夏色グラビティ 〜この声がキミに届くまで〜

じゃがマヨ

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昨日までの世界

第2話

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──まぶたが重い。
体が動かない。

進也は、うっすらと目を開けた。
視界は白い。

病院……?

何が、どうなって──

──そうだ。
事故。
バス。
あの衝撃。

急に、息が苦しくなった。
手を伸ばそうとする。
しかし、違和感が走った。

──この手、俺のじゃない。

白くて細い指。
手のひらの感触が、まるで違う。

心臓が跳ね上がる。
自分の喉を押さえた。

「……っ、」

声が、高い。
細い。

「……なに……これ……?」

ガラスに映る自分の顔。

──いや、それは。

「さやか……?」

鏡の中には、進也ではなく、高月さやかがいた。

目の前の人物が、震えるように自分を見つめていた。

ショートカットの黒髪。涙ぐんだ瞳。
進也が何度も見てきた、恋人の顔。

けれど、
さやかの口から出た声は、進也が知る「自分の声」だった。

「……俺?」

彼女──いや、自分?──が呆然としたようにつぶやく。
進也の鼓動が速くなる。

「な、なんだよ……これ……」


呼吸が荒くなる。
意味がわからない。

俺は、さやかの体に入っている?

──じゃあ、俺の体は?

視線を横に向けた。
ベッドの上に、もう一人、横たわっている。
全身包帯だらけ。
顔も、ギプスで覆われている。
心電図がピッ、ピッと静かに鳴っている。

見えない。
でも──わかる。

あれは、俺の体だ。

「……嘘、だろ……」

進也は震えながら、ギプスだらけの"自分の体"を見つめる。

俺は、さやかの体にいる。
じゃあ──さやかは?

「……さやか……?」

震える声で、呼んだ。

返事はない。

「おい……どこだよ……さやか?」

病室を見回す。
いない。
どこにも。

「……っ、さやか!!」

声を張り上げた。
だが、誰も答えない。

ナースコールを押そうとする手が震える。
呼吸が浅くなっていく。

「……どこだよ……お前……」

さやかの姿が、どこにもない。
この世界から、完全に消えている。


頭がぐらぐらする。
息苦しい。

俺の体は、そこにある。
でも、そこにいるのは──俺じゃない。
じゃあ、さやかはどこに?

脳裏に、ありえない考えがよぎる。

──もしかして、俺がさやかになってしまった?

「……ふざけんなよ……」

そんなわけがない。

でも、現実はどうだ?
俺はさやかの体の中にいる。
俺の体は、変わり果てて横たわっている。

でも、さやかは?
さやかの意識は?
俺以外のどこに?

「……そんなの、嘘だろ……?」

手を握る。
それは、さやかの手だった。

でも、俺はさやかじゃない。
俺は……

──じゃあ、"さやか"はどこにいる?

誰も、答えない。

「お前、どこにいるんだよ……っ!」

どこにもいない。
どこを探しても、いない。

高月さやかは、消えた。

そして、俺は、"さやか"になっていた。

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