英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

坂合奏

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Episode01:You should marry with him

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 前菜は、オマール海老と白身魚のカルパッチョだった。
 
 魚介類に、オリーブオイルと塩で味付けがされていて、上にキャビアが乗っている。

 続いて、ごぼうのポタージュがそれぞれの前に運ばれてきた。

 料理の説明をウエイターが丁寧にして、去って行った後、ロメーヌは萌衣の方を向いて会釈をしながらとある言葉を発した。

「モエ。今日から、ジャンと一緒に暮らしてほしいの」

 突然の話に、飲んでいたスープが喉に詰まる。

 ゴホゴホと咳をしていると「大丈夫か?」と円卓テーブルで、隣の席に座っていたジャンが、萌衣の背中をさすった。

 祖母たちの前にいるジャンは、普段の仕事をしている時からは考えられないほど親切だ。

 思い切り猫をかぶっているだけなのかもしれないが、まるで別人のような彼に、萌衣は戸惑う。

「願ってもいない話よ。萌衣さん、イエスと言いなさい」

 絹江はいつになく前のめりになっている。
 
「えっと……あの……」

 ジャンのことはよく知らない。

 顔は整っているとは思うが、正直な気持ちで言うと、守備範囲外だ。
 
 突然一緒に暮らせと言われても、二つ返事で「イエス」とは答えることはできない。

 いくら絹江とロメーヌが旧知の仲であるといっても、萌衣はジャンと人間関係すら築けていないのだ。

 無理に決まっている。

 絹江の夫、つまりは萌衣の祖父の家は代々受け継がれている土地持ちの家柄だ。

 女系一族のため、萌衣の祖父が粗方の遺産を引き継ぎ、今まで事業拡大に尽力してきた。
 
 ロメーヌの一族と、絹江の一族がうまくいけば、勢力拡大もいいところだ。

 萌衣とジャンが一緒に暮らすということは、そういうことなのだ。

 愛など、暮らしの中にはない。

 萌衣は、本当に愛する人と結婚がしたいと考えている。

「まあ、でも新居は用意してしまっているのだけどね」
 
「ロメーヌったら」

 祖母たちはケラケラと楽しそうに笑っている。

「いや、あの。ブラウン部長のお気持ちもありますし」

 この流れの中で、はっきりお断りするといった手法を取れば、明日からの会社生活の中で、ジャンと顔を合わせるのが非常に気まずい。

 ここは、ジャンに断ってもらうのが一番角が立たないのではないか。

 そんな期待を込めて、萌衣はジャンの方を盗み見る。

「僕は、かまいませんよ」

「え?」

 あまりの別人具合に、萌衣は開いた口が塞がらない。

「まあ、さっそく仲良くやっていけそうね」

 ロメーヌは嬉しそうな表情を浮かべて「二人の未来に、もう一度乾杯しましょう」と再びグラスを持ち上げた。

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