惜しみなく愛は奪われる

なかむ楽

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第三章:椿は艶やかに落ち濡れる

 八

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 ただ愛情をくれたわ。でも――本当に、愛してくれていたの? それすらも嘘ではないのかしら?
 不幸を背負い俯く姿を見たいがため、わたしを側に置いていたのは真実だわ。……時々辛いことを言われ、されたもの。
 それでもよかったのは、わたしが英嗣さんを必要としていたから。――必要?

「わたしがあなたを必要とするために……仕組んだのですね。そんなことをしなくたって、わたしは……。わたしはあなたを必要とし、尊敬し愛していたと思います」

 和泉は背筋を伸ばして英嗣を真っ直ぐ見据えた。

「――わたしは意志のない玩具ではありません!」

 一瞬、英嗣の明るい色の瞳が揺らいだ。

「初めてお会いした時を思い出します。あなたは囲んだ大人にたちに同じようなことを言っていましたね」
「……え? 大人に囲まれていた? 英嗣さんと初めてお会いしたのは結婚式の日では?」

 そう思っていたし、英嗣も何度か言っていた気がする。
 瞬きを繰り返す和泉の頬と額に英嗣がくちづけた。コツンと額と額をくっつけて、英嗣は言う。

「もう七年も前の春になります。パーティー会場で十四歳の和泉さんに一方的にお会いしているのですよ」
「……昭和、四年の春に?」
「そうです。凛とした勝気そうな少女のあなたは、僕に春をもたらしたのです」

昭和四年の春のことを和泉もよく覚えている。芍薬のようなモダンなドレスでめかしこみ、恐慌前の平和を謳っていたあの日。父親が開いたパーティーの場に英嗣がいた記憶がない。

「ごめんなさい。わたしには英嗣さんとお会いした覚えがありません」

 英嗣の指は愛しげに和泉の頬をなぞり、唇をなぞる。

「無理もありません。身分の違う僕は、貴族華族の輪には入れませんでしたから。一方的に会っていただけです」
「教えてくださればよかったのに」
「何度も申していましたよ。初めてお会いした時に心奪われたと」
「不誠実です。……あなたはそうやってまたわたしを誑かすのだわ」
「高い矜持と意志を持ち、真っ直ぐに僕を見る今のあなたは騙せそうにありません」

 英嗣は許しを乞うように和泉にくちづけをした。唇を軽く触れ合い離れた後、和泉は英嗣の唇を追いかけ求めた。

 実家が倒れてから、いつの間にか俯いて暮らすようになっていたわ。お嫁に入ってからも孤独で……。英嗣さんに愛されるようになって、わたし徐々に自信を取り戻し以前の性格に戻れたのだわ。……いいえ。英嗣さんの愛を知ったのだから以前のわたしとも違う。

「英嗣さんの目的がわかりまし、た……」

 舌を絡ませあい熱を交換するくちづけは、互いの官能を高めていく。
 和泉の首すじと肩を英嗣は唇でなぞり、愛しさを伝えるようなくちづけをその白い胸元へ落とす。乳房にもその先にも。
 
「……はぁ」

 こんな吐息を零すのすらなぜか恥ずかしい。
 乳首をちゅくちゅく吸われ、和泉は身体をビクビクさせてよがる。

「僕の目的をお聞かせできますか?」
「え、英嗣さんは……わたしの矜持と自信を取り戻させてくれ、たのですね……ぁっ」
「さて。どうでしょうか」

 嬉しそうに目を細めた英嗣は、和泉の乳首に甘く歯を立てる。

「……ひぅっ」
「僕はあなたのすべてを手に入れたいだけです」
「それが……目的、なのですね」
「誘導されてしまいましたね」

 和泉のなだらかな腹に熱を焚きつけるように英嗣の手が撫で下りる。足のあわいに到達した節ばった指が、くちゅりと新たに淫水を湛えているのを教えた。

「ああ、折角の精を吐き出していますよ。きちんと孕むよう掻き混ぜてさしあげます」

 先程のまぐわいの跡が残る秘所の花弁を一枚一枚捲り、蜜口から溢れ零れたものをかき混ぜる。
 
「入口をひくひくさせていやらしいな。さっき陽根を食べていたばかりなのに、あなたは貪欲にもほどがありますね」
「んん……っ。英嗣さんが、わたしを変えたのです」
「本当にあなたは健気だ。騙していた男に指を入れられていても、こんなに締めつけて悦んで」


 節ばった長い指が濡れ襞を何度も押し擦り、ぴんと張った小さな快感の珠を指の腹でねっとり嬲られた。
 英嗣の手淫で和泉は呆気なく高みへ押しげられる。

「あぁ……っ! いや! ま、まって、くださ……ぃ」
「いまさら待ってあげません。あなたも限界が近いはずです。僕の手で堕ちなさい」
「――――……っ!!」

 深い、深い甘い息を吐きながら、和泉は全身を強ばらせ高みの頂きに一人登る。
 関節から弛緩する心地よさとだくだくと溢れる熱い淫水。下腹部の奥は愛する人の体温をほしがっている。

「ひ、ひとりは……いやです」

 和泉は英嗣に手を伸ばした。

「誑かし騙した男でもあなたは欲しがるのですね」

 寂しそうに嗤う英嗣に、和泉は瞳に強い輝きを持ちながら微笑んだ。
 
「英嗣さんがどうわたしを扱ってもかまいません。真の目的を教えてもらえなくても、これからもわたしを騙していくとしても、英嗣さんの妻はわたしです。地獄でも煉獄でも誰に遠慮もせずに共に参ります」
「――はは。どうも僕はあなたを見くびっていたようだ」

 実に嬉しそうに笑う英嗣を、和泉が引き寄せてくちづけを交わす。
 そうしながら片方の足を上げられて、ぐずぐずに濡れ蕩けた場所に熱く張り詰めた陽根を擦り合わされる。ぐちゃぬちゃと行き来するたび秘玉が陽根に押し潰され、和泉は早くとうわ言を繰り返し英嗣にねだる。

「あなたは想像以上にしたたかで可憐だ……いや、美しい」
「英嗣さ……ん……――ぁあっ」

 焦燥感に似た和泉の欲望は、濡れそぼった隘路に押し込まれた熱い陽根のおかげでみちみちと満たされていく。
 ひとつになったふたりの吐息が絡まると、英嗣は深い場所で和泉を揺らす。

「奥をたくさん突かれるのがお好きでしょう? 存分に愛でてあげます」
「……ひ、ぁっあんっ!」

 悦びうねる奥襞を抉るように強く穿たれ、あるいは緩慢にされ焦れて和泉は喘ぎ泣いてしまう。

「え、えいじ、さん……っ」
「僕だけをその眼差しで見つめていてください」
「ん……は、ぁ――」

 いっそう深く穿たれ、和泉は背を弓なりに反らした。その細腰を英嗣は強く抱きしめる。隙間を作らないぐらいに、熱い肌同士を密着させて舌を絡ませ合った。

「あいしていま、す。英嗣さん……ああ──もう……」

 限界を訴える和泉の最奥で、英嗣の昂りが精を解き放つ。のたうつ楔を離さまいと和泉の奥襞が締め上げる。
 英嗣と共に昇りつめた和泉は、恍惚の中で満たされたまま意識を手放した。
 

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