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作戦会議
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「じゃあ、行きましょう」
タケルはミコに声をかけ、立ち上がった。
「ちょ、ちょ、ちょっ、何処に行くんだ」
阿満野が慌てたようにタケルを止めた。
「え、それは乾のところですけど」
タケルはさっさと行って、さっさと終わらせたかったので、不満げな顔をした。
「お前、相手は曲がりなりにも執行役員だぞ。お前が思ってる以上に忙しいんだ。いきなり行って相手にされるわけないだろう」
阿満野が呆れたように言って、パソコンの画面を示した。それは全行員のスケジュールが閲覧できるシステムだった。誰が今、何をしているか、今後、どういう予定が入っているかが行員であれば誰でも見られるものだった。タケルはそこにある乾のスケジュールを見て驚いた。そこには朝から複数の会議が入り、その後は取引先とのランチミーティング、その後別の企業への訪問、銀行に戻ってまた会議、夜は接待と隙間なく埋まっていた。他の日も似たようなもので、土日もゴルフが入っていた。
「・・・凄い」
タケルはそれ以上、言葉が出てこなかった。
「まあ、執行役員でここまで予定が一杯なのは珍しいけどな。若手で抜擢されたので張り切ってるのと、皆も話題になるから利用するってのもあるんだろうけどな」
「じゃあ、どうするんですか」
「ううん、何か証拠が欲しいな。乾が嘘をついていたっていうやつが。そしたら、短時間で方がつくからな」
「でもこっちには由美子さんがいるじゃないですか。騙された本人ですよ。本人の話が一番じゃないですか」
「お前、あほやろ」
急にウルラの声がした。
「考えてもみい。いきなり死んだ人間がここにいて、貴方に騙された言うてますって、誰が信じんねん。こっちが頭おかしいって言われるだけやで。なんせ女は死んでんねんからな。そんなん当たり前やろ」
「そうね。私もそう思うわ」
ミコもウルラに同意した。タケルは一番現実離れしているウルラに常識がないように言われ腹が立ったが、言っていることはもっともだと思ったので何も言えなかった。
「由美子さんと乾の対決は面白そうだが、それをするにしても乾に認めさせるだけのものが欲しい。ウルラ、少し由美子さんと代わってもらえないか」
阿満野がウルラに頼み、由美子に質問を始めた。
「由美子さん、乾が嘘をついていたことを示す証拠って何かないかな。奴とのメールとか」
「メールはないわ。あの男とはいつも日中に仕事の振りをした電話でしか連絡をしない約束だったの。奥さんがメールをチェックするからって。だから具体的な話はいつも会ってからしかしなかった」
「そうか、用心深かったんだ。じゃあ、投資の話についてはどうだろう。由美子さんも銀行員だったんだから、お金の大切さは知っているだろう。いくら好きな男が言ったことでも投資話が嘘かもしれないと思わなかったのかい」
「実は、あの男から投資の話が出る前に、一度その投資を紹介した社長と思われる人からの電話があったの。あの男がシャワーを浴びている時、携帯がいきなり鳴り出して、最初は無視していたけどずっと鳴り続けて、そんなことは初めてだったし、相手は奥さんじゃなかったから、思わず携帯に出てしまったの。そしたら、凄い剣幕で乾から電話をさせるように言いつけられたの。その時、相手の人が確か投資の件って言ったの」
「その人の名前を覚えているかい」
「・・・えっと、確か、・・・滝川って言ってたと思うわ」
「そっか、ミコ、滝川って人について何か分かるか」
阿満野がミコに向かって聞いた。
「分かりました。見てみます」
そう言うとミコが部屋の真ん中の少し開いているところに移動し、袂から出した細い紅い縄で床に円を描いた。そしてその真ん中に座り、鏡を前に置き、柏手を打ち、何やら呪文を唱え出した。タケルは何が起きるか分からず、黙ってミコを見つめていた。
暫く見ていると鏡が少しずつ光だし、徐々にその輝きが強くなっていった。
「あっ、文字が」
タケルは思わず声を出したが、すぐに阿満野が指を立てて、静かにするように注意した。タケルは慌てて口を閉じ、光を見つめた。光の中にはアルファベットのTGIの文字が浮かんでいた。やがて光は弱くなり、それとともに文字も薄れていった。ミコが深く頭を垂れ、柏手を打ち、立ち上がった。ミコの体からは汗が吹き出していた。タケルは張り積めていた空気が一気に緩んだ気がした。
「ありがとう、ミコ」
阿満野がミコを労うとともに、手元のパソコンを操作した。
「あった」
暫くすると阿満野が声を上げた。阿満野のパソコンを覗くと、そこにはTGI株式会社の企業情報が出ていた。
「乾が東京営業部に行く前にいた光が丘支店の取引先だな。半導体関連機器の部品工場で、上場はしていないが地元では影響力のある、かなり大きな企業だ。昔のCMを見ると乾が担当として記録しているのがあるし間違いない。その時は業績が悪く資金繰りが悪化して、緊急融資の相談があったとなっているな。えっと、事件のあった頃の社長は、今は会長だな」
「ミコさん、凄いですね」
タケルは驚き、改めてミコを見つめた。
「そうだ、これがミコの力だ。簡単に言えば透視能力だ。実はタケルもミコが見つけたんだ。新入行員の中で力がある人間を、いつもミコが探してくれているんだ」
阿満野の話を聞いて、タケルは何故自分に力があることがばれたのかを理解した。
「じゃあ、タケルとミコはこの会社に行って話を聞いてきてくれ。俺はもう少し乾の周りで起きた事件を探ってみるから」
阿満野の指示を受け、タケルはミコと一緒にTGI株式会社に向かった。
タケルはミコに声をかけ、立ち上がった。
「ちょ、ちょ、ちょっ、何処に行くんだ」
阿満野が慌てたようにタケルを止めた。
「え、それは乾のところですけど」
タケルはさっさと行って、さっさと終わらせたかったので、不満げな顔をした。
「お前、相手は曲がりなりにも執行役員だぞ。お前が思ってる以上に忙しいんだ。いきなり行って相手にされるわけないだろう」
阿満野が呆れたように言って、パソコンの画面を示した。それは全行員のスケジュールが閲覧できるシステムだった。誰が今、何をしているか、今後、どういう予定が入っているかが行員であれば誰でも見られるものだった。タケルはそこにある乾のスケジュールを見て驚いた。そこには朝から複数の会議が入り、その後は取引先とのランチミーティング、その後別の企業への訪問、銀行に戻ってまた会議、夜は接待と隙間なく埋まっていた。他の日も似たようなもので、土日もゴルフが入っていた。
「・・・凄い」
タケルはそれ以上、言葉が出てこなかった。
「まあ、執行役員でここまで予定が一杯なのは珍しいけどな。若手で抜擢されたので張り切ってるのと、皆も話題になるから利用するってのもあるんだろうけどな」
「じゃあ、どうするんですか」
「ううん、何か証拠が欲しいな。乾が嘘をついていたっていうやつが。そしたら、短時間で方がつくからな」
「でもこっちには由美子さんがいるじゃないですか。騙された本人ですよ。本人の話が一番じゃないですか」
「お前、あほやろ」
急にウルラの声がした。
「考えてもみい。いきなり死んだ人間がここにいて、貴方に騙された言うてますって、誰が信じんねん。こっちが頭おかしいって言われるだけやで。なんせ女は死んでんねんからな。そんなん当たり前やろ」
「そうね。私もそう思うわ」
ミコもウルラに同意した。タケルは一番現実離れしているウルラに常識がないように言われ腹が立ったが、言っていることはもっともだと思ったので何も言えなかった。
「由美子さんと乾の対決は面白そうだが、それをするにしても乾に認めさせるだけのものが欲しい。ウルラ、少し由美子さんと代わってもらえないか」
阿満野がウルラに頼み、由美子に質問を始めた。
「由美子さん、乾が嘘をついていたことを示す証拠って何かないかな。奴とのメールとか」
「メールはないわ。あの男とはいつも日中に仕事の振りをした電話でしか連絡をしない約束だったの。奥さんがメールをチェックするからって。だから具体的な話はいつも会ってからしかしなかった」
「そうか、用心深かったんだ。じゃあ、投資の話についてはどうだろう。由美子さんも銀行員だったんだから、お金の大切さは知っているだろう。いくら好きな男が言ったことでも投資話が嘘かもしれないと思わなかったのかい」
「実は、あの男から投資の話が出る前に、一度その投資を紹介した社長と思われる人からの電話があったの。あの男がシャワーを浴びている時、携帯がいきなり鳴り出して、最初は無視していたけどずっと鳴り続けて、そんなことは初めてだったし、相手は奥さんじゃなかったから、思わず携帯に出てしまったの。そしたら、凄い剣幕で乾から電話をさせるように言いつけられたの。その時、相手の人が確か投資の件って言ったの」
「その人の名前を覚えているかい」
「・・・えっと、確か、・・・滝川って言ってたと思うわ」
「そっか、ミコ、滝川って人について何か分かるか」
阿満野がミコに向かって聞いた。
「分かりました。見てみます」
そう言うとミコが部屋の真ん中の少し開いているところに移動し、袂から出した細い紅い縄で床に円を描いた。そしてその真ん中に座り、鏡を前に置き、柏手を打ち、何やら呪文を唱え出した。タケルは何が起きるか分からず、黙ってミコを見つめていた。
暫く見ていると鏡が少しずつ光だし、徐々にその輝きが強くなっていった。
「あっ、文字が」
タケルは思わず声を出したが、すぐに阿満野が指を立てて、静かにするように注意した。タケルは慌てて口を閉じ、光を見つめた。光の中にはアルファベットのTGIの文字が浮かんでいた。やがて光は弱くなり、それとともに文字も薄れていった。ミコが深く頭を垂れ、柏手を打ち、立ち上がった。ミコの体からは汗が吹き出していた。タケルは張り積めていた空気が一気に緩んだ気がした。
「ありがとう、ミコ」
阿満野がミコを労うとともに、手元のパソコンを操作した。
「あった」
暫くすると阿満野が声を上げた。阿満野のパソコンを覗くと、そこにはTGI株式会社の企業情報が出ていた。
「乾が東京営業部に行く前にいた光が丘支店の取引先だな。半導体関連機器の部品工場で、上場はしていないが地元では影響力のある、かなり大きな企業だ。昔のCMを見ると乾が担当として記録しているのがあるし間違いない。その時は業績が悪く資金繰りが悪化して、緊急融資の相談があったとなっているな。えっと、事件のあった頃の社長は、今は会長だな」
「ミコさん、凄いですね」
タケルは驚き、改めてミコを見つめた。
「そうだ、これがミコの力だ。簡単に言えば透視能力だ。実はタケルもミコが見つけたんだ。新入行員の中で力がある人間を、いつもミコが探してくれているんだ」
阿満野の話を聞いて、タケルは何故自分に力があることがばれたのかを理解した。
「じゃあ、タケルとミコはこの会社に行って話を聞いてきてくれ。俺はもう少し乾の周りで起きた事件を探ってみるから」
阿満野の指示を受け、タケルはミコと一緒にTGI株式会社に向かった。
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