長い夜、蒼い月

五嶋樒榴

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新たな男

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由紀子の声が聞きたい一夜は、栞がそんな風に胸を踊らせてるとは全く知ることもなく、仕事が終わると一目散に由紀子にLINを送り、電話がいつでもできることを伝えた。
しばらくすると由紀子から電話がかかってきた。

『お疲れ様』

久しぶりに聞く由紀子の声に、一夜の心は言い知れぬほど締め付けられる。

「今、どこにいるの?」

一夜は会いたくてたまらなくなる。

『車で近所のスーパーの駐車場よ。あまり長く停めておけないんだけど』
    
由紀子も一夜の声に、本当は会いたくてたまらない。

「早く会いたい。どうしてもダメなの?旦那さんと僕と同じように出来ない?」

由紀子の気持ちを乱すように、無茶なことを一夜は言う。

『無理よ。今の私はあなたが一番なんだもの。出会った頃のような余裕がないの。遊びとかで割り切れたら良かったのに。一夜と私は違うの』

由紀子の言葉に一夜は言ってしまいたくなる。
本当は今すぐ迎えに行って独占したいと。遊びではないと。愛してると。
だが、そんな事を言ったら、由紀子が苦しむのは目に見えている。
一方で、由紀子の方はまだ一夜が遊びで由紀子を誘惑してると思っている。
他にも女がいると言うことは、自分に本気でないことは分かっている。と思い込んでいた。

『割り切れたら、身体だけを求めるだけならどんなに良かったかしら。今私は盲目になってる。夫を捨ててしまいたくなるくらい。こんな女重いでしょ?だから会えない。あなたに嫌われたくないの』

一夜だって奪えるものならと思ってしまう。でもそれは一時の感情。由紀子の夫を思えば、夫から奪うだけの決心が正直なかった。

「ズルい男でごめん」

その言葉に由紀子の胸は締め付けられる。やっぱり自分だけを愛して欲しいと望むのは無理だと悟った。

『ううん。そんな一夜を好きになったんだもの。私こそ夫と本気で別れられないからこんなにグズグズしてるんだもの。私だってズルいわ』

いつまで経っても平行線の二人。

『一夜と最後に過ごした時、私本当に幸せだったわ。錯覚でも一夜に愛されてるって思ってしまったもの。それでもう十分』

由紀子の話し方は、まるで別れ話のようだった。

「由紀子?」

『やっぱり、もう会うのやめましょう。私も本気で家庭を壊したいと思ってないの』

由紀子の言葉に一夜は何も言えない。

『さよなら』

由紀子が電話を切った。
一夜はすぐ掛け直すが由紀子は出ない。
あっけない終わり方に一夜は呆然とした。
まさか、こんなに簡単に終わるとも思っていなかった。

「嘘だろ……」

突然切り捨てられた感覚。己の行いを思えばこの結果は仕方ない。後の祭りとはよく言ったものだ。
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