さま』
女中頭の声が聞こえ、和泉はギクリとした。英嗣はなに食わぬ顔で目だけで扉を見た。
「今取り込み中なので、用件があるならその場で手短にどうぞ」
『はい。英嗣さまは、若奥さまの行方をご存知ありませんでしょうか」
「さあ、僕は知らないな。なにかあったのですか?」
シャツのボタンを外してスラックスの前を寛がせた英嗣は、身を固くさせている和泉の秘所に、くちりと雄を当てがった。
英嗣はそっと和泉に囁く。
「若奥さまが立ち入り禁止の場所にいるとは誰も思ってないようですね」
「……およしになってください」
「嘘つきだな、あなたは。ひくひくさせて欲しがっているるくせに」
蜜口を英嗣の熱塊がぬちぬちと卑猥に往復すると、ぶわりと和泉の羞恥と欲望を煽った。
「……んんっ。だ、め……」
和泉は英嗣の胸を押した。だけど、力が入らなくてなんの役にも立たない。今触れているその熱の楔が、本当はほしくて堪らないのだから。
『村瀬さまがお見えになっております』
「いつも通り待たせておきなさい」
扉の内側がどうなっているか知らない女中頭は、いつも通りの様子で話す。
あちらとこちらの差異が大きくて、和泉の官能が敏感になっていく。
『かしこまりました。――ひとつ、いつもと変わったことがございますので、お伝えします。村瀬さまは旦那さまにもご用事がある様子です』
英嗣は忌々しげに眉を顰め、和泉の身体から離れてしまった。拍子抜けした和泉は、満たされない欲望で胸がいっぱいになってしまう。
「彼の用件は?」
『旦那さまに直接話すと』
「そう。和泉さんに会ったらお伝えしておきます」
英嗣は自分の衣服を整え、力が入らない和泉のワンピースと髪を整えた。
「和泉さん」
「……はい」
火照った身体は、征十郎と面会するよりも、このまま英嗣に最後まで抱かれたがっている。
「行っておいで」
「着替えてから……向かいます」
英嗣のシャツをそっと握った。本当は行きたくない。最後までしてほしい。はしたないのはわかっているから、和泉の口からは言えない。
「人を待たせるなんて失礼をしてはいけませんよ。女の匂いをささせたまま会ってきなさい」
耳元で囁かれた命令を拒絶するなんて和泉には出来なかった。
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