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アトレーの家族たち
早目の帰宅
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邸に戻り、すぐに家令を呼んだ。
子供の積立金は、やはりマーシャが一人で管理していたため、残高等は不明だ。
四年前に、投資に回して増やしたいと言われ、マックスとメアリーの分を渡していた。それまでは投資は全くせず、単にお金を積んでいるだけだった。
キースの分はマーシャに管理権が無いと断っている。
国の発行する債券と優良企業への投資に当てると言われ、それなら減ることもないと任せていた。
自分の甘さと、マーシャという問題のある人間に、全く向き合って来なかった事を、再度心底悔やんだ。
ソファにドサリと腰を落とし、こめかみをもんでいると、グレッグが同じようにドサッと隣に座った。
「思いがけないと言えばいいか、分かり切ったことと言えばいいかわからないけど、このタイミングでケリをつけられて良かったと思おう」
「マックスの八年分の積立金と、メアリーの七年分が、たぶん消えていると思ったほうが良いだろうな」
子供が大人になった特に、成人の祝いとして、渡すつもりで貯めていた金だった。
それが貯まっていくことに、父親としての満足感を感じていた。
「メアリーがサウザン子爵家に入るなら、ランス伯爵家から何がしかの資産を持たせるよ」
「ありがとう。金のことは大丈夫だが、これからもう一度関係者全員で、話し合わないといけないだろうな」
伯爵家の持つ全財産から見たら、大した金額ではないのだが、子供のための積立金を、男とギャンブルに使われたことが、ショックだった。
もう、マックスとメアリーの母親として考えることもできなくなっていた。
ドアをノックして、キースが入ってきた。
「お疲れ様でした」
そう言って目で語りかけてくるキースに、こちらに来てくれと頼んだ。
キースが寄ってくるとアトレーは立ち上がり、キースを抱きしめた。
まだ細い体がすっぽりと自分の腕の中に収まる。愛おしさがこみ上げた。
キースは黙っていたが、戸惑いながらも嬉しそうで、ぎゅっとアトレーの胸に頭を押し付けた。
「お~い、伯父さんにも抱っこさせてくれ。キースの癒しが必要だ」
グレッグが、文句をいうので、アトレーはキースを彼の方に押しやった。
グレッグは、あ~癒される、と言いながらキースをもみくちゃにした。
黙ってされるがままのキースを見ながらアトレーが聞いた。
「キース、お前は大体気付いていると思うけど、マーシャがマズイことをしでかしていた。
すぐに離婚することになる。
そしてマックスを引き取ることになるだろう。しばらくの間だが、ゲート伯爵邸で暮らさせて貰っていいかな」
「もちろんです。何で僕に聞くんですか?」
「俺はもうすぐ伯爵家の一員ではなくなる。マックスもね。先日手続きをしただろ」
「ああ、そうか」
そう言って、なんとなくしゅんとした様子になったキースを、もう一度抱き寄せた。
「愛しているよ」
キースが驚いたように顔を上げ、アトレーを見あげた。
そしてグレッグが、頭をかきながらぼやく。
「おい、なんだか目のやり場がないんだけど。美形同士の愛の告白は、人前では辞めてくれ。
キースが大きくなったから、なんとなく危ない風に見える」
「お前は、相変わらず不謹慎だな」
「お前が無自覚に色気を垂れ流すのが悪いんだ」
大人達の馬鹿なやり取りには無頓着に、キースは空いている一人掛けのソファに座った。
「それで、伯母様は何をしたんですか?」
大人二人もソファに座り、どこまで話すか考えこんだ。
そして、もう大人扱いに変えようと決めた。アトレーが隠さずそのままを話して聞かせた。
「実は隣の領地を管理しているパイク家門の息子と浮気をして、マックスとメアリーの財産を使い込んでいたんだ」
さすがのキースもえっと言ったきり黙り込んだ。しばらくするとこう聞いてきた。
「お金が無くなっているのは、いずれ分かってしまうのに、どうする気でいたんでしょう。
マックスとメアリーが知ったら怒るでしょ」
「どうだろう。君達に渡す金を貯め始めたのは、こちらに来てからで、知っているのは俺とマーシャだけだし、投資に失敗したことにでもするつもりだったのかな」
ウ~ン、と唸ってから、
「お父様、1日早いけど、明日帰りましょう。早く見つけて、早く離婚しましょう。お父様と全く釣り合わないです」
「ありがとう。明日の朝早くに出て戻ろう。
研修期間を少し延ばして貰って、こちらには後日もう一度来ないといけないな」
「その時は、僕も一緒に来ますね」
キースは馬術にすっかりハマり、領地に来る機会が増えたことを、楽しみにしているようだ。
翌朝早くに領地を立ち、スケジュールを詰めて、その夜遅くに、ゲート伯爵邸に到着した。
出迎えた伯爵たちは驚いたが、疲れたでしょうと、温かくもてなしてくれた。
アトレーはほっとした。自分にはまだ両親がいて、かわいい息子も、頼もしい友人もいる。
一人じゃない。
思えば八年間、自分は一人で何かにこもったきりだったと、気が付いた瞬間だった。
話は明日ということになったが、マーシャの行方についてだけは両親に尋ねた。
またここにやって来たかもしれない。
すると、即刻返事が返って来た。
「たぶんランス伯爵邸に滞在していると思うよ。そういう噂を聞いた。
任官して外国に赴任するので、今の内に必要な物を買いこむため、業者が頻繁に出入りしているようだ」
グレッグが、それなら俺はこのまま家に帰るよ、と言って足早に出ていった。
子供の積立金は、やはりマーシャが一人で管理していたため、残高等は不明だ。
四年前に、投資に回して増やしたいと言われ、マックスとメアリーの分を渡していた。それまでは投資は全くせず、単にお金を積んでいるだけだった。
キースの分はマーシャに管理権が無いと断っている。
国の発行する債券と優良企業への投資に当てると言われ、それなら減ることもないと任せていた。
自分の甘さと、マーシャという問題のある人間に、全く向き合って来なかった事を、再度心底悔やんだ。
ソファにドサリと腰を落とし、こめかみをもんでいると、グレッグが同じようにドサッと隣に座った。
「思いがけないと言えばいいか、分かり切ったことと言えばいいかわからないけど、このタイミングでケリをつけられて良かったと思おう」
「マックスの八年分の積立金と、メアリーの七年分が、たぶん消えていると思ったほうが良いだろうな」
子供が大人になった特に、成人の祝いとして、渡すつもりで貯めていた金だった。
それが貯まっていくことに、父親としての満足感を感じていた。
「メアリーがサウザン子爵家に入るなら、ランス伯爵家から何がしかの資産を持たせるよ」
「ありがとう。金のことは大丈夫だが、これからもう一度関係者全員で、話し合わないといけないだろうな」
伯爵家の持つ全財産から見たら、大した金額ではないのだが、子供のための積立金を、男とギャンブルに使われたことが、ショックだった。
もう、マックスとメアリーの母親として考えることもできなくなっていた。
ドアをノックして、キースが入ってきた。
「お疲れ様でした」
そう言って目で語りかけてくるキースに、こちらに来てくれと頼んだ。
キースが寄ってくるとアトレーは立ち上がり、キースを抱きしめた。
まだ細い体がすっぽりと自分の腕の中に収まる。愛おしさがこみ上げた。
キースは黙っていたが、戸惑いながらも嬉しそうで、ぎゅっとアトレーの胸に頭を押し付けた。
「お~い、伯父さんにも抱っこさせてくれ。キースの癒しが必要だ」
グレッグが、文句をいうので、アトレーはキースを彼の方に押しやった。
グレッグは、あ~癒される、と言いながらキースをもみくちゃにした。
黙ってされるがままのキースを見ながらアトレーが聞いた。
「キース、お前は大体気付いていると思うけど、マーシャがマズイことをしでかしていた。
すぐに離婚することになる。
そしてマックスを引き取ることになるだろう。しばらくの間だが、ゲート伯爵邸で暮らさせて貰っていいかな」
「もちろんです。何で僕に聞くんですか?」
「俺はもうすぐ伯爵家の一員ではなくなる。マックスもね。先日手続きをしただろ」
「ああ、そうか」
そう言って、なんとなくしゅんとした様子になったキースを、もう一度抱き寄せた。
「愛しているよ」
キースが驚いたように顔を上げ、アトレーを見あげた。
そしてグレッグが、頭をかきながらぼやく。
「おい、なんだか目のやり場がないんだけど。美形同士の愛の告白は、人前では辞めてくれ。
キースが大きくなったから、なんとなく危ない風に見える」
「お前は、相変わらず不謹慎だな」
「お前が無自覚に色気を垂れ流すのが悪いんだ」
大人達の馬鹿なやり取りには無頓着に、キースは空いている一人掛けのソファに座った。
「それで、伯母様は何をしたんですか?」
大人二人もソファに座り、どこまで話すか考えこんだ。
そして、もう大人扱いに変えようと決めた。アトレーが隠さずそのままを話して聞かせた。
「実は隣の領地を管理しているパイク家門の息子と浮気をして、マックスとメアリーの財産を使い込んでいたんだ」
さすがのキースもえっと言ったきり黙り込んだ。しばらくするとこう聞いてきた。
「お金が無くなっているのは、いずれ分かってしまうのに、どうする気でいたんでしょう。
マックスとメアリーが知ったら怒るでしょ」
「どうだろう。君達に渡す金を貯め始めたのは、こちらに来てからで、知っているのは俺とマーシャだけだし、投資に失敗したことにでもするつもりだったのかな」
ウ~ン、と唸ってから、
「お父様、1日早いけど、明日帰りましょう。早く見つけて、早く離婚しましょう。お父様と全く釣り合わないです」
「ありがとう。明日の朝早くに出て戻ろう。
研修期間を少し延ばして貰って、こちらには後日もう一度来ないといけないな」
「その時は、僕も一緒に来ますね」
キースは馬術にすっかりハマり、領地に来る機会が増えたことを、楽しみにしているようだ。
翌朝早くに領地を立ち、スケジュールを詰めて、その夜遅くに、ゲート伯爵邸に到着した。
出迎えた伯爵たちは驚いたが、疲れたでしょうと、温かくもてなしてくれた。
アトレーはほっとした。自分にはまだ両親がいて、かわいい息子も、頼もしい友人もいる。
一人じゃない。
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またここにやって来たかもしれない。
すると、即刻返事が返って来た。
「たぶんランス伯爵邸に滞在していると思うよ。そういう噂を聞いた。
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