夏色グラビティ 〜この声がキミに届くまで〜

じゃがマヨ

文字の大きさ
5 / 15
昨日までの世界

第4話

しおりを挟む

──さやかは、どこにもいない。

目が覚めて数日が経った後も、進也は病院のベッドに座り込んでいた。
自分の手を見つめる。
さやかの手。

「……俺は……お前じゃない……」

呟いても、返事はない。
さやかの気配は、どこにもない。

──何が、どうして、こんなことになった?

考えられるのは、ただ一つ。

──あの事故だ。

バスが横転したあの瞬間、何かが起きた。
そして、目を覚ましたとき、俺は"さやか"になっていた。
だが、それだけじゃない。

"さやかは、この世界から消えていた"。

進也は、歯を食いしばった。

「……調べるしかねえ……」

このままでは、何もわからない。
この"異常な状況"の原因を突き止めるには、事故の詳細を知るしかない。


進也は、ベッド脇の小さな棚に置かれたスマートフォンに手を伸ばした。
ロック解除しようとした瞬間──違和感が襲う。

──これ、さやかのスマホじゃないか。

指紋認証は反応しない。
画面には、数字のロックがかかっていた。

「……そうだよな……」

進也のスマホは、どこにある?
事故でどこかへ飛ばされてしまったのか?
それとも、進也の体が持っているのか?

今は考えても仕方がない。
スマホが使えないなら、他の方法を探すしかない。

──病院のロビーに行けば、新聞やテレビがあるかもしれない。

進也はベッドから立ち上がった。

"高月さやか"として生きていくしかないなら、それを利用してでも、真実を突き止めるしかない。


病院のロビーには、大型テレビが設置されていた。
運よく、ニュース番組が流れている。

「先日、東北自動車道で発生した高速バス横転事故について、新たな情報が入りました」

進也は、息をのんだ。
ニュースキャスターの声が、静かなロビーに響く。

「事故発生時、バスには乗客25名と運転手1名が乗っていました。警察の発表によると、死者7名、重軽傷者15名、意識不明の重体3名が確認されているとのことです」

画面に映し出される、事故車両の映像。
バスの屋根が潰れ、ガラスが砕け散っている。
その瓦礫の中に、進也とさやかがいたのか……。

──そして、負傷者の名前が表示された。

「現在も意識不明の重体であるのは、以下の3名です」

「杉浦進也(17)」「田村直人(45)」「石川美咲(23)」」

進也は、画面を見つめた。

「……おい……」

──"高月さやか"の名前がない。

ニュースのどこにも、彼女の名前は出てこない。
死亡者リストにも、負傷者リストにも。

まるで、最初から……

"さやか"なんて、存在しなかったみたいに。

「……そんなわけ……ねえだろ……」

手が震える。
呼吸が浅くなる。

──警察の発表は、"事実"として処理されたものだ。
なら、彼らは「さやかという人間がいなかった」と判断しているのか?

でも、それなら……

"俺は誰なんだよ?"

進也は、震える足でロビーの椅子に座り込んだ。

「……存在しない……?」

高月さやかは、事故の記録にも、ニュースの報道にも存在しない。
なら、俺は……?

進也は、自分の手を握りしめた。

「こんなの……ありえねえ……」

事故の報道を信じるなら、"高月さやか"という人間は、最初からそのバスに乗っていなかったことになる。

でも、それは嘘だ。
俺は、確かに彼女と一緒にバスに乗った。
ふざけた会話をして、笑って、夢の国へ行くはずだった。

──なのに、彼女はどこにもいない。

生きているのか?
死んでいるのか?
そもそも、本当に存在していたのか?

「……俺は……どうすればいいんだよ……」

進也は、頭を抱えた。
現実が歪んでいく。
何が真実なのか、何が嘘なのか──。

でも、"さやかの痕跡"がどこにもないのは、確かなことだった。

彼女は、生きているのか?
それとも……

「……まだ、終わりじゃねえ」

進也は立ち上がった。
まだ、確かめるべきことがある。

──事故の関係者に話を聞く。
──事故当時の映像や記録を探る。
──何か、さやかの痕跡が残っていないかを確かめる。

そうしなければ。

そうしなければ、"俺だけが生き残った"ことを認めることになる。

「お前は、どこにいるんだよ……」

進也は、病院のロビーをあとにした。

どんな形でもいい。
彼女の痕跡を、この世界に見つけるために──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

処理中です...