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Episode01:You should marry with him
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人生の中で最も気まずい時間をエレベーターの中で過ごした萌衣は、ロビーに繋がるドアが開くと同時にホッと息をついた。
ビルの一階には備え付けられているコーヒーショップFURADAで祖母が待ちくたびれたと言わんばかりの表情で、残業を終えたばかりの要領の悪い孫娘のことを、待ち構えていた。
ロビーにはちらほら人が残っているが、同じオフィスの人間はいないため、萌衣とジャンが一緒に歩いていても気にするような人はいない。
「あなたが遅かったから、日付が変わってしまうところだったわ」
上司の目の前で、身内に皮肉を言われるほど精神的にくるものはない。
とっくに飲み干したコーヒーのカップをゴミ箱に捨てて、絹江が萌衣達のいる歩行へ歩いてきた。
「今日突然言われたって、私にだって都合ってものが……」
ブツブツと小さな声で文句を言ってみるが、その言葉が絹江には届いていないようだった。
「先方との約束の前に洋服を整えたかったのだけど、まあいいわ。一緒に来たようだし、そのまま一緒に行きましょう」
「は?」
絹江の言葉に思わず言葉が荒っぽくなってしまった。
「萌衣。はしたない言葉遣いはおやめなさい。何度も注意しているはずですよ」
どうやら想像していた悪い予感は、見事なまでに的中していたようだった。
「はじめまして。ミセス、キヌエ。本日はよろしくお願いします」
丁寧かつ流暢な日本語で、ジャンは絹江の手の甲にキスを落とした。
「こちらこそ愚孫がご迷惑をおかけいたしているようで……。あなたのお祖母様お待たせしてしまっているかしら?」
ジャンの祖母といえば、この会社を創設したロメーヌ・ブラウンだ。
「大丈夫ですよ。祖母には、突拍子もないアクシデントで時間がギリギリになることは伝えてあります。それにどうやら、余計な仕事をミス、モエに押し付けたスタッフがいたようでして、明日厳重注意しておきます」
目の前にいる、柔らかい雰囲気を持った男は一体誰だ。
普段の冷徹さはどこに消えてしまったのだろう。
ジャンのあまりの変貌ぶりに、思わず開いた口がふさがらなくなってしまったところを、絹江に「だらしなく口を開けるのはおやめなさい」と注意される。
ジャンは驚く萌衣に向かってクスリと意地悪そうな笑みを浮かべると「車を準備してありますので、こちらへどうぞ」とロビーの出口の方を指し示した。
まさか本当に、冷酷上司がお見合い相手だなんて、一体どうなってしまうのだろう。
一つ分かることは、ここで捕まってしまったら萌衣の人生のお先は真っ暗ということだけだ。
ビルの一階には備え付けられているコーヒーショップFURADAで祖母が待ちくたびれたと言わんばかりの表情で、残業を終えたばかりの要領の悪い孫娘のことを、待ち構えていた。
ロビーにはちらほら人が残っているが、同じオフィスの人間はいないため、萌衣とジャンが一緒に歩いていても気にするような人はいない。
「あなたが遅かったから、日付が変わってしまうところだったわ」
上司の目の前で、身内に皮肉を言われるほど精神的にくるものはない。
とっくに飲み干したコーヒーのカップをゴミ箱に捨てて、絹江が萌衣達のいる歩行へ歩いてきた。
「今日突然言われたって、私にだって都合ってものが……」
ブツブツと小さな声で文句を言ってみるが、その言葉が絹江には届いていないようだった。
「先方との約束の前に洋服を整えたかったのだけど、まあいいわ。一緒に来たようだし、そのまま一緒に行きましょう」
「は?」
絹江の言葉に思わず言葉が荒っぽくなってしまった。
「萌衣。はしたない言葉遣いはおやめなさい。何度も注意しているはずですよ」
どうやら想像していた悪い予感は、見事なまでに的中していたようだった。
「はじめまして。ミセス、キヌエ。本日はよろしくお願いします」
丁寧かつ流暢な日本語で、ジャンは絹江の手の甲にキスを落とした。
「こちらこそ愚孫がご迷惑をおかけいたしているようで……。あなたのお祖母様お待たせしてしまっているかしら?」
ジャンの祖母といえば、この会社を創設したロメーヌ・ブラウンだ。
「大丈夫ですよ。祖母には、突拍子もないアクシデントで時間がギリギリになることは伝えてあります。それにどうやら、余計な仕事をミス、モエに押し付けたスタッフがいたようでして、明日厳重注意しておきます」
目の前にいる、柔らかい雰囲気を持った男は一体誰だ。
普段の冷徹さはどこに消えてしまったのだろう。
ジャンのあまりの変貌ぶりに、思わず開いた口がふさがらなくなってしまったところを、絹江に「だらしなく口を開けるのはおやめなさい」と注意される。
ジャンは驚く萌衣に向かってクスリと意地悪そうな笑みを浮かべると「車を準備してありますので、こちらへどうぞ」とロビーの出口の方を指し示した。
まさか本当に、冷酷上司がお見合い相手だなんて、一体どうなってしまうのだろう。
一つ分かることは、ここで捕まってしまったら萌衣の人生のお先は真っ暗ということだけだ。
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