夏色グラビティ 〜この声がキミに届くまで〜

じゃがマヨ

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昨日までの世界

第10話

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それから数日、進也(=さやか)は何となく時間を過ごしていた。

──来週から学校に戻れる。

そう父親から言われたものの、まだ気持ちの整理がつかない。

"自分の体"は、あの病室の中にある。
"自分の意識"は、こうして生きている。

それが、どうしようもなく不自然に感じた。

"さやか"として生きることに、違和感を覚えながらも、本当の"進也"に戻る方法は、何もわからない。

(……俺は、これからどうすればいいんだ?)

ギターを手に取ってみる。
だが、コードを押さえることすらできなかった。

──この手は、"さやか"の手なのに、"さやか"のように動かせない。

ベッドに寝転び、天井を見つめる。
ゆっくりと目を閉じると、さやかの声がどこか遠くから聞こえてくるような気がした。






ある日、何気なく机の引き出しを開ける。
そこには、筆記用具やバンドのメモ帳が無造作に置かれていた。

──でも、何かが引っかかった。

引き出しの底。

少し奥の方を探ると、"古いノート"が挟まるように隠れていた。

表紙は少し擦れていて、色あせている。
大事にしていたものなのか、それとも忘れ去られていたのか。

進也は、ためらいながらもノートを開いた。

そこには、"さやかの言葉"が詰まっていた。


『私は、歌いたい。』

ノートの最初のページには、そう書かれていた。

進也は、息を呑んだ。

ページをめくる。
そこには、さやかの本当の気持ちが綴られていた。

『小さい頃、私は歌を歌うのが好きだった。
でも、それはただの「好き」じゃなかった。』

『歌えば、母が笑ってくれた。』

『母は、いつも悲しそうだった。
家に帰ってきても、疲れた顔をしていて、私と目を合わせないこともあった。
でも、私が歌うと、少しだけ笑ってくれた。
その笑顔が、私の宝物だった。』

進也は、ページをめくる手が止まる。

──"母"?

さやかの母親のことは、これまでほとんど語られていなかった。
父親に聞いても、「出て行った」としか言わなかった。

(……さやかの母親は、どんな人だったんだ?)

次のページには、もっと深い言葉が綴られていた。

『でも、ある日、お母さんはいなくなった。
家に帰ってこなくなった。
お父さんに聞いても、何も教えてくれなかった。
私は、母のいない家で、歌を歌い続けた。』

進也は、息を呑んだ。

(……さやかは、母親を想って、歌を歌い続けていた?)

そして、ページの最後には、こう書かれていた。

『私は、歌で誰かを笑顔にしたい。
私は、あの日の母みたいに、悲しそうな人の心に届く歌を歌いたい。
それが、私が歌手になりたい理由。』

進也は、ノートを閉じた。

静寂が、部屋を包む。

──さやかは、ただ漠然と歌手を目指していたわけじゃなかった。
──誰かのために、歌う理由があった。

(……それなのに、お前はどこにいる?)

このノートに、さやかの"今"は書かれていない。

彼女の夢も、想いも、ここに残っているのに。

(お前は、本当に消えてしまったのか……?)

進也は、強く拳を握った。

(まだ終わりじゃない。何か、まだ足りない。)

何かが欠けている。
それを見つけなければ、前に進めない。

進也は、再びノートを開き、ゆっくりと読み返した。

──そこに、"答え"があるかもしれないから。
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