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決意
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「さあ、このペンダントを握って由美子さんのことを思って下さい」
ミコが由美子の母親にウルラを渡した。母親がウルラを両手で優しく包み込むように持ち、胸に押し当て、目を閉じた。
「・・・ゆ、由美子。あ、あなた、ほら」
母親が泣きながら、隣にいる父親にペンダントを差し出した。父親は最初は戸惑っていたが、恐る恐るペンダントに触れ、目を閉じた。暫くすると、二人とも泣きながら大きく何度も頷き、そして頭を横に振った。
「本当に、ありがとうございました」
母親がミコにウルラを返し、お礼を言った。父親は何も言わずに、ただ泣き続けていた。
「そうですか。由美子さん、きちんとご両親に想いを伝えられたんですね」
タケルが病院のベッドに横たわり、感慨深げに言った。由美子の小柄で可愛らしい姿を思い出していた。
「そや、最高の笑顔やったで。・・・ああ、タケルにもありがとう言うとったわ」
ウルラがしみじみと言った。由美子は両親に最後の別れを告げ、そのまま消えてしまい、ウルラにももう感じることができなくなっていた。
「そっか。・・・本当は僕もご両親のところに行きたかったな。最後まできちんとしたかった」
食堂で気を失ったあと、タケルは二日間、意識が戻らなかった。ミコや龍二、星は特に入院はせず、傷の治療を受け、一日自宅で休んだだけで回復していた。
「僕はもっと鍛えないと駄目ですね」
「・・・そうね」
タケルの反省の言葉に、ミコはウルラを見て、曖昧に頷いた。タケルが意識を取り戻す前に、阿満野とミコが見舞いにきた時、ウルラと話をしていた。
「じゃあ、タケルがここまでダメージを受けたのは乾の力じゃなく、タケルの自分の力のせいだって言うのか」
「そうや。タケルに繋がって分かったんやけど、タケルの力はわしが思ってたよりごっつう強いんや。乾の力なんて全然比べもんにならん。わしは最初、タケルの力をコントロールできる思うとったんやけど、甘かった。溢れよった。今回はわしから溢れた力だけやけど、その力が直接タケルの中で解放されたら、今のタケルやったらもたん」
「死ぬってのか」
「・・・死ぬかもしれへん。でも、もっと大変なことになるかも分からん」
「もっと大変なことって・・・」
ミコが心配そうに尋ねた。
「力に飲み込まれるっていうことか」
阿満野が深刻そうに言った。
「ところで乾はどうなったんですか」
タケルの声がミコを現実に引き戻した。
「え、あ、ああ、結局、乾は長期療養することになって、執行役員は解任されたわ。でも、体の方じゃなくって、精神の方での療養っていうことらしいわ」
「精神ってどうしたんですか」
乾はあのあと、食堂で倒れているところを見回りの警備員に発見され、病院に担ぎ込まれた。食堂のテーブルが壊れており、一緒に発見された男達も怪我をしていたことから、三人で争った結果だろうという話になったとタケルは聞いていた。それが精神の療養と聞いて驚いた。
「ええ、それが乾が病院に着いたあと、最初に意識が戻った時には別に普通だったらしいんだけど、昨日からは自分のことも分からなくなったって聞いたわ」
ミコから話を聞いて、タケルは自分のせいで乾がそうなったのかも知れないと思い、気分が沈んだ。
「あほ、お前のせいやない。ミコの話を聞いとったんか、ほんまに。あんな、最初は乾は普通やったって言うとったやろ。あの戦いのせいなら、最初に目え覚ました時からおかしいってなってるわ」
ウルラが馬鹿にしたように言った。タケルはウルラの言い方に腹が立ったが、確かにそうだと気持ちが楽になった。
「そんなことより、早よ元気になれや。わしが修行したるから。但し、コーヒー飲ませえよ」
「分かった。コーヒーでも何でも飲ますから、修行を頼むよ」
タケルは少しでも力を使いこなせるよう、退院したら頑張ろうと心に決めた。
「乾の方は上手くいきました。もう奴が普通に戻ることはありません」
男が床に片膝をつき、頭を下げて報告した。
「ふん、乾はもう少し使える奴かと思っていたんだがな。残念だ。まあ、代わりは幾らでもいるから。・・・ところで、乾をやった真霊課のことは分かったのか」
「いえ、まだ詳しいことまでは」
「前から真霊課があることは知っていたが、今までは私には関係がないと放っておいた。だが、今回のように私の邪魔をするのであれば、何らかの手を打たねばならない。引き続き、奴らのことを調べるんだ」
「分かりました、副頭取」
報告していた男は立ち上がり、部屋を出ていった。副頭取の竹下は、役員室の窓から下を見下ろしていた。その体の周りには、乾よりも更に濃い黒い霞が漂っていた。
ミコが由美子の母親にウルラを渡した。母親がウルラを両手で優しく包み込むように持ち、胸に押し当て、目を閉じた。
「・・・ゆ、由美子。あ、あなた、ほら」
母親が泣きながら、隣にいる父親にペンダントを差し出した。父親は最初は戸惑っていたが、恐る恐るペンダントに触れ、目を閉じた。暫くすると、二人とも泣きながら大きく何度も頷き、そして頭を横に振った。
「本当に、ありがとうございました」
母親がミコにウルラを返し、お礼を言った。父親は何も言わずに、ただ泣き続けていた。
「そうですか。由美子さん、きちんとご両親に想いを伝えられたんですね」
タケルが病院のベッドに横たわり、感慨深げに言った。由美子の小柄で可愛らしい姿を思い出していた。
「そや、最高の笑顔やったで。・・・ああ、タケルにもありがとう言うとったわ」
ウルラがしみじみと言った。由美子は両親に最後の別れを告げ、そのまま消えてしまい、ウルラにももう感じることができなくなっていた。
「そっか。・・・本当は僕もご両親のところに行きたかったな。最後まできちんとしたかった」
食堂で気を失ったあと、タケルは二日間、意識が戻らなかった。ミコや龍二、星は特に入院はせず、傷の治療を受け、一日自宅で休んだだけで回復していた。
「僕はもっと鍛えないと駄目ですね」
「・・・そうね」
タケルの反省の言葉に、ミコはウルラを見て、曖昧に頷いた。タケルが意識を取り戻す前に、阿満野とミコが見舞いにきた時、ウルラと話をしていた。
「じゃあ、タケルがここまでダメージを受けたのは乾の力じゃなく、タケルの自分の力のせいだって言うのか」
「そうや。タケルに繋がって分かったんやけど、タケルの力はわしが思ってたよりごっつう強いんや。乾の力なんて全然比べもんにならん。わしは最初、タケルの力をコントロールできる思うとったんやけど、甘かった。溢れよった。今回はわしから溢れた力だけやけど、その力が直接タケルの中で解放されたら、今のタケルやったらもたん」
「死ぬってのか」
「・・・死ぬかもしれへん。でも、もっと大変なことになるかも分からん」
「もっと大変なことって・・・」
ミコが心配そうに尋ねた。
「力に飲み込まれるっていうことか」
阿満野が深刻そうに言った。
「ところで乾はどうなったんですか」
タケルの声がミコを現実に引き戻した。
「え、あ、ああ、結局、乾は長期療養することになって、執行役員は解任されたわ。でも、体の方じゃなくって、精神の方での療養っていうことらしいわ」
「精神ってどうしたんですか」
乾はあのあと、食堂で倒れているところを見回りの警備員に発見され、病院に担ぎ込まれた。食堂のテーブルが壊れており、一緒に発見された男達も怪我をしていたことから、三人で争った結果だろうという話になったとタケルは聞いていた。それが精神の療養と聞いて驚いた。
「ええ、それが乾が病院に着いたあと、最初に意識が戻った時には別に普通だったらしいんだけど、昨日からは自分のことも分からなくなったって聞いたわ」
ミコから話を聞いて、タケルは自分のせいで乾がそうなったのかも知れないと思い、気分が沈んだ。
「あほ、お前のせいやない。ミコの話を聞いとったんか、ほんまに。あんな、最初は乾は普通やったって言うとったやろ。あの戦いのせいなら、最初に目え覚ました時からおかしいってなってるわ」
ウルラが馬鹿にしたように言った。タケルはウルラの言い方に腹が立ったが、確かにそうだと気持ちが楽になった。
「そんなことより、早よ元気になれや。わしが修行したるから。但し、コーヒー飲ませえよ」
「分かった。コーヒーでも何でも飲ますから、修行を頼むよ」
タケルは少しでも力を使いこなせるよう、退院したら頑張ろうと心に決めた。
「乾の方は上手くいきました。もう奴が普通に戻ることはありません」
男が床に片膝をつき、頭を下げて報告した。
「ふん、乾はもう少し使える奴かと思っていたんだがな。残念だ。まあ、代わりは幾らでもいるから。・・・ところで、乾をやった真霊課のことは分かったのか」
「いえ、まだ詳しいことまでは」
「前から真霊課があることは知っていたが、今までは私には関係がないと放っておいた。だが、今回のように私の邪魔をするのであれば、何らかの手を打たねばならない。引き続き、奴らのことを調べるんだ」
「分かりました、副頭取」
報告していた男は立ち上がり、部屋を出ていった。副頭取の竹下は、役員室の窓から下を見下ろしていた。その体の周りには、乾よりも更に濃い黒い霞が漂っていた。
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