交際0日。湖月夫婦の恋愛模様

なかむ楽

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5.番外編③

61-12.きみをどんなに好きか(舜太郎視点)③

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 その三日後だった。
 来たる冬季休暇に向けて、苦手な雑務を片付けを事務所でしていると、アルバイトの美大生・森高もりだか卓弥たくやが、七瀬に叱られているのが社長室まで聞こえてきた。社長室と言えば聞こえはいいが、どっしりとした机の上にパソコンがあって、それらしくしてあるだけのガラスパーティションで仕切られた狭い個室だ。

「ばかもの。仕事中に仕事以外の記事をプリントアウトするんじゃない」

「じゃあ、休憩中か業務終了後に」

「会社のコピー機を使うなという話がわからないのか?」

「えー、けちぃ」

 教師と男子生徒のような姿はちょくちょく事務所内で見かける。が、今日は少し違った。七瀬がキリキリしている。

「どうしたんですか?」

 社長室から出て、総務事務員の緒方おがた裕介ゆうすけに聞けば、緒方は柔らかな顔立ちを呆れたようにさせた。

「コピー機に行けばわかりますよ。さすがに今回はぼくも庇えないかな」

 よくわからないなと首を捻って、事務所隅のコピー機へ。最近業者が変えた最新式の複合コピー機のトレイに吐き出された紙は、カバーの上に雑につくねられていた。数十枚ものカラー原稿。裸の男女があられもなくもつれ合う画像と体位の名称、いくつかの円グラフに赤裸々に綴られた女性の体験談。
 私用も私用がすぎるし、いかがわしいがすぎる。森高はコピー機に一時的に記憶されるのを知らないようだ。知っていても森高なら平気でコピーしていそうだなと考えつつ、目が文字を追う。

 〈コレされたらマジ引く〉という見出し。
 ・しつこすぎる。
 ・おじさんくさい行為っていうの?
 ・言葉責め。普通に困惑する。
 ・変態行為。ヤバいって。
 ・毎日セックスとかありえない。……などなど。

 舜太郎自身振り返れば、〈コレされたらマジ引く〉に抵触(逸脱ともいう)することばかりしている。が、藍は懐が深いし、こんなことで嫌いにならないだろう自信がある。が、まだ付き合っけっこんして十か月目なだけに、やけに心に引っかかる。

「社長! しげしげと読まないでください。緒方くん、シュレッダーにかけて早急にゴミに出して」

 ばっと紙束を奪った七瀬が、緒方に紙束を押しつける。

「君島さぁん。こんなことであんまし怒ると疑っちゃいますよ?」

 ケロリとした森高の神経のず太さ。舜太郎はそんなところを買っているのだが、君島はフレームレス眼鏡を指でクイッと直し、森高をきつく睨めつける。

「奥さんとレスなのかって」

 緒方が「あちゃー」と手で顔をおおう。現在、七瀬の妻・彩葉いろはは妊娠六か月。安定期まで妻の体調を思えばセックスも遠ざかるし、身重になった彩葉を思って、愛娘の保育園への送り迎えから負担になる家事を七瀬が引き受けている。
 その彩葉は、この事務所のウェブサイト管理などを在宅で引き受けてくれている。本来は有能なプログラマである。が、冬コミ参加に向けて現在燃えている真っ只中。
 妊娠しているのを知っているはずなのに、森高は爆弾を落とした。被弾した七瀬は、怒るのも馬鹿らしくなったのか、無言で所定の社長室に近い席にどすんっと座った。顔は大激怒のまま。あまり感情的にならない七瀬にとって、森高は鬼門らしい。そういう七瀬を見たくて、森高を採用したのは舜太郎と彩葉だ。

「森高くんはどうしてあんな記事をプリントしたんですか?」

 舜太郎が純粋に問えば、すっとぼけている森高の代わりに緒方が答える。

「クリスマス直前にカノジョができたらしいんですけどね。相性がイマイチらしくって、あほの森高なりに悩んで……の、十八禁なコピーの束なんですよ」

「あー! 緒方さん! 言わないって約束したじゃないですかっ! この日和見主義!」

「すまんな、森高。これが社会の厳しさだ」

 名無~と緒方が手を合わせた。森高の背後で不穏な空気をまとった七瀬がちゃらんぽらんなアルバイトくんを鬼のように睨んでいる。

「えー……。君島さん、怒んないで? 社長助けて?」

「怒られて来なさい。素直に過ちを認めるようにね」

「いやっすよ! パワハラだ!」

「なにがパワハラだ! きみこそ横領と名誉毀損じゃないか! 給湯室に来たまえ」

「あっ、いやん。君島さんマジギレしないで。横領じゃないっすよ。ちょっとプリントアウトしただけ」

「それを横領というんだ!」

 その場でぎゃいぎゃい言い合うふたりを尻目に、舜太郎は森高がシュレッダーにかけていく紙の束に目をやる。
 〈・毎日セックスとかありえない〉

(毎日ではない。ほぼ毎日であって。しつこくもない、はずだ)

 とはいえ、剃毛をしベッドに閉じ込めた翌日、藍は珍しく怒ってしばらく口をきいてくれなかった。とぼとぼと花束を買いに行き、心の底から謝罪をすると、彼女の怒りは氷解した。

『なにかあった時に恥ずかしい思いをするような行為は禁止です』

 しっかり反省したあとのセックスは、燃え上がった。やっぱり舐めやすくなった場所を執拗に責めると、藍は可憐な声をあげて絶頂を繰り返していた。

(かわいいんですよね、藍は)

 しかし、なにかあった時の恥ずかしい思いとは。温泉や銭湯に行く他になにがあるだろうか。男にはわかりにくい分野だ。
 減っていく紙束の表には、〈妊娠しやすい体位♡〉とでかでかな見出しがあった。
 体位で妊娠のしやすさもあるだろうが、懇切丁寧に愛撫をしてお互い高ぶりあえば、神が授けてくれる。

(妊娠か……。産婦人科に行ったら、足が上がるイスに乗るんだった?)

 それならつるつるに剃ってあるのが医者(女医がいい)や看護師に見られてしまい、恥ずかしい思いもするだろう。

(妊娠……するかもしれないんだ)

 藍は一昨日から風邪気味で、寝込む程ではないが、食欲が落ちている。風邪がうつるといけないからと別々で寝ようとしたのを『風邪はうつると治るんですよ』とケロリと言い、強引に一緒に寝た。もちろん、えっちはなし。ただ抱き合って寝るのもいいものだ。




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