長い夜、蒼い月

五嶋樒榴

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嘘のツケ

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柊一が別れを切り出したのは、就職先が大阪になったと決まった日だった。
大学生になってから一人暮らしを始めた柊一のアパートで話は始まった。

「俺、関西の大阪支店に決まった。栞は、遠距離ってどう思う?」

突然のことで、栞はびっくりしていた。どうと聞かれても気持ちの整理が出来ていなかった。

「遠いけど、遠距離恋愛してる人いっぱいいるじゃない?あたし達もできるんじゃないかな。五年も付き合ってきたんだし、大丈夫だ、よ」

栞の頬に涙が伝った。

「栞が寂しい時そばにいられないよ。仕事も慣れるまで大変だろうから、電話だって毎日できないかもしれない」

柊一の言葉にどんどん涙があふれる。

「どうしてそんなにネガティブなこと言うの?もうダメみたいじゃん。やってみないとわからないじゃない」

栞の言葉に柊一は首を振った。

「わかるよ。栞は寂しがり屋だもん。きっと喧嘩も増えるよ。俺には分かる」

一方的な言い方に否定もできなかった。

「あたしは変わらないよ。ずっと柊一といたいもん」

栞は柊一に抱きつく。

「じゃあさ、もし一度でも喧嘩になったら別れよ。それで良い?」

仕方ないと栞は頷いた。
そして別れはゴールデンウィークにやってきた。
遠距離で離れてから一度も会うことなく。

「ゴールデンウィークも帰れないの?」

つい言ってしまった一言が引き金だった。

『どうして栞は、自分が大阪来るって言ってくれないの?』

「もちろん、あたしが行っても良いよ!柊一に会いたいのはあたしだもん」

『行ってもいいって、そう言う言い方無くない?』

そんなつもりではなかったが、柊一はイライラしていた。慣れない環境でストレスもあったのだろう。

「ごめん、気に障ったなら、ごめんなさい」

栞は謝るしかなかった。

『ごめん。寂しいのは俺の方みたい。本当は東京に帰りたいさ。言葉だって違うし、友達もいないし、毎日会社と部屋の往復でさ』

「あたし、しょっちゅう会いにいく!最低でも月に一回は行くから!」

『ごめん、もう俺無理。こうやって声聞くだけでも辛い。あれだけ一緒にいてどうして飽きなかったのか今なら分かるよ。俺が栞を好きすぎた。だから今すげー辛い。会いたい時に会えないってマジ拷問だな』

柊一にそう言われると、栞はもう何も言えなかった。
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