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序章 ようこそ!
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眼前ではきのこ雲と共に、村がぺしゃんこになった様が広がっている。
―――やはりこうなったか。
衝撃波とガンマ線、そしてかつてはあの昆虫によく似た原住民達が暮らしていたであろう建築物の破片を防ぎ、漸減したシールドの電力を確認しながら企業から出向してきた隊長はため息を吐いた。
作戦は順調に、少なくとも部下が寺院と思しき建物に核地雷を設置し、退避する旨を伝えてくるまでは間違いなく順調に進んでいた。歯車の運行に歪みが生まれたのは少し後の事である。
地雷の爆発による被害範囲は村全体を余裕で覆える為、部下たちに制圧射撃を命じる際には村外の丘陵地帯にくみ上げたバリケード越しにと命じ、峰から身を乗り出す事は厳に禁じた。部下たちはその命令に忠実に従い、また潜入したドジャーズ、トイボックスの両名もプロフェッショナルと呼ぶに相応しい手際で想定されていた爆風の被害範囲外にまで退避しつつあった。事件が起きたのはその時である。突如として、核地雷が起爆したのだ。
結果として、ドジャーズ上等実動オフィサーは全シールドキャパシティのショートと引き換えに極く軽度の被爆と打撲で済み、同じくトイボックス上等実動オフィサーは爆発と同時にシグナルロスト。殉職として処理された。
惑星X-18までわざわざ足を運んできた商品開発部の技術者は、報告を受け取る時哀悼の意を示したが、落ち着かない指は明らかに脇に挟んだ情報パッドを触りたがっていたのが見て取れた。
これからこちらはキツイ美人に報告し、次いで報告書と部下の死に関しての始末書を書かなければならないのに、と隊長はこの星に降りてから何度目かわからない溜息を吐いた。
「言葉はわかるかい」
目の前でそう言い、自分を見下ろす老人を見ながら、トイボックス上等実動オフィサーは自身に起こった事による混乱を収束せんと、懸命に頭を働かせていた。
自分はあの荒野と虫の巣しか無い惑星で爆弾運びをしていた筈、とそこは記憶している。設置を終えて、退避している途中に背後から飛んできた流れ弾に当たりかけた事も覚えているし、その直後にほぼ全ての警戒アラートが鳴り響いた事も覚えていた。だが気付いた時には、アーマーの環境スキャナーはアルビレイオスとはまったく違う数値を示し、自分は珍妙な服装の老人に見下ろされている。
「……わかんねえか」
「いや、解かってる。……ここへはあんたが?」
「そりゃ無理だ。確かに担いでやろうとは思ったが、異邦の騎士様、あんた重すぎる」
「……騎士様?」
違うのかい、という老人の声に、トイボックスは幾らかの理解を投げ捨てる事にした。また頭を混乱させるような言葉が出てきた事実に社畜に相応しい適応力を最大限に利用し、話を合わせながら自身に必要な情報を精査していく。トイボックスは立ち上がりながら尻についた土を払い、老人の方を向く。
「遊学中だけどな。……すまないが、この土地について教えてもらえるか」
「ここを?……騎士様、あんた相当な田舎からか、それかえらい都会から来たのかい。……まぁ、いい。ここじゃいつ魔狼が出るかわからねえし、人里までの道すらが教えるよ。いいかね」
「構わない。……獣か何かかい」
「ワーグ!でかい狼さ!群れを作って整備されてない荒野だか、古戦場とかによく出てくる。耳を持ってくりゃ、日銭には事欠かないだろうよ。だがね騎士様。悪い事は言わないから、一人で狩るのはやめときな」
歩きながらそういう老人の背を追いながら道すがら周囲を見回す。
そこら中に鎧を着込んだ躯が晒され、幾人かのホジスと名乗る老人と同じような服を着た人間が死体を漁っているのが見て取れた。どうやら、そこそこ新しい戦場の様でホジス老人が言うにはもう一週間もしない内に魔狼やアンデッドが湧きだすらしい。それを聞く内に、トイボックスは信じたくない予想が現実味を帯びてきた。
―――ここは電子文庫にあるようなファンタジーの世界なのでは?
その疑問を肚の内に収め、ホジス老人の話を聞き、若干の勝手な解釈を交えて記憶していく。
ここは二つの王国に挟まれた小国、これからいく村はその北端の辺境であり、三国の国境に隣接している事。領主が逃亡し、ここにいるのは事勿れ主義の現状維持だけを使命とする代官で、その代官も税の徴収以外の仕事はほぼしていないという事。三方の国は小競り合いが続いているが、その村は様々な理由で一応の存続を保っている事。
相槌を打ちつつ、トイボックスはアーマーの環境スキャンの結果を読んでいく。免疫の無い病源菌は無く、(当たり前だが)人間が活動するうえで十分な水準の大気レベルだったことを確認し、満足げに鼻を鳴らす。
二人でしばらく歩き、徐々に狭い道が開けてくる。道中、三頭ばかしの魔狼の群れがおり、ライフルで射殺した。綺麗に胸を撃ち抜き、試しとばかりに耳を剥ぎにいくトイボックスを見ながらホジス老人は
「最近の杖はえらくいかついな」
と言いつつも、トイボックスの手際に手放しで褒めた。
「見えたぞ!あそこがわたしらの村よ」
更に進んだ先、ホジス老人が立ち止まってそう言った。前方にはなだらかな段になったように見える村があり、僅かばかりだが煙突から煙も昇っているのが見える。
「行くアテがないなら、今日は顔役の家に泊めてもらうがええ。魔狼の耳を持っていけば邪険にはされんじゃろ」
「ありがとう爺さん。……他にも用がある、ってことは?」
「ハッハッ!無けりゃ村まで連れて来とらんよ、騎士様。どうか哀れな民にお慈悲をとな」
抜け目のない爺さんだ、と苦笑してトイボックスはホジス老人の肩を叩き、村に向かってまた歩き始めた。
―――やはりこうなったか。
衝撃波とガンマ線、そしてかつてはあの昆虫によく似た原住民達が暮らしていたであろう建築物の破片を防ぎ、漸減したシールドの電力を確認しながら企業から出向してきた隊長はため息を吐いた。
作戦は順調に、少なくとも部下が寺院と思しき建物に核地雷を設置し、退避する旨を伝えてくるまでは間違いなく順調に進んでいた。歯車の運行に歪みが生まれたのは少し後の事である。
地雷の爆発による被害範囲は村全体を余裕で覆える為、部下たちに制圧射撃を命じる際には村外の丘陵地帯にくみ上げたバリケード越しにと命じ、峰から身を乗り出す事は厳に禁じた。部下たちはその命令に忠実に従い、また潜入したドジャーズ、トイボックスの両名もプロフェッショナルと呼ぶに相応しい手際で想定されていた爆風の被害範囲外にまで退避しつつあった。事件が起きたのはその時である。突如として、核地雷が起爆したのだ。
結果として、ドジャーズ上等実動オフィサーは全シールドキャパシティのショートと引き換えに極く軽度の被爆と打撲で済み、同じくトイボックス上等実動オフィサーは爆発と同時にシグナルロスト。殉職として処理された。
惑星X-18までわざわざ足を運んできた商品開発部の技術者は、報告を受け取る時哀悼の意を示したが、落ち着かない指は明らかに脇に挟んだ情報パッドを触りたがっていたのが見て取れた。
これからこちらはキツイ美人に報告し、次いで報告書と部下の死に関しての始末書を書かなければならないのに、と隊長はこの星に降りてから何度目かわからない溜息を吐いた。
「言葉はわかるかい」
目の前でそう言い、自分を見下ろす老人を見ながら、トイボックス上等実動オフィサーは自身に起こった事による混乱を収束せんと、懸命に頭を働かせていた。
自分はあの荒野と虫の巣しか無い惑星で爆弾運びをしていた筈、とそこは記憶している。設置を終えて、退避している途中に背後から飛んできた流れ弾に当たりかけた事も覚えているし、その直後にほぼ全ての警戒アラートが鳴り響いた事も覚えていた。だが気付いた時には、アーマーの環境スキャナーはアルビレイオスとはまったく違う数値を示し、自分は珍妙な服装の老人に見下ろされている。
「……わかんねえか」
「いや、解かってる。……ここへはあんたが?」
「そりゃ無理だ。確かに担いでやろうとは思ったが、異邦の騎士様、あんた重すぎる」
「……騎士様?」
違うのかい、という老人の声に、トイボックスは幾らかの理解を投げ捨てる事にした。また頭を混乱させるような言葉が出てきた事実に社畜に相応しい適応力を最大限に利用し、話を合わせながら自身に必要な情報を精査していく。トイボックスは立ち上がりながら尻についた土を払い、老人の方を向く。
「遊学中だけどな。……すまないが、この土地について教えてもらえるか」
「ここを?……騎士様、あんた相当な田舎からか、それかえらい都会から来たのかい。……まぁ、いい。ここじゃいつ魔狼が出るかわからねえし、人里までの道すらが教えるよ。いいかね」
「構わない。……獣か何かかい」
「ワーグ!でかい狼さ!群れを作って整備されてない荒野だか、古戦場とかによく出てくる。耳を持ってくりゃ、日銭には事欠かないだろうよ。だがね騎士様。悪い事は言わないから、一人で狩るのはやめときな」
歩きながらそういう老人の背を追いながら道すがら周囲を見回す。
そこら中に鎧を着込んだ躯が晒され、幾人かのホジスと名乗る老人と同じような服を着た人間が死体を漁っているのが見て取れた。どうやら、そこそこ新しい戦場の様でホジス老人が言うにはもう一週間もしない内に魔狼やアンデッドが湧きだすらしい。それを聞く内に、トイボックスは信じたくない予想が現実味を帯びてきた。
―――ここは電子文庫にあるようなファンタジーの世界なのでは?
その疑問を肚の内に収め、ホジス老人の話を聞き、若干の勝手な解釈を交えて記憶していく。
ここは二つの王国に挟まれた小国、これからいく村はその北端の辺境であり、三国の国境に隣接している事。領主が逃亡し、ここにいるのは事勿れ主義の現状維持だけを使命とする代官で、その代官も税の徴収以外の仕事はほぼしていないという事。三方の国は小競り合いが続いているが、その村は様々な理由で一応の存続を保っている事。
相槌を打ちつつ、トイボックスはアーマーの環境スキャンの結果を読んでいく。免疫の無い病源菌は無く、(当たり前だが)人間が活動するうえで十分な水準の大気レベルだったことを確認し、満足げに鼻を鳴らす。
二人でしばらく歩き、徐々に狭い道が開けてくる。道中、三頭ばかしの魔狼の群れがおり、ライフルで射殺した。綺麗に胸を撃ち抜き、試しとばかりに耳を剥ぎにいくトイボックスを見ながらホジス老人は
「最近の杖はえらくいかついな」
と言いつつも、トイボックスの手際に手放しで褒めた。
「見えたぞ!あそこがわたしらの村よ」
更に進んだ先、ホジス老人が立ち止まってそう言った。前方にはなだらかな段になったように見える村があり、僅かばかりだが煙突から煙も昇っているのが見える。
「行くアテがないなら、今日は顔役の家に泊めてもらうがええ。魔狼の耳を持っていけば邪険にはされんじゃろ」
「ありがとう爺さん。……他にも用がある、ってことは?」
「ハッハッ!無けりゃ村まで連れて来とらんよ、騎士様。どうか哀れな民にお慈悲をとな」
抜け目のない爺さんだ、と苦笑してトイボックスはホジス老人の肩を叩き、村に向かってまた歩き始めた。
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