妖精のノート

TAKA

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六つ目の願い

バスルーム

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「あの、しゅいましぇん」

 男がゲームのコントローラーを置いたのを見て声を掛けた。

 男達が買って来ていたおにぎりを食べ、水を飲み空腹と喉の渇きは満たされていた。次は足の鎖を解き服を着たかった。

 3番目の男から強く言われているのですぐに殺されることはないだろうとは思ったが、どこで男の気が変わるか分からないので声を掛けるのは賭けだった。

「なんだ」

 思ったより落ち着いた声だった。

「あ、あの、トイレに・・・」

 男の様子を伺いながら遠慮がちに言った。

「あん、・・・ああ、・・・ああ、トイレ・・・、あ、ああ、ああ、いいぞ、いいぞ、そっか、トイレか、あはははは、そっか、そっか」

 最初は煩わしそうな顔をしたが、すぐに機嫌が良くなり男が笑い出した。

「いや、ユニットバスだし何だったらシャワーも浴びたらどうだ。体についた血としょんべんも流しな。さ、早く早く」

 男は嬉しそうに言った。

「あ、あの、くしゃりの・・・」

 男の態度は気になったが、足の鎖が取れそうだとほっとした。

「え、くしゃり・・・、ああ、鎖か。ほら、これ鍵だ」

 男が鎖の鍵を投げて寄越した。

 急いで鎖を外した。腿をダーツで刺されていたので立ち上がるのに苦労をしたが、びっこを引いて歩くことは出来た。男の気が変わる前に急いでバスルームに向かった。

「あ、あの」

 バスルームに向かう途中で足を止め男に向き直り声を掛けた。

「ああ、今度は何だ」

 男はイラついたようだった。

「あの、しょの・・・、タオルと着替えを・・・」

 男の態度に怯んだが、服を手に入れるため出来るだけ自然に言った。

「ちっ、面倒くせえな・・・」

 男はぶつぶつ言いながらベッドルームへ行きバスタオルを持って来た。

「ほら、服は準備しておいてやる。但しパンツは貸さねえからな」

 文句を言いつつもタオルをわざわざ持って来てくれたこともあり、男に対する警戒心が少し和らいだ。

「なんかしゃむいし、くしゃい」
 
 バスルームはリビングに比べ随分と冷えていた。寒さを我慢し小便をしていると何かが腐ったような臭いがしていることに気がついた。昔、冷蔵庫で玉子を腐らせたことがあったが、それに近いと思った。

 バスルームは広く、リゾートホテルの部屋にあるようなトイレとバスタブの間に洗面台がある造りだった。バスタブはカーテンが閉じられていた。

 どうやら臭いはバスタブの方からしてくるようだった。嫌な予感がした。そのままバスルームから出ようとドアを開けた。

「ひっ」

 目の前に男がドスを手に立っていた。

「何出て来てんのさ。シャワーを浴びろって言ったよな」

 ドスをひろひらさせながら低い声で男が凄んだ。バスルームの中に戻るしかなかった。

「はやくシャワーしろよ。ここで見てるから」

 男が開けたままのドアからこちらを見て言った。

 暫く躊躇していたが、男が徐々に苛ついて来ているのが分かり、仕方なくバスタブのカーテンを開けることにした。

 ゆっくりとバスタブに近づきカーテンを掴んだ。

「早くしろ」

 男が怒鳴るのと同時に勢い良くカーテンを開けた。

「・・・わっ、わっ、あああああ、わああああ・・・」

 そこには思った通り死体があった。裸の男がバスタブの中で丸くなり横たわっていた。体は蝋のような色をしておりシャワーを浴びたように濡れていた。

 一瞬、そこで死んでいるのが自分で、今ここで幽霊として自分の死体を見ているような錯覚に陥った。喚くことしか出来なかった。

「きゃははははははは、あーっはっははは、はひ、はひ、いーひっひひひひ、はっはははは・・・」

 大声で笑う男の声が聞こえた。

「お、お、おま、お前のか、顔・・・、ぶっ、ぶははははは・・・」

 男はドアの向こうで腹を抱え笑っていた。

「あー、お前、最高。思った以上に笑えたぜ。あー笑った、笑った。・・・あ、今の動画撮れば良かったな。あいつらにも見せられたのに」

 ひとしきり笑ったあと、男がそばに来て言った。

 男の声は聞こえていたが、何も考えられずただ死体を見つめていた。

「だいぶ臭くなって来たな。氷が溶けてから時間が経ってるからな・・・。そろそろやばいかな・・・」

 そう言いながら男がこちらを見つめていた。その顔は満面の笑顔だった。嫌な予感しかしなかった。
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