長い夜、蒼い月

五嶋樒榴

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溺れる人魚

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「プライベートルーム狭くないか?」

一夜の部屋をジェイクはキョロキョロ見渡す。

「まあ、日本の規模なら広いんじゃない?」

「しかし、イチヤってなんだよ。俺はアンソニーって呼ぶけどさ」

一夜は笑った。

「ご自由にどーぞ」

内線が鳴って一夜は出た。

「分かった。一緒にロビーに降りていくよ」

一夜とジェイクが並んでロビーに現れると周りが騒ついた。
モデルが二人に増えて、誰もが釘付けになった。

「はじめまして、ジェイコブさん。社長秘書の高輪由紀子です」

由紀子も流暢な英語で話すのでジェイクは安心した。

「ジェイクで良いよ。随分美人な秘書だな」

由紀子とジェイクは握手をした。

「ジェイクに褒められるなんて光栄だわ。よろしくお願いします」

二人が行こうとすると一夜は由紀子に話しかけた。

「僕も後で行くから」

由紀子は頷くと、ジェイクを連れて行った。
すぐ隣に位置するタワーマンションだったため、あっという間に部屋に着いた。

「とりあえず必要なものは揃えています。一夜はベッドにこだわってましたがジェイクは大丈夫ですか?」

由紀子が尋ねるとジェイクは首を振った。
    
「俺はそんなこだわりないから平気。ユキコは結婚していたんだね。てっきりアンソニーの恋人だと思った」

ジェイクの言葉に由紀子は一瞬動きが止まった。
ジェイクの言い方が、揶揄ったように聞こえなかった。

「おいおい、マジかよ。あの野郎相変わらず手が早いな」

ジェイクが笑う。由紀子は笑えない。

「結婚してるなら大丈夫だろうけど、アンソニーに本気になるなよ。これは忠告じゃなくて心配ね」

フッと由紀子は笑った。

「それなら、秘密にしていてくださいね。会社にバレると面倒なので」

「もちろん」

「では、一夜が来るまでごゆっくり。私は失礼します」

一礼して由紀子はジェイクの部屋を後にした。
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